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(2)

めったに入れ替わらない過去の拍手ログ。あと小ネタ
(拍手は名前変換を追加してのお届け)


18. 拍手log[煙草はほどほどにね編]new★

さあ、どうぞっ、と。
ガサリと音を立てて差し出された、レジ袋に納まる煙草のカートン4種を宇井は怪訝な表情で見下ろした。
かつての上司と、その恋人が用意してくれたものだ。
愛用する煙草の銘柄ではあるが。
「…なんで4種類が揃ってるんです?」
迷惑料に煙草を奢れと言った記憶もある。
「吸わないからわからなくてな」
悪びれる様子もなく元・上司がぽそりと答えた。
…だからといって全種類を買ってきたのか。
「えっと、折角なので味を比べるのも楽しいかなって」
思いました。と、その彼女がにこやかに答える。
二人に悪気があったのなら受けて立つところだ。
しかし如何せん…天然ものだ。
(彼は全部買いをすれば何れかは宇井の好みに当たるだろうと思い、彼女は全種類を並べるのが楽しいと思ったからそうしたのだろう)
「………。好みに合わないのなら買い直してくるが」
「…いいですよ、別に。…大体、私に扱き使われるタケさんってどうなんです」
「詫びの一環だ」
「はぁ……。まったく、琥珀、君も何とか言いなよ」
「ふふ。普段買わないものなので、楽しかったです」
「二人とも…物好き過ぎだよ…」
こんなに忙しい時分だというのに、手間も出費も気にかけない二人だ。
宇井はため息を吐きながら嵩張る"お詫びの品々"を受け取った。


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17. 小ネタ [非番の金曜日]

部屋から部屋へ。
カチャリとドアを開いて閉じた。
するすると襖を引き、また閉じた。
家の中で思い当たる端っこから琥珀は順繰りに探してきた。
そうして姿を見つけた場所は少し意外な場所だった。
丈兄──…、と。
呼ぼうとした琥珀の唇は空気を吸い込み、けれどただ吐き出すのみに留まる。
部屋ではなく縁側の木床に寝転がって目を閉じる姿は、年上の幼馴染みの"微笑ましい昼寝姿"と納得せるに十分だった。
廊下を小さく軋ませて、そっと丈の頭の横に膝をつく。
丈は腕を枕に、身体をやや丸めるようにして寝息をたてている。
琥珀は触れようと指を近づけ、寸前で迷う。
「………」
規則的に上下する肩や身体。
僅かに開いた唇。
縁側に注ぐ陽射しはうららかで、けれど肌を撫でる空気は少しだけ涼しい。
丈を起こさないように立ち上がり、琥珀はその場から離れると、タオルケットを持って帰ってくる。
廊下を小さく軋ませて、今度は丈の横にそっと膝をついた。
足の方からそろりと丁寧に広げたタオルケットを身体に掛けてやる。
「…今日のごはん。なに食べたい?って聞きに来たんだけどなぁ…」
ぽつりと呟いて口許を緩めた。
消えたひとりごとの代わりに、庭先の木々からそよそよと葉の重なる音が聴こえる。どこからか舞い込んだ花びらが微かに香る。
しかし、そんなささやかな空気の変化も丈を起こすには至らない。
琥珀は丈の肩口までタオルケットを引き上げると、指の裏側で頬を優しく撫でた。
「リクエストがないとカレーになっちゃうよー…」

(困ったときの救世主)


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16. 小ネタ [家に帰ろう]

片方の手を繋いで。
もう片方の白い指先にほぉっと息を吹きかける。
午後の風が落ち葉をさぁっと巻き上げ、琥珀がその指で髪を押さえた時だった。
空中に現れた何かを追うように大きな瞳が辺りをそわそわと探し、唇がつんと上を向く。
琥珀の頭に乗っかった枯れ葉を剥がしていると、薄桃色の可愛らしい唇が、
「…おいも…」
呟いた。
たった3音の平仮名だ。
しかし唐突すぎて理解できなかった。
続けて何かを訴えるように見あげてくる双眸を無言で受け止めると、古びたスピーカー越しの音声が風に乗って俺の耳にも聴こえた。

