オーソドックスな風紀×会長。
俺の幼なじみはひとことで言えば口うるさい。
そのうるささは学園中が認めるところなのか中高と風紀委員をしている。
高校二年の今は風紀副委員長だが、三年生になると風紀委員長になるのだろう。
次期風紀委員長とはいえ、すごくカリスマがあるわけではない普通の生徒の一人だ。
カリスマ性を持っているのは一年生ながらに生徒会長を務める俺のような人間だろう。
瑠璃川だからだと幼なじみには冷めた目で見られるが、瑠璃川の一族だって目立たない人間も多いので俺が俺であるのは俺だからだ。
誰の目から見ても生徒会長になる素質があったからこそ今の俺の立場がある。
こういったことを幼なじみに語ると前会長からの指名で会長になっているから俺たちの上の学年と前会長が仲が悪かったんだろうという前会長にとって不名誉な考察が始まる。
幼なじみは常識にうるさいくせに年上に対する敬意が足りない。
前会長という先輩にかわいがられている俺に嫉妬しているのかもしれない。
男の嫉妬は見苦しいものだ。
ともかく高校二年の俺は高校で生徒会長として二年目に突入していた。
何も問題ないはずだった。
幼なじみが口うるさくても俺は生徒会長なのでお前の言葉なんて知るものか、と、そういう顔をしていられる。
同い年で学園の外でも顔を合わせることが多いとはいえ、幼なじみは赤の他人だ。
他人にあれこれ指示を出されるのは息苦しい。
俺は幼なじみほど真面目じゃない。
キッチリするのが苦手だ。じんましんが出てきそうな気がする。
「瑠璃川《るりかわ》黄沙良《きさら》、何度言ったら分かるんだ。ネクタイはしろ。シャツのボタンは閉めろ」
幼なじみである風紀副委員長、八名井《やない》は持ち歩いているらしいネクタイを俺にしてくる。
ネクタイをしめられないからしないわけじゃない。
首元が苦しいのが嫌なのだ。
俺の首はたぶん人より逞しい。
キッチリワイシャツのボタンをしてしまうと違和感がある。
セミオーダーメイドで自分に合ったシャツをいつもは着ているのだが、今日は違う。
俺のネクタイを嫌がるそぶりから八名井《やない》も気づいたのか「貴様」と同じ調子で「黄沙良《きさら》」と言ってきた。
「誰のシャツを着てるんだ、貴様」
「ちょ、おまえなぁ! 貴様とか言うな!! 俺を誰だと思ってんだ」
「生徒会長はそんなに偉くない」
「そんなことない! 学園のため、生徒のために頑張ってる俺たち生徒会役員は偉いに決まってる!!」
会長として俺は冷たい目をしている幼なじみに立ち向かう。
クラスメイトたちが「朝から元気だな」と言いつつ俺の横を通り過ぎていく。
なぜか八名井に「がんばれ」と声をかける奴が多い。
同学年からすると先輩からかわいがられる生徒会長は妬みの対象とまではいかなくとも味方になろうと思わないのかもしれない。
口うるさく面倒な八名井が人気者なわけもないので、この状況は俺の人気がないということになる。
せつなさに叫びたくなった俺は廊下を走るという生徒会長としてあるまじき行為に出る。
当然のように八名井が「これから授業だろ。どこに行く気だ。走るな」と追いかけてくる。
俺がどこで何をしようと俺の勝手だが風紀副委員長は幼なじみのサボりを見逃さない。
走るなと俺を注意しながら走ってやってくる八名井。
捕まったら怖いと俺は人気(ひとけ)のない場所を探して見知らぬ場所に迷い込んだ。
とりあえず建物の中に入ろうと思ったまでは良かった。
建物の中にいたのが柄が悪い感じの三年生でなかったのなら俺の選択は正しかった。
どうやらマイナーな部活に使っている別館という名の物置に来てしまったらしい。
やんちゃな先輩たちが使用頻度の低い場所を自分の部屋のように使っていてよくないというのは生徒会の中でも議題としてあがっている。
生徒会で問題を処理するか、風紀に対処してもらうか決めかねている。
八名井はなんだかんだで武道の有段者だが、俺は一緒に習っていても強くない。
