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ハイルのお弁当

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「どんなグロモノが出てくるかと思ったら。これは見事なおべんとやねぇ」
「グロ…。あのね。まず食材が手に入らないでしょう?私の好みを重視したら」
「そこは琥珀の、腕の見せドコロ?」
「…見せないからね?」
「任務のついでにちょっぱっちゃえばいいのに。指とか、腕とか、お好みの部位を」
「生々しいこと言わないの」
まったくもぅと呆れる琥珀に、ハイルは、えへーと笑う。
けれどその両手は、差し出されたお弁当箱をしっかりと掴んでいる。
「喰種なのに料理上手とか。そのウデマエ、嫉妬の的やし」
「一人暮らしなんでしょう?練習してみたら?」
「それはやーです。後片付けとか、めんどい」
「…ハイルちゃんらしいけどね…」
「早速だけどぉ。食べていい?イイ??」
「どうぞ。じゃあ食堂行こっか」
「はぁい。なんかOLさんみたいで楽しーねぇ」
弁当箱の蓋が閉じられる。
再び琥珀にの手により風呂敷で包み直されると、待ち侘びるハイルの両の手のひらに乗った。


CCG局内にある食堂は、12時前であったためにまだほとんどの席が空いていた。
「おっ、琥珀、琥珀〜窓際開いとるー」
「先に座ってて。私、飲み物取ってくるね。ハイルちゃん、何飲む?」
「オレンジ〜」
弁当箱を持って楽しげに席へ向かうピンクの頭を琥珀は見送る。
伊丙入。彼女はしばらく前に有馬班に配属された実力者だ。同性ということで琥珀が面倒を見ることが多かった。
しかし、喰種ながら料理のできる琥珀が、自炊を一切しないハイルのお昼ご飯の面倒まで見ることになろうとは。
そしてまさか、間借りしているCCG施設内でお弁当作りをすることになろうとは。
「(思わなかったなぁ…)」
ほんの数日前、琥珀は料理ができるという話題になり、食べてみたいとお願いされたのだ。
早起きの証しに琥珀は、ふぁ、と小さくあくびをした。
窓際の明るい四人席のテーブルに包みを広げたハイルが鼻唄を歌っている。
オレンジジュースとアイスコーヒーをテーブルに置いた琥珀が正面に着席すると、それを合図にハイルが蓋を開けた。
きっちり詰まったおかずを見て「美味しそう〜」と再びの感動。
「唐揚げの良い匂い…ミートボールもゴロゴロたくさん…。ガッツリお肉多めなんねぇ」
「ハイルちゃん、たくさん動くと思って。ちょっと多くしちゃった」
「カラフルなお野菜にフルーツ〜〜女子ぽい〜」
ふわりふわりと周りにお花が浮かぶような笑みを見せて箸を持つ。
「いざ、実食…!」
「旨そうな弁当だな。ハイルが作った…わけないか」
唐揚げに箸を突き刺したハイルの後ろから、ひょいと富良が顔を出した。
「あ、富良さんもお昼ですか?」
「おう。ここ良いか?」
「もちろんです。どうぞ」
「え〜〜〜っ」
「正直すぎる反応だな。まあ予想はしてたが」
「予想してたなら遠慮してください。せっかく女子会気分なのに〜」
「女子だけだと意見が偏るからオッサンも必要だと思うぞ」
ぷすーっとむくれたハイルがテーブルに顎を乗せる。
「だからってうちらの間に座る富良ジョートーのシンケー、ソンケーしますぅ」
「お前、潰れた饅頭みたいだな」
「ハイルちゃん、みんなでテーブルを囲んだ方がきっと美味しいよ」
「でもぉ…」
「そんな顔しないで。そろそろハイルちゃんにお弁当食べてほしいな。はい、あーん」
琥珀はハイルの手から唐揚げの突き刺さった箸を取り、唐揚げで彼女の唇をつんと押す。
ぱくり。
大きめの唐揚げだったがハイルは反射的に大きく口を開けて一口で頬張ると、もくもくもくもく、咀嚼する。
「うまっ、おいひぃ〜…!」
「ふふ、よかった」
「琥珀、琥珀〜次はミートボールがえぇ〜」
「はい。あーん」
「(親鳥か)」
「富良さんも今日はお弁当なんですね。奥さま作ですか?」
ハイルにミートボールを与えながら富良の手元に広げられた弁当箱を見る。
やはり体を動かすからか肉と米はやや多く、しかし野菜もバランス良く配置されたお弁当だ。
「ああ。自分の分のついでだと毎回言われるがな」
「ふふっ。何人分か一緒に作った方が、逆に楽なんですよ」
「だといいが。その弁当は君塚が作ったんだろう?得意なんだってな、料理。平子から聞いた」
「え?平子上等から、ですか?」
「お前の作る南瓜の煮物が美味いっつってたが、ありゃ完璧惚気だな。まぁ平子の場合、普段から無駄口叩くヤツじゃないから、逆に彼女自慢で面白かった」
「か、彼女自慢……」
「でも、不思議なんよねぇ〜」
照れる琥珀。
を、見ながら唐揚げとミートボールを平らげたハイルが、続けてピクルスを口に放り込む。
「平子上等のどこが良いん〜?」
「へ?」
「もう少し聞き方があるだろ」
「だってぇ。平子上等って、言っちゃアレですけど地味だしー何考えてるかわかんないしー無表情だし〜。腕はまぁまぁですけど。やっぱり地味だし〜。よくモブに間違われてそ〜」
