・平凡腐男子暴言録

※タイトルそのまま。



 男は好きじゃないしホモでもないがイケメンが好きだ。
 アイドルやダンサーの写真は何時間でも眺めていられる。
 とくに男二人で絡んだショットは見ていてテンションが上がった。
 自分がその立ち位置になりたいとは思わない。
 俺の顔面が芸能人レベルだったらイケメンと写真を撮りまくったかもしれないが残念ながら平凡で並な見た目だ。
 
 萌えとはなんであるのかと問われれば湧き上がる衝動だと答えたい。
 
 俺の中には男の色香に反応してテンションが爆上げするスイッチがついている。
 男と男が肩を寄せ合ったりする姿に我を忘れて取り乱したくなる。
 ちょっとした何気ない触れあいでも構わない。
 三秒間だけ見つめ合うなんていう二人だけの秘密にもときめく。
 もちろんこれらはイケメン同士という前提だ。

 本当の同性愛者を見つめたいのではなく女が排除された空間で見目麗しい人間が楽しげにしている姿が見たいだけだ。
 アイドルたちがお笑い芸人もビックリの身体を張った企画をやらされている姿なんて堪らない。
 録画して何度も見てしまう。
 アイドルオタというよりメンバー同士を心配したり励ましたり庇ったりする姿にテンションが上がる。
 かわいいとか格好いいとかイケメンを連呼するが股間が反応することはない。
 だから俺はべつにホモじゃない。
 男が好きなわけじゃない。
 イケメンたちがきゃっきゃうふふするのを見ていたいだけ。
 
 行動が腐男子と呼ばれる人種だと教えられたのは高校になってからだ。
 同室者が自分の姉と同じだと遠い目で言った。
 だが、本当に腐男子なんだろうか。
 
「俺は腐女子と趣味が合わねえわ」
「……あっそ」
 
 同室者の姉から借りた小説漫画同人誌を返却する。
 同室者自身は興味がないらしい。
 冷え切った対応だが今に始まったことじゃない。
 
「受け攻めが逆ならまだいいんだよ。三白眼な強面で周囲から誤解されちゃう本当は心優しく面倒見がいいこっちの子が受けならいいんだよ!! 攻めのことを勝手に好きになってキスした癖にその後はずっと避けまくって無視し続けたと思ったら別のやつに抱きしめられてグラついてるとか、この受けビッチだろ。クズじゃねえ?」
「知らねえ。興味ねえから」
「勝手に怖がられて周りが避けられてぼっちな攻めが避けられてショックを受けないわけないのに自分の気持ちでいっぱいいっぱいなクズ受け。しかも当て馬に攻めがなぜか怒られるってクソ展開!! 攻めは何も悪くないじゃん。世界は受けのために回ってんの? 理不尽を攻めだけが被るの? 逆で想像したらクズ攻めに振りまわれる強面でちょっと臆病で人付き合いベタな受けで超かわいくて好みなんですけど。どうしよう!!」
「興味ねえって言ってんだろ」
 
 俺の熱い語りは同室者に蹴り飛ばされて終わった。
 同室者の姉とは壊滅的に好みが合わない。
 美形受けも弱々しい受けも嫌いなわけじゃないけれど、ツボが合わない。
 ガチムチ受けも好きなシチュエーションの話もいくつかあったけれどピンとくるものがなかった。
 
「腐女子は受けを依怙贔屓する生物なのか」
「お前は?」
「俺は性格がいいやつを応援する。腐女子は受けがちやほやされてんのがみたいんだろ」
「偏見スゲーな。……姉ちゃんはこの黒髪は銀髪のための穴だって言ってた」
「クールビューティー俺様攻めね! これは確かに良かった!! けどな、調子のってる俺様が喘いでるとこが超見たくなる話だったね」
 
 興味がないと言いながら同室者は一冊の本を指さした。
 スッキリとした絵柄なのに描きこみがきちんとされていて漫画として面白かった作品だ。
 エロは控えめ。攻めのキャラの強さで駆け抜けていったコメディで受けは添え物だった。
 別の作品の受けと入れ替わっても違和感がない無個性タイプ。
 
「BLは少女漫画ポルノみたいな側面があると言いつつドラマチックさとロマンチックさがない作品が多いのはなんでだ。少女漫画ならもっと胸キュン頑張れよ」
「興味ねえから知らねえって」
「面白いのもあったけど、受け攻めがちげーんだよっ」
「知らねえっ!」
 
 ぐだぐだと言い続ける俺の頭を叩く同室者。
 興味ない、知らないと言いつつ分かる範囲で話に付き合ってくれる良いヤツだ。
 テレビで見ている芸能人にテンションを上げる俺は漫画的表現が合わないのかもしれない。
 それにしても自分の好きな相手を無理やり襲っておいて「お前が悪い」と口にする攻めは死ねばいい。
 強姦罪は夫婦でも適用されるというのに自分の性欲を相手に押しつけて責任転嫁をはかって平然としているなんて気持ち悪い。

