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015:ただ、食事をずっと下から食べさせてくるのはやめてほしい。


 それから俺は尻の中にいろいろと入れられた状態で抱きかかえられて移動した。
 時々、オレの尻を揉んで硬いナーリッシメントを動かしやわらかなナールングを潰してくる
 栄養摂取は大切だけれどなんか違う。
 
 そして、困ったことにオレは師匠と話せなくなっていた。
 殺されたことを覚えているせいか獣人同士での会話すら出来ない。
 師匠は狐だからうさぎから嫌われることはままあると苦笑していた。
 違うという否定の言葉すらオレから出ることはなかった。
 
 怯えて体が固まるたびにバーローに背中を撫でられる。
 オレを抱きかかえて移動するだけじゃなく座ると膝の上に置く。
 暇があればオレの耳を噛んでくるか尻にちょっかいを出す。
 怯えて縮み上がっているので萎えているからいいものの発情を促すのはやめてほしい。
 
 子供を作るにしても延々休みなくなんていう機械的な形じゃなくオレの体調と意思を考慮してやってほしい。
 そういう風に話し合いの場を持たなければならないのに師匠の助力がないとなると手詰まりだ。
 
「耳、あまり、かまないでほしいです」
「気持ちよくなるからか?」
「新婚、ここでおっぱじめたら首が飛ぶぞ」
 
 師匠の尻尾がぶんぶんっと動くのにオレの身体がこわばる。
 すぐにバーローがオレの背中を撫でて「大丈夫だ」と言ってくる。
 
「ルナール、野蛮すぎる」
「怯えすぎだろ。伸びたりしないから射程距離に入らなけりゃ安全なもんだぜ?」
「その、しっぽ、は」
「新しく生えたばかりの尻尾は攻撃的なんだ。そのうち俺の言うことを聞くようになるが、まだちょっとやんちゃだな」
 
 俺と最初に会った時にはなかった尻尾。
 旅の中で失ったと言っていた。
 
「これは毛がある角度になると鎌みたいになるんだ。遠心力がかかると丸太もスパスパ切れるぞ」

 丸太どころか首もスパっと落ちた。
 もうあんなことを味わいたくないと思うと身体はなぜかバーローにくっつく。
 オレにとって天敵とも言っていい鬼畜さを発揮してくる相手なのに頼るとなると他にいない。
 
 怯えた気持ちをなだめて師匠と話をするべきだ。
 オレのことだけじゃない。
 これから師匠に起こることを伝えて師匠も師匠で対策をした方がいい。
 そうじゃないと知り合った人間に絞め殺されてしまう。
 師匠とどういう間柄だったのかはわからない。
 けれど、アレはある意味で自殺だった。
 
 オレに手を出さないために師匠は自分を犠牲にした。
 だからこそオレは師匠が味方だと思ったし、師匠を師匠だと感じた。
 出会ってそばにいたのは半年ほどだけれどオレを守って力づけてくれたことを忘れていない。
 あの時と同じ関係にはなれなかったとしても師匠が死なずに済む道を探りたい。
 
「とりあえず、アルバカはこのガリガリに興奮しすぎ」
「ガリガリじゃない。アカツキだ。ルナールでも呼ぶことは許さんが変な形容もやめろ」
「アカ、ツキとはまた……面白くも因果な名前を付けたものだな」
「アカツキに説明すると吉兆と凶兆のどちらにも我が国では赤い月が見られる」
「ヤベーなっていう合図を嫁につけるってどうなんだ? 嫌がらせか? だからテメーはバカなのか?」
「赤い月は合図でしかない。合図を受けてどう生きるかで吉と凶は変化する。月そのものに罪はない」
 
 バーローの言葉に「人間はそう思うものだけでもねえーぞ」と師匠がぼやく。
 狐の耳が小刻みに動いているので今までのことを思い出しているのかもしれない。
 
「赤い月を嫌がる人間が一定数いるのにその名前は刺激するな」
「だが、ルナールもルナールで嬉しかろう」

 ピンとこないオレに師匠が「ルナは月って意味も持ってる」と教えてくれた。
 同じものを言い表す名前を持つ者と出会うことは運命を分け合ったりすることになるらしい。
 強くて丈夫な師匠の強運を分けてもらう意味もあってオレが「月」が入ったアカツキという名前になっているらしい。
 自分のことなのに初耳なことばかりだ。
 
 その後にもっとオレは改めて知る事実に直面する。
 寝ても覚めてもバーローといっしょ。
 なぜかどこに行くにもずっと抱きかかえられた。
 国にすぐに馴染めないだろうからという配慮だと恩着せがましく言われた。
 内容はともかくオレのことを考えてくれるのは有り難い。
 以前はオレを抱くとき以外は完全に放置していて雑談などする気もないという雰囲気だったのでオレの受け答えがおぼつかなくても話そうと思って言葉をかけてくれるのはちょっと嬉しい。
 
 
 ただ、食事をずっと下から食べさせてくるのはやめてほしい。


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