※タイトルそのまま。両片思い。
中二の春に俺はフラれた。
あっちは自分がフラれたつもりだろう。
被害者意識だけは立派だな、ふざけるなよと罵ってやりたくなる。
男同士の夜のやり方なんてものをわざわざ調べて、どっち側でもイケるように考えて、少なくない覚悟をした。それなのに「俺のため」という理由で拒絶されて心が折れた。だって有り得ないだろ。好きだと伝えているのに「俺のため」に俺の言葉は聞き入れられなかったのだ。考えられない。意味不明だ。本当に俺のこと思っているなら、俺の言い分を聞くべきだろう。
現在、風紀委員長をしている利浜《りはま》の言い分はこうだ。
『好きになってごめん。好きなままで居させて。付き合ってくれなんて言わないから。同情なんてしないでいい』
俺が好きだと伝えてもその言葉を受け入れてもらえない。俺が優しいから利浜に同情しているから、好きだと言っているだけだとこちらの気持ちを否定する。傷つけないように優しさから受け入れる姿勢を見せてくれているんだと言い出した。表情を曇らせる利浜は俺の言葉を聞いちゃいない。何も理解していない。俺の決意や覚悟を全部、根本から否定してきた。
別に俺だって男が好きなわけじゃない。
利浜だから、男同士でもいいかもしれないという気持ちになった。「なってやった」という上からな気持ちもどこかにあった。それを利浜に悟られて拒絶されたのならまだ認められる。
だがこれはそういうことじゃない。俺の性格の悪さに利浜が引いたのではない。俺のことを好きなくせに俺が思いに応えるはずがあいと決めつけている。自分の気持ちは片思いや失恋でいいのだ。俺に向けられる恋愛感情に拒否感を示すなんてどうかしている。
そんな中で気づいた。
利浜の俺に持ち合わせている好意というのは恋じゃない。
恩人に向ける尊敬が利浜の中にあるだけだ。
惚れられていると俺が勝手に自惚れた。
小学校でいじめられていたらしい利浜は、学生たちの仲の良さをアピールしている中学に受験した。
兄弟が多い田舎の家に産まれた俺は一人で静かに生活がしたくなって、寮がある中学に受験した。
正反対な俺たちだが、それぞれ学校のアピールに惹かれて同じ中学を受験して、同級生になった。
同室者になった利浜は付き合い難かった。俺の知らないタイプの人種だった。
ずっと表情を暗くてしていて、何を言っても反応が鈍い。そんな利浜に俺は気にせず進んで話しかけた。同室者と親密になるのは当然だと思っていたからだ。
後から聞いた話では小学校の頃のいじめが原因で人との会話が苦手になったという。
そんな利浜の事情など考えず、無視されているような反応のなさを気にすることなく俺は話しかけ続けていた。俺は落ち込んでいる人間の気持ちをくんで、距離を置くとかソッとしておくという考えがない。逆に「なんかあった?」と気軽に聞いてしまう。ある意味で空気が読めない。兄弟が多かったので、遠慮していると親に声が届かない。欲しいものは欲しい、嫌いなものは嫌い、そういった自己アピールは毎日するのが普通のことだった。
ハッキリとものを言い切ることや相手のペースを考えずに接するのは無神経なのだと後々気づく。
共同生活を送ると無遠慮さは指摘される。発言の方向性が悪くなくても、曖昧に濁す部分を強めに煮出してしまう。今まで普通だった言動が、空気の読めなさに繋がる。自覚すると恥ずかしくなることもあった。
だが、俺の裏表ない態度を利浜は嬉しいと言ってくれた。やりすぎた行動に自己嫌悪になっているときに、利浜が優しく褒めてくれたりするものだから舞い上がる。
大家族で育った俺はよく言えば鈍感で無神経で世話焼きだ。
困っている相手の話を聞き出して解決したくなってしまう。
余計なお世話なのだと気づいて手を引くタイミングはいつだって遅い。
いじめられていた過去を持つ利浜は消極的でマイナス思考で自分に自信がない。
マイナス思考だからこそ同じように気持ちが落ち込みがちな人にいち早く気づくことができる。
反対側にいるからこそ、お互いの違った部分を気に入ったのだ。
俺と一緒にいたことで利浜はクラスから浮かずに済んだと笑ってくれる。礼を言われるようなことをした覚えはないが、褒められ、尊敬されるのは気分がいい。失敗していないと利浜がいつだって元気づけてくれる。
