・これがいわゆるツンデレか、そうかそうか

リクエスト企画でもらった「顔面格差で嫌われている平凡風紀委員長様の話/ウキョウさん」というリクエストで書きました。


 とある学園で風紀委員長を務めているオレは生徒会役員という美形軍団から蛇蝎のごとく嫌われている。
 ここでまず説明しておくべきなのが学園の基本的な情報だ。
 
 美形崇拝の生徒が全体の八割、無意識で言えばほぼ十割の生徒が顔を重視している。
 とはいっても、普通は人の顔なんてそれぞれ驚くほど悪いわけじゃないぐらいの人間の方が多い。
 平凡とかそういう言い方になる人間。つまりオレとかだ。
 オレは普通の顔だ。間違ってもブサイクとは言われない見苦しくない顔。
 
 世間一般でイケメンとか言われている人間は誰が見てもイケメンや綺麗な顔と思える人もいるが特徴的な顔であることが多い。日本人から見てハリウッドスターなんか格好いいがアクが強い顔だ。主張が激しいというか。
 
 芸能人でも八重歯がかわいいなんて美点みたいに触れられても歯並びが悪いと嫌な顔をする人だっている。
 鼻筋が通っているのを鷲鼻だとか切れ長な瞳を目つきが悪いとか女顔に対して年取ったらおじさんじゃなくておばさんにしか見えなくなると言われたりする。
 美醜は好みに合わないと悲しいことになるという話だ。
 その点オレは普通の顔なので誰が見ても「ふつー」と言われるだけで済む。
 人に好みの顔だとか美形だと言われない代わりに人に激しく嫌われない。
 
 高校で仲良くなった風紀の先輩に半ば騙されるように風紀委員に入らされて気が付けば風紀委員長。
 
 この学園は無意識に美形を崇拝している所がある。
 つまり「ふつー」の顔で風紀委員長になったら針の筵は確実だ。
 事実、生徒会に挨拶に行ったら信じられないという顔で見られたし帰り際に聞こえた「アイツが委員長とかありえねえ」と会長が口にして「階段から落ちて顔が潰れてほしいです。あ、すでにそんな顔ですね」と副会長の会話。
 
 気を遣ったのか声を潜めてはいたものの泣きたくなった。
 
 普通の何でもない顔を悪く言われるこの学園はおかしい。
 おかしいったらおかしい。 オレじゃなくて学園がおかしい。
 
 卒業した先輩に日々愚痴りながらオレは風紀委員長としてなんとかやっていた。
 生徒会の奴らの態度に投げ出したい日もあったがオレは何とか耐えた。
 胃がキリキリしても愛想笑いで乗り切るのがオレのポリシーだ。
 なんたって平凡顔なのですごんでもそれほど怖くない。愛想がいいことが人間関係を円満にするコツだと思っている日本人的なオレだ。
 
 
「ホント風紀はサイテーです」
 
 
 聞こえてきた声に身体が硬直する。
 風紀イコール自分と思ってしまうのは発言した声の主が副会長だからだ。
 思わず発生源を見ればどうやら生徒会役員が三人、会長・副会長・書記と揃って階段の踊り場に溜まっている。
 いつも生徒会室に引きこもっている役員がこんな場所で何をしているんだろう。
 そんなにオレへの不満をぶちまけたかったのか。
 
「あいつ、教室でお、……お、おな……ごにょごにょ……してたらしいじゃねーか」
「会長……ごにょごにょ、分かんない……」
「わかんだろ」
「え、和姦……え? おな、え?」
「最後まで言わせんなよ」
「そうです、書記。セクハラはやめなさい」
 
 オレは書記と同じように疑問しかない。
 どういうことだ。オレが口にするのもセクハラになるようなことを教室でしたっていうのか。
 おい、待ってくれ。
 
「あの平凡顔ぶちのめしてやりてぇ」
「それはボクも同感です」
「……別にどうでも……いいかも?」
 
 会長と副会長はオレのこと嫌いすぎだろ。
 なんで平凡顔ってだけでこんなに嫌われるんだ。
 会長と副会長は美形ではあるが性格の悪さが顔に出ていて時々怖いと親衛隊にすら言われてるヒール顔だ。
 オレのような一般人とは違いすぎる。
 
「あいつは堂々と……お、おな……ごにょごにょ……出来んだぜ? 平凡だからってよぉ」
「えっ、会長も教室で堂々と……シタかったの?」
「セクハラはやめなさい」
「いや……でも、副会長」
「会長だって人間です。シタいときだってあるでしょう」
「えぇ!! あんの? 教室で?」
 
