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  005 イケメン兄さんは腹黒系


 水色髪の美女っぽいイケメンお兄さんは俺の顔をべたべた触ったかと思えば名前を聞いてきた。
 すかさず火内優成が「ペンだ。勝手に触らないでくれ」と言い出したがイケメンお兄さんは聞いちゃいない。
 笑顔が麗しいのだが何故か「ガキのお守りとかマジねえわ」っていうのが伝わってくる。
 俺の能力なら嬉しいのだが蜜鳩以外のみんなが微妙な顔をしているのでお兄さんは内心が分かりやすい人みたいだ。
 笑顔なのに柄の悪い声で考えていることが聞こえてくるとか嫌な才能だ。
 
「今すぐにでも全員が息絶えてくれると話が早くて助かります」
 
 微笑みながらそうおっしゃった。
 腹黒とかそういう問題じゃなかった。
 副音声でもなく直球に言っちゃったよ。
 
 分かってたんだ。
 なんか、この世界に歓迎されていないって、何となくわかってた!!
 でも来ちゃったもんは仕方がないからなんとかしようと思ったりもするじゃん。
 剣と魔法のファンタジーってよりも絵本の中のおとぎ話的な空気だから血の気の多い奴とか迷惑なんだろ。わかるわかる。いきなり火を使って人の服を燃やそうとする奴とか本当ヤバい。
 
「冗談です」
 
 微笑みながら俺の頬を撫でるイケメンお兄さん。
 お兄さんだけど外人さん的に実は同い年か年下って可能性もあるかも?
 綺麗なお兄さんは好きなんで冗談には笑っておく。引きつったけど。
 
「説明するために境界へ移動しましょう。着いてきてください」
 
 教会とか協会っていうのが多分一般的。
 ファンタジー的に教会って神殿の親戚みたいな気分だし、協会ならギルドっぽい。
 けど、そのどっちでもない。
 音の響きは一緒なのに、きっと教会でも協会でもなく境界。
 
 
『その世界には境界線が引かれていて、その境界線自体が国なんだ。つまり、全部その国と密着してるわけ。ずぶずぶだ』
 
 
 これがチート能力なら俺は喜べたのかもしれない。
 俺の頭の中で再生される言葉。これは過去に実際に聞いたことがある声。
 
 
『水色の髪はベルトヤカの証。王家とは血筋的な繋がりは持っていないけれど王国の中でとてもとても重要な位置にいるんだ』
 
 
 誰だ。俺はこれを誰に聞いたんだ。
 そして、嫌な予感だけが膨れ上がってくる。
 
 
『ベルトヤカは残虐で冷酷無慈悲で有名なんだ。王国内部の掃除屋さん。……でも、安心していい。彗星はほうき星だから掃除屋さんと相性は悪くないよ』
 
 
 どんな理論だと思いつつその時は納得して安心していた。
 手をがっちりと握って俺を引きずる勢いで歩き続ける水色の髪の美女系お兄さん。
 隣に並ぶと俺よりも頭一つ分、大きいのが分かる。
 
 このメンバーの中で俺が一番低いってだけですけど。
 
 赤滑くんは同じぐらいだと思っていたら春の身体測定で見事に身長を抜かれていました。
 五センチ差は大きい。
 体重は同じぐらいだからどんだけ赤滑くんは細いんだよ。
 美人度的にも赤滑くんが後二十センチ大きくなれば俺の手を引っ張ってるお兄さんみたいになるのかもしれない。
 長身の美人さんは格好いいけど怖い。
 
 ぬかるんだ道を歩いた時の足跡のへこみ具合。
 お兄さんはメチャクチャへこませていた。
 体重いくつ? って思うよりもこの人絶対に暗器とかそういうのを持ってるわって感じました。
 手を放せって言ったが最後、心臓に何かが突き刺さってくるかもしれない。
 
