・男が子供を産む世界?

※タイトルまんまで相手は触手です。(ネタバレ)




 この世界には神子というものがいて、よく分からないけれど世界を平和に保っているらしい。
 いろいろと国の起こりとか世界の在り方を聞いたけれど右から左。
 その日に食べるものも困ることがある生活からすると昔懐かしいファンタジー設定なんかどうでもいい。
 チートで楽々大金持ちとか性善説を押し売りして困った人を助けるとか俺には向いていない。
 
 近年の神子の役割というのは子宝に恵まれるようにとか子孫繁栄のために祈ること。
 それだけは頭に入っている。
 世界の常識だから知らないとさすがに恥ずかしい。
 
 そして、徴兵よろしく指定された年齢の男子が一か所に集められて一定期間審査を受ける。
 この国では青少年の社交場とか出世のための最後のチャンスと言われているらしい。
 俺にはあまり関係ないことだ。
 神子に選ばれるはずがないのだから。
 
 
 俺は物心つくかつかないかの頃に夜盗に襲われた。
 なんとか逃げた時には頭の中がおかしなことになっていた。
 自分が子供であるという意識はしっかり把握できているのに知らない知識が頭の中に溢れている。
 俺はそこから「異世界転生」という単語を引っ張ってきた。
 昔に読んだ小説でそんな設定の話があった。
 
 生まれ直した主人公が別の世界の知識を使って楽に幸せをつかみ取る話。
 ストレスフリーな俺強い物語。
 俺もそうなるのかと思えば違う。
 夜盗に襲われたショックで頭がおかしくなったと跡継ぎの座から降ろされて辺境の街に押し込められた。
 自然豊かで静かで何もないのでいいのかもしれないが何もなさ過ぎて毎日ひもじい思いをした。
 ここで前世の知識を生かした俺強いを発揮するシーンだが農業に興味はないので何も知らない。
 
 
 年齢とあっていない落ち着きを持っているなんて言われるぐらいで俺の前世の知識なんてこの世界に馴染みにくくなるだけで良いことは何もなかった。
 神子の制度だって馴染みがなくてよく分からない。
 世界地図も見知ったものではないので把握できない。
 祈りで世界が救えるわけがないと斜めに見てしまうのはこの世界を馬鹿にしているからだろう。
 宗教を政治の道具にしている国なのだと分かっていても大掛かりな行動に呆れる。
 
 前世でも独裁政権が青少年に対してあれこれしていたりするので別におかしなことじゃないのかもしれない。
 そう思いながら俺は神子候補として目立たないようにひっそりと生きていた。
 
 
「……俺がですか?」
 
 
 それなのに何故か選ばれてしまった神子という大役。
 神子は王族よりも権力がある。というか神子のおかげで王族が生まれると聞くから重要なんだろう。
 祈りで子供が生まれるとは思わないが信じるものがあれば妊婦さんも安心して出産できるとかそういうものだろう。
 妊娠すると感情が不安定になると聞くから精神的な支えはきっと大切だ。
 安産のお守りはすごく売れると聞いたことがある。
 
「そう、お前が神子に選ばれた。五年間、いいや場合によっては生涯を神子として過ごしてもらう」
 
 教官と呼ばれる銀髪というより薄紫色の髪の毛を腰まで伸ばした美形に言われる。
 いつも厳しい表情が今日は和らいでいる。
 
「光栄なことだ。これ以上にない名誉だろう」
 
 俺が驚いて固まっていると思っているのか教官は背中をたたいてきた。
 スキンシップなどしない人なので反応できずにいたら「早速相手と面会しよう」と場所を移動することになった。
 どういうことか分からずにいたら一人の王様と三人の王子様とシベリアンハスキーのような犬がいた。
 
「まず、お前に神子を決めた理由だが順応力があり落ち着いていること。無駄に意地を張らず素直であること。約束は必ず守り通そうとする正しさ。一途に一つのことに向き合うことが出来る熱意。そういった点からお前なら神子としての子作りの義務から無用な逃避をすることはないと結論を出した」
 
 教官の言葉に王様と王子様たちと犬がうなずく。
 ちょっとよく分からない。
 神子というのは美形で頭がいい人がなる役職じゃないんだろうか。
 少なくとも俺はそう聞いていた。
 
「子育てが出来る人間は複数いるが産み続けるとなるとなかなか難しいものがある。昔のように十月十日ではなく三カ月あるいは半年周期となると人間の精神は一定を保てない。バランスが乱れると壊れてしまう」
 
