※タイトルままの話。ほのぼの。
河村山(かわむらやま)と出会ったのは高校を入学して半年後のことだ。
それは衝撃的な出会いだった。
オレの目の前を勢いよく飛んでいくサッカーボール。
足を止めて当たらないようにしたオレのせいではないが、ボールはベンチに座って昼食をとっていた河村山に直撃した。
河村山本人というよりは膝に置いていた弁当箱にヒット。ベンチの周りに飛び散るおかずは絶対にもう食べられないぐちゃぐちゃな状況になっていた。
ビックリしすぎてちょうど箸で持ち上げたばかりの無事な卵焼きすら落下しそうになったのを見てオレは動いた。人とは咄嗟によくわからない行動をする。反射的行動はその人の無意識だというのならオレはお腹が空いていたのかもしれない。
河村山の箸から落ちた卵焼きをキャッチして食べた。
せめて卵焼きが落ちそうだと声をかけたりするべきだが、落ちそうだと思ったら身体は引き寄せられ、落ちた瞬間にはほぼ同時に受け止めてそのまま口に入れていた。
キャッチした卵焼きを返しても喜ばれないだろう。見知らぬ人間が素手で触った卵焼きを食べたいかと聞かれたら否だろうという考えが後付の言い訳として思い浮かぶ。
この時点では河村山とオレは面識のない他人だったので不躾な行動をとったオレは変人だ。
友人同士ならからかいがありつつ冗談で済むことだが、他人にされると気持ちが悪いに違いない。お弁当がひっくり返った直後、火事場泥棒のように現れた卵焼き泥棒。関わり合いになりたくないと思うところだが「うまい」と空気を読まずに卵焼きの感想を口にするオレに河村山は「それは、よかった」と戸惑いながらも返してくれた。
サッカーボールを蹴った奴が現れて河村山に謝っているのを見ながらオレは自分が昼食をとっていないことを思い出す。
昼食がまだのオレと昼食を台無しにされた相手がいたので当たり前のように一緒に昼食をとることになる。
オレが卵焼き代としてその日は奢ることにした。サッカーボールをぶつけた相手は夕飯を奢るらしい。
恐縮しながら河村山はオムライスのサラダセットを頼んだ。今も二人で食堂に行くときに頼む定番だ。
サッカーボール激突事件からオレと河村山との距離は一気に縮んでほぼ毎日河村山と昼食をとるようになった。
お互いの部屋に泊まったり学園の外に遊びに出かけることもある。
親友と言って差し支えないと思うようになって高校二年になったころ、河村山の部屋に転入生がやってくることになった。
毎日の昼食習慣は河村山の同室者になる転入生が学園に馴染むまでお預けかと思っていたら思わぬ展開になった。
それこそ、目の前で避けたサッカーボールが河村山に命中しているところを見た並の衝撃だ。
「副会長と転入生が付き合う?」
河村山と副会長にくっつく転入生という三人を見るオレに河村山と転入生がうなずく。副会長は死んだ目をしていた。
転入生はオレに一目ぼれをしたと言い出してつきまとっていた気がするが勘違いだったらしい。生徒会長をやっているせいで人から好かれやすいとオレも少々自意識過剰だった。転入生なりのジョークというものなのだろう。副会長と仲がよさそうだ。
そして、河村山は申し訳なさそうにしばらくオレの部屋に泊まりたいと言ってきた。
副会長と新入生が付き合いだしていちゃいちゃする部屋に居づらいというのだ。オレは構わないが河村山はなんだかんだで運がないと同情した。河村山が泊まってくれると昼食だけでなく朝も夜も美味しいご飯を作ってくれる。一方的に迷惑をかけられている河村山は不運だがオレは逆に運がいい。
夕飯は卵焼きがいい、あの味に惚れ込んだと告げるオレに副会長はなぜか落ち込んだ。
河村山の友達でもある副会長はオレたちと一緒に夕飯を食べたかったのだろうか。
付き合いたての転入生を大事にしてやるべきだ。
◆◆◆
高二で生徒会長になった瑠璃川青太郎(せいたろう)は真面目で堅物そうな見た目に反してとぼけた人間だった。
他人の悪意や好意といった滲み出る心の内を感じ取れないのか、見ていて危うい。
そんな生き方で大丈夫なのかと思って付き合っていたら友人以上の気持ちを持ってしまった。
これはミイラ取りがミイラになるということなんだろう。
青太郎のことは副会長をやっている幼なじみの親友に嫌というほど聞かされていた。
男に入れ込んでいる親友をバカにしていた俺だが、青太郎は例外だ。放っておけない奴だというのは少し会話しただけでよくわかった。普通はそういうことしないだろ、そんな解釈にならないだろうということを平然とやってのけるのが瑠璃川青太郎だ。
俺よりも高身長イケメンだということを脇に置いて猫かわいがりしたくなる。
俺と青太郎の出会いの原因は友人だ。
副会長になる前に青太郎と面識を持っていたかったバカな友人のバカな行動を見守るためにその日、俺はベンチに座って青太郎が通り過ぎる姿を見ていた。当時は青太郎に対してそこまで思うところはない。横顔も凛々しいイケメンだということぐらいしか感じなかった。
サッカーボールを青太郎にぶちあてて謝りつつ昼を一緒に食べるという浅はかな計画はあっさりと終わりを告げる。
お腹が空いた俺が友人の弁当を食べようとして天誅がくだされたのかボールは青太郎を飛び越えて俺にむかってきた。
まさに弁当を食べようとして卵焼きをつかんだ直後だったのでボールを避けることもできない。
ちなみに友人の料理の腕は相当高い。俺は面倒なので家事をしたくないタイプだ。自分で自分の弁当をぐちゃぐちゃにした上に青太郎と俺を引き合わせることになった友人は本当に運がない。
それから俺が青太郎に渡したりした弁当を作っていたのは転入生が来ると知るまでは友人だ。
無事に高校二年から副会長になった友人は青太郎と距離が縮まなくても自分が作った弁当を食べてくれるなら嬉しいと健気なことを言って俺に渡してきた。俺は自分が作ったとは言わずに青太郎に渡していたが、俺から渡したものなので俺が作ったと思うだろう。
友人がすんなり弁当を持参して青太郎に告白したら青太郎と上手くいきそうな気配がした。そのぐらい青太郎の中で食事の好みが合うということは大きい。気持ちを自覚した俺は友人の作る味付けを解析しコピーした。
転入生が来たころには青太郎に弁当を作れるぐらいに俺も料理に慣れていた。本当に運がいい。
タイミングよくやってきた転入生は青太郎を好きになったらしいが俺は自分の強運を疑わない。
副会長である友人に転入生を押しつけ続けると脈なしな青太郎からさっさと心移りをした。副会長として、生徒会長である青太郎のためにも転入生の面倒を見なければいけないと思っていた友人はあっさりと転入生に捕まった。
未だに青太郎のことを好きだと俺に漏らすが、壊滅的に運がない友人では転入生から今更逃げられないだろう。
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2017/10/21