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(1)

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群発する"ピエロ集団"の襲撃ポイントを予測し、グループごとに別個待機。
襲撃を確認次第、"黒山羊"各グループは合流の後、"ピエロマスク"らの排除を行います──。

「"黒山羊"の御披露目ってな」
錦が白スーツの襟をピンと張る。
「本当は、そちらの紳士と少年たちにも是非着て貰いたかったのだけれどね」
髪を撫で付けた月山が残念そうに肩を竦める。
視線の先には、所属組織が変わってもそのままのスタイルを貫く白いコートの面々。
フードを下ろした士皇が笑った。
「僕たちはこれがいいの」
「…」
無言で戦いの場を見据える丈に、夕乍と理界も従う。
愛想の無い様子ではあるが彼らにとってそれが普段通りだ。
そして月山もまた、めげる性質でもなかった。
仮面を着けているが、その下の表情はやはり豊かに笑んでいるのだろう。
「hmm. まあレディが参加してくれたので良しとしよう。──晴れの舞台に華を」
月山の演技がかった身振りによってお鉢を回された琥珀は、居心地も悪く丈の陰に身を引いた。
「わ、私のことはいいから──…」
琥珀も捜査官であった頃のようにスーツを用意してもらった。白いスーツは恥ずかしかったので、一般的な色のものだ。
月山の譲れない意向は、白い花を模した髪留めという形で収まっていた。
「…琥珀がスーツ着てると、局にいたときみたいだね」
夕乍の黒瞳が街灯に瞬く。
白スーツが尤も馴染んでいるナキも満足そうに頷く。
「土山が頭に刺すよりもイイカンジだぜ」
「月山」
戦いの前だというのに、この場にいる者たちには余裕がありすぎて困る。
それだけの実力を皆、備えている。
照れと困惑の横顔を髪をいじって隠す琥珀を、丈がじっと見下ろした。
「………」
「…た、丈さんまで……もう、見ないでいいから……」
琥珀は丈の袖をやや強く引っ張って向きを変えさせた。
風向きが変わり、夜風に血の匂いが混じる。
ピエロマスクと白鳩の入り乱れる戦いの場は目前だ。
「…。似合っている…」
「………あ、…ありがとう……」
「琥珀」
「………なに…?」
「隊から離れるな…」
「…。──はい」
耳に響く丈の声に琥珀は唇を引き結ぶ。
右眼に赤と黒を宿して。


