ダレカガミタユメ

※77話のif

東の町でしのぶちゃんにアメキシス1000本渡し、竈門家に帰って来た翌日。炭治郎君と共に隣町に行ってきますと癸枝さんと話していると、花子ちゃんと茂くんが、明るく駆け寄ってきた。

「今日も隣町に行くの?」
「花子も行く!」

完全に着いて来るつもりの二人に、癸枝さんは立ち上がり、諭すように言った。

「だめよ。今日は雪道で危ないし、今日は荷車を引いて歩けないから途中でのせてもらって休んだり出来ないのよ」
「むぅ。兄ちゃん〜!」

癸枝さんのストップ発言に、説得は無理だと悟った二人。ならばと、茂くんは炭治郎君に、花子ちゃんは私にすがるように抱きついてきた。

「昨日言ってた、皆でおしゃれしてご飯食べに行くの今日にしようよー!花子、昨日もらった着物きて、ご飯食べに行きたい!おしゃれしたい!」
「皆でうなぎ食べようよ!」

昨日の興奮が今日も続いているのだろう。完全に遊びに行くモードの二人に、でも、と話しかける。

「雪道危ないよ?」
「桜おねえちゃんよりは慣れてるよ!」
「ぐっ…」

茂くんの正論に、精神ダメージ10をくらった。追撃とばかりに、花子ちゃんが上目遣いで瞳を潤わせる。

「皆でゆっくり行こうよ!ね?お願い!」
「うーーーーーーーーーーん、じゃあ」










「今日、皆で一緒に行っちゃおうか」

わーい!!!と嬉しそうに騒ぎ始めた二人。その横で炭治郎君はなぜか苦笑い。なんでさっきから困った様子なのだろうと思いながらも、花子ちゃんと茂くんに「ただし、」と言い聞かせるように、しゃがんで二人に目線を合わせる。

「私はちょっと用事があるから、その間待てる?」

警察に私を襲った犯人は熊でなく、大人の男性だと伝えないとだから。

「うん!待てる待てるー!」
「やったー!うなぎだ〜!」

その場で踊るように回りだした二人の背景にはお花が舞っているように見えた。

「って事で、勝手に出掛けることにしちゃいましたけど大丈夫でした?」

これでダメって言われたら、花子ちゃん茂くんをぬか喜びさせただけになってしまうので、ドキドキしながら癸枝さんの反応を待つ。すると癸枝さんはしばらく考えてから、小さく笑った。


「そうね……。たまにはいいわね。行きましょう」
「やったー!お姉ちゃんにも言ってくる!急いで準備しなきゃ!」
「ぼくも兄ちゃんに言ってくる!」

飛び跳ねるようにキャッキャッと効果音を付けながら、どこかに走って行く二人を見送りながら、炭治郎君にも尋ねた。

「急に行くことになったけど……ダメだった?」

さっきからずっと炭治郎君らしくない反応だったので、事後だけど確認するように伺えば、炭治郎君は困ったような笑顔からいつもの優しい笑顔で「……いいえ」と微笑んだ。


「今日は家族で楽しみましょう」

私もそうだねと微笑み返した。









その日は、竈門家全員で隣町へと出かけた。私の話は警察以外に、癸枝さん、炭治郎君、禰豆子ちゃんに伝えたのだけど、結局私達にできることは今後気を付ける事以外特にないので、後は警察に任せましょうとの結論になった。
警察に行った後は隣町でうなぎを食べて遊んで帰宅。……しようとしたら、日が落ちる寸前だったのもあり、三郎さんに「危ないから泊まってけ」と半ば強引に引き留められ、皆で三郎さんの家に泊めてもらう事にした。8人という大人数なので、狭い三郎さんの家はさらに狭くなり、5組しかない布団に重なり合うように雑魚寝をした。

三郎さんは終始ぶっきらぼうな物言いだったけど、夕飯は豪華だったし、花子ちゃんや茂くん六太くんに引っ付かれて、「離れろ」といいつつも悪い気はしてなさそうだった。その証拠に、翌朝「いつでも泊まりに来い」とそっぽを向いて言っていたのが、少し可愛らしいなと思ってしまった程。
こうして、初めての竈門家全員でのお出かけは大満足の内に終えた。









それから、5年後。私は22歳になっていた。

私は結局、未来に帰れないでいた。最初の頃は、帰り方を一生懸命探していたのだけど、探せど探せど手掛かりは全くなく……。今となっては、この大正時代で骨を埋めるんだろうなと、諦めのような悟りのような境地になっていた。でも、だからと言って落ち込んでいるわけでない。なぜなら……



