メルヘンハッピー群青色(α×Ω/ヤンデレ)
α×Ω:執着ヤンデレ一途で泥沼。



 好きな人に告白をしたら返事は放尿だった。
 おしっこを引っ掛けられて驚くしかない。
 いわゆる、そういった特異な趣味を持っているとアピールしてきたのだとするなら、俺は嫌われたわけじゃない。
 普通なら嫌いな相手に男として弱点になる部分をさらけ出さない。排泄行為はとてもデリケートなことだ。人前で堂々とすることはない。
 
 そういう形で解釈すると愛されて信頼されている気がして、告白の返事として最高だと思える。
 
 俺は彼に毎日、愛を囁くことにした。彼は俺を蹴ったり叩いたりしたが愛情表現だ。傷跡が残ることは一度もなかった。
 年上のαと話していると駆け寄ってきて自分から離れないように俺をきつく叱りつける。あとで人から聞いた話だとα詐欺というものがあるらしい。
 
 自分のことをαだと言ってΩに近づくβ。
 
 現在はΩ用の発情期(ヒート)誘発剤や妊娠促進剤など、ドラッグストアで簡単に買える。第一類医薬品なので、薬剤師がいるお店に限るが、手に入れるのは難しくない。
 
 世間的にβと結婚するΩが増えた。αの出生率が低いせいでβの子を孕むΩが増加傾向にある。
 
 地域別で多い血液型、少ない血液型などがあるので、バース性と言われるαβΩもまた偏りが出るのは仕方がない。ただでさえ、人数としてはβ一強の世界なので、αやΩが生まれるとお祝いになる。
 
 βの場合、Ωとしかαが生まれないというのが最近の研究でわかっている。つまり、βがαの親になろうとするならΩが必要になる。β同士から低確率でΩが生まれてもαは絶対に生まれない。科学的に証明されている。

 これは血液型の問題と同じで親同士の血液型から考えて子供に生まれるはずがない型がある。
 
 αが生まれにくいというのは劣性遺伝で淘汰されているということだ。
 αを産んだりαの子を産めば国から補助金を得られる。そういったαを絶やさないための制度はいくらでもある。社会的地位があり優秀なのでαを保護しているという名目だが、実際は逆だ。優秀で社会的な地位を捕獲したので権力をふるったαは自分たちに都合のいい法案を通した。
 
 αの数が多い国が経済的に豊かだという信憑性は定かではない統計を大多数の国民が信じている国なので、α上位な社会基盤は崩れない。
 
 俺はΩなのでβからすると金の卵を産む可能性がある人間だ。
 αを産むかもしれないという理由だけでΩを欲しがるβはいる。
 そして、そんなβの中には自分をαだと詐称してΩに近づく。
 
 ドラッグストアで購入した薬品を使ってΩを孕ませたらもう、βの思い通りになるしかない。
 プライドが高く相手の処女性に敏感なαは堕胎したΩやβの子を産んだΩに対して強い忌避感を持つ。
 もちろん、個人差がある。
 とはいっても、αは誰もが自分の番(つがい)のΩのはじめての相手になりたがる。
 
 運命の番だとしてはじめてではない相手と結婚してαとΩの両方が不幸になった事例などいくらでもある。
 遺伝子的に最高の相手は最高のタイミングで現れてくれない。
 肉体的にどれだけ相手を求めても心は拒絶してしまう。
 
 α詐欺に引っかかるということは貞操について軽蔑されるし、Ωとしての嗅覚を疑われることでもある。
 被害者であるというのに被害内容も公にされないので、ひっそりとβの子を産んでは知らん顔をしたり、一人で育てているΩがいる。
 
 ニュースでそんな特集を見ても俺は他人事だと思っていた。
 でも、彼はそうじゃない。
 きちんと周囲を見て、危険な人間を俺に会わせないようにする。
 
 最初は嫉妬されているのかと思ったけれど、ことはもっと重かった。
 
 地域としてΩが少ない土地柄でΩである俺は珍しかったらしい。
 具体的に詐欺としてこちらを騙そうという意図がなくてもαを装って俺にアプローチをかけるβは少なくない。そのたびに彼は俺の不貞を責めるようになじる。愛されていると思うのはこういうときだ。Ω同士で話していても何も反応しない彼が同い年か年上のαやβと話しているとピリピリと神経をとがらせる。
 
