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休息日

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窓に引かれたカーテンが外の明るさを透かしている。
部屋の中の輪郭がうっすらと浮かび上がり、鳥の鳴き声が聞こえる。
カチ…カチ…と規則正しい時計の音。
琥珀は眠りと目覚めの間を行き来していた。
間隔の長いまばたきを繰り返す。
瞳を閉じて、しかし眠るには浅い。
瞳を開いて、けれど部屋の壁を見ればぼやけた。
乾いた唇を湿らせて身動ぎをする。
纏わりつく眠気を、身体を縮こませるような伸びと、あくびで解放する。
同時に、布団がぴんと張る感触を覚えて琥珀は動きを止めた。──隣で眠っている丈を起こさないように。
朝靄が晴れるように鮮明になる思考で、再び布団に頬までうずまり、琥珀は、じ…と丈を観察する。
横向きに眠る丈は枕に顔半分を埋めて寝息をたてている。
布団から出ている肩は素肌だ。
室温は低く、このままでは風邪を引いてしまうと思った琥珀は布団を引き上げてみた。
琥珀の肩もむき出しの素肌だ。
引き上げるついでに丈の頬に手を当てる。
頬も耳も、外気に触れていたせいで少し冷たく、手のひらの温度が移るまで待つ。
小指に触れる耳朶はやわらかく、手のひらにチクリと伸びかけのひげが当たった。
笑みが零れる。
琥珀は湧きあがる好奇心のままに指をずらす。
耳から顎にかけて骨のラインをなぞりながら首へ。そして胸元へと指を滑らせる。
張りのある皮膚の下には硬い筋肉を感じる。
この丈の胸元が、昨日、琥珀の胸を押し潰し、呼吸も、喘ぎも、身体も心もすべてを抱き締めたのだ。
やや汗ばんだ丈の肌は琥珀を離さず、琥珀もまた、指で、唇で、愛撫を返しながら口づけをした。
丈の胸の飾りに吸いつき、ぺろりと舐めあげて、首筋を甘噛みした。
汗の匂いがして、丈の匂いがした。
脳も腰もとろかすような堪らない酩酊感。
耳朶も噛んだ。ふにふにと軟らかくて、ヒトの食べ物ならどんな風に喩えられるのだろうと、うっとり考えた。
その芳醇とも表せる香りと熱を、与えられる快楽を思い出してしまい、琥珀の頬に熱が昇る。
我に返って、ちらり、ともう一度丈を見る。
動いてしまった琥珀の指が丈の腹部に触れる。
ゆるやかに、でもはっきりと、分かれた腹筋の波が指に伝わる。
学生の時の丈はまだ、こんなに筋肉質ではなかったはずと、琥珀は記憶をさぐる。
学校が休みの日、丈のベッドにダイブをしてむせさせたことが何度もある。丈は呻きながら、のそのそと起きて、だるそうに着替えていた。
あの時はまだ割れてなかったような気がする。
うーんと、記憶をひっくり返す琥珀は、腹筋をなぞる指を掴まえられて、あっと驚く。
頬まで布団にうずまる琥珀が見上げるように頭を向けると、眠たげな丈と目が合った。
「………くすぐったいな…」
「やだった…?」
「………」
「………」
「………もっと…」
「……うん…?」
「………近くで、さわったらいい…」
のそり、と丈は琥珀の方へ身体を寄せて布団にもぐる。
互いの鼻が触れそうな距離で見下ろし、本当にちょんとぶつかって、琥珀の背に腕を回す。
絡みつく丈の腕は布団よりもずっと暖かい。
大きな手のひらが背中を過ぎて腰にぴたりと添う。
丈の胸も腹も、触るには近すぎる距離となってしまったため、琥珀も丈に腕を回した。
琥珀の手のひらには広すぎる背中。
少しでもたくさん抱き締め返したくて、身体をぎゅっと押しつけた。
手のひらの収まりのよい場所を探して撫でるように触る。
衣擦れが止み、鳥の鳴き声がまた聞こえた。
丈の寝息も。
枕元で刻まれる秒針。
丈の背中に回した腕をゆっくりと布団の外へ伸ばす。
音を立てないように、琥珀はこっそり、出番を待つ目覚ましのスイッチを切った。


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