「桜さん」
「あ、炭治郎君」

外で洗濯物を干していると、炭売りから帰って来た炭治郎君に名前を呼ばれた。
すぐに洗濯物を籠に戻し、数メートル先にいる炭治郎君の元に駆け、笑いかける。

「おかえりなさい炭治郎君」
「ただいまかえりました、桜さん」

お日様の様な笑顔はそのままに、幼さは消え少年とも青年ともとれる男の人に成長した炭治郎君。背丈もこの五年で随分と伸び、私の頭一つ分以上伸びたので今は私が見上げる形になっている。


炭治郎君と会話をしながら家に戻り、炭治郎君の着替えや片付けを手伝っていると、炭治郎君が思い出したように、あ、と声を上げた。

「さっき、隣町でしのぶさんと蜜璃さんに会いましたよ」
「え?!本当?二人は?」
「これから仕事に行くと言ってました。それと仕事終わりの………2〜3日後に、おせきはじゃなくて、お土産を持ってお邪魔すると…」

なぜか説明しながら、顔をほんのり赤くして照れた様子を見せた炭治郎君を疑問に思いながらも、久しぶりに二人に会える嬉しさに、気合十分と腕をまくる。

「じゃあ、張り切ってごちそう準備しないとね!」
「俺も手伝います」
「ありがとう。炭治郎君は本当にいい子だねぇ」

ほのぼのした気持ちで伝えると、炭治郎君は少し不服そうに口を尖らせた。

「いい子…って。俺、もう18です」

2〜3年前頃からだろうか。炭治郎君は年を重ねるごとに子供扱いを嫌った。今のように、不服と落ち込んだ感情を合わせた表情で、不満げにもう子供じゃないと主張するのだ。

「ごめん、ごめん」

笑いながら軽く謝ると、炭治郎君はむっと眉を寄せた。

「……分かってない。でも、いいです」
「?」

あれ?いつもならもっと食い下がってくるのに。なんだか帰ってきてからの炭治郎君いつもとどことなく違うような気がする。こう…、気がそぞろ?そわそわ?むずむず?しているような?

むむむ?と首を傾げていると、明るい声に呼ばれた。

「桜おねえちゃん!」

可愛らしく成長した13歳になった花子ちゃんが入口から顔を出していた。

「明後日の実灰に持ってく花だけど…あ、お兄ちゃんお帰りなさい!」
「ただいま、花子」

駆け寄ってきた花子ちゃんの頭を、男性の手になった炭治郎君が優しく撫でる。

花子ちゃんは、今、私と二人で、実灰さんに借りた小さな建物でお花屋さんを営んでいた。数年前から固定客も覚えきれない程に増え、売り上げも安定してきたので、歩き売りより、どこかにお店を構えた方が効率がいいし、都合も良かったので、お金持ちの実灰さんにお願いをして場所をお借りしたのだ。花子ちゃんは元気で明るい看板娘でお店を盛り上げてくれるし、誰に似たのか、とてもいい商売、をしてくれるので私もすごく助かっている。

「実灰さんにあげるのは、奥の花束になってるやつだよ。結婚祝いだからね、豪華にしてみた」
「あれか!籠に纏めとくね」
「ありがとう花子ちゃん」
「お姉ちゃんも作った洋服と巾着出来たから籠に入れといたって」
「もうできたの?さすが仕事が早いね。禰豆子ちゃんは」

禰豆子ちゃんは裁縫の技術を生かして、同じ建物の中で手作りの巾着や洋服を共に売っている。禰豆子ちゃんの腕前を認めて沢山のお客さんが来てくれるし、毎日忙しいと言いながらも楽しそうに笑う姿に、幸せを実感する。

「そういえば、禰豆子はどこにいったんだ?」
「ついさっき出かけたぜ。あの木の下まで」

15歳になった竹雄くんが部屋に入ってきた。炭治郎君そっくりに成長した竹雄くんに、ただいまと返しながら確認をする。

「木?あの目印の木の事?なんで?」

竈門家まであと10分程の距離にある、大きく曲がりくねった木。なぜこの時間になって?

「染め物屋のソメばあちゃんとこの、兄ちゃんと同い年の孫いるだろう?そいつに呼び出されたんだよ。話があるって」
「え!それ告白だよ絶対!!わざわざこんな山奥にまで来て、話す理由なんて一つしかないに決まってるじゃない!」

禰豆子ちゃんは16歳になって、ますます癸枝さん似の美少女に成長した。だからか同世代の子には毎日のよう告白される日々。まぁいまだにOKしたことはないけど。

「禰豆子が告白!?」

炭治郎君が大げさに反応する。家族びいきの強い炭治郎君は、禰豆子ちゃんが誰かに誘われたり、告白されたりする度に毎回この反応。そろそろ慣れようか?