 俺が自分から離れていくことが不安なんだろう。
 彼の癇癪は子供っぽくてとてもかわいい。
 俺は日々、愛されていることを実感していた。
 
 彼にいい顔をされないと分かっていても俺はαやβと距離を置くことができない。それは彼の情報を得るためだ。彼は俺に自分のことを語らない。照れ屋なので教えたがらないのだ。仕方なく周囲に聞くことになる。そこから得た情報で俺は彼が俺を愛していることを、より知ることとなる。
 
 ここはΩが少ない地域で、αが生まれやすいと言われている。
 
 いわゆる外から来た人間が多い土地。
 人の入れ替わりがあることで地域は活性化する。
 
 Ωが生まれにくいせいで習慣としてΩを大切にするというのが暗黙の了解としてあった。
 これが世間的に稀かどうかは関係ない。
 彼にとってはイレギュラーなことだったのは間違いない。
 
 αとして生まれた彼は親族一同から祝福され、これ以上になく甘やかされて育った。
 反面、彼の弟であるΩは虐げられた。
 深い理由などなくそういった家柄だったのだ。
 
 Ωという親族からすると価値が低いものを産んだことを責められた彼の母親はαが生まれやすい土地に目をつける。
 家族一同で引っ越して、第三子がαであれと祈った。
 そんな両親の思惑を知らず、彼は見知らぬ土地でαということで得ていた幸福を失う。
 αであるというだけで周囲の人間はみんなが彼を持ち上げて褒めていた。
 だが、引っ越し先でαは珍しくない。結果、彼はαでありながら凡人や凡才と不名誉な言葉をかけられ続ける。心が捻じ曲がるのも仕方がない。
 
 今まで下に見ていたΩの弟が大切にされ、αの自分が底辺に落ちる。
 
 引っ越しが子供に与える影響は強いのだと聞く。他人事ではない。彼の気持ちは誰よりも俺が分かる。
 
 苛立ちを、苦しみを、俺にぶつけることで彼はやっと上手く息ができるのだ。
 深い悲しみが彼にまとわりついていたのを俺は感じ取っていた。
 
 最初は彼の言動が理解できなかったし、何が彼を悪いほうへと誘導するのかも知らなかった。
 彼の周囲の人間から彼の今までのことを聞いて俺は状況を理解していく。
 俺が彼を愛するしかないという今が正しいのだと分かった。
 
 
「お前はどうして、俺を惨めにさせるんだ」
 
 
 彼が壁に叩きつけて壊した花瓶は五十万円ほどするが、どうでもいい。
 壊れた花瓶を見て傷ついた表情の彼はただただ哀れだ。
 本当は俺を殴ったり、物にあたったりといった行動はとりたくない。
 けれども、心の中の不満を吐き出さなければ生きていられない。
 なんて愛おしいのだろうと微笑むと首を絞められた。
 俺を殺せもしないのにじゃれつくような彼はとても年上には見えない。
 
「そんなに俺のことが嫌いなのかっ」
 
 口癖のように彼は俺に自分のことが嫌いなのかと尋ねるけれど、首を縦に振ったことは一度もない。
 どんなことをされたとしても、彼からの言動は俺に対する愛だ。
 弱さからの八つ当たりだとしても、俺を好きだからこそ近づかずにはいられない。
 
「俺のことを嫌いだから、こうやって追い詰めてくるのか」

 首を絞められているので声は出ない。くちびるだけ動かして「すき」と伝えた。
 彼は酷く泣きそうな顔で「だったらどうして」と言ったっきり押し黙る。
 首を絞めていた手はそえられているだけ。
 
 いつだって彼は俺を攻撃しているようでいて、息の根を止めようとか致命的な怪我を負わせようとはしない。
 自分の中で渦巻く苦しみを外に逃がす方法として俺への暴力だったり、嫌がらせがある。
 心から俺のことが嫌いだったのなら俺に関わらなければいい。
 
 αよりも優秀なΩとして、たびたびテレビでも取り上げられるほどの才覚を発揮して彼のコンプレックスを刺激し続ける俺。
 俺から好かれること自体が彼にとっては息苦しいことになっている。
 距離を置けば苦しみから解放されるのに彼はそれが出来ない。
 かわいそうで愛おしい。
 
