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おにさんこちら

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仕事を終え、外で食事も済ませてきた──。
二人で帰宅することに心も身も弾ませて、軽やかな足取りで琥珀がエレベーターを降りる。
マンションの廊下に足音が響く。
夜中なので寝静まる住民の迷惑にならない程度に、遠慮がちの小走りで。
部屋の扉の前に到着すると、後からついて行くこちらを振り返った。
「(丈兄、早くはやくっ──)」
くすくすと笑いながら手を伸ばす。
鍵を開けて、と。
要求のようでありながら、琥珀は両手を広げていた。まるでその先を促すように。
上着のポケットから鍵を取り出して扉を開き、先に琥珀が、続いて俺も部屋へ身体を滑り込ませる。
扉が閉じる音と同時に、明かりをつけるよりも早く、琥珀の腕が背中に回った。
広くはない玄関でぴたりとくっつかれて、俺も琥珀の匂いを鼻腔に吸い込む。
ここは自分の部屋なのだが、彼女がいる時こそ、帰ってきたという実感が涌く。
それほどまでに琥珀の存在は心の大部分を占めている。
「おかえりなさい──…それとも、ただいま?」
「お前の好きな方で良い」
片手を琥珀の頭に置きながら反対の手で鍵を閉めた。
身動きは取りにくい状態だったが不都合は無い。むしろこれが良い。
靴を脱ぎながら琥珀の髪を耳にかけて口づける。
くすぐったかったのか、琥珀が小さく笑って身を捩った。
「丈兄、お酒のにおい」
「そんなには飲んでいない」
「あとほっぺたも。あったかい」
「お前は冷えているな」
「ふふ。羽織りもの、まだ必要だったかも。着てくればよかった」
局のロッカーを思い浮かべているようだ。
引き戻すために、唇でなぞっていた耳朶を優しく噛む。
ぴくりと反応してしがみついてきた琥珀を強く抱く。
夜の空気に晒されていた互いのスーツは冷えている。それに包まれる小柄な身体も。
早く暖まるといいと思いながら頬を寄せ合い、口づけとも愛撫とも着かない抱擁を愉しむ。
食事と一緒に頼んだアルコールは嗜む程度だったが、それでも俺の気分は浮かれているらしい。
琥珀の弾む呼吸や、 口づけを落とすたびに上がる甘い嬌声に、じわりと身体が火照り、疼くような感覚を覚える。
腕の中で縋りつくように背伸びをする琥珀が可愛らしくて、また強く抱く。
玄関の薄闇に二人きり。
今なら誰にも咎められる事無く、好きなだけ琥珀を閉じ込められる。
「……。」
「ん…なぁに?」
「…あたためてやる」
上を向いた首元に舌を這わせると、琥珀は反応してしまった身体を堪えるように吐息をつく。
身体の曲線をなぞって撫でていた手のひらを、スーツの内側、シャツも捲りあげて、なめらかな腰に滑らせる。
さすがに素肌は温かく、こちらの手の方が冷たかった。
「ひゃ…んっ──……ふふ。あっためるのに脱がすの…?」
短く悲鳴をあげながら、琥珀の指も俺のネクタイを緩めた。
淡い闇の中でしゅるりと音が鳴る。
艶やかな布地が白い指に絡む様子はやけに色っぽい。
「言ってること、矛盾してる。丈兄、やっぱり酔っぱらってるでしょ?」
からかうような琥珀の口調に口許が緩む。
「…かもな」
細い腰に腕を回して身体を持ち上げた。
「きゃ──っ…」
落ちないように琥珀がぎゅうと掴まるのを良いことに、そのままリビングまで運ぶ。
身体をぽすんとソファーに落として俺も跨がる。
抱き抱えられての移動が楽しかったのか、冷たい手で触ったことへの不満は上手く打ち消せたようだ。
仰向けになった琥珀は、労るように俺の頬に触れる。
「…ここでなら良いか?」
「…ベッドじゃない…けど…?」
「すぐにしたい──」
直接的な言い方に照れたように唇を噛み、俺の頭を優しく引き寄せた。
互いを味わうように唇を重ねる。
上唇を舐めて。あたたかな舌を、くちゅりと水音と共に絡めながら琥珀のスーツを脱がせる。
シャツのボタンを外しながら首筋に舌を這わせて下着の肩紐も下ろした。
残念ながら白い肌はぼんやりとしか見えない。しかし手のひらに合わせて形を変えるやわらかさを、より感じられる。
剥き出しにした乳房を押すように揉んで、つんと尖った頂きをねっとりと吸う。
「…んっ…、んっ……」
反対の手でシャツを肌蹴させて、手のひらでゆっくりと膨らみを揉みながら先端を指で苛める。
「…すぐに硬くなるな」
「ゃ……もぅ、…やらしい触りかた…するんだもん……っ」
浅い呼吸を繰り返す琥珀が俺の頭をきゅうと抱く。
「あぅっ……んっ、そんなに、吸っちゃ──、………」
「?……どうした」
「あ…、ううん……なんでもない……」
言葉を途切れさせる琥珀。
気になって顔をあげようとすると、それを押さえるように頭を胸元に抱き寄せられる。