「──"大環アクト"…はじめて聞く響き…」
区内某所にある施設──"黒山羊"の管理する建物の会議室には、会議を終えて、カネキや琥珀、他、数名のメンバーが残っていた。
「僕もです。…でも信用はできると思います」
元を辿ればニコと呼ばれる喰種によって紹介をされた。喰種を支援する団体…とのことだ。
彼らの助言を織り交ぜて"黒山羊"が目指すは──、
「世間へ"黒山羊"の存在を知らしめること。そして"Rc抑制剤"の確保を」
現在、世間を騒がせている"ピエロ集団"による襲撃事件。先のコクリアでの捜査官殺しから、その直後に発覚したCCG総議長の殺害。
陰で糸を引く旧多二福は、すべてを"隻眼の王"に被せて潰そうとしている。
「"黒山羊"の存在と目的を理解してもらうために、 逆に"ピエロ"を利用します」
「…それじゃあ次の作戦は、"黒山羊"が"ピエロ"を相手に立ち回って、裏でカネキ君が抑制剤の奪取──…」
こういうこと?
琥珀が首を傾げると、カネキよりも素早く、メジャーを手にした優男が頷いた。
「exactly. けれども別行動まではカネキ君、キミにもスーツを着て貰うよ。何といっても"黒山羊"のリーダーなのだからね」
「…細かい部分は月山さんにお任せします」
「期待していてくれたまえ」
月山習。彼はCCGにより解体した大企業"月山グループ"の御曹司だ。
今も繋がりのある会社と密かに連携し、情報収集から今作戦の白スーツの用意まで、幅広くカネキを支えている。
自身で行う訳ではないが、雰囲気を大切にするらしいこの青年は、優美な手つきで採寸の真似をしてみせる。
「そして、そちらの新顔の君たちにも。是非とも揃えて用意したいのだが──」
いかがだろう?と月山の視線が丈に向かう。
会議が終わり、集まった面々は仲間へ伝えるために戻っていった。
丈も隊の三人と琥珀を伴って喫茶店へ戻ろうとしていたのだが。
「俺たちには不要だ」
丈の行く手にするりと流れるように月山が立ち塞がる。
「ユニフォームとは連帯感を高めるアイテムだと思わないかい?」
「こちらは隊として参加している」
「okay. では君たちの予備のコートを仕立てさせてもらおう。捜査官の仕様も素晴らしいのが、考えたい部分がいくつかあって──」
「………。」
「…めげないね」
夕乍が丈の心を代弁するようにぽつりと言い、士皇が「なんか良いアダ名ないかなぁ」と考えはじめる。
月山に絡まれる丈に、琥珀は微かに笑みをこぼす。
カネキも苦笑した。
「気にしないでください。月山さんって、ああいう人なので」
「うん、おもしろい人ね。……。」
「…どうかしましたか?琥珀さん」
琥珀はカネキを振り返る。
カネキの表情は柔らかいが、片方の目は眼帯に隠れている。
今現在、傷が治りにくい状態らしい。時々黒い涙が流れるとも聞いた。…カネキは以前の戦いが激しかったためと言っていたが。
皆、痛みと傷を負っている。
抑制剤を必要とするアキラも。
「抑制剤があれば…アキラちゃんの容態も良くなるのよね…?」
「…。それも恐らくとしか言えませんが…。頼る手立てが、他にはないので…」
カネキも琥珀も、アキラの見舞いで顔を会わせることがあった。
昼間の喫茶店で互いに話をしたと思ったら、夜更けにアキラの治療が行われる部屋で、また会ったね、と。
そんな時はいつも、僅かばかりだが話をした。
瞳を閉じたままのアキラの意識に届くことを願いながら。
「万丈さんの治療では容態の安定が精一杯です。半喰種や…Qsを見ていると、喰種と人間は近い存在に思えます…なのに僕たちは"喰種"について知らないことが多い」
「………」
"喰種"という存在。
"喰種"として、生きること。
"喰種に関わった者"となること。
タキザワを庇ったアキラの立場を考えると、病院に連れていくことは難しい。
ニコのような部外者に居場所を掴まれたということは、いずれアジトも移動をしなければならないだろう。
しかし容態の芳しくないアキラを思うと、それも困難だ。
問題は山積みだ。
「"大環アクト"……。でも喰種を支援する人たちがいるのなら…彼らの良心を、私も信じたい…」
「……はい」
「それに……アキラちゃんの声…また、聞きたいな」
「…僕もです。今起きたらどんな反応が返ってくるか、わからないですけど…」
CCGに刃を向けたこと。喰種の側へと転身したこと。思い当たるものは多すぎる。
希望と、怖れと。
どちらも本心で、願いだ。
そうだとしても、
「…。僕もアキラさんの声を、また聞きたいです」
目の前にうず高く積まれた問題の一つ一つを、崩さないように、壊さないように掬い上げていく。
今できることは最良の選択を探すこと。
その選択が、必ずしも最善の結果に繋がるとは限らない。
それでも、何を行うか、或いは行わないか。
絶えず動き続け、選ばなければならない。
「──目的が決まったとなると、隻眼の王さまも更に忙しくなりそうね」
琥珀が視線を向けると、未だに丈に熱弁を披露する月山の姿があった。
思い出したように呼ばれた"隻眼の王さま"の響きに、カネキの表情が苦笑に変わる。
「そこは…頭脳派な錦先輩と、喰種に顔の利くミザさんに力を借りて──…」
先程まで会議に参加していた面々を思い出しながら、今後の割り振りをおぼろ気に想像する。
カネキが本拠としている喫茶店の仲間も、頼れる者ばかりだ。
自分は、金木研は、勿体無いほどの良き人たちに囲まれていたのだと改めて思う。
そして佐々木琲世となって生き、丈や0番隊や琥珀とも繋がった。
「琥珀さんも手伝ってくださいね?」
「私に手伝えることなら。でも私は…、ただの喰種なので。あんまり期待はしないでね?」
「ただの…?」
「あ、酷い顔」
琥珀の返事に、カネキが何ともいえない表情を作る。
CCGにいた頃の琥珀は"喰種"として遠巻きにされていた。
しかし"黒山羊"の中で見れば決して悪い印象ばかりではない。半喰種である琥珀もまた"隻眼"であり、エトやカネキの印象も手伝って、むしろ好意的にとられている。
カネキはそう感じていた。
琥珀の戦う理由が丈の存在であったとしても、問題を抱える"黒山羊"として力を借りたい。
「交渉事には琥珀さんの持つ、ふにゃっとした…じゃなくて…こう、やわらかい印象も必要なんですよ」
「ふにゃ?」
「それに士気の意味でも、華が必要だと思うんです」
「華って?」
カネキの声に熱が籠って拳にぐっと力が入る。
疑問符を浮かべる琥珀を余所に、カネキは「そうですよね、月山さんっ」と呼び掛けた。
それまで別の話をしていたはずだが、月山は見事なタイミングで振り返った。
「お呼びかな、カネキ君──?」
相手をしていた丈がその向こうに見えた。
少し…げんなりしているようにも見えた。
「あくまで予備の準備ということで話は纏まったが、隊長の彼とは有意義な会話を行えたと思うよ」
「……帰っていいか」
「琥珀ー。タケさんが疲れちゃったから、僕たち先に帰ってるね」
「えっ」
突然の宣言に琥珀は思わずきょとんとした。
「…月山圧とキラキラな何かをずっと浴びてた感じ」
頑張ってねと士皇と夕乍が手を振る。
無表情で送られる丈の視線。
最後に理界が慰めるような雰囲気で言った。
「可愛くしてねって頼んでおいたから」
なにを?
疑問が声になる前に、琥珀に影が落ちる。
部屋の照明の配置も相成って、すらりとした身長の月山が逆光に浮かぶ。
ほんのりと怖い。
「麗しのレディ、準備は宜しいかな──?」
「えっ…えっ──?」
なんの?
そのまま琥珀はスーツ製作の現場へと連れていかれた。


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