・無気力ビッチは今日もとてもやる気がない上

※貞操観念ブレイクな受け注意。平凡総受けです。



 有邨(ありむら)須々木(すすき)は無気力人間だ。
 
 理由があって無気力になっているわけではない。
 少なくともどうして無気力なのかと聞かれて本人にはこれといった理由が思い浮かばない。
 持って生まれたものだということで納得してもらえないので高校になってからどうしたものかとぼんやりと悩む。
 
 とくに家庭環境に問題があるわけではない。両親は共働きだがさみしさを感じたことはないし、長期の休みには母方の実家で過ごしたり旅行に連れていってもらったりする。

 家族に不満を持ったことは一度もない。
 周囲の人間とだって有邨は大きな問題を起こしたことがない。
 ふつうを絵に描いたような何処にでもいる平均的な子供だった。
 やる気はないが人間嫌いでも厭世的なわけでもない。ただ生きる上での労力を惜しんでいた。
 
 なにかをしなければならないという意欲が薄い。
 自分がこうしたいという具体的な欲求を持ち合わせない。
 
 メロン、オレンジ、イチゴのみっつの味でひとセットになって売っているゼリーがある。

 三人家族なので有邨の家で出されるポピュラーなデザートだ。
 家族三人で食べる時に両親は大人だから我慢をし、有邨を優先しようとする。

 好きなのを先に選んでいいと言われても有邨はどうでもよかった。どの味のゼリーでも構わない。わざわざ考えて決めるのが面倒だった。こういうとき、有邨はオレンジを選ぶ。母親がイチゴが好きで父親はメロンが好きだからだ。この行動を無気力というよりは優柔不断とか健気だと周りから解釈されるが本人にそのつもりはない。
 
 ものすごく食べたいわけでもないゼリーで言い争うのは無駄にしか思えない。自分が食べ始めなければ両親も食べない。だから、率先してオレンジのゼリーに手を付けることを有邨は覚えた。トラブル回避のために我慢しているようにも見えるがそんなことはない。有邨は心の底からどの味でもよかったのだ。オレンジのゼリーがハズレだと思ったことはない。これがメロンでもイチゴでも、最悪人間に対しても有邨の感じ方は同じだ。
 



 有邨(ありむら)須々木(すすき)は与えられたものをそのまま受け取る。

 それは子供らしくない自己主張のなさがあった。老人のような穏やかさがあり、どこにでもいる子供の枠から、やや外れていた。それでも、まだ幼いころは子供だということもあり本人も、そして周りも有邨のやる気のなさが異常だとは感じていなかった。優柔不断やマイペースで自分の殻にこもっている子供はどこにでも存在したからだ。

 有邨の適当さや無気力さは周囲に害をなさないので同年代の子供たちは元より見守っている大人たちは気にしていなかった。
 
 それでも、高校になってから殊更、有邨は自分の性格的な欠点を周りに突かれるようになる。
 教師や先輩をはじめとして深い仲になった相手から、少し会話した程度の人間まで揃いも揃って「この無気力人間」と罵り、呆れられ、直すように勧められる。面倒な事態になった。

 自分が間違っているとは思わないが、同じようなやりとりを聞き続けるのは苦痛なので変われるようなら変わろうと考えることもある。考えるだけで本気で直そうなんてしないあたりが有邨の無気力人間であるところかもしれない。
 
 それでも、なんとか生まれ持った気質以外から原因を探ってみると見えてくるものもある。
 原因になりそうなのは小学生時代に有邨のクラスメイトがイジメを受けていたことだ。
 
 有邨(ありむら)須々木(すすき)の人生の中で事件らしい事件などこれぐらいしかない。
 自分に強い影響を与えたのかは有邨自身、首をかしげるところだが心当たりはこれしかない。
 今の自分を形作った理由というよりも今の自分の状況に陥った発端はこのイジメが原因だ。
 
 面倒くさがりの無気力人間とはいえ物事を考えられないわけじゃない。
 他人と自分を比較する頭はちゃんとある。
 
 
 つまり本城(ほんじょう)夢久(ゆめひさ)というクラスメイトのイジメが全部の発端で自分は関係ないと有邨は結論を出した。今後、自分に対しての不満は全部、本城に向けてもらうように明日から言おうと決める。
 
