・無気力ビッチは今日もとてもやる気がない下

「……あっ、あんっ、ひっ、せんぁ、せんぱぃ?」
 
 有邨須々木は地味平凡と容姿に関して言われることが多い。
 その一方で、名器とかヤってるときの表情がエロいとも言われる。

 平凡で十人並みの顔なら何も有邨である必要はない。平凡なのだからそのあたりに似た印象の人間はいる。だが有邨ほど襲われることに頓着せず、まな板の上の鯉、据え膳状態になる人間もいない。
 
 今日も昼休みのあとに適当な教室に入って眠っていたら襲われた。

 見ない顔なので先輩だろうと呼びかける有邨に動きをとめる男。
 今年の三年生を示す赤色のネクタイピンを見て有邨は自分の想像が正しかったことを知り「せんぱい」ともう一度呼びかける。眉を寄せた先輩は有邨の頬を撫でる。荒々しい雰囲気とは相反する優しい指使いだった。
 
「あん? オレのこと知らねえでここに居たのか?」
「……んっ、うん。しらない」
 
 見知らぬ先輩のペニスを締め付けながら有邨は答える。
 早くイッて睡眠妨害をやめてほしい気持ちから先輩のペニスを刺激し続けているのだが先輩からしたら誘われているに等しい。疑問はとりあえず無視して先輩は腰を動かした。
 
 厳つい顔で体格のある先輩のペニスは有邨には少し大きくて苦しい。だが、挿入されることに慣れ過ぎている有邨は苦しいが気持ちいいに変換される。動かれるたびに苦しくて少し息が詰まるのに声はとろけて甘えていた。
 
 名前も知らない相手に抱かれているのに「あ、あっ、……おくを、ずこずこ、されるの……いい、これ、すきっ」と有邨は喘ぐ。長く続く縁でもないと割り切った有邨に羞恥心はない。本来強姦ともいえる先輩の行動も有邨には睡眠妨害の意味が強い。問題は犯されていることではなく寝ていたところをゆり起こされたところだ。
 
 快楽から紅潮した頬や瞳をうるませながら考えるのは早く先輩にイッてもらって自分が再び眠りにつくこと。
 無気力である有邨の中で積極性を見せる数少ない欲望こそが睡眠欲だ。
 眠りたいという気持ちは無気力で何もしそたくない有邨を動かす力になる。
 
 いつだって面倒なのでヤラれるままにヤラれている有邨だがマグロでいないことだってできる。
 下腹にすこし力を入れることを意識すると「んっ」と先輩が低く声を上げた。
 
「おまえの、なか……なんだこれ」
「せんぱい、の、せーし……で、孕ませて?」
 
 こう言っておけば大体の男はしらけるか盛るかの二択だ。
 どちらにしても行為が終わるので有邨に損はない。
 
 勃起していても睡眠欲の方が勝っているのでペニスが抜けて放置されれば寝入る。有邨の性欲などそんなものだ。いつだって睡眠欲に負けている。
 
 もちろんこの状態で放置されるとあられもない姿の有邨を見て別の人間がペニスを突っ込んでゆさぶってくる。人によっては激しくして寝ている有邨を起こすんだろう。だが先のことを考えるのを面倒くさがる有邨はとりあえず先輩のペニスを抜くこと考えた。
 
「おま、え……オレにヤラれに来たんじゃねえのか」
「……ここに来たのは眠かっただけ。せんぱいのことは知らない」

 自分のペースが乱されたのか先輩が奥歯を噛みしめて耐えるような顔をする。
 イカないように我慢しているらしい先輩に有邨は「みるく、ちょうだい?」と耳元で囁いてみる。
 人によってこれでさっさとイッてくれるし、場合によっては萎えたと怒鳴ってどこかに行く。
 
 先輩はそのどれでもなかった。肉食獣のような凶悪な微笑みを浮かべて有邨を見る。
 視線の熱に既視感を覚えて有邨は失敗を悟った。

「おまえ具合いいし、オレが飼ってやるよ」

 こういう発言をしてくる人間は多いので有邨もいちいち反論したりしない。
 人に対して自分の意見を言うだけの気力がない。心の中ですこし返事をすることがある程度。それだって「はあ、そうですか」ぐらいの意味のない相槌だ。有邨の気持ちは口に出さなくて正解であることが多い。
 
「そーしたいならしてもいいけど」
「けど、なんだ」
「眠いの」
「……舐めてんな、おまえ」
 
 自分には似たようなことを言ってくる人間が大勢いるけれどそれでもいいのかと口にするのも面倒になってあくびをする。先輩が腰を動かせば気持ちよくて喘ぐが眠いものは眠い。
 
