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(4)

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琥珀の名前が聴こえた──。
自分の名が呼ばれたように、ぴくりと動きが停滞する。
すかさずハジメの赫子が士皇に迫った。
「隙みっけ。そんなに気になる?あの女喰種」
うねる赫子を避けながら、士皇は壁を蹴り、天井の間際を跳び、ハジメに接近する。
「半喰種だよ。琥珀は」
二本顕れた赫子の動きは複雑だ。
しかしMaxは四本。まだ全て引きずり出せていない。
ただ、動作に関しての精密さは琲世ほどではないと士皇は感じていた。"ピエロ"戦で琲世が戦う姿も見ておいて良かったと。
反対側からハジメを狙う理界に目配せをする。
士皇の動きに合わせて理界は深く踏み込んだ。
「君こそどうなの、ハジメ。赫子なんて小さい頃には持ってなかったろう?」
子供を相手にするように優しく問う。
「小さい頃とか、いつの話?僕の親戚なの?理界くん」
「君があんなに嫌ってた喰種に近づいたって話」
「ははっ!…なにそれウケるし。産まれた時から喰種混ざってるヤツとかに言われたくないな」
「せっかく人間として産まれたのに。君は捨てたんだ」
理界の口調も表情にも変化はない。
ハジメの赤黒い赫眼だけがはっきりとした苛立ちを灯す。
「は?──僕は人間だし。…君らと、違って、さぁッ!」
より狂暴に瞳が輝き、猶予であった残りの二本の赫子が形成される。
理界に注意が向く瞬間を突いて士皇が攻撃態勢に入る。
「そんなの予想済みだね…!」
「お互いさま──…!」
理界を三本で抑えながら、ハジメは残りの赫子で士皇を振り払う。
士皇は片手に携えた一刀目のクインケで軌道を逸らしつつ、もう片方に持つ二刀目をハジメの肩を突く。
肉に食い込む感触が手のひらに伝わる。
しかしハジメはまだ動いた。クインケが刺さったまま、拳で士皇の横面を打ち据える。
「ぃ──っ…!」
「てぇ………っ、…クソッ!」
反対側の理界も追い払うように赫子を乱雑に振る。
刃の抜けた肩から一度、勢いよく血が吹いた。
しかし堪えきれない痛みに暴れる赫子は、周囲の壁や床を抉り、近くで戦う夕乍と捜査官までも巻き込んだ。
察知した夕乍は飛び退き、置いていかれた捜査官が赫子に押し潰される。
「夕乍っ」
理界が無事を問うと、夕乍は一瞬だけ黒瞳を向けて小さく親指を立てた。
くっきりと別れた味方への明暗に、ハジメは痛みに紛れて息を吐く。
「…なんだよ……避けろよそれくらい──…」
傷口から溢れる血を少しでも止めようと強く押さえる。
痛みに荒く呼吸をしていると、離れて丈と戦う宇井がハジメを呼んだ。
「なんスか特等…今マジ取り込み中」
「派手に使うなら場所を変えろ。…ここはお前の赫子には狭すぎる」
「うっわ。仲間にあっち行けとかブラック上司すぎ」
「たった今、潰したのも仲間に見えたが?」
床に倒れて動かない捜査官へと一瞥をくれる。
「はっ。あんなの嘉納先生の実験体その1っしょ。とろいし、何の役にも立たない」
実際、乱雑な暴走をしたハジメの赫子を夕乍は易々と避けた。
その程度の動きもできないで、この場で戦力に数えようなんて馬鹿らしい。
「……。お前たちよりも従順だ」
宇井の様子にハジメは不満げに鼻を鳴らす。
"オッガイ"のサポートに使われる"あれ"は、半分死体のような捜査官たちを拾ってきて、赫包を埋め込み、薬漬けにして動かしている。
薬が無ければ思考も鈍り、すぐに死ぬ。
"あれ"と同列に扱われるのもハジメにとっては気分が悪い。
向こうは試作品。こちらは完成品だ。
宇井にも嫌悪感はあるようだが、無下にも扱えないらしい。元・同僚という意識が強いのかもしれないが。
とはいうものの、お前たちよりも、と宇井に言われたのは逆に差別化がされたのかもしれない。
一周回ってハジメは気を取り直した。
肩の痛みにもいくらか慣れてきた。
「ふーん。従順ね…」
もう一つ、面白いものを見つけてにやりと嗤う。
「じゃあ、あーゆーことするのはアリなんですかね。宇井特等?」
ハジメが示した部屋の入り口。そこには待機を指示された捜査官がいる。
床に引き摺るようにして女の手首を掴んでいた。
捕らえているのは──…、琥珀だ。
姿を目にするや、丈が指示し、夕乍が動く。
しかし宇井も、夕乍を止めろと部下に鋭く言い放つ。
琥珀を掴む捜査官へ到達する前に阻まれた夕乍は、靴底で床を押して停止する。
檻の中の虎のように、壁を作る捜査官たちを見つめた。
「……。人質にでもするつもりか、郡」
「見損なわないでください…私がそんな人間だと?」
「すればいいじゃないっスか。喰種質に」
「ハジメ、お前は黙っていろ──…ッ」
いつからその状態なのか、強く掴まれた琥珀の手首は赤紫に鬱血している。
くたりとする身体も砂埃に汚れ、膝や額には血が滲む。
「………」
呼吸で上下する胸の動きを見て取った丈は、感情の無い声で問う。
「──何をした…」
「動きを…制限しただけです…」
「薬だけでああなるのか」
「…指示は何も出していない──っ」
「じゃあ暴れたのかも?」
宇井に今度こそ睨み付けられて、ハジメはへらりと肩を竦めた。
怖いなぁと茶化して後ろへ下がる。
「怖いからおとなしく他所で戦うことにシマス。ってことでフィールド移動行くよ。ついて来ないなら、僕はさっき逃げた女と子供を殺すけど」
君らどーする?
ハジメは挑発するように理界と士皇を誘う。
こんな狭い場所ではなく、赫子を存分に使える広い場所へ。
問われた理界と士皇、そして丈と夕乍の視線が刹那に交錯する。
最初から、地下へ入り込んだ敵を討ち取ることを目的として動いている。
其々が行うべき役目は決まっている。


180311
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