※ちょっとファンタジー尻切れとんぼ的。
俺の不幸は連鎖的に目の前に転がり込んできた。
ひとつだけなら何とでもなったはずだ。
ふたつ、みっつと重なるにつれて巨大で重くなった不幸は俺を死に至らしめた。
順に話をするのなら、最初は俺が生徒会長になったことかもしれない。
それまで仲良くしていた数人のクラスメイトは俺が会長になると近寄りもしなくなった。
どうやら生徒会役員になることで自動的に設立される親衛隊の存在を煙たく思ったらしい。
正直言って、俺との付き合いを外的な要素で判断して断ち切られたことはショックだ。
会長であることも親衛隊も俺本人とは関係ない。
家のことは関係ない、お前はお前だと言い合えるのが友達だと思っていたので衝撃は強すぎた。
こうして、真の友情は校内で探すものじゃないのだと俺は諦めることになる。強がりだ。
学園の最寄り駅から三つ先の駅は乗換駅として大き目で学生もよく放課後に立ち寄っている。
他校の生徒なら普通に関われると思ったが何故か喧嘩ばかりすることになる。
どうやらウチの学園は金持ち学校として知れ渡りすぎて制服を見ただけで財布と呼ばれるようになったという。
制服で歩いていたらカツアゲされるだなんて知らなかった。
売られた喧嘩を買い続けたことで間接的に生徒たちを守ることになったが、おとなしい生徒会役員たちからは距離を置かれる。
お金持ちは野蛮人が嫌いだ。それはよくわかる。話が通じない人間は怖い。
俺も喧嘩を売られたときは不良は最低だと思って片っ端から殴り飛ばしていた。
ともかく校内に友人も味方も仲間もいないのに肩書きは生徒会長という俺はイメージアップのために仕事を頑張った。
これはあまりよくなかった。
会長の仕事というのは年間行事の見直しや新しい行事の企画と役員たちの仕事ぶりのチェックだ。
役員がまとめた書類を会長が最終確認するシステムなので、俺が積極的に仕事をするということは役員に仕事を早く上げろと強要することになる。
俺にはその自覚がなかったが、わりと残ったり持ち帰ったりして、無理なスケジュールで役員たちは作業をしていたらしい。
仕事のペース配分がおかしいと俺に教えてくれる相手はいなかった。先輩も校外で喧嘩しまくりのヤバイ人間だと俺のことを思っていたので近寄りたくなかったのだろう。思い出しても完全に失敗しているコミュニケーションに頭が痛い。
どうしたらいいのかと頭を抱えていた俺に父から助けを求める電話が入った。
母が男の秘書と浮気をして家から出たという。
それは父もショックだろうとかける言葉が見つからなかったが、問題は秘書がいないせいでスケジュールの管理ができないこと。母はとりあえず出て行っていいから、秘書だけ帰ってきて欲しいと泣いてすがりついたらしい。そんな父の態度に激怒した母は、秘書を刺して自分も刺した。二人の命に別状はないようだが、現在は当然入院中。
父は自分だけではスケジュールが管理できない。秘書の役目をする人間がいないと困ると俺に連絡してきた。
父はとても面倒な人で、勝手にルール作りをして、それをキッチリ守って生きている。近い人間にも独自のルールを守らせるので、何も知らない相手とは近くにいられない。俺は父のルールや性格は把握しているし、息子かわいさか多少の失敗は見逃される。元の秘書の代わりに秘書業務が出来なくもない。
学校側に母の入院の件で二週間休むという申請をして父の仕事の手伝いをすることになった。
母が起こしたことや父の判断なんかは、この両親に産まれたので仕方がないものだ。
二週間後に学園に戻った時なぜか俺は会長の肩書きを失い、クラスが移動になっていた。
登校するとお前の席ねえからと担任だった教師に言われて驚いた。
自宅や俺個人の電話番号を学園側として知っているはずだが連絡はなかった。
ズボラだと思いながら新しいクラスで話しかけてきた相手と仲良くなった。
大村は情報総合委員会に所属しているので、クラス内で浮いていた。情報通であると頼られる反面プライバシーが全校生徒に筒抜けになるのが嫌だと距離を置かれるというのだ。
大村は記者の真似事をしているというよりも生活のマメ知識や雑学などを収集するのが好きらしい。
ただ情報総合委員なので校内の情報に疎いはずがない。
二週間個人都合で休んだせいでこうなったのかと思ったら大村いわく転校生によって生徒会役員が役員としての仕事をボイコットしたという。
ちょうど俺が休んだ翌日に急に転校してきた澤成(さわなり)は役員たちと仲良くなった。
俺がいなかったことでネジがゆるんだのか、役員としての仕事を放棄して澤成と遊びまわる役員たち。
その中に俺の姿は見かけなかったが、全校生徒に二週間居ないと伝えていたわけでもないので俺もサボった人間の一人だと思われているらしい。
