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  004 異世界トリップに巻き込まれた俺



【ひさしぶり、はじめまして】
 
【待っていたよ、来なければよかったのにね】
 
【会いたくてたまらない】
 
【それにしても】
 
 
 一人が話しているはずなのに別人が次から次へとまくしたてている気がする。
 似た声の人間が同時にしゃべっているような声の反響の仕方。
 双子が一斉にしゃべったらこんなかんじになるかもしれない。
 
【それにしても、まさかソコから来るとはね】
 
【親切な心優しい一族がずっと封印してくれていたのに】
 
【だって、ソコは壊れているんだ】
 
【はじまりの鐘とおわりの鐘が一緒だから】
 
【危ないんだよ】
 
【危険なんだよ】
 
 
 聞いたことがあるような、初めて聞くような、少年のような、青年のような、安心する声。
 この声は敵ではない。
 危ないものを教えてくれているのなら敵じゃないはずだ。
 
 
【正しさの扉の中で愛を選ぶのが一つ】
 
【憎しみと痛みの中で新しい世界を望むのも一つ】
 
【同情と後悔の中で戦うのを決めるのが一つ】
 
【夢の中だと割り切って悦楽に落ちるのも一つ】
 
 
 どういうことなのか分からないが選択肢なのだと思った。
 俺に掲示されたこれからの未来。
 
 
【はじまりとおわりの鐘が鳴らない】
 
【連なる血筋がいないから】
 
【封印はされず、解決方法もない】
 
【連なる血筋がいないから】
 
【はじまりもおわりも告げられない】
 
【ソコは出口で入口だから】
 
【壊れてるんだよ】
 
 
 意味が分からないけれど。危険が迫っているのだと焦燥感があった。
 苦しくなってくる。
 無重力から解放される。
 
 むしろ、上に上に引き上げられる。
 息苦しさに咳き込めば目の前に光が差した。
 
 
【忘れちゃダメだよ。キミの道はボクに続いていないといけない】
 
 
 落ちて来いと声がする。
 
 早く起きてと声がする。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「ペンっ!! ペン、大丈夫か? ペンっ」
 
 
 俺はそんな外人みたいな名前じゃないって何度言ったらわかるんだ!
 火内優成が俺の身体を揺さぶりまくっていた。
 いつでも冷静で大胆な生徒会長様がどうしたっていうんだ。
 
「起きたのか!?」
 
 声を上げたのは赤滑くん。
 副会長たちも集まって来た。
 空を見上げているのに気付いて地下に行ったのにどうしてなのかと周りを見渡す。
 綺麗な湖の畔って感じの場所にいる。
 
「オレたちは異世界に来たんだ」
 
 なにそれ、帰りたい。
 謎の使命感に燃える蜜鳩。
 何故かそれに着いていこうと「楽しみですね」と口にする副会長。
 無駄に俺の頭を撫でてくる火内優成。
 
 厳しい顔をしているのは会計と書記と赤滑くん。
 
 普通に考えてさ、異世界で勇者とかムリでしょ。
 チートとかないでしょ。
 
 
 
 って、思っていた時期が俺にもありました。
 
 
 蜜鳩は羽を生やして飛んだ。
 ぶっちゃけちょっとキモい。
 天使だと副会長大絶賛。
 
 火内優成は炎とお友達になった。
 火を内に宿すとかそんな感じなのか?
 蜜鳩の羽はハトか?
 
 副会長は雲を発生させた。南雲南だからか? 南の成分は不明。
 会計は暗黒を発生させた。黒ミサ!? くろさみじゃなかったの!!
 書記の八名井は不明。八だから鉢とか蜂か、それとも末広がりとかなんかそういうのだろう。
 赤滑くんは一言でいうと消去とかロストとかクリア。ないないの魔法。
 
 夢を見ていると思いたい。
 よく分からない力を書記以外が操っている現実。
 そして、俺には何もない。
 俺って彗星ですよ。メガトン級な力があってもおかしくない!!
 溝口が問題なんだろうか。
 書記くんと同じで分からないだけだと思いたい。
 
 いや、チートはいいよ。
 チートはなくてもいいから家に帰してくれよ。
 
「ペン、ほらお食べ」
 
 火内優成が俺に得体のしれない動物の丸焼きを食べさせようとする。
 怖いから遠慮していたら無理矢理に口の中に入れてくる。なんでだよ。飢えを感じるまで空腹とかどうでもいいわ。食べられる時に食べろって変なところでサバイバル知識をブチ込むな。
 
「みんな、やっぱり全然装備品とか……」
 
 誰もサバイバルに適したものを持っていない。
 あえて言えばナイフと懐中電灯。そして使えなくなるかもしれないケータイ。
 俺以外の全員がナイフと懐中電灯を持っていた。
 怖いわ。なんでナイフだけは持ってるんだよ。
 
 ってか、俺を拉致する前にどうして用意させてくれなかったんだよ。
 俺にはケータイもないよ。これからどうしたらいいんだ。
 この軽装備で現地住民から話を聞くとか恐ろしくて仕方がないんだけど。
 殺されても文句は言えないんじゃないの。
 
 急に現れた見知らぬ人間を受け入れてくれる温厚な種族である保証なんかない。
 恐怖から赤滑くんにしがみついていたら火内優成に服を燃やされかけた。
 裸に首輪とか何処からどう見ても危ない奴になっちゃうじゃねえか。
 
 
「やぁ、こんにちは」
 
 
 そう言って声をかけてくれた人は腰まで届く水色の髪。
 見た目はチャイナドレスを着た美女だが声や骨格が男性。オカマさんかと思いきやよく見ると服はチャイナではない。民族衣装でスカートっぽいだけでたぶん普通に男の格好。
 いや、問題は日本語を話す現地住民が居たことだろう。
 
 俺はここが異世界だっていうのは疑ってない。
 だって、頭上にピンク色の雲がある。
 ファンタジーというよりもファンシーだ。
 童話の世界か何かだろうか。
 

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