失敗でも成功でも具体的に自分が何をしたのか思い出せない。その場その場で動いていて、利浜のように頭を使っていない。利浜はそれでいいと言う。俺の自然体を好きでいてくれた。だから、俺は利浜をなんだかんだで構っていた。そばにいて楽だった。
利浜は素直で優しいヤツだ。
俺が体を鍛えていると言うとサポートをしてくれる。普通のレベルのサポートじゃない。俺が試そうか悩んでいたトレーニング方法を先に試して、続けやすいか、効果があるのか教えてくれる。好きな相手に尽くすタイプなんだろうと、ちょっとどころではなく嬉しかった。
高校で利浜は肉体を鍛え続けた成果なのか、風紀委員長になった。
俺は生徒会長になったが、あまり接点はない。
風紀と生徒会は対立組織ということになっているが、俺たちは友達のままでいいはずだ。
フラれたという意識がある二人とはいえ友達に戻れないのは俺のせいかもしれない。
縁が切れてしまった原因は俺にある。
俺の忍耐力がなかったのだ。
鬼の形相の風紀の副委員長。
困り顔の利浜。
利浜は風紀の良心であり、副委員長が実質のボス。規律の鬼だ。
体格は利浜の方がガッシリしていて、納得の風紀委員長感があるが人を恫喝したりできない。
「てめー、ふざけてんのか!? 生徒会長が朝帰りってなんだ」
副委員長に同じシャツを着ているとネクタイを引っ張られる。
俺のことをチェックしすぎだ。シャツなんて一日二日同じでも違いはない。
「くさいか?」
「会計の香水の匂いがぷんぷんする」
徹夜したのでシャワーを浴びる余裕もなかった。
適当に香水を借りたのだが、いつも使っていないので量を間違えたらしい。
副会長が居たら、匂いを匂いで誤魔化すのは間違っていると教えてくれたかもしれない。
会計は俺の行動に「俺の匂いに包まれてる会長えっちぃ」と言い出していた。
風紀に睨まれるとわかって笑っていたのかもしれない。部屋を出る前に教えてほしかった。
「せめて一人に絞るなら自由恋愛だってことで、うるさく言わねえよ」
「ホントか? 風紀からすると会長に交際相手がいるのって面倒なんだろ?」
俺の言い分は図星なのか、副委員長は舌打ちをした。
利浜は困り顔で俺を見る。
身長は俺より気持ち高いのだが、見下ろされている感じがしない。
うかがうように見上げられている気分になる。
「みんな争ったりしてないからいいだろ」
「ふざけんな。お前のビッチさに親衛隊同士がピリピリしてんだよ」
「元々、生徒会役員の親衛隊って派閥があるんだろ。俺のせいじゃない」
役員の親衛隊は役員自身のファンや信者だけではなく、肩書きのファンや信者であることが多い。
俺個人というより、生徒会長という役職を推している。
この推しというのは、応援という軽い意味から、歴代で一番だと学校の歴史に刻みたいという意味まで人それぞれだ。
「親衛隊は大体、自分のところの人間を盲目的に上げる言動をするが……」
「俺を下げる発言をすると役員たちから、にらまれるって? そりゃあそうだろ。自分たちのトップだぞ」
「全員と寝てんだろうが、クソビッチ」
吐き捨てるように副委員長が口にする。その言葉を俺は否定も肯定もしない。利浜は痛みに耐えるような表情になった。
「役員たちや親衛隊を渡り歩くんじゃなくて、一人に決めろよ。そうすれば、誰が勝った負けたとアホみたいな論争は終わる」
「勝ち負け、……ねぇ」
「会長と付き合ったら勝ちだ。簡単だが難しいよな」
イライラとした風紀の副委員長は、これ以上話しても意味がないと思ったのか舌打ちしながら去って行った。
その後に続いて消えるかと思った利浜は迷った様子を見せながら、つぶやいた。
「俺のせいなのか」
聞き流してやるのが優しさかもしれない。
俺はお前のことなんかなんとも思っていないと言い切ったり、自分の好きなことをしているだけだと伝えるのが正しいのかもしれない。
だが、俺も俺で失恋の傷をこじらせていて、頭がおかしくなっている。
俺を好きなくせに俺に恋していない利浜を苛めたいのだ。困らせるだけじゃ飽き足らない。
「お前へのあてつけで数十人に抱かれているのかって?」
質問に質問を返すように口に出せば、傷ついた顔の利浜。
いくら成長して風紀委員長が似合う体を持っていても中学の弱気な利浜は消えていない。
俺の前では特に弱った顔ばかりだ。