きちんと生徒会顧問と校長に許可を得て父の仕事を手伝ったのだが、大きな声で言えることでもないので役職剥奪はそれはそれで仕方がない。甘んじて受け入れることにした。大村は事実をつまびらかにするべきだと口にするが俺は元々生徒会長に不向きだった。役員たちと上手くいってなかったのだから気にならない。大村と友達になれたのでクラス変更もプラスだと話した。それを大村や聞き耳を立てていた周囲がどんな風に受け取ったのか分からない。
十月三十一日、ハロウィンの仮装は海賊だった。ピーターパンのフック船長がモチーフの衣装は大村の手伝いがなければ着れない重たいものだった。一日だけのことだから我慢したが、片手が使えないのは不便だ。大村がワニの着ぐるみだったのは面白かった。
登校する際、何気なくだが、本気がわかる声音で大村から告白された。
男が好きな人種ではないので俺はとっさにワニがなに言ってんだと茶化してしまった。
直後に男同士の恋愛は分からないと返したが、ワニの着ぐるみの中で大村がどんな表情をしていたのか、想像もつかない。傷つけてしまったんだろうか。
そして、放課後。
俺は元生徒会長親衛隊の先輩に大村が襲われるという情報を得た。
どうやら俺と大村は付き合っていると勘違いされたという。
俺と付き合っているから襲われるというのもおかしな話だが、好きなら守ったほうがいいと言われた。
友人としてもちろん大切なので守るために重たい衣装のまま走って大村が襲われる現場に向かう俺。
足を滑らせたのか誰かに突き飛ばされたのかも定かではないが、階段から落ちた。
そこで衣装のおかげか、受け身をとったのか痛みはあっても命に別状はなかった。
その中で誰かが俺を刺した。
ハロウィンの仮装をしているのでナイフを持っていても正体を見破れない。黒い布に全身を包んだ人間だったので、俺を刺す瞬間すら周囲に気づかせなかった。
階段から落ちた俺に大丈夫ですかと確認を取りながらの刺殺。
衆人環視の元での堂々とした殺しはプロの仕事と疑うところだ。
刺されて生きていたのなら踏んだり蹴ったりな日々として青春らしいかもしれないが俺は死んだ。
間違いなく死んだらしい。
だが、世界というか神様は俺を殺したくないという。
神様がいる家として俺の家は知られている。
そのくせ父の状況からも分かるように幸せかというと首をかしげたくなる。
幸せで満たされると反作用のように不幸も押し寄せてくる。なので切り取って人生を見ると不憫で悲惨なことも多々あるという。
そういう家系だと父は疲れたように語った。父の面倒なルールも幸せになりすぎないためのものだというから本当に面倒な話だ。
ともかく俺は死んだが、俺の背後霊だった神様が俺の死を許さなかった。
俺の死を消し去るために校内にいる生徒たちを生け贄に捧げたという。
神様とは名ばかりの悪霊である気がしたが、あくまでも厚意からの行動だ。
神様には感謝するべきだと唯一生き残っていた寺の息子である風紀委員長に言われた。
感謝するとその日の夜にお告げがあった。
夢枕というやつだ。一足遅いと思いながら生きていることのお礼を言った。
犯人と和解して刺されずに済めば死ぬことはなくなると教えてくれた。
俺が死なないということは風紀委員長以外の全校生徒が生け贄となることもないということだ。
俺のために出た犠牲が消えるのは助かるとその案に縋ったが、これは地獄の始まりだった。
神様は犯人のヒントをくれない。
ただ時間を戻して俺が犯人と関係を改善する可能性をくれる。
誰かもわからない犯人とどうやって和解すればいいのか分からない。
俺が相手を知らなくても相手は俺を知っている。
あるいは気づかないがそれなりに距離が近い人間が犯人なのか。
俺が諦めると全校生徒が死ぬので頑張らなければならない。
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ハッピーエンド構想より誰が自分を刺したのか分からず風紀委員長以外の生徒死亡エンドに至るほうが面白い気がして……。
仲が良かった元クラスメイト、生徒会役員、親衛隊長、転校生、大村、風紀委員長あたりが容疑者。
主人公が推理するというより主人公が頼った相手が情報整理して考える役になったりしますが、答えが出ないまま階段落ちからの刺殺をエンドレスし続けた先で風紀委員長と寺移住みたいな流れになると笑える気がします。(悪趣味)
大村×会長はよくあるヤンデレすぎますが、我慢できなくなったら(?)書くかもしれません。
溺愛ヤンデレラブラブゾンビ。
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2017/11/02