優しい音がした
一睡も出来なかった。
クラサメ隊長とどう顔を合わせればいいのだろうか。
そればかり考えていた。
しかし無情にもクラサメ隊長の授業の時間があるわけで、あれ以来初めて授業をサボった。
クラサメ隊長と初めて出会った場所。
こんな切ない想いをかかえてこの場所に来ることになるなんて考えもしなかった。
私の心は土砂降りでも空は晴天。
芝生に横になると考え疲れた私はいつの間にか眠っていた。
「……風邪をひくぞ」
そんな今一番聞きたくなかった声で目を覚ますと、授業は終わっていたようで、目の前に立つのは少し厳しい顔をしたクラサメ隊長。
「こんな所でサボってなにをしている」
「……ごめんなさい」
大きな溜め息を吐くクラサメ隊長。
なんだか怖くて顔を見ることが出来なかった。
「私の顔を見たくないとしても授業はちゃんと出ろ」
少し冷たい声を出す彼。
私はひたすら下を向いて涙を堪えていた。
「それと…、補習にはもう来なくていい」
その言葉にハッとして慌てて上を向いた時には、クラサメ隊長の背中が遠くなっていくところだった。
呼び止めることも出来なくて、ただただ溢れる涙を流すことしか出来なかった。
放課後、泣き腫らした目を冷ますかのようにテラスで冷たい風を浴びていた。
「ユリア」
冷たい風の中に優しい声色が溶け込む。
「エース、私、完全に距離置かれちゃった」
誰に?そんなことは聞いてはこなかった。
「ねぇ、ユリア」
「ん?」
「そんなに隊長が好きなのか?」
「………うん」
そうか、わかった。そう静かにエースは言うと、少しの間ここで待っていてくれと言ってその場をあとにした。
肌寒いテラスで一人、エースを待っていた。
エースは歩いていた。
そう士官の執務室がある廊下を黙々と歩いていた。
クラサメと扉の横に書いてある執務室の扉をノックすると、中から主の声がする。
「なんだ」
「ユリアについてだ」
「話すことはない」
そう冷たく言い放つクラサメに苛立ったエースはクラサメの胸倉を掴んだ。
「ユリアはな、真剣にアンタのことが好きなんだ。隊長としてじゃなくて、男として…」
反論もせず、掴んでいる胸倉も離させようともしない彼に疑問を抱きながらもエースは言葉を続ける。
「アンタがユリアと向き合わないのなら、僕がユリアをもらう」
そう言い放つとエースは執務室を出ようと扉に手をかける。
すると、クラサメはエースの腕を強く掴んだ。
「待て、」
風の冷たいテラスでエースを待っていたユリアは肌寒くなり、自分の腕を自分で擦って寒さを忍んでいた。
すると突然、後ろから肩に毛布をかけられる。
「遅かったね、エース」
そう言いながら振り向くと、そこに居たのはエースではなくクラサメ隊長だった。
「エースではなくて、すまないな」
「…え、いえ」
無言が続く。
昨日の今日で私はとても気まずくて、なんだかまた涙が溢れてきた。
「また、泣かせたな」
そう言うとクラサメはユリアの涙をいつの間にか手袋を脱いだ手で優しく拭う。
「どうにも、私は不器用で言葉が足りないようだな」
「……クラサメ、隊長?」
「それに私もまだまだ子供のようだ」
「え、」
「自分の組の生徒に嫉妬していたみたいだ」
それってどういうこと?そう聞きたかったが、心臓がどくどく五月蠅くて声にはならなかった。
「候補生であるユリアのことを気になっていたのは私の方が先なのかもしれない」
「それって……」
「いつもサボっていたキミをずっと知っていた。キミのことを気にかけていた」
クラサメ隊長は一息吐くと小さな声で、それでもはっきりと言った。
「ユリアをただの候補生としては見られない」
次々に溢れる涙。
それって、その意味って…
「そんなこと言われたら、期待、しちゃいます…」
「期待か、むしろ自覚をして欲しいな」
「え…?」
「私もユリアのことを一人の女性として好きなんだということをな」
クラサメ隊長はそっと私を抱き締めた。
エースとは違う優しさで、本当に壊れ物の硝子を扱うかのように優しく抱き締めてくれた。
「本当は、」
「…なんですか?」
「本当はこんな私ではなく、エースと上手くいくのならそれでいいと思いもしたんだがな…無理だったみたいだ」
「私はクラサメ隊長じゃなきゃ、嫌です」
満天の星空の下、
今は候補生と隊長の壁を打ち消してくれる。
恋に落ちる音がして、
今は彼の鼓動の音が聞こえる。
―――優しい音がした------------------------
恋に落ちる音から優しい音に代わりました!
え、無計画から始まったからなんかおかしいって?
ごめんなさいぃぃぃぃ
一応これでこのシリーズは完結いたしました!
でも需要が多ければ番外編を書くかもしれません。
皆さまのご感想次第です!
ってうちのサイトは感想を強要致しておりませんので、あくまでご自由に…!
まったり更新でしたが、最後までこの作品を楽しみに待っていてくださった方、楽しいとおしゃってくださった方に心より感謝致します。
皆さんの優しいお声のおかげでこのシリーズが生まれ、こうして最終話を書けました。
我がサイトでは連載もやっております。
よろしければ次はそちらの方の応援もよろしくお願い致します。
皆さんのお声に寄って変わることもあります…!
皆さまあってのサイトです。皆さまでこのサイトを盛り上げてください。
ありがとうございました。
管理人*Yura
2012/1/1
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[mokuji]
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