 思わず会長に詰め寄る書記。
 目をそらして恥ずかしそうな顔で「全くないって言ったらウソになる」と口にする会長。
 どういうことだ。
 オレは教室で一体何をしていた。
 そして、これはどういう話の展開なんだ。
 まったく見えてこない。
 
「平凡顔で……何しても許されるあいつマジでムカつく」
 
 会長に同意するように頷く副会長。
 何をしても許されるのは学園一の美形という扱いになっている会長の方だと思う。
 
「オレはこんな顔だからクソビッチが寄ってくるし」
「わかります。清楚で巨乳美少女が好きなのに男も女も遊んでるちょい悪が誘ってくるんですよね!! 清楚になってから来てくださいよ」
「副会長とオレが並んで街中歩いているとギャルがわらわら寄ってくんだぞ?」
「……あの平凡風紀は誰に注目されることもなくお買い物できるんでしょうね!! サイテーです!!」
 
 地団太を踏む副会長は子供にしか見えない。
 だが、会長と副会長が美形であるせいで苦労しているのは分かった。
 ちょっと自慢かって思うところだけど本人たちは大変だろう。
 
「女は近寄ってくんな言ったら男が来るんだよ」
「そーです、そーです!! サイアクでした!! あれもそれも風紀のせいです」
 
 オレは関係ないだろう。なんでオレが関係あるんだ。
 
「……あ、不良のお兄さんたちと知り合いになった件?」
「そーだよ。毎週来いとか言いやがって……ふざけてる」
「風紀のせいです!!」
 
 まさか会長と副会長が校外で不良と遭遇して脅されているなんて意外だ。
 武道の達人というわけじゃないから大人数で囲まれたら仕方がないのか。
 オレのせいというのが未だに分からないが、助けられるなら助けてやった方がいいのかもしれない。
 
「毎日LINE来るんだっけ?」
「そーだよ。学園ではSNSの登録禁止だって言ってんのにあのクソは勝手にアプリダウンロードしやがった」
「問題、そこ?」
「書記は分かっていませんね。ボクたちは生徒会役員なんですよ? バレたらどうするんですか!!」
 
 学園では勉学の妨げになるとLINE、Twitter、Facebookは禁止されている。
 生徒会役員が堂々と校則を破っていたら問題になるかもしれない。
 それより何より不良に脅されている方がたぶん問題だ。
 
「盗撮ブラ散ら画像が送られて来ているのが親衛隊にバレたら全部消されますよ」
「……盗撮は、ダメでしょ」
「まあ盗撮って言っても副会長の妹のだしな」
「……それはもっとダメじゃん?」
「うちの妹は知らない間にけしからん乳に育っていて」
「発言がオヤジか」
「会長っ!! でも、妹だと思わなければ白いシャツに薄ピンクのフリルのブラは心が躍るでしょう!?」
「……副会長がセクハラオヤジ」
 
 会長と書記のツッコミにもっともだと思った。
 王子様とかなんとか言われる副会長の胸への情熱にちょっと引く。
 
「うぐっ。……きっと風紀が今の発言してもみんな笑って許すんでしょう?」
「だろうな。なんせ、あいつは……教室でお、……お、おな……ごにょごにょ……」
「会長そのネタはもういい」
「よくねえよ!!」
「そうです、よくありません。あの変態セクハラ平凡顔はいつか苦しめて苦しめて苦しめてやるんですっ」
 
 なんでオレの話題になったのか、しかもこれほど嫌われているのかさっぱり分からない。
 あの顔が許せないと副会長が力強く口にするのに会長が同意する。
 書記は始終すこし首をかしげるばかり。
 
 それにしてもなんで、こんなところで話しているんだ。
 誰かに聞かせたいのか。
 
 オレに聞かせたいというなら嫌がらせに他ならない。
 堂々と陰口をたたくのは今に始まったことじゃないが人から嫌われるのは良い気がしない。


 
 数日後、人もまばらの朝の教室の中、会長が席に座るとぶーっと放屁としか思えない音が聞こえた。
 もちろんみんな無視した。
 美形はトイレに行かないとまではいかなくても、あの会長がおならをするなんて考えられない。
 頭が拒否するのだろう。
 みんな目をそらして息を飲む。
 
 会長は何を思ったのか立ち上がり座りなおす。
 またぶーっと放屁音。
 さすがにこれでは誰も無視できない、と思ったがクラスメイト達は百戦錬磨だったのか人数が少なかったのか誰も反応しなかった。
 会長はめげずにもう一度立ち上がって座る。
 またもやぶーっと聞こえる音。
 
