×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -



love ya!!!(後)

.
「…で?どうたったの」
脈絡のない夕乍の質問と、クインケの太刀とを受けた士皇は聞き返した。
「どうだったって、何が?」
「琥珀の裸」
バキィッ──…!
士皇の片方の手からすっぽ抜けたクインケが壁に穴を空けた。=月山に怒られるコース。
ここは"黒山羊"が拠点とする建物の内の一つだ。
地下にあるこの訓練室なら、多少派手にクインケを使っても音が漏れることはない。…が、
「なに?何?今の質問ほんと何?夕乍ちょっと裏庭に呼び出すレベルだよ」
「…裏庭ってあるの?」
「気分的に!」
先日の事故が頭を過り、士皇の顔が赤くなる。
事故といっても、琥珀が風呂場で湯中りを起こしたという些細なものだ。
それを丈が救出する際にちらっと見てしまった程度で、やましいことなど何もない。
…が、美しい円みを帯びた肢体や、熱に充てられて仄かに染まった肌は記憶に鮮明に焼き付いている。
「別にっ──…見たっていう…ほどでもないし……」
「じゃあ覚えてないんじゃん」
「…そうだよ」
「のわりに、顔赤」
「あーーーーっ!」
夕乍の追及により沸点に達した士皇が頬を押さえる。
これ以上は何も喋らせまいとして、残りの一刀のみで夕乍に突進した。
単調な攻撃は易々と躱されるが、構わず立ち向かう。
離れた場所でストレッチを行う理界は、仲が良いなと思いながら腕を伸ばした。
二人がじゃれあうのはいつものことだし、下手に口を出すと「どっちの味方!?」などと面倒なことになる。
ので、眺めているのが一番楽だ。
特に今は、琥珀絡みの話でもある。
「……」
にこにこと微笑む琥珀の華奢な首と白いうなじを思い出してしまい、ふぅと嘆息した。
「…随分と賑やかだな…」
「あ、丈さん」
理界が振り返ると、丈とカネキ、そして錦が訓練室に入ってきた。
壁に刺さったクインケに気がついた錦が「なんだアレ」と漏らす。
"黒山羊"では定期的に情報交換を行っている。
三人も参加していたのだろう。カネキが固まった筋肉をほぐすように肩を回した。
「訓練中だよね?僕も二人に入れてもらおうかなぁ。捜査会議ほどじゃないけど肩凝っちゃって」
「1・2・3の報告、リーダーの万丈よりしっかりしてっからな。アイツらよっぽどマネジメント向きだわ」
錦が大あくびをする。こちらも現場の方が性に合うのだろう。
理界は、解放されて訓練に参加する気満々なカネキへ、遠慮がちに声をかけた。
「ハイセ。今、飛び入りするのは…少し待った方がいいかも」
打ち合いをする士皇と夕乍からは「見た」「見てない」という応酬がまだ聞こえてきている。
知らない者からすれば意味不明の口喧嘩だが、事情を知っている理界にとっては居たたまれないような気持ちがある。
「もしかして士皇君と夕乍君、喧嘩してるとか?」
カネキの質問にどう答えたら良いのかわからず、理界は迷った。
とりあえず丈に謝る。
「その………。ごめんなさい、丈さん…」
「………。そういう年頃なんだろう」
「平子さん?」
カネキからすれば疑問符でいっぱいだが、丈は答えない。
話が進まないうちに士皇と夕乍の声がまた響く。
「あーもー!見た!見たよっ!けどそんなに覚えてないってば!」
荒っぽい太刀筋で夕乍のクインケを弾く。
「でも赤面するくらいは覚えてるんでしょ」
「てる、けど…その…」
士皇の攻撃の勢いが弱まったところで、夕乍が「ふーん」と受け流す。普通の質問のようにもう一つ訊ねた。
「きれいだった?」
「えっ、あ………うん…」
やらしい話ではなく、どう見えたかという方向へと士皇の意識は誘導される。
「腰とか細くって…くびれてるところに……アザかな?浮かんで、見えて……」
浴槽から持ち上げられた琥珀の身体は、やはり男性のものとは全然ちがった。
引き上げた丈と比較したためもあるだろうが、腰も腕も身体のすべてが細くて滑らかで、けれど胸の膨らみは服の上から見るのよりももっと…
「うわあーーーっ!!だからっ違うってばっ!!!」
この数時間で何度目かになる絶叫があがった。
そんな突然の大声にカネキは驚くだけだったが、勘の良い錦は大まかな顛末を理解した。
理解して、にやりと笑った。
「ははーん。綺麗なおネエさんが頭から離れないお年頃ってか」
「………。」
「え?ええと…?二人はどうしたんですか、西尾先輩?」
「…丈さん…そろそろ僕、止めてきます…」
「…頼む。理界」
「好奇心旺盛なジャリがいると心配だな。平子サン?」
「…ただの事故だ」
「事故ねぇ…。ま、俺はもっとでかくて揉みごたえあるほうが好みだから守備範囲外だけどな。カネキ、お前はどーよ?」
「えぇー…話の流れ、掴めてないんですが」
「…琥珀をだしに使うな」
「あ、あれ?琥珀さんの名前、出てきました??」
「ははっ。アンタもムカつき顔とか、ちゃんとできんのな。おもしれェー」