「もし、禰豆子ちゃんや皆にお相手が出来たら、私達でしっかりみっちりと面接しなきゃね」

皆の事だから素敵な人を紹介してくれるのだろうけど、親心というか…なんというか。やっぱり変な虫がつかないか心配なのだ。

「はい」

炭治郎君は一大事というように長男としての責任感から重く強く頷いた。ちなみにこのやり取りも何十回目…。そろそろ慣r…。


「それにしても、禰豆子ちゃんももう結婚できる年齢か〜」

出会った頃は11歳の女の子だったのに。時の流れは速いものである。

「私ももう(大正時代での)いい結婚適齢期だしな……結婚か…」

途中までは未来に帰るから結婚なんて考えたこと無かったけど、もうこのまま大正時代で一生を終えそうなので、誰かと結婚して家庭を気付く事も視野に入れ始めていたりする。

「実灰さんも今度結婚するし、北路さんのお孫さんも再来年には結婚するって言ってったし……。私も結婚しようかな」

とは言っても、いまだに誰にも好意を寄せてもらったことはないけどね。心の中でひっそりと涙を流して、ふと前を見ると、炭治郎君が正座をして、下げた顔を耳まで真っ赤に染め、身体を震わせていた。

「え、炭治郎君…?どうしたの?」

そんなに、禰豆子ちゃんがお嫁に行く想像したのが嫌だったの?と、問えば炭治郎君は頭を激しく左右に振った。

花子ちゃんと竹雄君は炭治郎君の脇腹をツンツンつつきながら、「今がチャンス」だの、「このビックウェーブに乗れ」だの何かを耳打ちした直後、いきなり顔を上げ、真っ赤な顔のまま叫ぶ。

「桜さん!!!」

あまりの大声に、耳がキーンとなり、一瞬意識が飛びかける。

「明日!!あの場所まで!!きてくれますか!!」

声、でかすぎ…!!

「話があります!!!」
「わ、わかったから、お願い…ぼりゅーむを下げて」
「話があるので、明日あの場所まで来てくれますか?」

今度は声小さすぎだよ…!

「いいけど……話なら今ここでよくない?」
「いえ、あの場所でないとダメなんです」

顔を赤いままに、意地でもあの場所がいいと訴え続ける炭治郎君。

「いいから、行ってあげなよ〜桜おねえちゃん」

にやにやする花子ちゃんを見て、ハッと気づく。
そうだ明日は私の誕生日だ、と。だから、炭治郎君はもしかしたら特別にプレゼントをくれようしているのかもしれないと察した。これは、気付かないふりをしていた方が良さそうだと思い、にやけそうな感情を隠しながら、綺麗に笑う。

「わかった。明日、一緒にあの場所に行こう」

炭治郎君は、赤い顔のまま満面の笑みを浮かべ「頑張ります!!」と声を張り上げた。





未来に帰れなくても落ち込んだりしないのは、竈門家の皆と一緒に過ごせて、毎日が平和で騒がしくて楽しいから。皆は私が寂しがる暇を与えてくれないのだ。その証拠にこの5年ずっと幸せしか感じていない。


これからも毎日竈門家の皆と笑い合う幸せな日々が訪れるのだろう。





エンディング3:ここは、満開の花畑

解説↓

※炭治郎は、連載にたまに出てきた竈門家の秘密のあの場所(景色のいい、たまにピクニックにいった場所)に行って、告白&プロポーズしようとしています。いきなりプロポーズするのは、炭治郎だからです。←?。
しのぶさんと蜜璃ちゃんは、成功すると信じてプロポーズ後にお赤飯もってお邪魔するつもりです。夢主がこの5年誰にも告白されていないのは、炭治郎以外の竈門家があの手この手を尽くしたから。炭治郎も無意識に悪意なく、たまに意図的に敵を葬り去ってきました。付き合ってもないのに、夢主と炭治郎が夫婦みたいな会話をしているのは、わざとです。
5年の月日の意味は、夢主がトリップした時の年齢17歳を超えて、あの時の貴方より大人になりました。っていう炭治郎からのメッセージであり、77話から5年ずっと何事もなく幸せに過ごしていますよ、これからも何事もなく幸せで平和な人生を送れるよって意味。だから、タイトルが、《ここは》、満開の花畑。ご都合系?のハピエンでした。


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