い〜しやーー き いもっ おいも〜〜〜

やっと合点がいき理解を示すと、頭に浮かべた事柄の一致に琥珀は「ねっ」と声を弾ませた。
だんだんと近く大きく響きはじめた季節の風物詩は、比例して琥珀の期待をも膨らませる。
自身が食べたいから…ということはないため、単純に"焼き芋屋さん"という雰囲気にわくわくしているのだと思う。
手を繋いでいなければスピーカーの元へと駆け出していたかもしれない。
路地をこちらに曲がって全貌を現した焼き芋屋の軽自動車に、琥珀の視線は釘付けだ。
もう少しですれ違うというタイミングで、熱の籠った瞳が俺を見あげ、その先の答えをもじもじと委ねる。
繋ぐ手に、もう片方の指を添えて。
「…お土産に…買って帰ったら喜んでくれるかな──」
…小さなおねだりに男が弱いことを知っての所業だろうか。
──数分後。
琥珀を温める役割を芋に奪われた俺は、お役御免となった手を上着のポケットに埋めた。
…。決して寂しいわけではない。
「…あったかいか?」
「うん」
新聞紙に包まれた焼き芋をそおっと隙間から覗き込んで大切に閉じる。
琥珀は胸に抱く熱を楽しみ、俺は流れてくる甘い匂いを吸い込む。
これはこれで互いのために良かったんだと寒風に上着の襟を立てれば、琥珀は不意に俺の腕に手を絡めた。
器用に焼き芋を持ち直して。
「丈さんにも。あったかいののお裾分け」
空いた手を俺の頬に当てる。
歩きにくそうにしつつも頬を温める琥珀に合わせて、歩みを緩くする。
帰宅も少し遅くなるが、これはこれで良かったと改めて細い指先の温度を感じた。

(今だけの独り占め)


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15. 小ネタ [願いごと]

七夕飾りに縁取られた商店街の一角。
小振りな笹が設置され、願いを託された短冊が風に揺れている。
すぐ横の折り畳み式のテーブルでは、親子連れが色とりどりの短冊の中から自身の一枚を選んでいた。
懐かしいねと琥珀が微笑むと、町内会の人だろうか、お二人も書いていかれませんか?と招かれた。
買い物袋を腕にかけて短冊を選ぶ。
琥珀は薄桃色を、俺は水色を。
山吹色の鉛筆を琥珀から手渡されて、六角系を手に馴染ませる。
そこまできて、何を書こうかと動きが止まった。
商店街の飾り付けの、ほんの一枚だ。深く考える必要もないのだが…。
隣を見れば琥珀は瞳を伏せて鉛筆を走らせている。
落ちてくる髪を耳にかけると手元が垣間見えた。
"丈兄──…"
それ以上を見てしまうのは何かが反する気がして視線を戻す。
しかし今の一瞬でも、俺も含めた願いが綴られていることがわかってしまった。
俺が琥珀の名前を書き入れようと決めたのは自然な流れで、そして、琥珀の名前を入れたことにより願いはすぐに見つかった。
──琥珀が元気に過ごせますように──
──丈兄とたくさん一緒にいられますように──
笹の真ん中よりも少し下に二枚を並べて飾り付けた。
夕暮れの風に寄り添って揺れる。
「丈兄、私のこと書いてくれたんだ」
にやける頬に手を当てて、琥珀は「照れちゃう」とぱたぱた駆け足で先へ行く。
少し後悔をした。

(遠いいつか。"ずっと一緒に"と書けるように)


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14. 拍手log[髪で、指で。手遊ぶ二人編]

