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日常

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日が落ちても尚、ざわざわと活気のあるハンバーガー店の2階。
窓際のカウンター席に座って通りを見下ろしていた琥珀が振り返る。
やって来た丈がトレーをテーブルに置いて隣に座った。
「ありがと。やっぱり混んでるね」
「日曜だからな」
「久しぶりだね。二人で晩ご飯」
「…ああ」
「ふふっ」
「…どうした?」
「なんか前みたい。…私は塾帰りで、丈兄は仕事帰り」
笑う琥珀は"前"とほとんど変わらないと、丈は思う。
ただ…少しだけ、大人びただろうか。制服ではなくスーツも着ている。
食事は変わった。
ハンバーガーとフライドポテト、サラダとお茶を乗せたトレーは丈の前に。琥珀の前には、アイスコーヒーのグラスが一つだけ。
丈がハンバーガーにかぶりつく。瑞瑞しいレタスが破れる音がした。琥珀もグラスを持ち上げて、アイスコーヒーのストローを唇に当てた。
丈の視界の隅、テーブルの下でぶらぶらと揺れる琥珀の脚が見える。
「(…子供)」
──のような仕種。
スーツを着て、歳上の同僚達からの遠慮のない視線を見返する琥珀は、いつだって背筋を伸ばしていた。
だから。
丈は心のどこかで安心した。
隣で、あ、と琥珀が声を洩らし、丈は目を上げる。
「どうした」
「ほっぺた、ドレッシングついてる」
丈が頬を拭く前に琥珀が指で掬い取る。
「…悪い」
「ううん。丈兄、美味しい?」
「……まあまあだな」
そっか、とまた笑う。
笑ってから琥珀は、ドレッシングの着いた指を見つめて──ぺろり、と。
「………」
「………」
「美味いか…?」
「…えっと…」
きゅぅ、と眉が寄った。
無理するなと丈が言い、無言でこくこくと頷いた琥珀は、アイスコーヒーで味を打ち消した。
店内に流れる緩やかな音楽と客の会話に、何となく耳を傾けながら、丈はサラダに取り掛かる。
「今から行くと…、有馬さんとの待ち合わせ時間より早く着いちゃうね」
「…少し、回り道でもして行くか」
「どこか寄るとこある?」
「…琥珀は行きたい場所はあるか?」
丈の言葉に、私の?と、さらに聞き返す琥珀だったが、頭の中には早くも候補が浮かぶ。
「…これ、調査の一環で?」
「いや。仕事外でだ」
目的地方面の地図を頭に描く。
贔屓のショップを久しぶりに覗こうか、夜の国立公園も良い雰囲気だろうし、大通りならライトアップされたショーウィンドウが絶対きれい…。
あぁ、これではデートになってしまう──…
丈とならば、一緒に過ごせる今の時間だけでも十分幸せなのに、さらにおまけがあるなんて。
今はあくまで勤務中と自分に言い聞かせて、琥珀は、華やかな店の並ぶ大通りを通って行きたいと伝えた。
「怒られない…?」
「遅れなければな」
全て食べ終えた丈は最後のお茶を飲み干す。
琥珀もアイスコーヒーを飲み尽くした。
琥珀のグラスを引き寄せた丈は、一緒にトレーに乗せて返却口へと運ぶ。
狭い階段を下りて外へ出ると、初夏を思わせる生温い空気が肌を包む。日曜日の夜、街の人出に熱が冷める様子はない。
無意識に琥珀の手が丈の袖を探す。
並んで歩きながら、丈の手が一度琥珀から離れて、それから琥珀の手を掴まえる。
はぐれないようにしっかりと。
次の仕事が始まるまで、もうしばらくは前みたいにこのままで。


160625
うすあじ
つぎは恋人つなぎがしたい琥珀ちゃん
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