両思いだと浮かれていた自分が惨めで腹が立つ。
馬鹿みたいだ。
利浜の気持ちに答えてやると驕っていた自分。
傲慢で自信にあふれた無神経な自分。
「お前は俺に触りたくもないんだろ? いいじゃんか、誰とどれだけ寝たとしても」
あざけるように口から出る自分を傷つけるための言葉。
失恋の傷口に自分で爪を立てている。
利浜にとって俺の執着なんて意味がない不必要なもだ。
わかっていても、キリリとした顔で風紀として活動している利浜の表情を崩したくなる。
俺が誰かの部屋で寝泊まりするたびに親衛隊がざわめき、風紀の副委員長が怒り、利浜もまた動揺する。
異性愛者だった俺が自分のせいで同性愛者になったと思って責任を感じているんだろう。
「……なんで、そんな、……なんでこんなことに」
「自棄になってんじゃねえの」
「自分でもわからないの? 人恋寂しい? 兄弟が多いって言ってたよね。だから誰かと一緒じゃないとダメなの?」
手で頭を抱えていた利浜が何かに気づくように顔を上げる。
異様な雰囲気に飲まれそうになる。
どうせ、俺のことを好きでも何でもない奴なので、不特定多数との関係の心配だけして終わりだ。今までがずっとそうだった。俺が利浜と距離を取り始めるのと同時に他人の部屋に入り浸るようになった。その時は「どうして、なんで」と言い続けるだけで、自分が俺に告げた言葉を撤回したりしない。
ただの根性なしで好きな相手に触れられないというものなら、まだ可愛げがある。
利浜はそうじゃない。
俺はこういう人間だという理想像のようなものがある。
自分を孤独から救ってくれた救世主様。そんな人間はいない。
俺からすれば、利浜がきっと救世主だった。
人と上手く付き合うのが利浜は下手だという自覚があるから慎重になる。
俺は逆だ。下手なくせに人と関わり合おうとしてぶつかってしまう。
「俺が無駄に世話焼きなのは知ってるだろ。相手が嫌がっても踏み込んで取り返しのつかないことになる」
副会長は真面目で優しい奴に見えるが、変わった性癖の持ち主だ。
なぜか俺の小指の爪に興奮するらしい。
最初は抑えていたというが、俺が無闇に近づいてくるので耐えられなくなったと手を取り指をしゃぶられた。
小指を口に含んで、舌先で爪を舐めまわす。
それだけで勃起してしまう副会長は、俺の小指をしゃぶりながら股間をしごいて果てる。
最初、驚いて怖くて思わず利浜に電話をしてしまったが、利浜は何もリアクションを取らなかった。
番号が違っていたわけじゃない。
利浜からすると俺と副会長がどんな関係だとしても気にならないのだ。
その後、何度か俺の小指をしゃぶりながら自慰する副会長の音声を電話越しに利浜に聞かせたが何の反応もない。
いいや、俺には無反応だが副会長から目をそらすようになった。
副会長が喘ぎまくっているので、意外と利浜の股間に作用しているのかもしれない。
「……会計と」
「朝までずっとで、着替えを取りに行く暇もなかった」
会計は面倒なほどにゲームが好きだ。
一人用のゲームも一人で出来ない。自分のプレイしているところを見てもらいたがる。
寝ようとしたら必死で話しかけてくるので無視できない。
弟たちが兄ちゃん兄ちゃんとうるさい姿と同じだ。
俺の肩にもたれかかったり、甘えながらゲームをする。
「なんで……なんで、そんなことになるんだ」
「自分でさっき答えを出してたじゃねえか」
「おれのせい」
「そう思うならそうなんじゃねえの」
俺の答えにキレたのか利浜が壁を殴った。
鈍い音がした。
生徒が周りにいないのは、利浜の立場を思えばよかった。
驚いている俺の手を引っ張って利浜は寮に戻る。
多数の生徒に目撃されるが、素行不良の会長を風紀委員長が叱るのだと誰もが思っただろう。
俺もそうだ。
利浜が俺の手を引いても、いまさら以前のような友人関係に戻れるはずがない。
俺が利浜への気持ちを知らなければ、世話焼きの俺と世話を焼かれる利浜という関係のままでいられたかもしれない。
今はそれが出来ない。
利浜が見せる俺への愛情が恋ではないと自覚し続けなければならないのが苦しい。
好きなら嫌がらせをするなんて有り得ないのかもしれない。自分でも狂っている気がする。
距離を問ったくせに完全に離れることもできない中途半端さ。