 言われていることがよく分からず首をかしげると「神子は五年もせずに使い物にならなくなるというがそれはいささか問題がある」と教官は補足のように言った。神子が体調不良あるいは精神に異常をきたしても外にはバレないようにしているという恐ろしい話だ。
 
「以前は恋人のある者でも問答無用で神子にしていたから破損率が高かったが現在はそういったことはない。きちんと神子の意思を尊重している」
 
 そこまで言って教官は王様と王子様たちと犬を紹介する。
 王様と王子様たちは俺の国の王様と王子様たちなのでわかる。
 犬はなんと神獣と呼ばれる尊いものらしい。
 
「以前は王族が勝手に神子に押し付けていた義務だが、今は違う」
 
 王様が口を開いた。深みのある大人の渋い声だ。
 
「神子であるおまえにこそ選択権がある。我々の中の誰に種付けしてもらいたい?」
 
 ダンディキングはそんな訳の分からないことを言う。
 神子は子宝に恵まれるようにとか子孫繁栄のために祈るのが仕事じゃないのか。
 俺は聞き流していた神子の常識やこの世界の生殖事情を勘違いしていることにやっと気が付いた。
 
 男同士で妊娠しないなんていうのは俺の勝手な思い込みだ。
 前世の知識があるせいで現世で勘違いしてしまうことはよくあった。
 だが、誰も思わないだろう。男が妊娠できるなんて。
 
「……ここにいる相手だけですか?」
 
 俺が口に出来たのはそれだけだ。
 恋人はいないがここに居る人間は誰も好みじゃないので辞退したい、そういう気持ちは許されるんだろうか。
 一度神子になってしまった以上は妊娠出産を経験しないといけないのかもしれない。
 正直言って俺には無理だ。
 男同士でのセックスも犬とのセックスも心理的なハードルが高すぎる。
 
 王子様たちが自分をアピールしようと自己紹介をしてくれるが生理的に無理。
 気持ちが悪いというよりも全く考えられない。
 友人になれるかもしれないが性的な目で見れない。
 
「……教官、ハスターさまはダメでしょうか?」
 
 ハスターとは巨大なタコのような化け物だ。
 化け物というのは俺の感覚であってみんな崇め称えている。
 長寿で具体的なことは何一つわからないがスゴイらしい。
 
 前世の知識がある俺からすると卑猥な生物に見える。
 粘液に濡れた触手。神経毒が仕込まれているという吸盤。
 動きは遅いように見えて捧げられていたイノシシなんかは目にも止まらない速さで食べていた。
 
 男に抱かれて孕まされる自分というのはまったく想像が出来ないが触手に種を植え付けられて産卵するのはきっちりとイメージできる上に少し興味がある。
 俺は昔、触手もののエロ本を集めていた。
 自分に触手が生えたら女の子にエッチないたずらをしたいと思っていたわけじゃない。
 触手であんな風にされたら気持ちよさそうだと思って好きだった。
 ぬるぬるの触手で身体中を愛撫されて普通なら届かない場所を刺激され、穴という穴を同時に犯される。
 異次元の快楽に対する好奇心が芽生えるのは当然だろう。
 
 
 前代未聞だと言われたがハスターさまも俺を憎からず思ってくれていたらしくOK。
 生まれる子供は女子なら王子様たちの嫁、男子なら王家の子供として育てられるらしい。
 この国は王権を大切にしてはいるが王の血筋を第一に考えているわけではない。
 そういうところも俺の知っている前世の知識やファンタジー小説と違うところだ。
 
 欲深い人間同士の争いで戦争連発ということもない。
 ただ代わりにぶつかり合うことがないので技術的なものがあまり発達していないように見える。
 かと思えば前世でも最新といえるような技術が普通にあったりする。シャワートイレとか食べ物が少なくて苦しんでいる辺境の俺の家にもある不思議。昔に現れた勇者が広めて定着させたという。もっと広めるべきものはあったはずだ。なんでよりによってシャワートイレなんだ。




※最初は王様とねっちょり、ヤンデレ王子様たちとの駆け引き、ラブラブ獣姦から読んだ方に選んでもらおうかとも思いましたが異世界転生という前提があるので主人公的にハスターさま一択。

一番大切なハスターさまとのらぶえっちを割愛しているいつかそのあたりをクローズアップしたいですね。

2016/01/23
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