「誰が会長様の席に……こんなイタズラを……!!」
 
 目を見開いて会長の親衛隊長が絶叫する。
 会長の椅子に置かれたブーブークッションを取って床に叩きつけた上で踏みつけた。会長がおならをするなんてやっぱりありえなかった。
 
 心なしか会長の横顔には憂いがある。
 美形で楽して生きてきた会長からするとこんな扱いを受けたのは生まれて初めてなんだろう。
 屈辱に打ちひしがれるのではなく落ち込んでいるのが意外だが風紀として場を納めなければならない。
 オレは立ち上がり会長に声をかける。
 するとなぜかオレをにらみつけてきた。嫌われすぎだ。
 
「風紀は何をしているんですか!? 会長様がこんな辱めを受けるなんてあってはいけません!!!」
 
 親衛隊長はヒートアップ。髪を振り乱して会長の素晴らしさを語る。
 八割が顔の造形美で残りの一割が学力と生活態度あとの一割は適当に濁された。
 性格面に触れないのは無意識の親衛隊の情けかもしれない。
 
「朝、会長様が来た時にすでに専用クッションが入れ替わっていたのなら犯人は――」
 
 親衛隊長の言葉に副会長がなぜかオレを指さした。
 
「平凡風紀がやっているのを見ました。平凡です! 平凡が美形な会長を妬んだに違いありません」
「なるほど……風紀の見回りと称して朝早く登校している彼ならこの仕掛けを作るのは簡単ですね」
 
 副会長の言い分を全面的に信じる親衛隊長。
 会長の親衛隊長とはいえ副会長も美形で役員なので贔屓される。
 
「あなたはいつもズルいんです!!」

 何の話かさっぱりだがオレが悪いことになって話は終わった。
 
 
 授業中どういうことなのかオレなりに考えていたのだが会長と副会長の態度から考えられるのは「ツンデレ」だ。
 デレがないが。
 いいや、消せない匂いのある消しゴムをなぜか会長がくれたのはデレかもしれない。
 使わないのでくれたという可能性もあるが、きっとデレだ。
 そうに違いない。
 思い込まないと嫌われすぎててつらい。
 
 ブーブークッションに座らせられるという子供っぽいイタズラは風紀委員長になったころにオレもされた。
 周りは爆笑してすぐに忘れてくれたがやっぱり恥ずかしいものだ。
 会長も恥ずかしかったのかもしれない。
 それとも意味が分からないから座りなおしたのだろうか。
 
 謎は深まるばかりだと思っていたら「平凡で自分だけおいしい思いをして見下してるんだろ」と紙飛行機がやってきた。小さな紙飛行機だがきちんと折られている。性格が出ると思いながら着た方向を振り返って確認する。風紀でチェックしている書類でよく見る筆跡。間違いなく会長のものだ。
 
 おいしい思いをしてるのは美形だろうと返したいが言葉をよくよく噛み砕くとつまり会長は平凡であるオレに嫉妬して嫌っている。平凡になりたがるなんて美形は大変だと思ってやるだけの心のゆとりはない。
 
 ただブーブークッションで羞恥心を刺激されたのなら八つ当たりの一つでもしたくなったのかもしれない。
 オレは平凡らしく当たり障りなく生きるために笑ってやり過ごすことにした。
 
 副会長に最低だと罵られて平凡は良いですねと言われたところでオレの顔は変わりない。
 嫌われてもこのまま生きていくしかないのだ。
 
 とりあえず、生徒会の言葉は全部ツンデレだと思い込もうそう、これがいわゆるツンデレ。
 そうだ、そうに違いない。そう思っていればオレの心はまだ楽だ。





※ちょっと分かりにくいですかね?

嫌われ方が「平凡だからオレたちみたいな苦労を知らねえだろー」っていう生徒会(二人)とガチで嫌われてる?いやいや、それにしてはちょっとおかしいからツンデレだツンデレそう思っておこう(自己暗示)っていう風紀委員長。

リクエスト内容を見て「会長と副会長に褒めてるんだかけなしているんだか分からない変な愛され方をしてる風紀委員長」というのが思い浮かんで……そんな感じです。

美形すぎて校外を歩くと(自称)友達や舎弟が増えていく会長と副会長は生きていくのが結構大変そう。



風紀委員長と会長が友達になれたら……

「おまえばっかりいろんな奴と話しててズルいっ」
「会長が動くと親衛隊がうるさいだろ」
「クソっ、これだから平凡は楽なんだよ。人生イージーモードですか? よかったですね!!」
「拗ねてても顔崩れねえよなー。黒いスーツ着てモデルガン構えてほしいわ」
「おまえを撃ち殺すぞっ。死ね、平凡、死ねっ」

多分こんな感じになる。
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