「寝てるおれを便器にしてもいいから……寝させて?」

 首をかしげて甘えてくる有邨に思わず優しい顔を見せそうになった先輩だが急いで否定する。

「この状態で放置はねえだろ」
「入れっぱなしでいられたら、起きたら続き……で、いい?」
 
 どこまでもマイペースな有邨。あるいは高度なSMプレイでお預けをする無自覚女王様なのか。
 対面座位のおかげで目の前の先輩に寄りかかり有邨は寝息を立てだした。
 本当に眠かったので先輩が許してくれると思ったのだ。
 
「おいおい、本当に寝んのかよ」
 
 あどけない寝顔はどこまでもその辺によくいるような顔で特別綺麗でもかわいくもない。
 先輩からすると最初は思い出に一度でいいから抱いてくれと言ってくるような人間の一人だと思って有邨に手を出した。
 
 それが違うとわかっても部屋から出ていけと追い出したりできなかった。いつもなら下半身裸だろうが全裸だろうが気にいらなかったら部屋の外に放り出す。それが先輩だった。そういう勝手な行動が許されていた。ヤッていた最中の生徒が部屋の外でどんな目に合うのか知りながら放置する鬼畜、そう後ろ指をされても気にしない。
 
 そんな先輩が有邨を乱暴に起こすこともせず見守った。
 眠っている有邨の頬を撫でながら、どうするのか考える。

 唇を指で押していると口を開いてしゃぶってくれた。舌が指に絡みつき強く吸い付く。有邨の口にペニスを突っ込んだら気持ちいいのは確実だと思った。
 
 ペニスを入れている下の具合は最高だし、腰を突き上げてみれば眠っているのに「あ、あっ」と小さくかわいい声で反応を示す。自分に抱かれるための身体だとしか思えなくなってくる。シャツのボタンを外して胸をいじれば「あ、あん、あっ」とか細い声を上げて身をよじる。敏感な反応に満足して先輩は有邨にくちづける。指を舐めていた舌が自分の舌に絡まってくるのを感じる。

 タヌキ寝入りを疑いたくなるほど深いキスを交わす。
 有邨もキスで感じている。
 今までした誰とのものよりも気持ちのいいキス。
 セックスの相性よりも先輩にとってそちらの方が重要だった。

 これで有邨が自分のモノじゃないなど先輩には信じられなかった。
 自分のモノでなかったとしてもすぐに振り向かせて夢中にさせてやると決意するぐらいに急激に先輩は有邨に心を持っていかれていた。急速に戻れないところまで落ちてしまった。
 
 そもそも空き教室という名の先輩のねぐらで机をベッドにして眠っていた有邨がおかしい。

 これが本当に偶然なら運命だし、自分を振り向かせるための小細工なら大成功だと先輩は笑う。
 狂暴な笑いは何も知らない生徒はワイルドだと見惚れ、先輩の部下を名乗る不良たちは恐ろしいと顔を青くさせる。
 自分がこれと決めたら食らいついて離さない。有邨に関係を持ってしまった先輩はそういう人間だ。
 
 唇を解放すると荒く息を吐きだしながらも有邨はまだ目覚めない。
 起きたくないというように先輩の肩口に頭を押しあててくる。
 先輩にはそれが自分を信頼している証のように思えて心が震える。
 
 教室にはソファベッドがあり小さいながらに冷蔵庫もある。
 見た目からして普通の教室じゃない。
 扉は本来カギがかかっているが昼の後は開けている。

 生徒が抱かれにやってくるからだ。

 机の上とはいえ堂々と寝ていた有邨が自分の昼食後のデザートだと先輩に判断されるのも不思議ではない。
 食欲を満たしたら性欲を満たしたくなると先輩はある層の人間には有名だった。
 有邨の耳には全く入っていないし、本当にただの空き教室だと思って侵入したのだ。
 ソファで眠らずに机をベッドにしたあたり有邨としては配慮したのだが先輩に伝わりはしない。
 
「あ、んっ……あっ、あ、あぁ、あんっ」
 
 自分に抱かれるために後ろをほぐしてこの部屋で待っている下級生は多い。
 同級生は高等部の一年二年のあいだに目ぼしい相手は全員食べた。先輩は手がはやい人だった。
 自分がモテて好かれることを自覚していた。

 この部屋にいる時点で有邨も自分が好きなのだと思ったが駆け引きにしては本気で眠っている有邨。
 腰を動かすたび、胸をいじるたび、耳に心地のいい、かわいい声を出すが動かずにいると挿入していても寝息だけが首をくすぐる。どうするか考えてしまう。寝ているのを抱いていいと言われたし孕むほどの中出しの希望を貰ったので、有邨を犯すことに決めたが目覚めた有邨にどう接するのかまだ決めきっていない。
 