「やっぱ現実のイケメンが最高だ……。倫理観や道徳観がないのは無理。女子が抜く用の謎空間は俺の求めているものじゃない」

 腐女子への決別宣言を口にすると同室者は溜め息を吐きながら「この学校に来てよかったか?」と聞いてきた。
 良かったが良くなかった。
 現実は現実で俺の理想とは違う。
 当たり前のことだが無駄なことをした。

「イケメンは好きだがチャラ男パリピは別に好きじゃねえんだ。アイドルは中学生から頑張ってるし俳優も下積みしんどそうな人が多いし、弟を大学に行かせるために自分は中卒、ホストで働いたりのエピソード聞くと金持ちの坊ちゃんへの好感度下がんだよなあ」
「男子校に来た理由は芸能人になりそうな奴を発掘するためじゃないだろ」
「そうだけど! けどな、ここが全寮制で一番イケメン率が高いから入学したっていうのに……くそっ」
 
 生徒会は漫画なんかで見たものと同様にイケメンを取り揃えてくれていた。
 ありがとうと誰にともなく言いたい眼福に入学式で俺のテンションは上がりまくった。
 そのせいで同室者にあっさりと趣味を暴露してしまった。
 テンションが高いと口はすべるものだ。
 
「転入生と生徒会のカプとか想像しても全く萌えない。生徒会だけの絡みならわりと萌えるんだけど、転入生が萌えないゴミすぎる」
「人をゴミ扱いするなよ」
「萌えないと燃えないをかけたかっただけで」
「軽口で傷つく人もいる」
「すみませーん。でも、萌えねえーのはどうしたらいいんだよ。なんでだよ。生徒会のイケメンたちは歌って踊れてキラキラしてるから俺の大好物のイケメンなんだけど……」
「転入生がお前好みの受けじゃねえってことは攻めにすれば?」
 
 興味ないと言いつつも指摘は的確だ。
 攻めなら確かにちょっといい。
 だが、あくまでもちょっとだ。
 全面的に身をゆだねたいほどじゃない。
 
「イケメン同士の認め合い、からかい合い、信頼し合ってフォローし合って求め合ってる姿が見たい」
「姉ちゃんの本なんかそんなのばっかだろ?」
「好きだって言えば何しても許されるみたいなクソみたいな展開は読みたくねえんだよ!! かわいそうな過去があれば黒幕キャラの残虐非道が許される少年漫画みたいな様式美はイラつく!!」
「……今回のチョイスが悪かっただけじゃねえの」
「受けが関係すると知能指数が下がる攻めとか引くわ」
「あぁ、お前が生徒会をムリになった理由はそこか。転入生のまわりでバカ晒してるのがダメってことだろ」
 
 同室者がなるほどとうなずく。
 俺は全く納得できない。
 
「アホなイケメンは好きだよ!! バラエティめっちゃ見てる!!」
「お前、これはテレビ的な面白さのための演技でバカを演じてるだけって擁護激しい」
「だってマジだって!! 個々でキャラ付けしていかないとグループの評価も露出も下がるし」
「生徒会にはその擁護はしてやらねえの?」
「カメラ回ってないのに誰向けの演技すんだよ。俺か? 俺たち一般生徒に自分たちをアホに見せたいの?」

 転入生を問答無用で生徒会の人間がちやほやしているわけじゃない。
 いろいろと目撃した漫画チックなミラクルイベントがあった。
 でも、まったく食指が動かない。
 
「生徒会メンバーが倒れ込んで抱き合ったのを目撃した転入生が『俺は何も見てないから! ごゆっくり』とか言いながら走っていく昭和な演出は笑うべきかもしれない」
「そうだ、笑ってやれ」
「スゲー冷めた。転入生のビジュアルも別に嫌いじゃなかったのに今はもう無理」
「方向転換としては?」
「スポーツ系の先輩後輩見て和むぐらいしかすることがねえかも……」
 
 運動部の上下関係は俺の好きな要素の一つだがこの学園は生徒の自主性に任せているので監督もコーチも生徒。
 あまりビシバシしている様子がない。
 それで成功を収めているので鬼コーチを呼んだ方がいいとも言えない。
 
「会長と副会長がキスしてても何も感じない?」
「どうせ転入生をやきもきさせるためかと思うと気分が萎える」
「……やきもきさせたいのが風紀委員長だった場合は?」
「いいところを攻めてきたが、ねえなあ。会長の素がかわいい子犬ちゃん系で副会長が蛇野郎で風紀委員長がド鬼畜ヤンデレだったら俺は会長のことを愛し続けると誓うけど」
「見た目と中身にギャップがあるのがいいのか」
「誇り高いオオカミかと思ったら愛玩用の室内犬で人懐っこいって普通に萌える」
「温和で美人系な副会長が蛇野郎って?」
「会長が虚勢張ってきゃんきゃん吠えてるのを笑ってる姿が蛇っぽい」
「悪口か?」
「風紀委員長が会長に迷惑しているって俺に愚痴ってくるのが実は惚気だったって想像すると壁をドンドン叩きたくなる」
 
 ド鬼畜ヤンデレだから表現が分かりにくかっただけで風紀委員長の言葉は全部、会長への愛情だったのかもしれない。
 思い出すといい感じにテンションが上がったので俺は自分の部屋に引きこもることにした。
 なんだかんだで話に付き合ってくれる同室者はいいヤツだ。
 
