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drink it down.

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自慢ではないが丈は季節のイベントに疎い。
無感動で無表情である本人の風体とおなじくらい、イベント事に対しても興味が薄い。というか無い。
そのため、買い物に出た街中がそのような空気に包まれていようとも、はしゃぐのは琥珀ひとりだ。
今ならハロウィンで賑わうオレンジと黒。
商業施設内にあるカフェの、ショーケースの内側からつやつやとアピールをしてくる、カボチャや魔女をテーマにした菓子たち。
それらを前に、琥珀は運命的な出逢いを果たしたかのごとく立ち止まる。
10月という限られた暦に姿を現す彼らもまた、瞳をきらきらと煌めかせる彼女のような者のために存在しているのだろう。
躊躇する琥珀に、丈は喉が乾いたついでだと手で招く。
戸惑いつつも入店して着席。
注文はもう決まっている。
ほどなくしてテーブルに供される二つの珈琲と一つのケーキ。
食べてしまう前に一枚だけと、琥珀は携帯電話のレンズを向けた。
撮影を済ませ、いよいよフォークでひと口を掬う。
いただきますと微笑んで琥珀はそっと口に運ぶ。
味に関しては訊ねようもない。
嬉しそうな、そして困ったような表情で「…かわいいカボチャ、崩しちゃった」と残念そうに眉を下げた。
丈へ向けられたカボチャのケーキは、確かに琥珀と同じような情けない顔になっていた。
食べきってやるのが琥珀じゃなくて悪かったなと思いつつ、丈はひと口を納める。
「………」
「苦手な味だった?」
「いや」
思ったよりも甘かったが、苦手ではないとフォークでふた口目を切り崩した。
琥珀に興味があっても、楽しめるのは見た目までだ。
本当は丈も食べ物に関しては琥珀に勧めたくない。それ以外なら季節のイベントも楽しめるのだろうが…。
「さっき見た店では仮装に使うものも扱っていたな」
恨みがましく丈を見上げるカボチャをまた掬い、キャラメルの濃厚な甘味を珈琲と併せて飲み下す。
「うん。あとね、人の仮装だけじゃなくてペット用のも売ってたの。見た?丈兄」
買って帰ったら着けてくれるかな?と丈の実家の柴犬を思い浮かべて笑う。
丈の頭には、必死に逃げる柴犬と追いかける琥珀の姿が浮かんだが、そうだなとだけ頷いておいた。
「ハロウィンのイベントは色々あるかもしれないけど、私たちはお仕事だもんね…。あっ、でも──…」
何かを思い出したように視線が揺れる。
丈は言葉を続きを待ったが、琥珀は頬を赤くして何でもないと打ち消した。
不自然な流れから話を逸らすように、フォークを持つ丈の袖を引っ張る。
「丈兄。もうひとくち、ケーキ食べたい」
「…。体調を崩すぞ」
「ちょっとでいいからっ。…私もあとひと口だけ、参加したい」
今この時にしかないケーキに執心する琥珀の瞳は切実で、このように真剣にお願いをする琥珀に、丈は弱い。
嘆息して、半分以外になったケーキを琥珀のために小さく切り分ける。
心なしか、つり上がっていたカボチャの三角目が満足そうに見えたような気がした。
「………。」
そんな幻を見たせいでもないが。
ふと涌いた悪戯心から、丈は琥珀の口許にフォークを近づけてみた。
琥珀ははじめ、わからずに瞬きをして、それから再び頬を赤く染めて首を振る。
丈が引かずに待っていると、琥珀はケーキと恥じらいを天秤にかけて迷っていたが、しぶしぶ腹を決めた。
頬にかかる髪を指で押さえておずおずと口を開く。
こちらを向いて恥ずかしげに唇を開く顔が可愛らしいが、あまり焦らしては拗ねるだろう。
オレンジ色のカボチャの一部を乗せたフォークを丈が口内に納めてやると、ふっくらとした唇が閉じた。
口の端に着いたカボチャの欠片を指で拭う。
琥珀は睫毛を震わせて、嬉しさと美味しくなさと恥ずかしさが混ざり合った気持ちを、ゆっくりゆっくりと咀嚼した。
「とっても……複雑な味…」
眉根を寄せて吐息を漏らす。