 有邨の耳を舐めながら先輩は答えを出した。

 
 目の前の自分を先輩と呼んで挿入されながら寝ている相手は自分のことを何とも思っていない。
 じっくりと焦らすように愛撫を与えながら眠っている有邨をとろけさせていく。
 
 目覚めた有邨が卑猥な言葉で自分を欲しがるように胸だけではなく身体中の性感帯を刺激して支配したい。

 無気力で無抵抗すぎる有邨に逆に征服欲を先輩は煽られていた。
 いつもなら生意気で骨のある年下をかわいがっては懐かせて適当に捨てるが、有邨が自分に完全になびいてくるイメージが先輩には湧いてこない。はねっかえりのじゃじゃ馬を調教するのは好きだが、無気力でつかみどころがない有邨に毎秒ごとに興味が深まっていく。
 
 喘ぎ声や表情が気に入ったので自分のものにするのを先輩は決めていたが、それ以上にペニスを挿入されながら寝入る図太さも物珍しくていい。
 先輩は有邨を手に入れる、そう決めた。


 だが、目が覚めた有邨と改めて自己紹介をしあい、有邨のビッチさに首を絞めることになる。


 先輩が自分以外とエッチをしないと約束させ、大勢の生徒たちの前で有邨にキスをするのは翌日の朝のことだ。
 
 有邨が先輩が学園一の不良だと知ったのにすぐに忘れるのはその日の夜のこと。
 

 ちなみに小学校のクラスメイト、有邨がこうなった原因扱いである本城夢久からの情報提供だ。
 本城はイジメ撲滅をかかげて風紀委員になった。

 その熱意がありすぎて過激な行動をとることから、現場に向かいにくい風紀委員長にされた。
 委員長は気軽に動けない。組織の上の人間として指示を出さなければならないので暴走しがちな本城には風紀委員長という肩書きはいい足かせになっていた。
 

 有邨の処女は中学の頃に上級生に奪われているが、本城は自分が有邨の初体験の相手だと思っている。

 どうでもいい話だがそれを気にする自称有邨の恋人やセフレは多い。
 共有している現状に納得している人間と認めないと憤っている人間のあいだにある溝は深い。
 
 そして本城は有邨の下半身事情を風紀委員長権限でどうにかしようとしながら、生徒会役員たちのせいで上手くいっていない。生徒会役員もまた隙あらば有邨を犯す人間たちだからだ。

 その中に学園一の不良が堂々と入ってきたのだから有邨を取り巻く周囲のパワーバランスは崩れるしかなかった。

 
 有邨須々木の身体と本城夢久の心が休まる日はいつのことなのか。

 当然のことながら有邨須々木の心はいつでも休まっている。
 寝ている間に犯されることが多々あるので身体は酷使されているが寝ていることで心はいつでも休息状態だ。
 
 
 
※バックバージンは中学の時に空き教室で寝てたら毎日ちょっとずつ先輩に拡張されました。
ここの面白いところが(?)最初それぞれべつべつに先輩たちは有邨の身体を開発していて、あるときに痕跡を見つけたり行為を見て気づいて「え!?」っていう。(三人は知り合い)

そして処女を散らす日は三人に入れ代わり立ち代わり犯されまくることになるという……。
本人は夢うつつでよくわかってません。気持ちよかったのは覚えてるぐらい。
いつも気づいたら知り合いが増えてるとか周りが優しいとかも謎現象があったりします。
それが実は寝ている間にセフレが増殖しているからっていう……。

いつもちょっと眠くてだるくて無気力なのも寝てるときにエッチしてて眠りが浅いのがクセついちゃったから?
寝ても襲われてて体力回復しないからいつも疲れ気味で無気力なのかもしれないです。

自称恋人は人の話を聞かない&有邨がちゃんと否定しないから調子に乗った結果。
そのあたりのやりとりは機会があったら書きたいですね。

自称恋人同士がじつは親友で
「俺……あっくんと付き合うことになったんだ」
「よかったな。実は俺は須々木と付き合うことになった」
「やったな。ずっと好きだったんだろ?」
「お前もな。ずっと見てたんだろ?」
とかいう噛みあわない会話をしているのも楽しいですね。
須々木って名字みたいな名前ですよね。人によって鈴木だと思ってたりすると広がる勘違いの輪。


2016.01.04(加筆修正2016.01.05再加筆修正2017.03.11)
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