 でも、俺は腐男子じゃないだろう。
 全然、世の腐女子と好みのツボが合わない。
 
 
 
 
「って感じだ」
 
 ひとしきり語ってから自分の部屋に帰って行った自称平凡の生徒会親衛隊総括。
 好き勝手話し続けた内容は生徒会および転入生にしっかり聞こえている。
 電話の向こう側から落胆と嘆きと笑い声が響く。
 
『どうもウケが悪いと思ったが、全面的にお前の姉のせいだったな』
 
 冷静に会長が口にする。
 泣き笑いみたいな声で「やんなるわ」と騒いでいるのは会計と転入生だろう。
 
『少しも喜ばないどころか滑りまくりました』
 
 副会長が疲れた声で言う。
 悲しそうに肩を落としている姿が目に浮かぶ。
 
「それに関してはうちの姉ちゃんが悪かった。でも、やりたがったのはアンタらだ」
 
 生徒会の人間と俺は幼なじみだ。
 姉ちゃんが腐女子なのもこいつらはみんな知っている。
 そして、俺が暴露したことで俺の同室者の趣味もまた知っている。
 そうじゃなければ新入生を歓迎する際の催しで男のアイドルグループの真似なんかするわけない。
 本当は女装して女アイドルの歌を流しながら踊る予定だった。
 副会長も書記も庶務も補佐たちもみんな嫌がった。
 乗り気だったのは会計だけだ。
 それでも生徒を笑わせて面白がらせるのが生徒会の務めだと会長が言うから女装が強行されかかった。
 
 けれど外部から進学してきた同室者の学園に対する期待を俺が伝えたら会長は方向転換した。
 すなわち、BL劇場だ。
 この学園に来てよかったと思ってもらうためであるのと同時に自分の限界に挑戦するための試練。
 会長が変人で俺様気質の暴君であるのは事実だが男色家ではない。
 以前は、という但し書きがつくかもしれないが会長は普通の生徒だった。
 美形でありユーモアを履き違えた人間であっても無茶をしようとはしない普通のやつだった。
 
『どうしたら以前みたいに「握手してください」ってキラキラした瞳で言ってくれるんだ!!』
『生BLより生アイドルがいいんじゃないですか』
『なになに? デビューしちゃう? うちの親の事務所にしよう!! 儲けさせて!』
 
 会長の切実な言葉に副会長が提案する。
 それに会計が多少現実感のある方向性をぶつけるいつもの流れだ。
 このまま放っておくと彼らは歌って踊れるアイドルユニットとして売り出されるかもしれない。
 
『そうしたら今までのはデビュー前のコントでしたってことになります? さすがにクラスメイトにかわいそうな子を見る目を向けられ続けるのつらいです』

 わざわざ転入させられた会長の弟がうんざりした声を出す。
 兄たちがアイドルになることはどうでもいいらしい。
 
「方向性としては会長が子犬メンタルを見せればいい」

 先ほど得た情報を反復する。
 同室者の興味を生徒会に戻さなければ先がない。

『風紀のほうが犬だぞ。俺がクルミを投げつけると走って取りに行く』
『それはただゴミ拾いをしてくれてるだけです』
『オオカミのような格好よさと子犬のような愛らしさを俺が兼ね備えていると見せつけるのは難しくない』
『会長が忠犬だっていうのは我々みんな知っています』
 
 会長と副会長が仲良く話しているのを聞きながらこういう無自覚さを同室者がどうとらえるのか気になった。
 聞いている限りだと姉がよく口にする対等な男同士の関係に興奮を覚えているらしい。
 だが、姉から借りたものは好みに合わない。
 つまり口に出している以外の外せない要素があるのかもしれない。
 それが分からない限り生徒会役員たちは生徒会親衛隊総括を喜ばせることは難しいだろう。

 親衛隊たちを総括するほどの存在に外部進学でやってきた同室者がなったのは誰よりも生徒会の人間を愛していたからだ。タマシイをささげるほどの愛を見せていたのに近頃は白けた顔ばかり。
 
 ふと思うのはこの状況の真実を教えるのが一番いい気がする。
 会長がたった一人を喜ばせるためだけに大掛かりなことをしているのを誰も止めない、その状況は同室者が好きなシチュエーションだ。
 真実が知らされるタイミングにもよるが会長を嫌うことにはならないはずだ。
 ここまでやって無意味で終わらせるわけにはいかない。
 
 でも、同室者なら俺の姉の好感度を上げるための芝居だという方が感動するかもしれない。
 家族を味方につけてから会長が俺を攻略しようとするとなれば感極まって泣き出しそうだ。
 少なくとも俺の姉は泣く。





※腐女子、腐男子の面倒くさいところが詰まった話の序章?
始まってもいない話ですみません。

会長はガチラブ寄りですが無自覚。
どうにかして自分を見てもらうことに必死。

他の生徒会役員は会長応援と自分たちを熱烈に応援してくれる腐男子が好き。

学園の生徒たちは生徒会役員たちがバカバカしいコントをしてると思って流してます。
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