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どうしよう

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ギシッ──
ベッドの軋む音がした。
自分の寝返りで?いや、違う。頭の横が何かの重さで沈む。
「ん──…?」
うっすらと目を開けると丈がいる。
琥珀に覆い被さっており、琥珀の額にキスを落とした。
「(おさけのにおい…)」
それと混ざって汗の匂いを感じとる。琥珀の胸にはネクタイが垂れている。今、帰ってきたようだ。
琥珀が何かを口にする前に、キャミソールの肩紐が下ろされた。胸が剥き出しになり、乳房を揉まれる。
「んっ、ん──」
なんで?なんで丈兄に夜這いされてるんだろう、と琥珀は寝惚けた頭で思う。
未だ眠気が勝った状態だったが、こんなに遅く帰ってきたのに断るのも可哀想な気がする。
あたたかく大きな手にやわやわと掴まれ、無意識に腰を浮かせた。
ふわふわと気持ち良くて考えるのも面倒なり、琥珀はその温度にもっと触れたくて丈の頭を胸に抱き寄せた。
丈も琥珀の動きに従うと、滑らかな胸元に唇を這わせ、固くなった頂を舌で転がしながら吸う。
琥珀は首と顎をくすぐる丈の髪に幸せを感じて、口許を緩ませる。まるで大きな子供のようだ。
おかえりなさい、と言って頭を撫でると、胸元からもそもそと、とただいま、と返事があった。
そうだ。丈は今日は飲みに行くと言っていて、なら帰りは遅くなるね、と局で話して別れたのだ。
「…いっぱい飲んだんだね。楽しかった?」
少し間をおいて、丈が顔を上げた。
「…宇井に、また有馬班に戻って一緒に残業しようと言われて」
「うん」
「…倉元に、出世はしたいが班長は面倒だからずっと平子班が良いと言われて」
「ふふふっ。うん」
「…篠原さんに、こいつらほっといてとっとと出世しろと言われた」
「そっか」
「…お前が休みだから…もう少し早く帰りたかった…」
同僚の飲みにはいつも付き合う丈だが、今日は珍しいことにそんな言葉を零す。
「みーんな、丈兄に聞いてほしかったんだよ」
聞いてあげてえらかったね。
囁いて、優しく頭を撫でる。
丈は甘えるように、ぎゅう、と琥珀の体を強く抱き締めた。
腰に回った手が尻へと降り、琥珀の脚を開かせるように強く這い、撫でる。
力強い愛撫と、これから降る快楽の予感に、思わず琥珀の唇から吐息が漏れる。
「琥珀…」
「ん…、なぁに?丈兄」
「ここに、挿れたい」
丈の指がショーツの間がら其処へ入り込み、くちゅ…といやらしい水音をさせる。
ゆるゆると、蜜壷と花芯を行き来する男の指につい甘えたくなる。
「うん。いいよ。…でも、その前に…服、脱いでほしいな……?」
丈が体を起こし、琥珀も起き上がる。
琥珀がネクタイを外してシャツを脱がせる間に、丈もベルトを外した。
琥珀がキャミソールを脱ぎ捨て、丈が琥珀のショーツを脚から抜き取ると、二人は再び抱き合ってベッドに沈む。
ギシッ、と軋む音に既視感。
琥珀を包む微睡みが快楽に変わり、堪え難い絶頂を、甘い懇願の悲鳴と共に迎えた後も、丈は琥珀の腰を揺らし続けた。
丈を納める肉壁に擦りながら出し挿れし、ひたすらに奥を突く。
互いの太腿を押し付け合って、丈は小さく呻いて吐精した。肺を震わせて息を吐く。
琥珀を潰さないように横へと身をずらしてベッドに転がると、蜜壷と埋まった丈自身がまたも擦れ合い、肉壁が、きゅぅ、と収縮する。
「や、んっ……」
琥珀は体内からずるりと抜ける感触と、とろりと温かな滴が垂れる感覚を終いに、眠りに落ちた。
丈もまた同様に、琥珀の短く繰り返す寝息と闇に浮かぶ白い肢体を抱き寄せて、意識を手放した。


全身…というよりは主に腰を中心とする倦怠感。
それと自身の酒精を感じながら、丈は薄ぼんやりと目を開けた。
上半身を起こすと、やや頭も重い。
昨晩、珍しく深酒となりマンションまでタクシーを使ったのは覚えているのだが、その後の記憶が曖昧だった。
「………」
順番に思い出そう。
エントランス、エレベーター、廊下は真っ直ぐに歩けていた。鍵を開けて部屋へ入る。
琥珀の外泊許可が降りる日だったため、琥珀はいつも通り丈の部屋に泊まりに来ていた。(家族への追及は免除されたが、諸々の心配から琥珀は距離を置いている)
そんなわけで普段は帰ってきても静寂ばかりの丈の部屋だが、昨日は違った。
丈のベッドから穏やかな寝息が聞こえる。
白い肩と腕が見えている。
眠る琥珀を見て、丈は風呂に──行かず琥珀に覆い被さった。
「………………。」
今さら思考がクリアになって、丈は思わず額に手を当て猛省した。
寝込みを襲うとか。どうなんだ。
不味いだろいくら恋人でも。
変態か。
変態なのか。
実は自分にはそういう性癖があったのか。
琥珀とて日々の仕事で疲れているだろうに。
夜中に酔っ払いにのし掛かられても嫌な顔ひとつ見せずに丈を抱き締めてくれた──…。
「琥珀…」
隣で眠る琥珀を見下ろす。(実は考えが落ち着くまで見ないようにしていた)
細く華奢な肩の滑らかさも、腕に押されて形を変える白い胸の柔らかさも知っている。
今は物言わない唇にキスを落とせば、どのように舌が応えてくれるかも。
これ以上見ていては自制が利かなくなる。
丈は、琥珀のしなやかな腰に引っ掛かる毛布を肩まで引き上げてやり、……太腿も覆って、ベッドを降りた。
「(素面で襲ったら…今度こそ変質者だな…)」
室内に散らばったスーツ一揃えと琥珀の下着を拾い集めて在るべき場所へ──…戻していく。
琥珀が目を覚ましたら何と言ったものか。
二日酔いに近い重たい頭で考えながら、丈は浴室へ向かった。
しかし結局、ちょうど良い言葉は見つからないまま風呂から上がることになった。
気持ちと体はさっぱりとできたが。
浴室で洗濯機が回る音がする。…琥珀が起きてくる気配はまだない。
丈は台所に立つ。
朝食は自分の分しか用意することができないが、コーヒーならば琥珀に用意することができるという結論に至った。
薬缶を火にかけ、丈は食器棚から一人分の皿と、マグカップを二つ取り出した。


「おはよ…丈兄……。少し寝坊しちゃった…」
「…ああ、おはよう琥珀」
「………」
「……」
「……」
「…昨日は悪かった。…無理をさせたな」
「!…ううん、大丈夫。でも、あの……」
「…?」
「今日、午前中は…おうちでゆっくり、コーヒーが飲みたいな…」
「わかった」
「し、シャワー借りるねっ…!」
「…ああ」
「(ど、どうしよう、なんか色々…きのう、私、大胆だったかも…!?)」
「(…今夜こそは手を出さない。…ようにはしたいが、どうしたものか…)」


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