・気づいた時にはこのありさま!犯人は俺だ!!
※転入生の同室になった平凡。食堂のワンシーンからのスタート。よくあるようでよくない平凡受け。
会長と転入生がキスをしているのを見て最近もやもやしていた気持ちが名前を持つ。
気づいてしまったからには、このままではいられない。
会長と転入生は未だに言い争っている。
どうやら二人がキスをしたのは偶然の事故らしい。
挑みかかるような転入生のテンションにてっきり知り合いなのかと思っていた。
これからしなければならないことを考えて勘違いだったと思い直すことをやめる。
二人は知り合いで会長は浮気をしている、その方が話が早い。
俺は平凡で取り立てて目立ったりする才能はない。
だから、安全地帯に行くためにいい機会かもしれない。
そう思うと気分が軽くなる。
食事を終えてトレーを指定の場所に持っていく。
オーダーすると持ってきてはくれるが返却はセルフサービスだ。
生徒会の人間が転入生と揉めている。
全員と別々のタイミングで目があった。
それぞれに頷いたり視線をそらしたりして反応をしておく。
部屋に戻って転入生の愚痴を聞く前に生徒会長に「別れよう。ごめん」とメッセージを送る。
すぐに電話がかかってきた。
『どういうことだ! 別れるって!!』
「転入生とキスしているのを見て、気づいたんだ」
これは本当だ。
薄々そうだとは思っていた。
でも、決定的だったのは食堂でのあのシーン。
「俺と会長は合わないよ。……ずっと思ってた」
息を飲むような会長に同情することはない。
もう別れたつもりの俺からすれば会長は会長でしかなく恋人じゃない。
友人でもない相手なのでどうでもいい。
冷たいのかもしれない。
でも、本心をそのまま伝えないだけ俺は優しいと思う。
人にはどうしようもない性癖がある。
やめよう、いけないと思っても女装してしまうとか、SMが好きだとか、幼児に欲情するとか。
俺にとって恋愛感情がそれだ。
恋をすると奴隷になる。
愛しい人に身も心も全て捧げたい。
見返りなんか求めない。
ただ相手を好きなことだけで満足して尽くして慈しむ。
これは一方的に相手を愛することを目的としているわけでもない。
恋人同士になればもちろん嬉しい。
片思いよりも両思いの方が幸せだ。
でも、関係が安定すると途端に退屈になる。
恋愛のハラハラドキドキに溺れたい。
俺はたぶんそう思っている。
好きになった相手にどこまでも尽くせるのは相手に好かれようという気持ちがあるからだ。
自分をよく見せるために俺はなんだって出来た。
相手の好みをリサーチして自分から話題を振ったり、料理を作ったり、植物を育てたり。
相手から好かれようと思って行動することは苦じゃなかった。
この性質で俺は平凡なはずの頭をときどき学年トップにまでする。
好きな人によく思われる、そのためだけに勉強も頑張れる。
いつもが平均的だと知っているからこそ相手も俺の頑張りを認めて好感を持ってくれる。
掛けた時間や情熱の分だけ相手が自分を好きになってくれると思えば俺はなんでも出来た。
恋愛は楽しい。中毒になってしまうほどにハマっている。
最初は先輩や教師だったので俺は自分の性質をわかっていなかった。
年上の彼らはある程度大人で学年が変わったり会う時間が減ると自然消滅した。
それを悲しいと思わないことを俺は疑問に感じなかった。
学生の、ましてや男同士の恋愛はこんなものだと割り切れていた。割り切れてしまえていた。
俺は恋に恋していて「誰かを好きになっている」状態が好きなだけだった。
もともと愛されるよりも愛したいと思ってしまうので恋愛の倦怠期を乗り越えられない。
甘酸っぱいふわふわとした感情や相手から嫌われることを怯えて慎重になる、そんな頭を使うところが好きだ。
言い方は悪いけれど、きっとゲームをしている感覚がある。
つまり、好きになった相手の好感度を上げて両思いになるのが楽しい。
両思いになって恋人同士を経験してその後に大きな変化がなければイベント終了でエンディング。
そうしたら相手に飽きてしまう。
人によってはお気に入りキャラのエピソードを何度も見るのかもしれない。
俺は違う。
一度で十分だ。
これは本を読む際に一文を時間をかけて読み込んで読み返すことを一切しない派と軽く流し読みを数度繰り返して頭に入れる派と気に入った本は何度でも読む派とかそういう派閥の違いだ。
俺は相手の人となりを把握したと感じて、相手から嫌われない立ち振る舞いを覚えた時点でゲームをクリアした気になって相手への愛情が過去のものになる。
心がスッと冷める。
目新しいことがこの先起きないと思うと退屈だった。
相手を自分に惚れさせたら飽きてしまうなんて美形にだけ許された遊び人の特権を平凡顔の俺は持っていた。
見えない地雷だろう。
性癖なのでどうしようもない。
永遠に俺になびかない人がいればあるいは飽きることもないかもしれない。
