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  003 俺が犯した罪→不法侵入


 
 俺の意思とかマジでガチで無視なんです。
 なんなの? なんでこんなことするの??
 俺がこの謎の異世界の門探索にお呼ばれしないで拗ねるとか思ってるの!?
 んなわけねーですよねぇ??
 
「ン、んん、ぐっ、ふぅ、ふっ」
 
 言いたいけど言えない。
 口枷って! 口枷ってさぁ!!
 高校生が持ってていいもんじゃないと思うんだよ。
 同い年に首輪をつけるのは異常です。
 俺は断言できる。
 蜜鳩もおかしいが火内優成もヤバい。
 前々から頭がおかしいタンポポヘッドだと思ってたけど無理矢理こんなことするなんて!!
 イケメンでも許されねえから。末代まで祟るどころかお前に子孫が出来ない呪いをやろう。
 きっとイケメンすぎて好きな相手と結ばれないんだ。そうに決まってる。
 イケメンなあなたとじゃ釣り合いませんとか言われて振られてしまえ。
 
 そんな呪いを込めた俺の呻き声を「どうした、ペン。ご飯か?」と骨の形のビスケットを取り出してくる。それが美味しいのは知ってるが違うわ。
 いいや、ここは頷いておいて口枷を外してもらうべきか。
 
「あー、飲み物か。……そうだな、樹液ならある、か?」
 
 森に生えている木をチラッと見る火内優成。
 全力で呪われろ!!
 
 ここで頷いたら俺が樹液を飲み物にするみたいじゃないか。
 俺の気持ちを汲みとったのか蜜鳩がポケットから目薬を出した。
 なんで、目薬。
 
「これしかないけど……」
 
 いらねえよ。
 お前の中では目薬は飲み物なのかよ。
 飲んでるのかよ。
 飲むために持ってきたのか!!
 コンタクトレンズ用じゃねえのか!?
 
「ナイフがありますから自分の血液でも飲んでいたらいいんじゃないですか?」
 
 副会長の提案に「なにそれウケる」と笑いだす会計。
 書記は「気持ち悪っ」と俺が血を飲む人間みたいに侮蔑をぶつけてくる。
 なんなんだ、人の心がないのかコイツらは。
 
 赤滑くんは「いいからさっさと行くぞ」と理事長の家を指さした。
 役員たちにいじられるのもイヤだけど退学覚悟で不法侵入はもっとイヤだ。
 理事長さんは話したことあるけどいい人だったしちょっと前に少し早い夏休みに入るって学園の外に出てるって先生が言ってた。
 一学期の終業式に間に合わないかもしれないのは残念だけど理事長は理事長で何か仕事をしているらしいから忙しいんだろう。
 そんな理事長の家に不法侵入!!
 疲れて家に帰ってきたら生徒が自分の家を荒らしているとかまさに悪夢。
 事件にしなくても退学が免れても理事長はショックを受けるに決まってる。
 
 俺はこの最悪なメンバーの最後の良心として抵抗をした。
 理事長の家は俺が守る!!
 
「歩きたくないなんてワガママ言うなよ」
 
 まさかの赤滑くんの裏切り。
 細い体のどこにそんな力があるのか俺の腹をえぐる拳。
 痛みに意識が薄くなっていく。
 火内優成が赤滑くんに文句を言っているようだが副会長がそれを抑えている。
 このまま騒いで警備に見つかってしまえ。
 その場合、俺のことは置いていかれそうだけど。
 理事長のおうちの平和を守るために仕方がないんだからね!!
 勘違いしないでよ。アンタたちが退学にならないためじゃないんだから!!
 俺の安全な学園生活のためなんだからねっ。
 とか思いつつ意識が完全に途切れた。
 
 あのね、口枷ハメているから呼吸がしにくいとメチャクチャ苦しい。
 
 
 
 
 
 目が覚めると室内だった。
 怖い夢を見た気がするけどアレは夢だったんだ。
 そうだよね。そうだって言ってよ!!
 
 何で見たことない洋館のたぶん地下っぽい階段を下りてるんだよ。
 懐中電灯で照らされる燭台とかレトロなもの理事長の家の外観からしてピッタリの内装なんですけど。
 違うよね。俺の意識がない間に侵入しちゃったとかないよね。
 目の前のタンポポヘッドに頭突きをかます。
 
「お、起きたか……ペンはもう少し鍛えとかないと勇者になれねえーぞ」
 
 なりたくねえよ。
 先頭は蜜鳩でその後ろに俺をおぶっている火内優成。
 首を動かして後ろを見ると副会長、会計、書記、最後尾が赤滑くん。
 みんなして懐中電灯を持っている。
 振り向いたことに気づいたのか俺の顔に照射してくる。
 なんでだよ。まぶしいよぉ。
 