喫茶店から子どもたちを送った帰り。
琥珀は"黒山羊"の管理するビルへと足を向けた。
理界と夕乍と、慌ただしく出ていった士皇の様子が気になったからだ。
エレベーターで地下へ降り、明かりと声の漏れる部屋を覗き込む。
しかしそこには予想よりも多いメンバーが揃っていた。
「丈さん。カネキ君と錦さんも──」
挨拶ついでに、会議は終わったところ?と琥珀が訊ねるとカネキが朗らかに頷いた。そして、
「ん?思ったよりも………」
錦はなにやら首を傾げ、
「…西尾………さがれ…」
丈は不機嫌そうだった。
そんな二人を余所に今度はカネキが訊ねる。
「琥珀さん、今日はお出掛けしてたんですか?」
「うん。お店に来た子たちを送った帰りなの」
琥珀は抱えた上着を持ち直した。
「そうだったんですか。大変だったでしょう。みんな元気だから走らされたりとか」
「ふふ。ね。今日はあったかかったから暑くなっちゃった。上着も要らなかったかも……、あの…錦さん?」
「ああ、いや。気にしないでいいぜ」
思案をするような難しい顔の錦が先程から、じーっと琥珀を眺めている。
琥珀を、というか、何というか…。
隣に立つ丈は普段通りの無表情と思いきや、よく見ると眉間にしわを寄せていた。琥珀の手から上着を取る。
「あっ…」
ばさりと広げると、きょとんとする琥珀をくるんだ。
「えっ?えっ?なんで?」
「………。」
暑くて脱いだと口にしたばかりなのに、丈は併せ目から手を離さない。
「へぇー。ほぉー。おアツいことで」
「た、丈さん…?あの、あつい…」
「……羽織っておけ…」
ほかほかと琥珀の体温がまた上がる。
丈たちが入り口付近で静かに騒いでいると、やっと士皇と夕乍も気がついた。
「えっ、やっ…なんで琥珀っ…!?」
「…琥珀も来てたんだ」
「ほら、夕乍も士皇も。琥珀が来たんだから、そろそろ話題を変えたら?」
「うーっ…だって夕乍がっ」
「士皇は気にしすぎなんだよ…」
見られた本人が普通にしているのだから、士皇も事故を忘れて普通に接すればいいと夕乍も思うのだが。
きれいに忘れるにはインパクトが強く、…また別の意味で忘れ難いのかもしれない。
しかしそこへ錦がさらに発破をかける。
「安心しろよ。カレシのおかげで、アザどころか体型すら見えねー状態になってっから」
「!!!」
士皇は真っ赤な顔で声無き悲鳴をあげた。
「チャラ尾先輩なんで知ってるのっ!」
「…チャラ男だから、そういうの聞き逃さないんだよ」
「せっかく少し落ち着いたのに…余計なことを言わないでくれますか、チャラ尾先輩」
「織り交ぜて苗字みたいに呼ぶんじゃねぇ」
ここへは訓練をしに来たというのに、士皇の頭からはすっかり抜け落ちていた。(壁に刺さったクインケは理界が抜きに行った)
士皇はパーカーを脱ぎながら小走りにやって来ると、さらに琥珀に被せて押さえる。
琥珀の体温もだんだんと真夏の様相を呈してきたのだが…。
「チャラ尾先輩は琥珀みるの禁止」
「あ?なんでだよ」
「…。目つきがやらしいから」
「おいコラ」
彼らのやり取りから、琥珀は少し考えてみる。
最近の士皇の態度はよそよそしかった。原因は間違いなく先日の風呂の件だろう。
助けてもらったお礼は言ったし、その他の話もした。
ただ士皇の中には気まずい記憶があって、思い出して今はりんごのようになっている。
それでも琥珀に上着を被せて、曰く、"目つきがやらしい"錦から隠してくれているらしい。
これは…我慢するところ──…。
琥珀は、パーカーをぎゅっと押さえる士皇を見た。
先ほど送っていった子どもたち──と士皇を並べては怒られてしまうかもしれないが、ぱたぱたと動きまわる彼らの元気さには、微笑ましさを感じてしまう。
睨みあう錦と士皇を横目に、カネキは「…確かにそうかも…」とこっそり同意をし、丈はちらと見ただけで言葉は無い。
士皇の頭に軽く手を乗せ、理界と夕乍の元へ行く。
カネキが参加するついでに訓練に付き合うのだろう。
「あーヤメヤメ。俺はパス。無駄にヤって疲れたくねーし」
「訓練やるのは無駄じゃないし!」
「ハイハイ」
手頃な高さにある士皇の頭を、錦はぺちっと指で弾いて部屋を出ていく。
天敵は去った。
士皇はやや気まずそうに琥珀から上着を取り去る。
二人分の防寒具から解放された琥珀は、はふ…、と息を吐いた。
ありがとうねと告げる頬は上気している。
よほど暑かったのだろう。…先日の風呂場のように。
「〜っ…、」
士皇は逃げたくなる気持ちを抑えた。
我慢をすればするほどに、頬にぽかぽかと熱が上るのを感じる。本人は気にしてないんだからという夕乍の言葉を頼りにする。信じている。
(全然気にされてないというのも…少し複雑だけれど)
「ありがとう、だけど。ちょっとだけ暑かったかな」
琥珀は落ちてきた髪を耳にかけながら、ぱたぱたと手で頬や首を扇いで涼む。
「…ごめん琥珀…。その………また倒れそう…?」
「ん、平気。でもそうしたら……ふふ、また士皇君に助けてもらおうかな」
汗で額に張り付いた前髪を分けて、「私の顔、真っ赤でしょう?」と照れながら笑う。
全然気にされていないというのはやはり複雑だ。
しかし、こうして普通に話ができることにほっとする。
「(でも)」
もし…と士皇は思う。
自分がもっと年嵩で、錦や、せめてハイセと同じくらいだったら──…?
「………。僕のほうがゼッタイに赤いよ…」
高い体温と、及ばない対象年齢に士皇は口を尖らせた。


180510
[ 136/225 ]
[もどる]