翌日、三郎さんの家を日の出と共に出発した私と炭治郎が見た光景は、地獄よりも酷く悲惨な光景だった。
家の戸の前で血だらけで倒れる禰豆子ちゃんと、六太くん。
家の中は赤黒く染まっており、血だらけで横たわる葵枝さん、竹雄君、花子ちゃん、茂くんの瞳から光は消え去っていた。
嘘だと夢だと思いたくても、五感で感じる全ての情報が、夢にも嘘にもさせてくれない。震える手足で泣き叫んでも、現状は何も変わらなかった。目の前が真っ暗になって呼吸がままらなくなった時に、炭治郎君が、禰豆子ちゃんだけ微かに息をしているのに気が付いた。けどそれも今にも消えてしまいそうな程か細いもの。
急げば間に合うかもしれない。禰豆子ちゃんだけでも助かるかもしれない。微かな希望に縋り付くように、炭治郎君に禰豆子ちゃんを背負ってもらい、医者の嵯峨山さんの所に急いで向かってもらった。足の遅い私が一緒では、間に合わなくなってしまうかもしれないから。
私も雪道に出来た炭治郎君の足跡を必死に追いかけて走っていると、すぐ横が崖のとある場所で足跡が消えていた。最後の一歩と思われる左の足跡は、崩れるように斜めに大きな跡を残しており、崖から滑り落ちたのを物語っているようだった。いや、ようなではなく、実際に滑り落ちたのだろう。崖下を覗き込めば、人が落下したような跡。
まさか、炭治郎君、ここから…落ち、た…の…?
身体中の血が一瞬で凍りつくのを感じた。
声にならない泣き声を上げながら、縺れる足を必死に動かし回り道を探して崖下に行くと、地面に倒れる炭治郎君と禰豆子ちゃん、そしてそれを少し離れた場所から見る、私と同年代くらいの男性がいた。
その男性は冨岡義勇と言って、言葉少ないながらも、今の炭治郎君や禰豆子ちゃんの事を教えてくれた。
竈門家の皆を殺したのは鬼。禰豆子ちゃんは鬼にされた。鬼は理性を失い他の人間を襲う。自分は鬼を斬る鬼狩りである。鬼になった禰豆子ちゃんを斬ろうとしたけれど、禰豆子ちゃんは炭治郎君を襲うどころか逆に守る動作をしたこと、炭治郎君の必ず人間に戻すという誓いに思うところがあり、刀を鞘におさめた。そう静かに淡々と語った。
その直後に目覚めた炭治郎君と私に、狭霧山に住む
鱗滝左近次を訪ねろと話した後、すべき事は終わったとばかりに、冨岡義勇さんは消えるように去っていった。
雪積もる12月。私と炭治郎くんは、禰豆子ちゃんを人間に戻すこと、殺された皆の仇を取ること、この2つの覚悟を決め、雲取山を後にした。
-2:はじまりの物語