私は、日本唯一の歴史博物館に居たはずが、いつの間にか彼岸花だけの空間に立っていた。
元々知的探求心の強い私は、驚きや恐怖よりも、この摩訶不思議を解明したいという好奇心が勝っていた。
そして無数の彼岸花の中から、一つの黄色の彼岸花を目に写した瞬間、過去へと遡っていた。
それが、初めの世界、江戸後期の時代だった。
この江戸には、鬼が存在した。
鬼は江戸を中心に活動している事が分かったので、千葉の嵯峨山に居を構え医者として数十年の時を過ごした。
そしてある日突然、またもや、彼岸花の空間に辿り着いた。
今度は青い彼岸花を摘んだ瞬間、また過去へと遡っていた。
そこは、平安時代だった。
平安時代には、鬼は存在しなかった。
私は武蔵国に居を構え、医者として過ごした。
この頃から黄色の彼岸花は私に、様々な事を教えてくれた。
あの空間に咲く彼岸花の特性、色ごとの意味、彼岸花に選ばれる条件など。
私はその知識を、この本に記そうと思う。
-1:とある善良な医者が書き残した手記
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