ハロウィンへの気持ちが尾を引いているのか、丈の部屋に帰ってきたあとも、琥珀は夕飯のオムライスにケチャップでカボチャの顔を描いてみたりした。
少々ひしゃげたその顔を再び崩して食べ終えて、丈は食器を洗いながら隣に立つ琥珀を見下ろす。
琥珀はテレビから聞こえる音楽を小さく口ずさんでいる。
ゆるやかなニットの襟から鎖骨のくぼみが見えた。
「あーあ。…あとちょっとでお休み終わっちゃう」
「次の休みまでの我慢だ」
「丈兄ってばおとなー」
琥珀は拭き終えた皿を重ねる。
「……。楽しみ足りないか」
「うん?」
「ハロウィン」
「んー…」
布巾を畳む手を止めて一度閉じた琥珀の唇は、しかし緩やかに弧を描いた。
「丈兄とお買い物して、可愛いケーキも食べて。満足」
「…そうか」
「あ。あとね、昨日も班のおやつを用意してた時、違う課の人からお菓子を貰ったの。ハロウィンが近いからって」
「お前が貰ったのか?」
「うん。でも私は食べられないから、こっそり有馬さんにあげちゃった……丈兄、食べたかった?」
「………いや」
指折りに数えて、けっこう満喫してたみたいと笑う。
丈としては、知らない間に琥珀を餌付けをしようとする輩がいることを知って心がもやっとする。(お菓子も有馬さんにあげたのか…)
「丈兄?」
「……なんでもない」
「もう、心配しないで。…私だって、お腹壊したらお仕事できなくなるのはわかってるもん」
丈が気にしているのは、琥珀に与えられた菓子のことではなく、与えた人物の方なのだが。
心配する方向を間違えた琥珀は丈の服の端を引いた。
上を向くと癖のように軽く背伸びになる。
蛇口の水を止めた丈は、縋りつく琥珀の腰に腕を回した。この休みが終わってしまう残念感に見舞われているのは丈も同様なのだ。
残りの時間を掴まえるに似た気持ちで、琥珀の頭に顎をのせる。
他人の善意を信じるのも結構だが、それ以外の気持ちにももう少しだけ敏感になってもらいたいとも思っている。
そんな丈の腕の中で琥珀が「…ハロウィンの仮装とはちょっと違うけど…」と、もぞもぞ声をさせた。
「自分でも、その…それっぽいこと…してみたの…」
昼間に言いかけてやめたこと──
「……?」
丈が腕を緩めると、琥珀は赤くなった顔で丈の頬に両手を添えて、ちゅっと鼻先にキスをした。

