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  002 俺と転入生と生徒会メンバー


 
「オマエ、彗星っていうのか? カッコいいな!!」
 
 それが転入生、蜜鳩《みつばと》の俺の名前に対する第一声だった。
 俺はこれ以上になく単純なので蜜鳩とのことが一発で好きになった。
 髪の毛がボサボサで前髪で顔が隠れているあたり地味な感じで俺は勝手に仲間だと思ってしまった。
 そんなわけないと気づいたのは蜜鳩が転入生してきて一週間もたたない内のことだ。
 
 蜜鳩は四月の半ばに転入してきた。
 一学期が一週間ほど過ぎての転入なんて中途半端だと誰もが思ったけれど金に物を言わせることが多い人間の集まりが生徒をやっている学園なので我が儘が通る家柄なんだろうとみんな深く考えなかった。
 俺は警戒心もなく自分には関係ない転入生の話を聞き流していた。
 赤滑くんが自分の同室になる奴だというまで転入生の存在自体忘れていたほどだ。
 
 蜜鳩と出会ったのは食堂を横切ったところにある購買。
 走っていた蜜鳩に体当たりをされて吹っ飛んだ俺は最悪なことに生徒会で敵にしてはいけないと有名な副会長を下敷きにしていた。
 副会長は俺の後ろにいて蜜鳩に声をかけようとしていたらしい。
 悪気はなかったので蜜鳩は俺と副会長に謝って食堂でランチをおごってくれる流れになった。

 そして、自己紹介をしたら冒頭の言葉。
 
 副会長が俺に対して「この子はペンで十分です」なんて言うのを「彗星のがカッコイイ!!」と引かない。もう、蜜鳩への好感度は跳ね上がって下がりようがなかった。
 なんて良い奴なんだろうと思っていたので「オレは異世界に行くために生まれた勇者なんだ」とかいう中二病の痛い発言も笑って受け流した。
 コイツはなに言ってんだと思っても折角友達になった蜜鳩を怒らせたくないと思って俺はツッコミを入れなかった。
 それが全部、間違いだった。
 見た目が小奇麗じゃないからって騙された。
 ボサボサ髪のカツラを取ったら白髪で茶色のカラコンをとったら赤い瞳。
 白い髪と赤い瞳がむしろカツラでカラコンなら「お前も好きだな〜」で終わったんだけど現実は残酷すぎた。

「彗星って名前を持つオマエなら分かるだろっ。オレは勇者なんだ!!」
 
 これがマジキチって奴なんだと俺は知った。
 生徒会室で役員たちに向かって蜜鳩は堂々と宣言する。
 
「オレはこの学園に異世界への門を探しに来た」
 
 みんなポカーンとしてついていけない……と思っていたら生徒会長になった火内《ひうち》優成《ゆうせい》は笑顔で拍手。バカにしてるようだが涙目になっていたので感動しているようだ。なにそれ怖い。
 副会長、南雲《なぐも》南《みなみ》は乗り遅れるのを恐れるように「そうだったんですか」と転入生に調子を合わせた。
 男にしては長い胸のあたりまである髪を三つ編みにしている会計、先輩である玄佐見《くろさみ》蔵李《ぞうり》は「へー」と生返事。
 この場で唯一の一年生、書記である八名井《やない》楼《ろう》は「なに言ってんですかぁ? 恥ずかしくないんですかぁ?」と嘲笑った。
 たぶん、会計先輩と書記後輩の反応が正しい。
 
「なあ、オマエたちも異世界に行きたくないか?」
 
 そんなことを言い出す蜜鳩にドン引きな俺と書記くん。呆れてる会計。戸惑いの副会長。楽しげな生徒会長。
 そして、蜜鳩は生徒会役員と一緒になって異世界の門を探し出した。
 あるわけないファンタジーを夢見るのは十代前半までがお約束。
 十五歳以上は四捨五入すると二十歳なわけだから大人になろうぜ。
 
 そんなことを思っていた俺は蜜鳩と距離を置こうとした。
 赤滑くんといるとどうしても蜜鳩と接点をもっちゃうけど俺は出来る限り蜜鳩を避けた。
 蜜鳩の情熱が怖かった。
 もし異世界の門なんてものが見つからないとなったら蜜鳩はどうなってしまうんだろう。
 赤滑くんはさすがに大人で目が覚めるまで付き合ってやると生徒会役員と一緒に蜜鳩のそばにいた。
 最初は蜜鳩を嗤っていた書記くんはいつの間にか純粋な蜜鳩にほだされたらしく誰よりも積極的に蜜鳩が言う異世界の門を探した。
 
