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白、穿つ闇

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「私が…殺すんですか……?」
何を当たり前のことを聞いているんだろう。と。
自分でも思った。
それをしなければ、…できなければ、捜査官になれないことくらい分かってたのに。
目の前に居るのは、こちらに背を向けた状態の椅子に縛り付けられて、布袋を被せられた…喰種。
私を見守るのはコクリアの看守。
癖のある高い声で「処分が決まっている喰種だ」と捲し立てる。
「本来はプレス行きだがお前の練習には丁度良いだろうしかし椅子に括り付けて後ろ向きにするなど──」
丁度、良い?
命を奪うのに、"丁度良い"って、何だろう…。
「──最たる楽しみの表情も見ずに殺すとはつまらん──おい、早く済ませろ」
呼吸が苦しかった。
お腹のなかが、ぐちゃぐちゃに、気持ちが悪かった。
早く、済ませる。
「こちらは忙しいんだ」
早く…。
「お前も喰種だろうが」
早く…。
「出来ないならお前を処分──た──って構わ──ぞ」
早く──、
処分を。
処分、する。
しょぶん、って、なに?
できなければ…わたし、が…?
わたしが──される?
わたしが。
私が。
私の。
私の赫子が──、
尖った尾赫の先端が──布袋を被った喰種を──…
身体が浮くような感覚(私の──?それとも、あの喰種の──?)がして、気がつくと私は床にへたり込んでいた。
椅子の背凭れに、
椅子の背凭れに染み出す赤い──、
「迷いなく殺したクセに腰を抜かすとは情けない喰種だな。まあお前みたいな喰種も中には──」
その人の声も床の感触も何も分からない。
ただ、私が貫いたその布袋の──の全身の筋肉が一瞬暴れて──ったのが分かっ──
「──ふっ…!……っ、──、ぅっ…っ!!」
胃から迫り出す苦み。
連鎖して涙が落ちる。
このまま気を失えたなら(奪った)どれほど楽だろう(奪った)ううん、違うでしょう?(命を)見なければならない(命を奪った)私は、自分のしたことを(殺めた)。
肉を切ったことはあるじゃない。
大きなハムを切リ分けたこと、あるでしょう?
鶏肉の塊に包丁を入れルことと、何が違うの?
包丁は赫子に変わっただけで肉には温度があってぷつりと尖らせた先が皮を破った温かい脂肪筋肉の収縮血がぬるり出て伝って抵抗感を無視して押して切り裂いて進めて臓器に も 切 っ 先 ──
「──ぁっ、っ──ふっ、──ふっ…ッ!!!!」
吐き気を噛み締めて、
震える身体を押さえつけて、
強張った胸も肋骨も肺も潰れそうで、
背筋も首筋も千切れそうなくらいで、
ぽきりとどれかが本当に折れて、
自分で自分を締めつけていないと暴れてしてしまう。
全部壊して叫んでしまう。
喰種の死体も
後ろの看守も
私を抱く私も
押さえつけていなければ、
全部殺して叫んでしまう。
殺したのは私。
殺したのは私。
殺したのは私。
ころしたのはわたし。
(ころせたんだ、わたし、)
忘れない。
忘れちゃいけない忘れられない忘れてはいけない忘れてはいけないのだってこれからこうして──
これからころして
私はいきていくのだから


私の
な かで
──れる音 が した 。


160805
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