ふと、そんなことを思うが、まるっきり脈のない相手を俺が好きになることはないので難しい。
会長とは恋人になってそろそろ半年だった。
疑り深く神経質で面倒な人だったので恋人になるまでも苦労したし、恋人になってからも気が抜けなかった。
好かれていないと思って切なくなる半面、愛されたいと思って会長に好かれるためにどんなことでもやれた。
愛とは与えるものであるというのが俺の心情なのかもしれない。
懐かない猫に自分は敵ではないとアピールを続けてエサを与えている感覚に近い。
思い出しても楽しい半年間だったと断言できる。
それでも、コツをつかんでしまうとダメだ。
会長が俺のどんな言動でどんな反応を示すのかパターンが見えてしまうと一気に萎える。
ある一定の時期を過ぎると俺の恋人になった相手は誰もが何をしても許してくれるようになってしまう。
たぶん、恋人の前の期間に尽くしすぎているからだ。
愛されようと必死になっている姿を見ているから大体ことは許してしまえるらしい。
そうすると完全クリアおめでとうの気分になって俺の恋愛は過去のものになる。
恋愛は成就するまでが面白い。
そのあとは後日談として少しだけ味わうのもいいけれど、それ以上は退屈だ。
変化がないので時間の無駄に思えてしまう。
俺は中高あわせて五年ほどで会長以外にも生徒会の人間、親衛隊の幹部たち、二十人程度とは付き合った。
同時ではないので俺の飽きっぽさと切り替わりようがよくわかる。
一番長く続いて半年な時点でダメな人間だ。
性癖は性格とは違う。
切り離せないものはどうしようもない。
俺は会長との恋を一方的な形とはいえ終わらせて新しい恋を味わうことにした。
同室になった転入生だ。見た目も性格も悪くない奴だったので最初から好感度は高かった。
男との恋愛に免疫がないという攻略が難しいところにも惹かれてしまった。
転入生を理由にしてイジメを受けても愛する人のために健気に耐える自分を想像して楽しかった。
自覚のないマゾなのかと思うほど傷が増えても気にならない。
俺は好きな相手に愛されたくて必死だった。
以前付き合っていて俺の都合で勝手に別れた生徒会の人間や親衛隊の幹部たちと距離が近くなっていることにも気づいていなかった。好きな相手しか見てはいない。
そんな中、親衛隊の幹部たちに捕まった。
俺からすると転入生に嫌がらせをする敵だが彼らからすると謎な思考の元恋人。
彼らは自分が別れを告げられた理由が分からないんだろう。
平凡な俺にもてあそばれたなんて誰にも言えないだろうし、考え付かないはずだ。
顔面格差で学園内で俺がいじめられた、そんなことを思って自分の心に落としどころを見出しただろう。
少なくとも何人かがそうだったので俺は思い込んでいた。別れを告げればそれで終わりだと勘違いしていた。
生徒会の人間たちから未練のような視線は感じた。
それでも、一過性だと切り捨てて忘れていた。
先輩や教師のように当たり障りのない自然消滅ができない相手がいることを重く受け止めなかった。
結果がこれだ。
元恋人たちに輪姦され、それを撮影された。
一度は付き合った相手なのでキスの仕方ひとつとっても身体が覚えていて反応する。
心は終わったものに対してなんの動きも見せないが、身体は違う。
会長と性的な接触がなかったこともあり乱れまくった。
俺を犯している中の一人が直接的な卑猥な言葉が好きだと覚えていた。
そのため彼に触れられると淫乱としか思えない言葉を簡単に吐き出してしまう。
無理矢理に抱かれているのに、撮影されていると分かった上で相手を喜ばせようとしてしまう。
自分でもわからない心の動きだ。
想像通りに撮影した映像で脅された。
転入生に近づくと俺を制裁しなければならない。
そうしないと生徒たちから不満が出る。だから、元恋人たちは俺を助けたい気持ちもあってこんなことをした。
一方的に別れを告げた最悪な人間にも情けをかける彼らに惚れ直したし、状況に興奮した。
男同士の恋愛に腰が引けている転入生に輪姦されてよがっている映像は鬼門だ。
ドン引きは確実。
そう思うと映像は転入生に絶対に見せられない。
元恋人たちである親衛隊の幹部の言いなりにならないといけない。
その上で転入生に俺を好きになってもらう。
何重にもある障害をくぐりぬけなければいけないと思うと燃えてしまう。
愛は越えなければならないハードルが高いほど重くなる。
輪姦される前よりもっと俺は転入生のことが好きになっていた。
親衛隊の幹部たちは容赦なく俺を脅した。
昼間から身体を求められたし、恋人時代に作った料理を作らされたり、二人っきりのときは恋人だったときと同じ態度を求められる。
転入生に輪姦の事実を暴露されないように俺は必死で指示に従った。
そのうち、親衛隊との関係が生徒会役員たちにもバレる。
そこから生徒会のやつらは俺が親衛隊に脅されて自分たちと別れたのだと勘違いした。
一度は好きになった相手だからか彼らは俺を悪く言わない。俺がクズなんだと思わないようにしていた。
