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006:鬼畜は勘違いで実は優しい気がしたけれどそれこそ勘違いだった。


 消去法でオレが選ばれたんだと思っていた。
 けれど「見苦しいと思ったらおまえに決めていない」という言い方をそのまま受け取るとオレは何か思い違いをしているということになる。
 今回はとくにオレが頼んで縁が出来たようなものなのにどういうことだろう。
 
「アルバは情熱の国の言葉で夜明け、暁(あかつき)のことを言うらしい」
 
 何が言いたいのか分からない。
 アルバロード・P・メーガッダンリクは別にアルバじゃない。
 長いと面倒なので短くアルバと呼ばれているかもしれないがそれがオレの名前にどう関係するんだろう。
 
「夜明け?」
「日の出前や明け方という言い方もする」
 
 次期国王として日の出を意味するアルバはなかなかいい響きなのかもしれない。
 みんながアルバ様アルバ様と言い出す理由も分かる。
 黒を主体にして金や赤の飾りがついた服や道具を持っていたりするのもこれから昇る太陽からの連想かもしれない。
 それはそれとしてだからなんだ。
 オレの名前について変更が可能なのか話していたはずなのにすり替えられている。
 
「アカツキ。……アカツキは嫌か?」
 
 同じ言葉を繰り返されて思うのはアルバなんかじゃなくバーローがふさわしい。
 人間のくせに獣人よりも会話レベルが低い。
 
「垢は……おふろで、落ちる」
 
 ずっと垢まみれの不潔な獣人だと思われるのは心外だ。
 兎族は栄養状態が整えば触りたくなる肌と言われる、もちっとふにっとするなめらかお肌になる。
 爪が剥げていたり肌艶が悪い今の状況は例外中の例外だと知っておいてもらいたい。
 メカメカ国が食事を制限したり入浴させてくれなかったせいでこんなボロボロになっているだけでオレは平均的な兎族の獣人だ。汚い姿でいたいという性癖なんかない。
 
「風呂で、落ちる……? 老廃物の垢についてなら今は関係ない」
「じゃあ、なに」
「だから、アカツキは暁と紅や茜色の赤の色つきと」
 
 言葉を切ったと思ったらオレを湯船に入れ直した。
 痛いのでやめてほしい。
 抱き上げていたくないなら床におろしてもらいたい。
 ただのお湯でも痛かったのにいろいろと湯船に入れられたせいで蒸気だけでも目に痛い。
 
「妊娠できるほど身体が成長したとはいえ、これから私の下であたらしく人生をやり直すことを思えばおまえは赤子も同然だ」
 
 どういう意味での侮辱なのかピンとこないオレに「この国でされたことは全部忘れろ」と言われた。
 この国というのはメカメカ国のことだ。
 忘れようにも忘れられないと思っていたら頭からお湯をかけてくる。
 痛いと泣いているオレが見えないのか、俺が泣いている姿を見て楽しんでいるド鬼畜な本性を見せてきたのか。
 
「赤の色は血潮だ。今後、生命力が必要不可欠になるおまえに似合いだろう」
 
 結論から言えば名前の変更は不可能。
 もういろいろ考えて決めたからオレに納得しろと言っている。
 ダメ元で聞いたことなので却下されてもそれはそれ。別に構いはしない。
 
 でも、アカツキが意外にも良い意味だったことに戸惑いを隠しきれない。
 ずっとチビ、デブ、出っ歯みたいな身体的特徴から名付けたセンスのかけらもない名前だと思っていた。
 アカツキが夜明けの意味合いだとか色彩の赤を引っ掛けたかったなんて分かるわけない。
 
「はつ、みみ」
 
 湯船から立ち込める異臭に泣きながら咳き込むオレに「気に入ってくれたか」となぜかご満悦なバーロー。
 泣いて苦しがっているオレを前にしてもっとするべきことがあるだろ。
 呼吸が上手くできないと思ったら胃のものがせり上がってきた。浴槽のふちに手を置いて身を乗り出す。
 ちなみに体を支えきれるだけの筋力はオレに残されていなかったらしく滑って浴槽のふちに腹を打ち付けた。
 こらえきれずにオレが嘔吐する。
 気にするつもりはなかった男から「気にせず吐け」と言われた。
 オレが吐いている姿を見る顔が笑っているように感じるのは照明や顔の角度のせいだと思いたいが無理だ。
 
 鬼畜は勘違いで実は優しい気がしたけれどそれこそ勘違いだった。


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