「腹の子は、誰のだ」
「俺のだよ」
「そんなことは聞いてない」
 
 低く血が滲んでいるような怨念のこもった彼の声。
 愛おしくて笑っていたら頬を軽く叩かれた。
 話を聞いていないと思われたのだろう。
 彼はとても短気だ。
 
「父親は誰だ。学生の身で産む気なのか、お前は」
 
 社会人になった彼は学生である俺と時間がズレはじめた。
 それがとてもさびしくて俺は毎日に彼の寝室に忍び込んだ。
 最初のころは彼は俺をひどく叱ったけれど、そのうち諦めてしまった。
 
 夢うつつに俺を抱きしめて優しくしたいとつぶやくこともあった。
 彼は間違いなく俺を愛していた。俺も彼を愛していたので、子供ができるのはとても自然な流れだ。
 しっかりした彼のことだから番になっていないαとΩの間に出来た子は不浄のものかもしれない。
 
「だめ?」
 
 俺がお腹を押さえながら首をかしげると彼は歯を食いしばった。
 おもしろい顔だと笑ってしまうと「ふざけるな」と怒鳴られる。
 
「俺はちゃんと社会的に認められたよ?」
「いい加減にしろ」
「生きていて恥ずかしくないのかって言われて育ったけど、恥ずかしくないんじゃない? 世界的な偉業をいくつか達成したんだから、悪くない人生でしょう」
 
 美貌のΩの快挙に世間は食いついてくれた。
 彼と一緒にテレビを見ながら俺は幸せを噛みしめていた。
 
 どれだけすごいことなのか理解することもなく俺は彼と一緒に暮らせるという餌に飛びついて、あれこれと行動を起こした。優秀なΩというのは話題性が抜群なのか一過性ではなく定期的にニュースを賑わせた。彼のコンプレックスを刺激することになると幼い俺は気づかなかった。
 
 周囲から彼の育った急転直下ともいえる環境を教えられて、悲しみと苦しみの根の深さを理解して、俺は全てを受け入れることにした。彼が俺に向ける愛憎のすべてを余すことなく手に入れる。
 
「結婚するなんて冗談でしょ」
「お前の妊娠が冗談なら、そうしてもいい」
「じゃあ、子供はおろしておく。そうしたら、冗談になる?」
「お前はどこまで……」
 
 彼が俺を「悪魔」と罵った。彼の気持ちを思えば当然かもしれない。
 どうやら彼は一夜のあやまちで俺と関係を持ったことを後悔している。
 番にならずに軽率だったと自分の行動を恥じている。だからといって、性格だけがいいという触れこみの容姿も能力も平均的なΩを伴侶に選ばなくたっていい。俺へのあてつけにしたって笑えない。
 
 親から結婚を急かされての行動でも俺は受け入れられない。
 俺への愛からくるのだとしたら、すこしは嬉しいけれど、彼の隣を誰かに取られるのは悔しい。
 
「俺のこと好きでしょ? 小さいころからずっと俺に自分のペニスをしゃぶらせてたじゃない」
「……脅すつもりか? これが昔の復讐か? そこにいるのが俺の子だとでもいうつもりか? 正気じゃない」
「え? どういうこと?」
「αの子がそんな簡単に出来るわけがないだろ。一回で妊娠するなんて運命の番ぐらいのものだ」
「俺たち、運命の番だったんだ!?」
 
 嬉しくて笑っていると「そんなことがあってたまるかっ」と彼は叫ぶ。
 
「俺たちは兄弟なんだぞ。何を考えてるんだ」
「別に兄弟でもαとΩから生まれた子供に遺伝子的欠陥はないって論文は出したじゃない。β同士だって昔は近親婚が多かったんでしょう。娘の処女は父に捧げるものなんだって記録が残ってる。今でもそういう風習がある地域はあるよ?」
 
 苦々しく「そういうことじゃない」と口にする兄は俺から絶対に逃げられない。
 αとしての直感から俺以上のΩと巡り会えないと兄は知っているはずだ。
 兄が不出来と噂されるのは、俺から逃げるために自分の感性から何から否定し続けたせいだろう。
 
 
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両片思い系すれ違いヤンデレなので片側からだと、ちょっと情報不足。
(これだけだとホラー?)
2018/02/09
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