事実を伝えるべきか迷いながら俺は転入生に恋していたので彼らの感じ方はどうでもよかった。
そして、結果として俺を襲う人間の数が増え、俺を脅す映像の数も増えていった。
難易度が上がりすぎて詰んでしまった気もするが、それでも俺は転入生への恋愛感情を持ったままだった。
好きではない相手に好きな相手のために抱かれるという歪んだ状況に悦びを見出していた。
もしかしてではなく確実にマゾだ。
転入生と会長が付き合いだしたと聞いて俺はもちろん会長に嫉妬する。
横取りされた気分だ。
男同士の恋愛に興味がなかった転入生に俺を好きだと言ってもらいたかった。俺を好きになってもらいたかった。
その思いは半端な形で叶えられることになる。
転入生はセックスに自分の尻を使うのは嫌だと主張した。
それでも、恋人とセックスしたい。
そこで、俺にお願いをしてきた。
転入生が俺を頼ってきた。それが嬉しくて俺は安請け合いしてしまう。
俺と会長と転入生との3P。
二輪挿しは身体に負担がかかるが、好きな相手である転入生が喜んでくれて嬉しい。
だから、俺は頼まれれば何度でもした。
俺を好きになってくれなくても片思いでもいい、そんないつもの恋愛初期症状を患っていた。
時間が経つと当然、転入生への熱も冷める。
気づくと三角関係のような切ない気持ちはなく、性欲に憑りつかれている転入生に呆れる。
会長が転入生ではなく俺に気持ちが向いているのを利用して三人でいろいろなエッチなことを試したからか肉体的に転入生は俺に骨抜きだった。
転入生の操り方を俺は習得してしまったのだ。
そのせいで俺は難攻不落だと思った転入生を攻略完了と見なしてしまった。
飽きた相手はどうでもいいので誘われても乗ることはない。
親衛隊や生徒会役員たちが撮っていた映像も俺にとって拘束力はなくなる。
また新しい恋を始めよう。
いつものようにそう思っていたら会長は笑った。
見たことがない、よどんだ瞳に思わず惹かれそうになる。
一度、付き合った相手ともう一度付き合うことは今までない。
攻略した後の出がらしに興味を持つはずがないからだ。
「映像を残させたのは失敗だったな」
笑いながら会長は映像を俺の両親に見せると脅してきた。
会長は面倒くさくて繊細で神経質でも他人を陥れる人じゃない。
嫌がらせで脅したり、自分の復讐のために汚い手は使わない。
それなのに俺をこうして脅している。
会長じゃない、会長の姿に気づくと俺は恋に落ちていた。
足の指を舐めさせられたり、放置プレイされたり、オモチャにされて遊ばれた。
そこに一切の愛はない。
まだ愛はないことに俺はやりがいを覚えてしまう。
好感度が低ければ低いほど上がった瞬間の喜びは強い。
できないことを褒められると嬉しいように俺は会長に従順な顔を見せ、会長からの愛情を得ようと必死になった。
まるで恋愛初期症状だ。
楽しい楽しい時間は転入生や元恋人たちによって延長戦に突入した。
つまり、高校を卒業しても俺たちの修羅場は続いたのだ。
いつになれば会長が俺を好きになるのか考えている内に会長は生徒会長ではなく俺の就職している会社の会長になっていた。
肉体関係は継続して定期的にあるけれど、性処理に使われているレベルで愛情を感じない。
そうかと思えば弱みを見せたり俺に心を傾ける言動をするので諦めきれずに思い続けてしまう。
気づけば中年で会長以外の誰とも性的なことをしていない。
一途だと自分でも思うが関係は安定しない。会長を完全に振り向かせるまで手が引けないと思った。
そして、この状況が会長の思惑通りだなんて俺は死んでも気づかない。
愛が大きすぎると愛に溺れて愛が見えないのかもしれない。
2017/02/24
※ヤンデレ×ビッチがすっごい好きで中編で考えましたが、短編でこういう風にさらっと流す方が読みやすいのかなと感じています。
別にそんなことはなく各人物の内心を知りたいとか思う方がいたら気軽に声をかけてください。
(連載にすると総受け要素が強くなって、スポットライトが当たる人物が、あっちいったり、こっちいったりの印象になりますからよくないのかなって)
主人公は恋愛シミュレーションゲームをしているつもりはなくても結果的にそうなっている。一途に見せかけたビッチ。
だから、本当の意味で人の気持ちを理解しきれないので会長の方が一枚上手。
たぶん、主人公の男性遍歴はバレてる。
主人公の初恋が義理の父親だっていうのも知っているから容赦なくそこを脅しに使う。
安定のないハラハラドキドキスリリングさを常にお届けする会長はある意味とてもマメな愛妻家かもしれない。
(自分のためではなく主人公の性癖を満たすためにあれこれしているので)
こういう状況は肉体的な浮気すら愛する人のためという自己犠牲の上で行われるので、ぐちゃぐちゃでドロドロな感じ。
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