 手で顔を覆って気づく。
 背負うために手の拘束をといたらしい。
 口元に手をやると口枷もない。首元に手をやってなんとか首輪を外そうとしていたら懐中電灯で頭を叩かれた。
 後ろからなので副会長だ。
 
「階段を下りている最中に何をしているんです。危ないでしょう」
 
 そりゃあそうなんだけど、むしろ俺を降ろしてくれよ。
 帰らせてくれよ。警備を呼ぶから。
 
「シッ! 静かにしろっ」
「着いたんですか……」
「なんか、あからさまに怪しい部屋だな」
「決定じゃないですかぁ?」
 
 シリアス顔をする蜜鳩、伺うような副会長、見たまま言った火内優成、声だけならかわいい書記。
 無言の会計と赤滑くんが気になって後ろを見ると二人は意外なほどに真面目な顔をしていた。
 二人が見ているのは階段を下りたところにある扉ではない。
 扉の前の床。蜜鳩が踏むか踏まないかの場所に何かマークがある。
 
 俺は思わず火内優成に「そこの床」と告げて懐中電灯で照らしてもらった。
 見たことがない幾何学的な模様。
 ファンタジー的なことを言えば魔法陣とかそういうやつ。
 
「あのさ、みんな……手ぶらで異世界行くの?」
 
 行けるなんて思ってないけど懐中電灯以外の装備品を持っているようには見えないメンバーに不安が募る。せめてサバイバルグッズをリュックサックに詰め込むべきじゃないのか。
 理事長の家から出られないとか森で遭難とかそういう意味で心配になる。
 異世界に行けなくてもセキュリティに引っかかって閉じ込められるのはありそうじゃんか。
 
「ケータイはあるぞ。……分かってる! まかせろ、彗星。この魔法陣を写メっとけばいいんだろ」
 
 蜜鳩は意気揚々と写真を連射する。
 異世界行ってもバッテリー切れるんじゃないのか、それ。
 
「あれ? 上手く撮れねえ」
「これは書き写すべきですね」
 
 どうやら蜜鳩は手がぶれるのか周囲の明かりの関係か撮影に失敗したらしい。
 メモ帳は持っているらしい副会長。
 火内優成が懐中電灯で照らしている間に副会長は図柄を書き留める。
 俺はこっそりと会計と赤滑くんを見る。
 二人ともやっぱり同じような深刻な顔をしていた。
 
 嫌な予感が胸のあたりでざわついた。
 俺を背負っているから何か感じたのか「ペン、お腹空いてただろ」と火内優成が骨の形のビスケットを取り出した。火内優成自身の肩のあたりにビスケットをヒラヒラさせる。
 思わず顔ごと食べに行った。
 指で受け取ればよかったのに動物的な行動に恥ずかしくなる。
 俺の唇を撫でる火内優成の指先に落ち着かない気分になりながらビスケットを飲み込む。
 口の中の水分が持って行かれたが力は少し抜けた。
 赤滑くんに殴られたお腹が痛い気がするけれど意識があるのに背負われていたくない。
 
「あの、降ろして」
 
 火内優成の頭を叩きながら言う。
 こんなのを火内優成のファンに見られたら絶叫ものだが今は誰も文句を言わないはずだ。
 
「開けるぞっ」
 
 蜜鳩が扉を開ける。
 不思議なことにまぶしかった。
 部屋の中が輝いているのかと錯覚したがそうじゃない。
 俺以外が手に持っている懐中電灯をみんな前方に向けていた。
 そして部屋の中にある鏡に反射したのだ。
 単純なことだったが予想していなかったので驚いて火内優成が背負っている俺を支える力が弱くなった。
 転ぶように床に転がった俺を心配したのは蜜鳩。

 カチリ
 
 蜜鳩が起き上がらせてくれようと俺に手を差し出した、それを掴んだ瞬間に軽いスイッチが入った音がした。
 
 カチリ
 
 聞き間違いかと思ったがもう一度した。
 
 カチリ
 
 カチリ
 
 カチリ
 
 カチ
 
 カチ
 
 カッ
 
 音が止まったかと思ったら体の重みが消えた。
 無重力、落下。
 そんな言葉が頭の中に思い浮かぶ。
 周りは懐中電灯を持っていたはずなのに真っ暗。
 掴んだはずの蜜鳩の手の感触も分からない。
 
 怖いと思った瞬間に声がした。
 聞いたことがあるような、初めて聞くような、少年のような、青年のような、安心する声。
 
 
 
 
 
【さぁ、ボクの元へ落ちておいで。ボクの彗星】
 
 

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