キミじゃなきゃ駄目だった




寝付けずに目を擦りながら執務室に行けば、席に着く前に書類を軍令部に届けろと頼まれ寝不足で気怠い身体を軍令部のもとへ進める。




「グランです、書類を持って参りました」



そう言いながら軍令部に足を進めれば返ってきた声は忘れもしない声だった。



「グランか、今は私しか居ないのだ。だから私が預かろう」


「…クラサメ、くん」



書類を彼に渡して、用件は終わったので足早に執務室に戻ろうとすれば呼び止められる。



「カヅサと付き合っているんだな」



そう続けられた言葉に私はなにも言うことが出来なかった。



「…良かったと思っている。カヅサならグランを大切にするだろうからな」

「………………」


「友人として、グランの幸せを願っている」




なにも言わずに、軍令部を飛び出した。


久しぶりに走った。

しかし左足が上手く動かず、バランスを崩すと誰かにぶつかった。





「ユリア?」


優しい声色に顔を上げるとそこにはカヅサが居た。



「ごめん…ねっ」


とりあえず廊下では人目につきすぎるので、ちょうど近くにあったカヅサの研究室の中に入る。


温かいコーヒーを差し出しながらカヅサは隣りに腰をかける。



「ユリアは泣き虫だなぁ」


「うるさい、バカヅサ」

「ふ、変わってないな」



そうだった。
いつもカヅサと一緒に居た。

近所の子に苛められて泣いてた時も、訓練生になってからも、候補生になってからも。

いつも私の側に居てくれていたカヅサ。


でもどうして好きになったのはカヅサじゃなくてクラサメだったんだろう。





「ねぇ、ユリア」


「なに?」



カヅサは左手で眼鏡をクイっと押し上げる。




「もうやめにしよう」


「なに、を…?」

「無理するの、だよ」

「無理なんかしてないっ」



「じゃぁ、それ。どうして外せないの?」




カヅサが指をさす先は私の首元で、そこにはクラサメから貰ったネックレスがあった。



「これは……っ」


「素直になりなよ」

「素直、って」


「クラサメくんにユリアの素直な気持ち伝えなよ。素直にならないとクラサメくん、エミナくんに取られちゃうよ」


「カヅサ、私は…!」

「いい加減にしなよ!」



滅多に怒鳴らないカヅサが大きな声をあげたことに驚いた。

なにも言えずにいると、突然研究室の椅子に組み敷かれていたのだった。




「カヅサ…?」


「僕たち恋人なんだから良いだろう」



突然のことで頭が真っ白になっていれば、首筋にカヅサが顔を埋めた。

そして舌を這わせられるとチクリと首筋に痛みがさす。


そこには赤い所有印が残されていた。


そのままカヅサはユリアの大きな二つの丘に手を這わせ、少し乱暴に揉みあげた。




「カヅサ…っ、ん、ちょっと…」



瞳からはポロポロと涙がこぼれ落ちた。

カヅサの身体を押しても意味がなく、むしろ抵抗していた両手を掴まれ頭の上で抑えられる。


乱した上着から覗くユリアの白い肌に遠慮なく舌を這わせるカヅサ。



「いや…、あっ…ん」



カヅサがカヅサじゃないみたいで怖かった。

こんな時に思い浮かんだのはクラサメで、自傷気味に笑いが出た。







「…カヅサ…んっ、ごめん…ね…っ」



ピタリと動きが止まると、両手を抑えていた手の力が緩くなった。




「ユリアは僕に謝ってばかりだなぁ」

「だって…」


「この状況で謝るかな、普通」

「ごめん…ね」

「怒って良いところだよ、ユリア。ほら、早く行くべき場所に、行った行った」




私の身体を起こし、乱れた上着を直すカヅサ。
そしてシッシッと早く出て行けと言うように手を払うように振った。




「…カヅサ、ありがとう」


彼の大きな背中にそう呟いて、研究室を出た。




再び軍令部に向かえばそこにはすでにクラサメの姿はなく、執務室に戻ったと聞いて執務室に向かう。


クラサメの執務室の前に立てば、中から微かにエミナの声がした。



「……の……と、好き……」


全身の血が一気にひいていったのがわかった。

執務室に入るに入れなくて立ち尽くしていれば、ふいに執務室の扉が中から開く。