熱っぽい瞳を伏せて顔を離した琥珀。
吐息を漏らす薄く開いた唇がやけに色っぽかった。
ベッドの上に座った丈は、自身に跨がる琥珀の腰に手を添える。
やわらかな太腿は丈の腰をむにむにと挟み込んでおり、黒いショーツの両端から垂れるリボンがくすぐったい。
目を向けようとすると、やんわりと顔を戻されて唇を重ねられた。
離れてはまたくっついて。
丈の服を脱がせながら飽きることなく口づけを味わう。
「…、捕食…されているみたいだな」
「ふふ……それなら…、大成功」
今度は腰を掴む丈の手を取り、琥珀はさらに下の円みを撫でさせる。太腿と尻の境目ほどのすべすべしている柔肌だ。
手に吸い付いてくるその感触は、丈の勃ちあがった熱を望むままに包み込んでくれる気にさせる。
丈は堪らず、持ち上げるように腰を押し付けた。
突然、敏感な部分に刺激がはしり琥珀が甘く、あ、と啼く。
「……ん、んっ……まだ、だめ…」
「いつまでおあずけをさせるつもりだ…?」
尻を掴んだまま互いの凹凸を下着越しに擦り続けると、琥珀は堪えるように唇を噛んだ。
「わ、わたしが……丈兄を…あじわうまで…?」
快感から逃れようと胸が震える。
琥珀にしてはめずらしく身に付けている下着は上下ともに黒だ。
つやつやした布やレースが隠しているようで…透けていたり。目のやり場に困る色っぽさだ。
白い肌に重なるこんな無防備な布が、衣類としての役目を果たすのかと疑問に思う。
ハロウィンの気分に合わせて選んでいたらしい。
「…丈兄と会える日は…大人っぽいの着けたくて…」
服を脱がせる最中にぽそりと言った。
「今日は……私から、さわってもいい…?」
恥ずかしさと見栄との間で小悪魔になりきれなかった琥珀がもじもじとお願いする姿は、しかし間違いなく小悪魔だった。
そんな琥珀の好きにさせてやろうと気持ちを落ち着かせて膝の上に迎えたわけだが…。
この薄布の内側に男の手が滑り込むことを想像しただけて、丈はごちそうさまと言いそうになった。
思い出してまた硬くなった其れを感じて、そっと琥珀から目を逸らした。
「こういうの、嫌いだった…?」
白くてまるい肩をすくめると黒いストラップがわずかにたゆむ。
指で引っ掛ければ簡単に外れて乳房を晒すだろう。
嫌いどころか、恥じらいながらも丈のために尽くそうとする琥珀は掛け値なしに愛らしい。
困るのは琥珀本人に自覚がないことだ。
美味そうな餌を目の前にぶら下げたかと思ったら、これでも足りない?とさらに甘く煽ってみせる。
「……目の毒だ」
耳元で囁いて、丈は先の想像を現実にした。
黒い肩紐を外しつつブラジャーの布地をおろす。手のひらに収まる乳房を持ち上げるように強く揉んだ。
身体の疼きに震える琥珀の唇を塞ぎつつ、反対の乳房も暴いてゆく。
「ぁっ……や、…っ」
乳房の中心の尖った飾りを指の腹で摘まめば、身をよじって縋りついてきた。
跨がる太腿が閉じようとして丈の腰を挟む。
布越しに擦れ合う其処は、すでに互いが欲しくて濡れている。
もう遅いかもしれないと思いつつ、しなだれ掛かる琥珀に「脱げるか…?」と訊ねた。
熱を宿す潤んだ瞳が丈を見る。
「…このままで、いいから──…」
力なく丈の腕に指を添わせて、上を向いた琥珀の唇が喉仏に触れる。
「もう、挿れて…?」
前歯が皮膚を浅くなぞり、ぞくりとした。
丈は琥珀の身体を片手で抱くと、ボクサーパンツをずらして扱いた陰茎を濡れそぼった割れ目に突き挿れた。
「あっ…!あ、ああっ、んっ、っ… 」
「っ、…」
繋がる腰も、身体も、すべてを押し付け合って強く揺さぶる。
途切れ途切れに漏れる琥珀の呼吸と嬌声を首筋に感じながら、抉るように奥を突く。
前戯によって蕩けた膣内は捩じ込まれた熱をぬるりと包み、舐め上げるように雄を搾った。
何度も突かないうちに甘い声を残して琥珀の全身から力が抜ける。
震える華奢な身体を丈はシーツに押し倒した。
剥くように乱した黒いブラジャーが乳房を押し上げ、白い腹から下、結合部へと視線を遣れば、ショーツを押し退けて膨れた陰茎が割れ目に呑み込まれている。
丈のわずかな身動ぎにもぬちぬちと音を立てた。
「…や、やっ……たけ、…に…」
まだ動かないでと快楽を堪える琥珀が瞳を閉じる。
こめかみに涙が伝った。
制止を懇願する半裸の肢体を組み敷いて、しかし丈の腰を疼かせる熱は増す一方だ。
誘ったのは琥珀であったはずなのに、まるで強引に事に及んでいるような陶酔感に見舞われる。
愛液を絡めた陰茎を抜き挿しする様もまた、ことさら淫猥に見え、再び其処に呑まれたいという欲望が涌く。
「琥珀……もう一度──…」
一度達した余韻に震える琥珀の手首をシーツに押さえつけ、筋裏を擦るようにしてゆっくりとまた、琥珀の中心に陰茎を沈める。
ぷっくりと濡れた唇がうわごとのように丈を求め、誘われるままに深く深く舌を絡める。
再び訪れた律動に我慢は利かず、気がつけばベッドがぎしぎしと酷く軋んでいた。

何度か濃いものを琥珀の中に吐き出して、音が止んだのはしばらく後だ。
ここまでするつもりはなかったと後悔してももう遅い。声が掠れるまで啼かされた琥珀はくたりと眠りについていた。
後始末を済ませた丈は、涙に濡れた琥珀の目尻を拭いて隣に横になる。
浅く呼吸を繰り返す乾いた唇を指で撫でると、無意識の反応か、わずかに開いた。
小さな前歯のぎざぎざに触れてみる。
琥珀の吐息が、ん…と漏れて、赤い舌先がちろりと舐めるも、またすやすやと寝息に戻った。
「………」
喰種のはず…なんだがなと思いつつ、丈は琥珀の唇をつっついた。
琥珀が丈を味わえるのは当分先のようだ。


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