ふにふにとやわらかくてあたたかい。とても気持ちが良いんだが…。
「…琥珀、どうかしたのか」
「な…なんでもないの…」
「…なんでもないという態度ではなかったが」
「そ、そんなこと…ないもん…」
「………」
「…だから…その…続き…しよ?……ね…?」
なでなでと琥珀の指が俺の頭や耳元を行き来する。
その態度から何かを誤魔化していることは明白だ。
普段なら「そうか」と流して続きを愉しめるかもしれないのだが。
しかし今はどうしても気になった。
呼吸で上下する双丘に頭を乗せながら、俺の中には、琥珀を苛め抜いてでもその唇からわけを言わせたいという欲が首をもたげる。
「…。」
これも酒で酔っているせいとして、頬を押し返す乳房の円みに口づけをした。
ほっとしたように漏れる琥珀の吐息。
乱れたシャツとスカートの重なる腰を撫でてやれば、甘えるように俺の太腿に脚を絡めてきた。
とろりと濡れはじめているであろう蜜壺を想像するとこちらの熱も硬くなる。しかし、
「此処に……」
琥珀のスカートを捲って脚の間を指で強く擦る。
「あんっ…」
「…挿れるのは、しばらく後になりそうだ」
「えっ?……」
細い手首は片手でも簡単に掴める。
「やっ、…きゃぁっ…丈、に……っ…!?」
琥珀の両手首を掴まえて、頭の上でまとめて拘束した。
藻掻く琥珀には構わずシャツも下着も剥いていく。
「今…何を考えていた?」
「い、いま…?んっ…!ふっ、んむ──っ」
不安げに早く浅くなる呼吸をする唇に食らいつく。
ぬるりと舌を探り、絡めて息をする中、琥珀の口の端から混ざり合った唾液が伝う。
空いている手で平らな腹をゆるゆると撫でながら、唾液を舐めた。
「言わないとこのままだ」
喘ぎを漏らす唇に触れるか触れないかの距離で囁く。
「いっ……ふ…ふぇっ……、っ…」
少々無理矢理に下げた下着によって琥珀の胸は縁取られ、尖った飾りにだけ触れるように摘まめば甘く啼いた。
「…それとも、お前が余計なことを考えられなくなるまで、こうしている方が良いか?」
先端を指の腹で優しく擦り続ける。
「…やっ…や、やだ、待って、言うっ、いうから……ひゃんっ……あっ、ぁ──…っ」
悶えた拍子に爪先が引っ掛かり琥珀の腰がぴくんと揺れた。
どうやら強く感じてしまったらしく、浅い呼吸を繰り返しながら、脚を閉じたそうに悩ましく動く。
俺の腰が入り込んでいるためにそれも叶わず、琥珀は顔を背けた。
「た…たいした、ことじゃ……ないのに…っ」
唇を噛んで子供のように、うーと唸った。
さすがにこれ以上苛めては本気で拗ねるだろう。
頭上で掴んでいた手を離して琥珀を抱く。
両手が自由になった琥珀も、縋るように俺のシャツを掴む。
「…だって…──から、……、」
もそもそと小さく声がした。
「…?」
「………わ…わたしの胸………おっきくない、から…」
蚊の鳴くほどの声で琥珀が言った。
「………。胸?」
つられるように、俺も単語を反芻する。
琥珀は更に恥ずかしくなったのか唇を噛んだままだ。
そんなことか、と、うっかり言っていまいそうになって言葉を飲み込んだ。
琥珀にとっては大きな問題なのだろう。
確かに琥珀の胸は大きくはないが…(ややこしい…)。
蕩けそうにやわらかくて良い匂いがするから俺は好きだ。
鼻や口を押しつけた時のすべすべとした心地も好きだし、あと太腿の内側から尻にかけての曲線だって触っていて興奮する…。何をいっているんだろうな俺は…。
琥珀が言いたいのは恐らく男は巨乳が好きなのだろうということであって、
「──俺は…、」
琥珀の視線がちらりと恥ずかしそうに動く。
「………、」
何かを言わなければと。
酒精の残る思考ながらも本能的に感じる。
「……お前の………胸だから好きなんだ」
酔いから醒めるスイッチがあるとすれば、今切り替わった。
身体を重ねた回数だって少なくはない。しかし今さら、寸留めからの告白というのは恥ずかしい。
琥珀はというと、肩を縮こまらせてはいるものの、俺の襟元を引き寄せた。
「…うん………」
互いに触れ合う頬は熱い。
どちらともなく口づけを求めて優しく重ねる。
シャツ越しに伝わる琥珀の体温と胸のかたち。
外で冷えてしまった身体ももうあたたまっただろう。
…そう浮かぶ傍から、先ほどから熱を帯びたままの自身の存在も思い出す。
「…ごめんね…?続き、しよう?」
こちらの思いを読んだように、琥珀の指がシャツのボタンに添えられる。
「…それとも…するの…めんどくさくなっちゃった…?」
俺を呼ぶ声は切ない。
散々に衣服を乱された姿で見上げてくる様子も、甘やかな声とは裏腹に扇情的だ。
上手く転がされているのは俺のほうかもしれない。
そんな思いを頭の隅に過らせて、しかし据えられた膳を食らうべく、俺は琥珀に応えた。


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