「え、ユリア?」


「…エミナ」

「ふふ、クラサメくーん、噂をしてればお待ち兼ねのお客さまヨ」

「?」


「良いからお前は早く自分の執務室に戻れ」

「わかってるわヨ〜!じゃぁね、クラサメくん。ちゃんと返事聞かせてネ」



左肩にエミナが優しく触れて去っていった。





「中に、入ったらどうだ」


「……良いの?」

「あぁ」



別れてから久しぶりにこうして二人っきりで顔を合わせた。

久しぶりなのに彼の纏う空気は変わらず、私たちの間にあった時間の壁が感じなかった。




「……クラサメ」




もう迷わない。

ちゃんと彼に私の気持ちをぶつけるんだ。


そしてどんな結果が待ち受けていようとも、その結果を受け止めて前へ進むんだ。




「私、クラサメとは友達に戻れないよ」


「………………」

「私はクラサメのことがずっと好きだった。クラサメ以外は無理なんだよ…っ」

「………………」


「クラサメの側に居させてよ」



泣いちゃ駄目。

涙を堪えて彼の瞳を覗けば、そこには切ない色をしている彼の瞳があった。




「私のせいで、キミは死にかけたんだぞ。それに後遺症だって残ってしまった」


「それはクラサメのせいなんかじゃないよ」


「いや、私の責任だ。私の側に居ればまたキミを危ない目に遭わせてしまうかもしれない。…次は、死ぬかもしれない」




もしかして、クラサメは自分の側に居れば再び私が命の危険に晒されるかもしれないということを心配して…?


だから遠ざけたの?




「私は死なないよ」

「………………」


「クラサメが守ってくれれば私は死なない。そして私もクラサメを守るから」



「………ユリア…」




久しぶりに呼ばれた名前。

それだけで私の心臓は破裂しそうなぐらいに高鳴って、クラサメのことで頭がいっぱいになった。



腕を引かれ、彼の腕の中に閉じ込められれば懐かしい彼の香りに鼻の奥がツンとする。

彼の首元に顔を埋めると頬に鉄の冷たい感触があり、少し彼から離れ何かと見れば、そこにはお揃いのネックレスがつけてあった。




「クラサメ…、これ」


「あぁ、すまない。これだけは外すことが出来なかった」

「…私もだよ」




そう言って首元のネックレスを彼に見せれば、眉間に皺が寄る。
そこにはカヅサにつけられたばかりの赤い所有印があったのだった。




「クラサメ…?」


「カヅサの仕業か」



そう不機嫌に呟かれ、ハッとすれば首元にクラサメが顔を埋め、カヅサにされた場所と同じ場所にチクリと痛みがさした。




「これでまた私のものだな」

「……クラサメのばか」




「あぁ、私は馬鹿だ。一番大切な者を手放した大馬鹿者だ。だが、こんな馬鹿な私だがもう一度側に居てくれるか…?」



「………はいっ」




再び私たちは優しいキスをした。
それはもう二度と離れることがないように、と誓いのキスを。














―――キミじゃなきゃ駄目だった

(自分の想いは誤魔化せない)
(やっと素直になれた)


((キミじゃなきゃ駄目))



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終わったー!
もはや最後まで誰夢かわからないものを作ってしまった。

なにこのカヅサ涙目w

素直になれない二人に同期組が一肌脱いだお話。
でもカヅサは幼馴染みの夢主ちゃんが本当に好きだったら良い。
エミナさんは夢主ちゃんとクラサメさんにカマかけてたらいいな。

需要があったらカヅサの夢主ちゃんへの片思い話を書きたいな…。


ちなみにこの夢の案を思い浮かんだ時に、私の頭の中に流れてきた曲は奥華子さんの『最後の恋』という曲です。

なのでこの曲をテーマにして書いてみましたので、ちょいちょい曲に合わせた内容となっております。

良かったら良い曲なのでこの曲を聴きながら、ゆらのへっぽこ夢を読んでいただけたらへっぽこからマシになるかも…!


携帯で小説うったら親指がもげそうなぐらい痛くなるんですよ。

なにか良い方法ないかな。



2012/2/23



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