俺を着信拒否にするような非情さが利浜にあったなら、完全に終わりに出来たのかもしれない。
中二の春にフラれ、俺は一方的に利浜から距離を取った。
他人の部屋を渡り歩く俺に利浜は戸惑いながら具体的なリアクションをすることなく高校に進学し、更に疎遠になる。
利浜と繋がりが希薄になればなるほど俺は他人の目を気にせず、人の部屋を出入りするようになった。
そのせいで、風紀の副委員長にはビッチ呼ばわりされるし、役員の親衛隊たちから本命を決めるようにと懇願される。
本命などフラれたくせに思いを断ち切れない時点で決まっている。
陳腐な言い方になるが、ずっと好きなのだ。
女々しくて惨めで考えると嫌になるが、俺の言動を俺らしさだと認めて肯定するような利浜を好きになっていた。
当然、両思いを喜ぶものだと思っていたからこそ、悔しさから八つ当たりをしてしまった。
「俺が今までどんな思いで居たか分かる?」
「電話かけてくんなよ、めんどくせーな」
利浜の性格を思えば「どうして、友達でもないのに電話してくるんだろう?」という単純な疑問かもしれない。俺への罵り文句が浮かぶのなら困り顔などしないだろう。気の弱そうな、利浜らしい表情を今はしていない。
高校でいろんな人間の部屋に行ったが、利浜の部屋に来たのは初めてだ。
説教されると分かっていても浮かれてしまう自分がいた。
「副会長の実況中継とか、普通に嫌だろ」
俺の言葉に素直にうなずく利浜。
オブラートに包まなかったことを後悔したのか、首を横に振って「そういうことじゃない」と言い出した。
「どんな気持ちって、コイツめんどうくせーとか、気持ち悪いとかだろ」
「違う……俺は、好きだって……好きだって、そう言った。それだけでいいって……ちゃんと」
震える利浜は体が大きくとも幼い子供のようだった。
風紀委員長になって、おどおどとした態度を見なくなった気がしたが、根は変わらないらしい。
「聞いた聞いた。俺に好かれたくなんてないんだろ。両思いになりたいとか、付き合いたいとかそういった感情はなくて、ただ、好きなんだろ」
あえて軽く言う。
これは弟を落ち着かせるために無意識にしてしまう強がりと同じだ。
相手と同じピリピリとした空気ではなく、平然としたいつも通りの顔をする。
年上には真面目に聞けと言われるかもしれないが、年下相手には余裕を持っているように見える。
俺は無意識に利浜を下に見ていたのかもしれない。守らないとならない相手。だから、裏切られたという感覚がより大きい。
「……俺は」
「だから、俺が誰とどうしようが、関係ないんだよ。友達として一緒にいるのだってフラれた者同士として無理だしな」
「フラれた、者同士?」
利浜からすれば納得できないかもしれないが、俺たちはお互いに理想の姿を保てなかった。
俺からすれば、利浜が友達以上を望んでいるように見えた。俺が一言、付き合ってやると言えば利浜が喜んで尻尾を振ると思った。願ったり叶ったりに違いないと思い込んだが、現実は勘違いを突きつけられた。
利浜にとっての理想は俺のことを好きだと思いながら、友達でいることだった。
俺とどうにかなりたかったわけじゃないと本人の口から語られている。
利浜は好きなだけでいいのだ。俺と付き合いたいという気持ちなどなかった。
俺は勝手に勘違いしていた。
「利浜は俺に、お前のことなんかいらないって、そう言ったじゃないか」
「言ってない! 俺はずっと一緒に居たかった。だから、風紀委員長になって……好きだから、だから」
「好きでいてくれていることを嘘だなんて言わない。お互いが好きでも上手くいかないことなんか普通にあるだろ。俺たちぐらいだと性欲の有り無しはデカいだろ」
ぶちまけてしまう。
俺は利浜との行為を覚悟したわけじゃない。そんな追い詰められて決めた話じゃない。
もっと積極的な話だった。
したいと思った。しようと思った。
肉体関係のあるなしが俺にとって友達と恋人の違いだ。
利浜ならいい、じゃない。
利浜とがいい、だ。
俺は利浜とエッチなことをしたいと思ったから付き合おうと思った。
恋人になりたかった。
利浜が俺を好きだから仕方がないというのは、同性愛に抵抗感がある自分への言い訳だ。
もっと早く気づいてもいい自分の本音を今まで自覚を持てなかったのは、性欲から目をそらしていたからかもしれない。
