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君は空っぽの僕の唯一の光なんだ。



被験者イオンが死に瀕しているということから産まれた僕。

失敗作だった僕。


成功作の七番目が産まれた瞬間、失敗作だった僕は火山に投げ込まれ死ぬはずだった。

けれど運が悪いのか良いのか、僕は火傷をしながらも辛うじて息をしていた。


意識が朦朧としていた中で聞こえたのは、凛とした綺麗な声だった。






「この子は私が責任を持って面倒を見ます。ですから、ヴァン謡将は手をお引きになってください」

「何をおっしゃいますか…っ」





ヴァン謡将と呼ばれた人物を見てみれば、それは僕を火山に落とした中の一人で、身体が強ばったのがわかった。

それに気が付いた凛とした綺麗な声の女は僕に近付き、何か呪文を唱えたため重い身体を動かしながら拒否をした。




「大丈夫よ、貴方の怪我を治すだけ。だから心配しないで…。私は貴方の味方よ」


「……っ、みかた?」

「そう、私は貴方に絶対に痛いことはしない。その痛みを無くしてあげるわ」




優しい笑みを浮かべながら、淡い光に包まれた彼女を見て天使かと思った。




「ほら、怪我は治ったわ。何処かまだ痛いところはある?」


「……な、い」

「なら良かった」




彼女はニコリと微笑むと僕の頭を優しく撫でた。

そんな様子を見ていた髭の男が彼女と僕にゆっくりと近づいてきた。




「……名前様、正気ですか?」


「そのお言葉、ヴァン謡将にそのままお返し致します。貴方は、何をしたと思っているんですか?この子たちを…っ!」



僕の手を握る手が微かに震えており、下唇を強く噛み締めている彼女を見て怒っていることがわかった。

その時の僕は彼女が何故怒っているかなんてわからなかった。





「貴方はこの子の命を一度捨てたのでしょう。ならば今救ったこの子の命は私が預かります」


「…導師にはなんて説明を?」

「イオンには私から話します。ですから、貴方はもう下がりなさい」

「はっ」




"名前様"と呼ばれていた彼女に頭を下げ消えて行く髭の男。

確かあの髭の男は偉そうにしていたはずなのに、その男が頭を下げる程の彼女はなんなんだと疑問が浮かんだが、これからのことを考えるとすぐにそんな疑問は頭から消えた。






「……君、」


「…あんたも僕をりよう、するの?」

「!」




出てきた言葉は感謝の言葉ではなく、人を信用出来なくなってしまった僕の牽制の言葉。

そんな言葉を吐いた僕を怒るのかと思ったが、彼女は怒るどころか僕を優しく抱き締めた。






「…っ、ごめんね。辛い思いをいっぱいさせてごめんね。痛い思いもいっぱいさせてごめんね。もう絶対にそんな思いさせないから、だから、…だからもう肩の力を抜いても良いんだよ?」




僕の目をじーっと見つめる彼女の瞳からは綺麗な涙が流れていた。




「……なんで、」




なんで泣いてるの?、という言葉は続かなかった。





「私の名前は名前って言うの。名前って呼んでね?」


「…うん」

「あ、君の名前も考えなきゃね!………うーん、シンクなんてどうかな?」

「…うん」



「よろしくね、シンク。そしていらっしゃい、シンク」



















―――――――――――――――









「………ク、シンク?」


「…なに?」

「珍しくシンクがボーッとしてるな、と思って。何を考えてたの?」




第五師団の執務室の窓から外を眺めている内に懐かしいことを思い出していた。

それはきっと、あの彼女と出会った日に近づいてきているから。






「別に、何も考えてないよ」




あの出会った日のことを思い出していた、だなんて言ったら彼女は喜ぶから言ってやらないんだ。




「へー、つまんないなぁ。あ、そういえば!」


「…何」

「もうすぐシンクと出会った日だね」

「………………」


「シンクってば忘れてたでしょ?」




いつの間にか僕の近くに来ていた名前に顔を覗かれ、目を逸らす。

今ちょうどその日のことを思い出していただなんて言えやしない。




「今年は何をしよっか?ケーキでも作ろっか!何が良い?」


「…何でも良いよ」

「何でもじゃ良くないの!私はシンクの食べたい物を食べさせてあげたいの」




頬を膨らませ怒る姿がとても年上には見えないし、教団内で導師と同等の権力を持つような人物には見えない。




「………ショートケーキ」


「ん?」

「ショートケーキが良いって言ってるの。二回も言わせないでよね」




なんだか恥ずかしくて顔を逸らした。
なんでこんな時に限って仮面を外していたんだろうと後悔をする。




「うん、ショートケーキね!苺、たーくさん乗せるからね!楽しみにしててねっ」




そうと決まれば買い出しか、とか言いながら執務室を出ていこうとする名前。

楽しみにしててね、なんて言いながら楽しんで居るのは間違いないなく名前自身で、でもそんな姿を見ていたらたまには素直になってあげるのも良いかな、なんて思う。





「ねぇ、名前」


「ん?なに、シンク?」




「………ありがとう」




窓の外を見ながら言ったため、彼女がどんな表情をしているのかわからない。

何も言葉が返ってこないため、なんだか怖くなって彼女の顔を見ることは出来なかった。


恐る恐る彼女の方に振り返ろうとすれば、背中に温かい感触が降ってきた。
彼女に抱き締められていると気がつくのに時間はかからなかった。






「私の方こそ私を信じてくれて、この世に産まれてきてくれてありがとう、シンク」



「……うん」









彼女の温かい腕の中で、僕はなんとも言えない気持ちに包まれた。

胸の辺りがが熱くて、苦しかった。





僕はこの胸の高鳴りがなんなのか、まだ知らない。























光の君と影の僕