運命の番には番がいた(平凡オメガ受け)

5:榊原春樹のバックヤード巡り「思っていたのと違っても仕事は仕事」

 一週間後、榊原春樹は二十歳になる。
 
 わざわざ友人が会いたがった理由には駅前のオブジェを見るだけではなく春樹の誕生日の前祝の意味もきっとあった。
 もったいぶったように友人が会った時に、見たら驚くとあおっていた。何かを持ってくるつもりだったのだ。
 
 出会いからしてグッズ交換なので友人は春樹の住所を知っている。
 
 送りつけてこなかったということは郵送できないもの、または見せるだけで贈るつもりがないもの。
 春樹はゲーム関連のレアグッズなんだろうと思っていた。
 羨ましがる自分の顔を見たがっているのか、そう思わせて本当に何かをくれるサプライズがあったのか。真相を確かめることはもうできない。
 
 
「お酒の配合は誕生日来てから覚えてもらう。場所とかメニューは頭に入れて」
 
 
 仕事内容は春樹が想像していた高級クラブとは少し違っていた。
 どうやら「SMクラブ下剋上Ω」に来るお客さんは二種類にわかれるらしい。
 
 見目麗しくサドっ気のあるΩとお話しするだけで満足する層。
 これは軽食とアルコールなどを出す言ってしまうとキャバクラスタイル。
 指一本も接触が禁じられているものの比較的安価なので有名店に入店したという空気を味わいたい初心者用。
 話すだけにしても個室にしたり注文する品物で料金は膨れ上がっていくので従業員(キャスト)のΩが安売りされているわけではない。
 
 もう一つは鞭で叩かれたり、縄で縛られたりというSMクラブとしてすぐにイメージできるもの。
 ただそれだけではない。Sプレイとして店が用意しているプレイ内容はとても細分化されていて春樹はついていけなかった。
 
「目が痛くなった?」
「いえ、あの……赤ちゃんプレイもSMなんですか」
 
 備品置き場の在庫チェックをしながらウララは春樹に説明をしている。
 裏方仕事として春樹も絶対に押さえておかなければならない場所だが、どう見てもおむつが置いてあって頭が真っ白になった。
 Sプレイ一覧の中にオプションなどいろいろあったが、おむつに首をかしげたくなる。
 
「疲れたαってよしよしプレイが好きなんだよ。高齢になってくると特にね」
「よしよし……」
「社会的地位が高いほどマザコン度も高くなるね。教育ママはやっぱいい仕事してんだよ。息子や娘を私物化して支配してるから三十以上になってから呪縛に悩まされて来店してくださるわけだ。……美しいママに甘やかされたいんだって。現実のママは優しくないし、もう皺くちゃだろうしねぇ」
 
 言っていることはビックリするほど赤裸々で残酷なのに「ふふっ」と笑う姿に嫌味がない。
 美しいことの強みがなんであるのか春樹にはやっとわかった。
 自分が口にしたのなら角が立ってもウララならゆるされる。ゆるしてしまえる。
 
 雑誌や宣伝ポスターで見るモデルが格好いい綺麗と思うのはカメラマンが何千枚と撮って決めているので当たり前だ。
 ウララは至近距離で動いていてキラキラと輝く特殊効果の幻覚が見える。
 小顔だとか睫毛が長いとか首が細いなんていうパーツがいちいち繊細に作られているせいじゃない。
 動き方が洗練されている。
 ふとした拍子に距離を詰めて触れてないのにしなだれかかるような体勢で見上げてくる。
 男を手玉に取る方法が身体から滲み出ている。
 こんな風に甘えられたら女の子だってくらっと来るかもしれない。
 
 番がいないΩは発情期(ヒート)中にαを誘惑するフェロモンを出すというが、フェロモンがないのにウララは目を引く。男女どちらなのか見分けがつかないという点を抜いても動きの一つ一つに色気がある。
 
 バーテンダーの制服も似合うが眼鏡をかけて美人秘書も似合いそうだと春樹は思った。
 自分の平凡さがかわいそうだと言われる理由もまた深く理解した。ウララのようなΩと同じ土俵に立てるわけがない。
 
 
 
「発情期(ヒート)で急に休みになる子も出るからスケジュール管理は重要。もちろん、わたしも確認するけど遅刻や無断欠勤に電話で確認とったりは春樹くんに任せるからね」
「はい、わかりました」
 
 バックヤードに貼られた出勤予定表をメモする。
 名前だけではなく顔写真もあって助かる。
 綺麗系からかわいい系まで美人や美形が十人ほど。
 
「お酒や料理が足りなくなったら電話して配達してもらう。すぐお願いしますって言わないと翌日持ってきたりするから注意ね。ここに貼ってある電話番号が酒屋でこっちが果物屋」
 
 一通りの説明は済んだのかウララは「わかんなくなったら、そのつど聞いてね」と微笑む。
 仕事の流れを把握してもその中に自分がいるイメージが春樹にはまだわかない。
 
「春樹くんはラクトがしないような細々とした雑用をお願いする感じだね」
「ラクト……さん?」
「ここの上に住んでるよ。折角だから顔を合わせとこうか」
 
 なぜか嬉しそうにウララは笑って春樹を手招きする。
 小さな子どもが人に宝物を自慢するような仕草だ。
 
「ラクトは楽ばっかしてるから、さっきのおむつプレイで出たゴミとか絶対触らないね。春樹くんが全部捨てることになるんだろうね。プレイルームの掃除なんかも春樹くんの仕事になる」
 
 仕事なので仕方がないにしても、おむつのことはちょっと聞きたくなかった話だ。
 
 
 
2017/08/11
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