「おでこ──」
丈の膝の上に乗っかって。
その首筋を善いように撫でて、頬を包んでいた琥珀の指が丈の額をつつく。
「前髪、少し伸びたね」
「忙しくて切りに行く暇がなかった」
「私が器用だったらなぁ…整えてあげたいんだけど」
「切ってはくれないのか」
「自信ないもの」
「…それなら自分で切──」
「──るのもダメよ?ぜーったいっ、揃わないんだから」
だめですーと、琥珀は頑として縦に首を振らない。
丈が仕返しに自身の髪で手遊ぶ細い指を掴まえると、残念そうに唇を噛んだ。
「…じゃあ下の喫茶店に聞きにいこ?もしかして器用なひとがいるかも」
「……かもな」
「うん」
「………」
「………。いかないの?丈さん」
掴まえたままの細い指を、今度は丈が絡めて口づけた。
少しのあいだ続けていると声が焦がれる。
「私にもして…?」と丈の額に自身のおでこをくっつける。
上手く誘い出した丈は、更に時間をかけて琥珀の甘い期待に応えた。
二人で部屋を出たのはその後しばらくしてからだった。


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13. 小ネタ [ひとをダメにする○○]

「あっ…あれ、気持ち良さそう──」
琥珀が目を奪われたその巨大なクッションは、とある雑貨屋のインテリアコーナーに鎮座していた。
リビングを模した一角に、ある種のゆるさを演出している大きなそれ。
「………欲しいのか?」
「えっ…?」
通り過ぎようとする間も固定された琥珀の視線に、丈は立ち止まる。
そちらばかり見ていた琥珀は、ぽふんっ、と丈にぶつかって止まる。
「あ……その、欲しいとかじゃ…ないんだけど…」
そわそわと迷う瞳は興味の証だ。
「…少し見ていくか」
促すと、琥珀はおずおずとクッションを触りに行く。
初めはゆっくりと指でつつき。
次に手のひら全体で押して、「ふわ〜…」と感嘆の声。
"ソファ"と書かれた品書きを眺めた丈が、「座ってみたらどうだ」とさらに一推し。
体にフィットすることを謳い文句にしたソファは、ゲストを包み込む包容力と鷹揚さを確かに備えて、恭しく琥珀を迎えた。
──…、
小柄な身体がうずまる。
まるでグラデーションのように琥珀の瞳が静かにきらきらを強めた。
「…フィットしたか」
「………た、」
「?」
「…立てなくなっちゃった」
「…。」
たのしい。すごい。たのしい。そう、目で物を言う琥珀の手を、丈は取って立ち上がらせた。
数週間後──。
琥珀は丈の部屋に鎮座するソファーに静かに埋もれて本を読んでいた。
琥珀の誕生日プレゼントに丈が購入したものだ。
部屋に運ぶかと訊ねると、琥珀は首を振った。
自分の部屋に置くよりも丈の部屋を訪れる楽しみを増やしたいから、と。

(私をだめにする丈兄)


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12. 小ネタ [ホラー映画]

喰種捜査官となって慣れてしまったこと。
喰種と対峙した際の、生と死が隣り合う極度の緊張。
調査現場の凄惨な遺体(死後直後のものから腐敗及び白骨化まで)の数々──。
そのためにホラー映画が怖くなくなってしまった、という同僚の話もよく耳にする。
しかしどんな例でも当てはまらない者はいる。
テレビの前のソファーで布団をかぶり、ぶつぶつと呟く琥珀など。
「……なんで夜に行くのかなぁ……明るいときにしようよ……やだ、もう……。ひっ、後ろになんかいるなんかいるなんかいる…っ!」
画面の中の主人公に話しかけながら、一緒に廃墟を散策する気持ちになっている。
映画監督からすれば本望だろう。
琥珀はどうも、昔から怖いものが苦手なくせに見たがる習性がある…。
そんなことを考えつつ、丈は冷蔵庫からお茶を出した。
画面がCMに替わったところで琥珀の隣に座る。
「さ…先に寝てていいよ……」
「何時までやってるんだ」
「………11時過ぎまで…」
予想よりも遅い時間に、勧めに従うことも頭を過る。
それを思い止まらせたのは、丈の夜着の裾をちまっと掴む琥珀の指だ。
本人は気づいているのか、それとも無意識か。
CMが終わり、画面が外国の街中のシーンを映す。
道路脇の排水溝の中から呼び掛けてくるピエロに、
「きゃっ…!いっ、いゃぁぁっ……」
引き気味の悲鳴が重なる。
さすがに不気味だと思うが、任務とあまり違わないのでは。と琥珀に訪ねると、
「で、で、でもっ…!ピエロはいないもん…っ」
「ピエロマスクはいるぞ」
「ピエロマスクは喰種だからっ…怖くないのっ…!」
恐怖の基準がいまいちわからない。
しかし先に寝れば琥珀が寝不足になるのは想像できた。
琥珀の掴む指を手繋ぎに変えて、丈は結局、最後まで付き合った。