高校になって、中学とはいろいろと変わった。
副会長は俺の小指をしゃぶりながら射精するような奴で、書記は俺の尻や股間の匂いを嗅ぎたがる奴だ。
担任や生徒会顧問は顔面に座られるのが好きだという変態で、サッカー部のコーチは「よちよち」と言いながら頭を撫でられることに安らぎを見出す。
性的な話題が中学よりもグッと近くなり、顔を合わせないのに利浜のことを思い出すことが増えた。
利浜が俺に彼らのようなことを求めてきたとしても拒否感はない。
世話焼きの血は脇に置いても変態だと思ってもドン引きするほどじゃない。
小便を飲ませてくれと親衛隊長に言われたのは断ったが、それ以外はほとんど断ることはない。
会計のように徹夜で付き合うのは困るが、俺が行動することで誰かが元気になるなら構わない。そう思える。
「俺と利浜は結局なんでもないんだから、誰と何しようといいだろ?」
電話で音を聞かせるという迷惑行為はともかく、利浜には関係のない話だ。
風紀委員長としては、会長にしっかりしてもらいたいかもしれないが、利浜本人には関係ない。
「俺が、抱くって言えば……俺が抱きたいって言えば、それで良かったってこと?」
「したくないんだろ? 気にすんなよ」
「違う。したかった、ずっと。……したかったんだ」
お預けが趣味だったとは知らなかった。気づかないうちに俺は利浜の性癖に巻き込まれていたらしい。
「……付き合ってください」
「うん? 溜まったから尻貸せってこと?」
「そんな、そういうんじゃない」
「抱くってそういうことだろ? なに? 自分が抱かれたいけど言いにくいから濁してるわけ?」
利浜の考えがよくわからない。
風紀委員長として、会長が他の生徒の部屋を転々としないように自分一人にしてくれと言っているのは分かるが、肉体関係にはなりたくないのかもしれない。
涙目で言葉が出てこない利浜が哀れになる。
俺はつい癖で、相手の言葉の全部を聞く前に助け舟を出してしまう。
「はいはい、会計の香水をつけて授業には出ません。約束するから、もういいだろ。……風紀委員長として、授業をサボるのはマズいだろ」
「俺のことなんかどうだっていい。……もう二度と俺以外の人の部屋に泊まらないで。約束して」
クソ真面目な風紀委員長な利浜は俺に詰め寄った。
バレるように素行不良をするバカな自分に呆れていた部分があったが、人の部屋に寝泊まりしていることを隠さなかったのは、この展開を望んでいたからかもしれない。
利浜はどうせ、俺を好きじゃなくても俺を見捨てない。
俺は利浜にとって恩人みたいなものだから、利浜は風紀委員長じゃなかったとしても注意をするはずだと予想していたはずだ。利浜と表向きは縁を切っていながら、無意識に手繰り寄せていた。
利浜は薄情な奴じゃない。俺を心配してくれるはずだと電話をしていた。女々しい俺を見捨てない優しい奴だ。
「……俺と恋人になるってことで、いい?」
これ以上にない惨めな状況だが、自分の中の矛盾した行動の答えが出たのは少しスッキリした。
利浜のことが気になって仕方がない。未練ばかりがある。
だから結局、最初から俺は自分の思い通りの結論しかいらなかった。それはある意味、中学二年の春に俺の気持ちを否定した利浜と一緒だ。
恋人になって身体を繋げたところで本当の意味では永遠に満たされない。
それでも俺は利浜と恋人になることを選んだ。
選んでしまえるような、そんな馬鹿な男だった。
「全部を取り返していこう。ちゃんと、正しいやり方で」
デカい体で利浜が泣きながら言う。利浜の中にある正しさも取り返すべきものも俺には分からない。
利浜のことだから、二人で過ごすべき時間が不当に失われたと言いたいのかもしれない。
好きな人間のことを放置して焦らされるのが快感であるなら、俺は利浜に素っ気ない態度をとってあげるべきかもしれない。
恋愛のコツは譲り合いだと人生の先輩である変態教師が言っていた。
◆感想、誤字脱字指摘、続編希望↓からお気軽にどうぞ。
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(お返事として
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2019/01/18