大人と混じって練習する八名井を見ながら体格に物凄い差があるわけではないのにと悲しくなったものだ。
八名井なら風紀副委員長という肩書きがなくても先輩たちに立ち向かえるかもしれないが俺は無理だ。
唇やあごにピアスをしている人が複数いる時点で俺は引き返すことを決めていた。
顔に穴を開けるなんて痛すぎる。
ピアスをとると歯が見えるかもしれないと想像するだけで気絶しそうだ。
そんな俺のやわな精神で複数のピアス人には立ち向かえない。
俺を追いかけてくる八名井から逃げつつピアス人に気づかれないように退避ルートを探る。
一年生から生徒会長をやる優秀な俺は中高通算で生徒会長五年目に突入中だったので、見事にいい場所を発見した。
トイレの中にある小窓。
優秀な俺はちゃんとトイレに窓があることを予想していた。
トイレの換気は大切だ。
一階なので窓からの出入りをさせないためか窓の大きさは微妙なところがある。
人が通れないほどではないだろうと信じて俺は窓から上半身を出す。
そのまま窓から出ようとして着地ができないことに気づく。
一階ではあるが頭から外に出ると頭から着地することになり、ちょっと怖い。
足から出ないと不安が大きすぎる。
頭の中で首がへし折れる想像が生々しく繰り広げられて血の気が引く。
無茶はしない主義なので体勢を立て直そうとしたところ声が聞こえてきた。
八名井の声かピアス人の声かは分からない。
複数の人が近づいてくる気配がある。
今いる場所がトイレなので俺に気づいていないピアス人たちが連れだって用を足しに来た可能性はある。
その場合は顔を合わせない方がお互いのためだろう。
後輩とはいえサボりの現場を生徒会長に見られるのはピアス人たちもいやだろうし、俺もピアス痛いよ怖いよと思いたくない。
お互いにとって顔を合わせないことが最善だと、そう俺は思っていた。
それは俺だけだったらしい。
「何これ、ウケる」
「いや、ヒクわ」
「肉便器? ガチでヤバい物件?」
「壁尻ってやつだよね、これ」
少なくとも四人はいるらしいピアス人たち。
先輩とはいえ頭がからっぽそうで恐ろしさが増す。
「何これ、どうったのよ」
「キモい」
「人形とかドッキリじゃなくて人間だよね?」
「だれだれ、これだれ?」
発言の流れからすると壁尻とかだれだれ言っているピアス人が俺の下半身に触れる。
誰か知りたいということなので持ち物検査だろう。
ポケットには何も入っていないことを理解したのかベルトを緩ませるとスラックスを下げた。
なぜだ。俺には理解できない。先輩のことが分からないのではない。ピアス人だからだ。顔に穴を開けられる痛みに強い人と俺は相容れない。生涯、顔を合わせることがない世界が違う相手は無抵抗な俺の尻を両手でつかむ。
ここで声を出さなかったのはプライドではなく恐怖からだ。
俺が生徒会長だと知ったら自分の唇やあごや鼻に突き刺している恐ろしい凶器を尻に突き刺してくるかもしれない。
想像だけで漏らしそうになる。
これなら八名井に叱られた方がマシだ。
シャツがいつもの俺のシャツじゃないのは俺が悪いわけじゃない。
勝手に誰かにすり替えられたのだ。
クリーニングで学園側に託した俺のシャツは戻ってくると別物になっている。
毎回ではないので被害届は出していなかったが、ついに予備すらなくなっていた。
シャツの入れ替わりがわざとだとしたら俺の人気が低い気がする。
今後、八名井に大人気の生徒会長という顔で偉そうにできなくなるので俺の不人気の気配は隠すべきだ。
そういう気持ちから八名井の追及から逃れようとこんな場所にやってきたが、スラックスだけではなく下着まで脱がされるとなると自分の選択を見つめ直したくなる。
覚悟を見せて前転する感覚で上半身を窓から出しつつ着地するイメージを頭の中に描こうとするが無理だ。
首がおかしな方向になる想像しかできない。
痛いのも怖いのも苦手だ。
八名井のうるささのほうがマシだった。