 本城夢久は大きな屋敷に住むクラスでも浮いた生徒だった。私立の小学校に通いそうなツンと済ましたいけ好かない優等生。彼はクラス中から無視をされていた。金持ちであることを鼻にかけた言動が嫌味だと標的にされた。頭は良かったが体力はさほどなかったことも本城が低く見られた一因だ。
 
 大きな口を叩くクセに運動面が劣っているので周囲は偉そうな態度の本城を見下した。
 偉くないのに偉そうな人間に対して子供の反応は顕著だ。
 本当にすごければ素直に称賛を送るが一度でも「アイツ生意気」と共通意識が生まれてしまうとダメだ。

 生意気でムカつくアイツは無視しよう、そうしよう。誰が提案したのかは問題ではない。
 クラスの中でそう決まったので話は終わり。
 お前の嫌味も何もかも聞こえないし、取り合わないというのが有邨以外のクラスメイトの意思だった。
 本城の偉そうな言葉をまじめに聞いて反論するよりも無視するのがいいと思ったのは子供ながらの消極的解決方法なのかもしれない。
 
 有邨は空気が読まない。本城が無視されていると知ってもいつも通り接していた。
 朝に挨拶をして話しかけられれば返して、帰りに見かけて用事があれば声をかける。

 それは無視されている本城にとって救いだったらしい。有邨にとってはどうでもいいことだ。

 金持ちに媚びを売るつもりも深い考えもなく有邨はいつも通りでいただけだ。
 いつもと違う行動をとる方が労力がいる。無気力な有邨はわざわざ無視するなんていうのが面倒だっただけだ。
 
 本城へのイジメは卒業まで続いた。言動の無視はつらかっただろうが有邨がいたから本城は耐えられた。クラスメイトたちも本城を不登校にしたかったわけではないのでイジメといっても無視以上はなかった。
 
 無視に参加しなかった有邨にはとくに何もない。

 あえて無視に協力しろと周りは言わないのだ。
 クラスメイトたちが無視しているのはそれぞれが考えた結果であり誰かから強制されたものじゃない。
 その建て前があるからこそイジメなのかと教師に聞かれたときに否定できる。
 自分は用がないから本城と口を利かない、他の奴らのことは知らない。みんながそう答えるだけ。
 教師からの伝言はふつうにどの生徒も有邨越しに本城に伝えるしプリントを回さないなんて嫌がらせはしない。

 ただ以前のような雑談や冗談を言いあうことはない。本城のおはようという挨拶におはようは返ってこない。
 それが本城の小学校高学年の話。
 
 例外は有邨だけで本城が有邨に執着してしまうのも当然かもしれない。
 
 有邨の見た目は綺麗でも格好良くもない普通だった。
 個性的なところは一切ない十人並みな見た目だ。

 だが、有邨の性格はよく知られており大体がコイツはこういう奴と小学校ではみんな分かっていた。

 だから誰も本城を無視しても有邨を無視することはなかったのだ。
 無視されたところで有邨が傷ついたりしたないことも分かっていたこともある。
 人と足並みを揃えないマイペースな奴である有邨は無視をするクラスメイトの敵でなければ、無視されている本城の味方でもない。どこまでも中立。いつまでも変わらない。
 
 それはある意味安定していてクラスメイトたちにとっても安心感があった。
 有邨が普通だから自分たちは本城に悪いことをしていない、そんなことを思っているクラスメイトだっていただろう。

 誰も有邨に何かを強制したりしない。
 多少、自分たちとの違いは感じても好きに図太く生きているんだろうと思っていた。

 
 だが、イジメられていた本城だけは違った。


 彼は有邨を自分と同じ私立中学に受験させ寮生活を一緒に送ることを強要した。
 有邨への執着を隠すことがない本城は自分の領域とも言える金持ち進学校に有邨引きずり込んだのだ。
 イジメられた普通の小学校よりも自分に近しい人種がいることが分かっている安全と考えた場所に有邨を連れていく意味を本城はわかっていなかった。
 