 俺の恐怖を勘違いしたのか「変な動物はいませんよ」とお兄さんはフレンドリー。
 そして、俺以外の奴らがどうしているのかと言えば無言で二メートルぐらい離れてついてくる。
 二メートルってなんなの。
 何かあった時に逃げられるような距離感なのか!?
 お前らみんな俺の屍を超えていくのか……。
 
 
 
 
 三十分ぐらいは歩き続けた。
 途中で蜜鳩が「オレは飛ぶ」とか言い出したけどお兄さんが振り返った瞬間、とんだ蜜鳩は落ちた。
 怪我はなかったみたいだけど俺は撃ち落とされた、ようにしか見えなかった。
 お兄さんが俺と繋いでいない右手を蜜鳩に向けたからお兄さんが何かしたんじゃないのかと思ってしまう。
 偶然だって、そう言ってと思いながらお兄さんを見ていたら「あ、いま殺しておけば楽でしたね」と言い出した。水色の髪をかき上げて「失態です」と悔やむような声を出すお兄さん。
 俺たちは本当にこれからどうなるんだとガタガタ震えている内に真っ黒な建物が現れた。
 黒が尊いとかいう風習があるなら黒髪黒目な俺はそれなりにいい位置にいくんじゃないの?
 期待していいのかとお兄さんをチラ見。
 
 ちなみに真っ黒な建物には入らなかった。
 その後ろにあった七色というか白色の上に虹を振りまいたような、簡単に言うと宝石のオパールみたいな色の建物に向かっていく。
 どんな素材で作ればこんなよく分からない光が見えるんだろう。
 魔法なんだろうか。
 でも、なんだか引っかかる。
 
 
『その世界には不思議なことなんか何一つない。彗星が怖いのは世界を崩壊させるかもしれない力だろう? 大丈夫。不用品は全部クランティグランティが食べてしまうから』
 
 
 知らない知識を俺はニコニコ笑って聞いていた。
 それだけが俺の娯楽だった。
 
 オパール的な色彩の建物へ俺たちは入って行った。
 門番的な人がいるわけでもない。
 全員を一か所に集めて話をするのかと思えば違う。
 それぞれ別々の部屋に通された。
 俺は未だに水色の髪のお兄さんと手を繋いでいる。
 部屋の中に説明役兼これからの世話役がいるという話だ。
 お兄さんが俺たちに接触する前に人数の確認をとり人を配置したということになる。
 いつからお兄さんは俺たちを見ていたんだろう。
 
 俺が意識を取り戻してから時間にして三時間程度。
 みんなが謎の能力を使い始めたのは俺が目覚めて暫く経ってからだ。
 赤滑くんに聞いたところ俺だけ起きるのが遅かったとはいえ時間差は十分かそのぐらいだという。
 
 みんな揃って話をしないのは相談させないで物事を選択させるため。
 知恵を出し合わせずに一人で考えて決定させるため。
 
 そんなことを思い浮かべてしまうのは心細さからだけではないはずだ。
 振り込め詐欺だって誰かと話すとおかしなところが見えてくるけど電話を受けた直後は大変だ、お金を振り込んだり受け渡したりしないといけないと焦ってしまう。
 焦ることでおかしな部分も見えなくなる。
 誤魔化されてしまう。
 冷静な誰かなら指摘しただろうことにも俺はきっと気づかない。
 
 年齢的な意味で先輩である会計。
 性格の悪さ的に副会長。
 重箱の隅を突く戦力として書記。
 俺の心の安心のために赤滑くん。
 生け贄に捧げるための蜜鳩。
 何があっても俺を見捨てない気がする火内優成。
 
 誰か一人でもいいから俺と一緒にいて欲しかった。
 
 詐欺に騙されるタイプじゃない、大丈夫だ。
 そう言い聞かせながら俺は説明のための部屋に連れてこられた。
 中には誰もいない。
 つまりそれは俺の手を握っているお兄さんが説明と世話をしてくれるということ。
 だよね?
 ここで一人ずつ部屋の中で殺してますとかいう展開はないよね。
 
 そうだと言って!!
 

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