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夢と現実のエトセトラ

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巨大な赫子、その中からカネキを探す──。
赫子の凹凸を利用して、遥か高みへと翔んでゆく喰種たちを見送って、丈たちもクインケを手に前線へと赴いた。
カネキの捜索は赫子の"眼"の付近を中心に行われるが、赫子は刺激を受けると人型の敵を産み出す。
街からの住民の避難が完璧ではない今、住民の捜索と保護も同時に進めなければならない。
「──こちらチェックは完了だ。夕乍、」
「…こっちも完了。琥珀は…?」
「はい。──上との通信も良好です。…探知機は反応が無いみたいなので、次のポイントへ移動するそうです」
捜索チームと通信をしつつ"眼"を警戒する琥珀が、丈と夕乍に伝える。
そこへ、怪我人の搬送指示を終えた宇井も戻ってきて合流した。「私たちも移動をしましょう」と促す。
「…上とも動きを合わせたいところですが…赫子の近くだと足場が悪いな」
赫子に沿って移動をはじめたものの、宇井は建物の瓦礫と、隆起したコンクリートの道に眉をひそめる。
「特に琥珀。転ばないように注意しなよ」
「郡さんってば、私を何だと思ってるんです?」
「上を見てると分かりやすく足元が留守になるタイプだと思ってる」
「さ、最近は転んでないですってばっ…!ね、丈さんっ」
「…。そうだな」
「"最近は"とか言ってる時点でまず信用無いから」
宇井が不安定な足場を注意し、琥珀は通信機を調節しながら瓦礫を降りる。
その時、二人を待つ夕乍が「あ、でも…」と呟いた。
「琥珀が手をついてる水道管…」
「うん?水道管が?」
「──破裂しそう」
「へっ?」
パキャッ、と破裂音がすると同時に水を吹いた。


どれほどの時間をそうしていただろう──。
無人の家屋の廊下をやっとの思いで通り抜け、外へと飛び出したカネキの顔にパシャっと冷ややかな飛沫がかかる。
たどり着いた濡れ縁の先に広がるのは一面の水面だ。
散々に彷徨ったけれど、玄関のような出口は見つからなかった。
存在するのは、どこへも行けない回廊。
そしてこの果ての無い水面だけ。
「…これは湖?……波が高い…けど、他に道なんて──」
頬に跳ねた水を拭い、カネキは意を決して水面に飛び込んだ。


顔面に水を食らったら琥珀は、くしゅん!と盛大にくしゃみした。
「ほら。言わんことじゃない」
「水が掛かっただけですっ、…ふぁっ、…っくしゅっ!」
「…琥珀、風邪を引くぞ」
すんっと鼻を押さえる琥珀に丈がタオルを渡す。
琥珀の背後で巻き添えになった"眼"も、物言いたげにぐるりと動く。
「無気味な目玉ですけど。水は攻撃判定じゃないらしいですね」
「…ドライアイか」
「…そういうものでもないと思いますよ」
丈が首を傾げ、宇井が肩を落とす。
すると今度は遠くから悲鳴が上がった。別の戦いの最中に地下の水道管が大きく破損したようだ。
噴水のように高く上がった水流に人型の赫子がふっ飛ばされ、クインケを持った捜査官もヘルメットをかぶった誘導員たちも慌てて退避をはじめる。
10メートル近く噴き出す水は、赫子や"眼"を水浸しにしてゆく。
「…あれ楽しそう」
「……人(型)は、案外豪快に跳ぶものだな」
「呑気に言ってる場合か!」
「眺めてないで私たちも逃げるのっ!」


ちゃぷん、と水面から半身を出したカネキがリゼに宣言する。
「…背負えるか…試してみます」
カネキはこの場所から出てゆく決意をし、リゼは静かに微笑んだ。彼が生きようと死のうと彼女にとって大した違いなど無い。ただ、
「あなたが溺れ死ぬのも面白そう」
自分なら絶対に行かないとリゼは思う。髪も濡らしたくないし。
波の少ない家屋の付近から、ちゃぷちゃぷとカネキの頭が離れていくのを黙って見ている。
案の定、というかカネキはやはり泳ぎは得意ではないらしく、たまに、こう──… 沈む。
「案外難しいのよねぇ。着衣水泳って」
「リゼさっ…ゴボッ…!そういうことは、っ先に、ゲフッ…!いって──…」
ほしいんですけど──!?
っぽいことを言いながらカネキが浮いたり沈んだり溺れたりしている。
「うふふふふふ。…今は特に水気が多いみたい。ほら」
「〜っ、ぷはっ…!??」
追い討ちをかけるように、薄曇りの天から大量の水が溺れるカネキをめがけて降り注ぐ。
「── △×○□!!!」


数時間後。
掘り出されたカネキは全裸であったが、それに至るまで懸命に「服を着ていたらだめだ」と念じていたから…かは定かではない。


180320
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