真面目なので俺のやることなすことに文句をつけてくるが八名井は痛いことをしてきたりしない。
無言でいる俺にピアス人たちは好き勝手なことを言いながらなぜかお尻の穴を何かで突っついてくる。
お尻の穴にピアスを入れられるんだろうか。おそろしすぎる。
完全に腰が抜けた俺の前にやってきたのは八名井だった。
何しているんだという顔でトイレの小窓から上半身を出している俺を見る。
助けてほしいが声が出ない。
手を八名井の方に向けてみるが、反応がない。
俺の状況の意味が分からないのかもしれない。
緊張の糸が切れたように涙を流し続ける俺に呆れたのか八名井は何も言わずに消えた。
こんなバカは見捨てて構わないと思ったのかもしれない。
泣いている俺の耳にはちゃんとしたやりとりは聞こえなかったがピアス人たちが俺から手を放してしばらくするとものすごい力で引っ張られた。
切羽詰まった顔の八名井が俺を見下ろす。
「トイレに座り込んじゃったじゃないか……」
そうだなとも、自業自得だとも言わずに八名井は俺の頭をなでた。
同い年の男だぞと言ってやりたいところだが、俺の恐怖と混乱は並大抵ではなかったので八名井の手を払いのけたり憎まれ口は叩けない。
「先輩たちには悪気のないバカがバカなことをしたって伝えた」
「ピアス人こわい」
「黄沙良、それは面と向かって口にするんじゃないぞ。失礼になる」
「ピアス痛い。尖ってて怖い」
「そうだな」
俺に目線を合わせるように八名井もトイレの床に膝をついた。
思わず八名井のネクタイで涙をふく。
「落ち着いたら、下をはけ」
「なあ、ピアス入れられた? 俺、ピアス入れられたか?」
「……そんなことないと思うが」
気になるならと八名井はトイレの個室を指さすが俺には無理だ。
自分で確かめることなんてできない。
ピアスが見つかったらお尻の中とかすごく心配になる。
気絶するかもしれない。
「見て」
「俺がか!?」
「他にいないだろ!!」
「いや、自分でやれよ」
「怖いだろっ。あってもなくても怖いっ」
「なかったら怖くないだろ」
「指に触れないだけで、奥にあるのかもしれない」
「心配性」
八名井はうるさいくせにこういうときに前のめりにならない。
だが、良い奴なので俺が頼むと最後には折れる。
そんなわけで俺は幼なじみの風紀副委員長の八名井の指でお尻の中をいじりまわされることになる。
弱みを見せないように考えに考えた結果が最悪の事態を招いた。
よくよく考えるとネクタイをしめていればこんなことにはならなかった。
そう思っても後の祭りだ。
この後、ダンボールに頭から突っ込み下半身だけが外に出ている、今回と似たような状況になった俺に八名井がお仕置きと称してお尻を叩いたり穴に指を入れたりと好き放題しだす。
八名井は俺の弱点を把握したとでも思っているんだろう。
残念ながら気持ちいいだけで怖くも痛くもないのでお仕置きとしてはぬるま湯と言わざるえない。
俺は八名井が俺のお尻に致命的な被害を出すことがないと見破っている。
幼なじみの俺には八名井の行動などバレバレだ。
これが生徒会長をしている俺とまだ風紀副委員長の八名井との才能の差だろう。
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タイトル的に分かりそうですが、延々と壁尻っぽいシチュエーションのアホエロ連作を考えましたが、これは続くと独占欲系ヤンデレ攻めになりそうな……。
(続くと両片思いすれ違いとかの要素が強くなりそうな気配ですので、いつもの話といえばいつもの話。明るいだけにはならない)
アホの子な感じの受けとそれを全力でフォローしてるのに気づかれていない攻めっていう構図が好きです。
ノンケ攻め(今回のことで意識し始める)で無自覚執着も好きですが八名井は自分の気持ちに自覚済みです。
生殺しでかわいそうな攻め(笑)
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2017/12/27