ユグノアのとある一室で彼らは額を突き合わせてずっと話し込んでいた。イレブンは仰々しい椅子に腰かけ、それをどこか他人事の様に聞きながら真新しい深紅の上着の裾を弄っていた。祖父が記憶していたユグノア王が代々まとってきたそれに忠実に作り直されたそれを見た時は、一度だけ過去に飛んだ時に見た父を思い出して思わず泣きそうになったものだ。ここまでの道のりは、長かった。
 ずっと魔王の後手に回っていた世界をやり直すべく過去へ飛び、諸悪の根源ニズゼルファを打ち倒してから数年。着実に復興してきたユグノアはあの凄惨なる一夜の傷をまだ残しつつも諸国の手を借りて確実にもとに戻りつつあった。城ができ、街ができ、人々が戻ってきたユグノアは一度だけ世界樹に見せてもらったあの光景に近付きつつある。イレブンはふと窓の外へ目をやる。今夜はこの季節に珍しい大雨であった。

 「・・で、だ。方法はいいとして問題は期間はどうする?っつーかバレないか?」
 「そうねぇ・・イレブンちゃんの人生を左右することだもの、じっくり選びたいけれどあんまり長くすると今度はボロがでるわ」
 「ぱっぱっと、それはイレブンに・・」
 「イレブンちゃん、これでどうかしらん?」

 唐突に名前を呼ばれたイレブンははっと我に返ると、かつての旅の仲間たちを見た。

 「あ、あぁ、うん。いいと思う・・でも、やっぱりこれは今からしなければならないことかい?」
 「・・イレブンや、もうユグノアは一つの国として形を取り戻したのじゃよ。そしてこれは、国のため王がなさねばならない最後の大仕事じゃ」

 そこまで言ったロウは眉根を寄せる最愛の孫を見、少し思いとどまった。この子には今までいろいろなものを背負わせてきた。そして、これから国のためという代名詞でまた大きなものを背負わせようとしているーーロウのその思惑に気付いてか否か、イレブンは目じりを下げて少し笑うと(その仕草が母親のそのものでロウは少し息を止めた)決意したようにうなずく。

 「・・そうだね、せっかく皆に出してもらった案だ。成功させてみせるよ・・で、そうだな、重要な役目は・・うん、カミュ、君にやってもらおうかな」
 「はあ!?いや、無理無理・・ぜってーバレ・・うぅ・・分かった」
 「うん、ありがとう、相棒」

 イレブンは椅子から立ち上がると仲間を見渡し、笑った。

 「さあ、始めようか」

鏡よ、鏡

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