(喰種<ピエロ)


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11. 小ネタ[小さい頃の話]

「…丈にい…」
「………。」
「…たけに〜……」
かれこれ何分ほど呼ばれ続けているだろうか。
琥珀が丈を呼ぶそれは、ノックになったり、"丈おにいちゃん"と丁寧になったり、または…
かりかりかりかり──
猫のように弱々しくドアを引っ掻いたりと、バリエーションに富んでいる。
それでも丈は部屋のドアを開けなかった。
風呂上がりの濡れた頭をタオルで押さえる。外からの音も、誘惑に負けて開けたくなる自分の気持ちも追い出すように、わしゃわしゃと乱雑に頭を拭きはじめた。
しかし少しして、丈は音が止んでいることに気づいた。
屈んで、そおっとドアに耳を寄せる。
「……っ……ぅぇ、っ…ふぇ…」
すんすんと鼻をすする音と、抑えた泣き声がする。
すぐにドアを開くと、暗い廊下に浮かび上がる塊。
タオルケットを頭から被った琥珀が、情けなく眉をハの字にして、涙の溜まった瞳で丈を見上げる。
丈が開けるのをずっと待っていたようだ。
「……。だから止めておけと言っただろう、琥珀」
しゃがんで丸まった琥珀の身体がびくりと強張る。
子供が起きているには遅い時間。丈の祖父母も、とっくに寝てしまっていた。
この週末、平子家に預けられていた琥珀は、ひとり夜更かしをして居間でテレビを観ていた。
「一人で眠れなくなったのか」
「……っ、……うん…」
「…おばけは多分、ウチにはいないぞ」
「……で、…でも…っ、おへやが……くらい、の……っ…」
真夏の夜の怪談とかそんな感じの、おどろおどろしい番組を、琥珀はタオルケットを被って食い入るように観ていた。
風呂へ入ると告げる丈に生返事をして、丈が出てきた時には全く気がつかないほどに。
丈は「怖くて寝られなくなっても知らないぞ」と、さらに強く声をかけたのだが……。
ひとまず立たせてやると、琥珀は「ぅぇ、ひっく、……ごめんなさい…っ」と、またしゃくりあげる。
腰にしがみついてくる小さな背中を丈は宥めるようにぽんぽんと叩いた。
暗闇からは幽かな音が聞こえてくる。少し不気味だ。
「…でんきも…つけてきちゃったの……」
「…テレビか」
こくりと頭が動く。
空気は蒸していて、子どもの体温とでもいうのか、琥珀にくっつかれるのもやはり暑い。
けれども丈はそのままの状態で廊下に出た。
暗闇に向かうと、丈の腰を掴む琥珀の手に力が籠った。
「………。悪かった」
「……、?」
「……何でもない」
眠れなくなるかもしれないと知っていた。けれど琥珀はテレビに夢中で…、
「(…いじめてしまった…)」
ぎゅうっと、いささか強すぎる琥珀のくっつきは少し苦しかったが、丈は琥珀の頭を撫でながら、手探りで居間へ向かう。

(好奇心>ホラー番組)


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