 考えたり選択したりしないことだけを選んでいた有邨。

 本城の家が学費を援助してくれるということで流されるままに本城と同じ私立中学に通うことになった。
 両親は心配していたが本城の熱意に押し切られた形で親元を離れて中学から寮生活。
 頭は昔から悪くないので進学校への受験は問題ないどころか成績優秀者だと後になってから担任に教えられた。
 
 ふたりが入学した進学校は共学とは名ばかりの男女別校舎。
 女っ気のない中学生活だが彼女を作るような甲斐性などあるわけもない有邨なので構わなかった。
 有邨はとくに自分から働きかけることはなかったが気づくと知り合いが増えて、自分で考えて決めることがなくなった。考えなくても話が終わっているのだ。
 
 金持ちや頭がいい人間はどこかおかしいのか自我が強すぎるのか自分の言いたいことだけを言って人の言葉を聞かない。わざわざ言い争うことも面倒な有邨は問題事のすべてを放置した。我の強い人間に関わっていくのは大変骨が折れることだ。流されるのが一番ちからを使わない。楽な道しか有邨は進む気がなかった。


 
 結果、高等部に進学する頃には彼氏を名乗る人間が五人、セフレが三十人ほどになってしまった。


 もちろん有邨は誰のことも恋人であるとかセフレであるなどと思っていない。
 有邨にとって彼らは先輩や友人、場合によって顔を見たことがあるだけの知らない人だ。
 
 この学園で有邨須々木は隙がありすぎる。

 平凡な顔立ちとはいえ見ているのが不快になるレベルのブサイクだとか仕草が気持ちが悪いわけじゃない。あくまでも平凡で普通だった。
 金持ちの美形が多いことで知られる学園だが芸能人レベルの整ったりオーラがある人間は全体の一割ほど。
 目立つので美形が多い気がしてしまうが、顔面偏差値平均な有邨はよくいるタイプであってとりたてて嫌われる顔立ちでもない。

 綺麗系、かわいい系である親衛隊に所属する人間と行動が被ることがないのもポイントが高かった。
 美形の周りには美形が集まる。
 有邨は美形ではない平凡だからこそ第一印象で美形から雑な扱いを受けたり興味を持たれた。
 
 高校では「変なところで眠っている平凡を起こさないように犯したら幸せになれる」なんていう変な噂が独り歩きして気が付いたら襲われている。本人がよく寝たと満足している裏で誰も知らない戦いがあったり密やかな睡姦があったりする。気づいたら朝に履いていた下着が夜に違う柄であったりするが、有邨は深く考えない。面倒だからだ。

 
 有邨須々木に群がる人数が人数であるせいもあって毎日休みなく犯されて身体の感度は上がっていく。
 相手によってはキスや抱きしめるだけで有邨は果ててしまう。身体がそういうクセを覚えさせられた。
 人に見られながら射精したり放尿したり喘いだりするそれをおかしなことだと思う一方、面倒なので抵抗しないで流されている。有邨からすると犯されないように逃げるよりも犯されている方が労力が少なくて済む。逃げるなら自分で抵抗しなければならないが犯される場合は相手が勝手に動くからだ。
 
 ベンチで日向ぼっこをしていたらいつの間にか誰かのペニスが挿入されている。
 平和な昼下がりはない。

 トイレで用を足していたらキスされて便器に精液も吐きだしている。
 ちょっとした異次元に迷い込んだ気分になる。

 体育の授業あとにサボっていると高確率で不良グループにマワされる。
 不良の癖に運動好きでマメな奴らだ。
 


 そういう生活になったのは小学校の頃にクラスメイトの無視に参加しなかったからだ。
 本城夢久が否定しても有邨はそう結論付けた。
 あの時代に本城を無視していたら人を平気で襲うような人間がうじゃうじゃいる学園に入学することはなかった。
 これは間違いない。

 有邨の高校生活はもっとだらだらとのびのびとした生産性のないものになっていただろう。
 
 なんだかんだで性欲を満たした相手は有邨に優しくなるし、黙っていても食事も風呂も寝床も用意され、望めば歩くことすらしないでいいので有邨は現状を気にしていない。面倒なことは気づけば終わっているのだから、今の生活がすごく悪いわけでもない。
prev/next
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -