青春の1ページ





生徒たちが下校したあとの静かな教室。

オレンジ色の夕日が窓から差し込んでいて、教室の窓側の座席に一人座っている男子生徒に話し掛ける。





「いーざやーくーん」



少し声を低くしてそう呼ぶとその男性は怪訝な顔をしながら振り向く。



「ねぇ、シズちゃんみたいに呼ぶのはやめてよ」

「え、バレた?」


「……死にたいの?」

「ごめんなさい」




私は教室に入り、臨也の前の席の机を後ろにある臨也の机につけて座る。




「はい、どこがわかんないの?」



数学の教科書を開くと臨也がそう尋ねる。

そう、私はこうして週に1、2回臨也が暇な時には勉強を教えてもらっている。


中学校からの同級生の臨也。

ちょっとどころか、かなりの曲者だがなぜだか仲良くやっている。



…こんな曲者を好きだなんて口が裂けても言えない。





「ねぇ、聞いてんの?」


「え、あぁ!聞いてる」

「………………」

「ごめんなさい」




小さい溜め息を吐きながらもまた同じところを説明してくれる臨也。

ぶっちゃけ変人だけど優しいところもある。


黙っていれば爽やかなんだけどな、なんてね。





二時間ほど勉強をすると彼は両手を上に伸ばし深い呼吸を一つする。



「はい、質問は?」

「ありません!完璧です」


「じゃぁ、次のテストでは90点とりなね」

「げっ」



大丈夫、俺が教えたんだからとれるに決ってるよ、だなんてどんな自信だ。





「じゃぁ、毎回恒例のジャンケンといきますか?」


臨也が言い出した毎回恒例のジャンケンとは勉強をしたあとにジャンケンで負けた方が二人分のジュースを買ってくるということだ。




「よし、きた!臨也になんか負けないもんね」


「はいはい。じゃぁ、いくよ?最初はグー、ジャンケン……ポン」






「いぇーい!臨也の負けだもんねー」

「はいはい、何が良いの?」


「うんとねー、ミルクティー」

「りょーかい。って俺、勉強教えてジュース買うって可哀相すぎない?」


「ジャンケンの世界は厳しいのですよ、折原さん」

「………誰だよ」



ブツブツ文句を言いながらもジュースを買いに行く臨也。

ちょっと可哀相だから帰ってきたら私が朝に買ってきていたポッキーを一緒に食べようか。






















「はい、ミルクティー」

「ん、ありがとう」



わざわざ缶を開けてから私に手渡す臨也。

このイケメンはいちいちやることまでイケメンなんだから。





「ねぇ、臨也」

「なに」


「ポッキー食べない?」

「食べる」




夕日も落ちた静かな教室。

ポッキーを食べながらジュースを飲む二人。




「ねぇ、名前」


「なに?どうせろくなこと言わないんでしょ」

「………………」

「………で、なに」


「ただ食べてるだけじゃつまらないからポッキーゲームでもしようよ」




「は?」




私が理解に苦しんでいるうちに、口にポッキーを咥えながら早く早く!と言う臨也。


無視していたらだんだん笑顔が消えてきたので、覚悟を決めて臨也の咥えているポッキーに近付く。



予想以上に近い顔。





「いっせーのーでで始めるよ、名前」



楽しそうでむかつく。

人がどんな気持ちでいると思っているんだ。




「いっせーのーで」




パクパクっと食べ始める臨也。

どんどん顔が近付く。
私は慌ててポッキーから口を離す。

ポッキーなんかほとんど食べれていない。




「じゃぁ、もう一回」


「え、まだやるの?」

「こんなにまだポッキーがあるでしょ」





それから何回もポッキーゲームを繰り返すが、私はほとんどポッキーを食べていない。




「もう、ちょっと臨也!」

「なーに?」


「私、ポッキー全然食べれてないじゃん!」

「えー?」




なんて楽しそうな笑顔で笑っている臨也。


すると教室に部活が終わったのだろう、他の男子生徒が入ってくる。




「あれ?名字?」



突然名字を呼ばれ、その生徒の方を振り向くと去年同じクラスで仲良かった男子だった。


私はその男子に近寄り、最近について盛り上がった。




「じゃぁ、俺は帰るな」

「あ、うん!」


「名字も気をつけてな」




手を振り別れて、臨也の方に戻るとしかめっ面の彼。




「どうしたのよ」

「………別に」


「ポッキーゲーム、まだするんでしょ?」




私のその言葉になにか思いついたのか、こう提案してきた。


「じゃぁ、三秒待っててあげるから名前はポッキー食べ始めなよ」



若干機嫌が悪そうにしていた臨也のいうことは聞いておいたほうが良い。




「わかった」

「じゃぁ、いっせーのーで」



今度は本当に止まって待っている臨也。

パクパクと私はポッキーを食べ進める。


臨也の顔が近過ぎて緊張した私はポッキーを離そうとする。




そうすると、後頭部を臨也に抑えられそのまま視界に臨也の顔が広がる。

そして唇には柔らかい感触。


いつの間にか舌も入ってきて、口内にはポッキーの甘い味が広がる。





「んっ、臨也…っ」




やっと解放され、彼の顔を見るとニヤリ顔。




「なんて声出してんのさ」


「だって、臨也が…!」

「なに?」



「馬鹿臨也!私の気持ちなんて知らないで、もう知らない!」




臨也のことが好きだから。

だからこそ、私のことをなんとも想ってはいないくせにこういう行為をして欲しくはなかった。




急いで荷物を持ち教室を出ようとすると、腕を掴まれる。



「待ちなよ」


「いやっ、放してよ」




その瞬間、腕を強く引かれ臨也の腕の中に包まれた。





「誰が好きでもない奴に毎回勉強教えるかっつーの」




「………え?」


「名前のことが好きだって言ってるんだよ」




止めどなく溢れてくる涙を手で優しく拭ってくれる臨也。

その手は本当に優しかった。




「私も、臨也が好き」


「うん、あたり前」

「………ばか」








それから臨也と手を繋いで家まで帰った。



あんなことやこんなことを話しながら、ね。
















―――青春の1ページ



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10000hit記念リク夢です!
秋空さん、ありがとうございます!

リク内容は学生時代でポッキーゲームとか若気の至り的なもので、ということだったんですけど…。

若気の至り的な部分は全く出せませんでした←
ごめんなさいぃぃぃぃぃ

秋空さんには一万打記念としてうちのスパイ連載の夢主ちゃんを描いて頂きました!
本当に感謝です…!


それではこちらの作品のお持ち帰りは秋空さんだけでお願い致します。



2011/12/26



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