「ハイル、お前…辛すぎるぞ」
「ホントのコトですもん〜」
だからってオブラートに包め、と富良に言われたハイルだが、その目線は次のパプリカにロックオンされている。
「カッコエエゆうなら断然有馬さんでしょお。おまけに強いし〜、美人やし〜」
「アイツこそ何考えてるか分からなくないか」
「ナゾっぽくていーんじゃないですかぁ」
「違いの基準が分からん」
「オッサンにぃ、オトメゴコロを理解するのは難しい。ってゆーことでぇ」
「………」
「で?で?琥珀はなんで平子上等なん?」
ぐぐぐっ、身を乗り出して琥珀をじっと見つめるハイル。
ハイルが覆うようにテーブルを横断しているために弁当が食べにくい状態である。
が、富良もこの話題には少なからず興味があるのか箸を止めている。
「えぇと、なんでと言われても……うーん、え〜…?丈兄、格好良い、よ…?」
「どーこーがー?」
「だからな、ハイル、言い方」
「う、う〜ん?…私のこと見ててくれる…っていうか…。あ、あと傍にいると安心する〜…とか?」
琥珀からは無難な答えしか出ずに、ハイルが、「それ幼馴染み効果だし」と、がっかりして身を引く。
「君塚、平子と幾つ離れてんだ?」
「えと、6つです」
「大人になっちまえば丁度良い歳の差だな」
「そう、ですか?私は…もっと近い方が良かったです…。いつまでも追いつけなくて…、子供扱いされちゃうんですよね」
アイスコーヒーを口に運びつつ困ったように笑う。
するとハイルが、うふふ、と意味深に微笑んだ。
「逆にいうとぉ。平子上等、そーとー我慢してたよねぇ──…琥珀どお?夜はたのしい?」
ぶッ!
ゴホ…。
琥珀が吹き、富良が静かにむせた。
「は、鼻に入っ…」
「(鼻て…)平気か君塚…、ハイル、昼からなんつー話ししてんだ」
「だってぇ。今聞かないといつ聞くんです?任務中に聞いたら怒るだろうし」
「当たり前だ」
涙目の琥珀にティッシュを渡してやりながら富良が呆れる。
「平子上等だってぇ、男なんやし。少女から大人に育ってく可愛い可愛い琥珀ちゃんが目の前で、ふわふわ、のほほん、してるなんて生殺し。ひん剥いて食べちゃいたかったんじゃ…?」
「(ひん剥く…)」
「た、丈兄はそんなこと…!」
「わからんよぉ?あの無表情はむっつりとか」
「(まー、そーゆーのはなぁ…)」
「そ、そんなことっ…ない、よ……」
「う〜ふ〜ふ〜。琥珀ってば動揺してる。やっぱり心当たり──あるんやね…?」
「──!?」
「(あるんだな…)」
「ビンゴ〜。これは平子上等にも裏を取らないといけませんねぇ」
「…!!やっ…やだっ!聞かないでっ…!聞いちゃだめ…!」
ハイルは完食した弁当箱の蓋を閉じると、「ごちそぉさん」と両手を合わせ、琥珀の方へ押しやった。
「平子班の本日のご予定、なんじゃろな〜。対策課で聞いてこよ」
「うそ、やだっ本気なのっ?ハイルちゃん…!?」
「〜♪〜♪」
鼻唄など歌いながらハイルは椅子を立つ。
琥珀は急いで弁当箱を風呂敷で包んで立ち上がったが、テーブルに残ったハイルと自分の空のグラスを思い出す。
それらを手に持つと、富良に深く頭を下げる。
「ふっ、富良さんっ!し、失礼しますっ…!」
「いいから行け。あいつ足早いぞ」
「ばたばたしてごめんなさいっ!良かったらまたっ、お昼ご一緒したいですっ!」
弁当箱を脇に挟み、グラスを返却口に返した琥珀は、ハイルの後を追って慌ただしく食堂を出ていった。
富良は「ああ、またな」と返事をしたが、焦る琥珀には恐らく届いてはいまい。
嵐が去って静かになったテーブルで、グラスのお茶を口に運ぶ。結露がテーブルに輪を残し、陽光をキラキラと反射した。
時計の針が12時を回った食堂は、局員らが続々と入ってくる。
ざわざわとあらゆる音が増してきた。
ふ────…、
ゆっくりと長めの息を吐き出して、富良は思った。
「女子会ってのは恐ろしいな」


「あ、丁度良いところに。平子上等〜、すこぉしお話イイですか?」
「?どうした、伊丙」
「琥珀センパイのことでちょっと質問が」
「……琥珀がどうかしたのか」
「しません!何でもないの丈兄っ!ハイルちゃん、任務の準備しようっお願いだから〜っ…!」
「えぇー、でも私聞きたいし」
「だ〜めぇ〜…!」
「…琥珀、その弁当箱は?」
「…へ…?」
「料理、したのか…?久しぶりだな」
「うふ、うふふ、そうなんですよぉ。琥珀のお弁当、と〜っても美味しかったデス。また食べたいナー」
「………」
「き、今日ハイルちゃんにお弁当、作ったんだけど……た、丈兄に会えるか、わからなかったから…」
「………」
「余った分は、お世話になってる警備員さんたちに差し入れしちゃって、その……」
「……俺の分は…無いのか…」
「!!」
「まあまあ、次また作ったらええしょ?私の分と一緒にぃ、平子上等の分も?(当分からかえそ〜)」


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