 蜜鳩の宣言から数か月。
 期末テストも終わり夏休みの足音が聞こえだす初夏の夜、俺に誘いがあった。
 
 てっきり俺のことなんか忘れてると思っていた蜜鳩は律儀にも「一緒に異世界に行こう」と言ってきた。
 俺は蜜鳩たちと違って門とやらを探したりしていないし異世界にだって興味はない。
 だから、断った。断ったんだ!!
 
 俺のことをカッコイイって言ってくれて「彗星」と名前を呼んでくれる蜜鳩のことが嫌いじゃなかったけど蜜鳩の異世界への執着が怖くて。ファンタジー小説とかに憧れているなんて笑えない本気の瞳から逃げたくて。
 
 俺はちゃんと断ったんだ!!
 
 それなのにどうしてこうなるんだよ。
 
 
「溝口、ここまで来たら諦めとけよ」
 
 
 目が覚めたらタンポポ畑。
 俺は手首を縛られてタンポポの中にいた。
 瞬間的に思ったのが「誘拐」その次に「人身売買」だったけれど俺を見下ろしているのは生徒会役員と蜜鳩と赤滑くん。
 生徒会長の火内優成の手にリードが見えて俺は自分の首に手を伸ばした。
 革の首輪の感触があった。
 
 ふざけてる。
 俺のことを何だと思ってるんだ。
 怒鳴りつけてやろうとしたら火内優成にリードを引っ張られた。
 
「ペン、行くぞ」
「彗星が起きるのを待ってたんだぞっ」
「トロ臭い犬ですね」
「アハハハハ、綿毛がいっぱいついてる〜」
「駄犬は動作もノロいんですねぇ」
 
 上から生徒会長火内《ひうち》優成《ゆうせい》、転入生蜜鳩《みつばと》、副会長南雲《なぐも》南《みなみ》、会計玄佐見《くろさみ》蔵李《ぞうり》、書記八名井《やない》楼《ろう》。
 なんでこんな扱い受けないといけないんだ。
 
 縋るように赤滑くんを見つめたけれど「溝口、ここまで来たら諦めとけよ」そう言われてしまった。
 俺の首に以前、突き返した首輪がはまっていることから俺を拉致ったのは生徒会長火内優成なんだろう。
 
「ペン、歩けないなら抱き上げてやろうか」
 
 火内優成がタンポポのような髪の色に反して髪質がふわふわじゃないのは知っている。
 きっと禿げないんだろう腰のある髪の毛を俺は引っ張ってやりたい。
 近寄ったらお前の毛根は痛恨のダメージを受けるぞ!
 そんなことを念じていたせいか後ろから書記の八名井楼に蹴り飛ばされる。
 後輩のくせに容赦ない。
 
「時間がなくなりますから急ぎましょう」
 
 みんな頷き合って歩いていく。俺も首輪に繋がれたリードを引っ張られるせいで歩かざるえない。
 タンポポ畑を少し進むと転んだら痛そうな森に入ったのだ。
 
 森の向こうに高い塀や囲いがあった。
 遠目から見ると家があるように見える。

 すでにここが異世界でいいんじゃないかと思った。
 
 というか、学園の中にある家と言ったら決まってる。
 
「あれ、もしかして……理事長の家?」
「そうだ。これからあの屋敷に忍び込む」
 
 賢いなと火内優成に頭を撫でられながら俺は混乱した。
 俺たちは何をしようとしているんだ。
 理事長の家に不法侵入とか洒落にならない。
 たしか、絶対に入っちゃいけない場所って高等部に上がった時に説明された。
 口酸っぱく、耳にタコができるぐらいに言われた。
 
『立ち入り禁止は生徒手帳にも書いてある。もし無断で立ち入ったら退学も覚悟するように』
 
 学園に隣接しているとはいえ理事長の個人的な家なわけだから遊び半分で来られちゃ困るよな。
 先生いわく以前は何の対策もしていなかったらしいけれど古い洋館が好奇心を刺激するらしく肝試しや度胸試しに勝手に敷地内に侵入する生徒が相次いだらしい。
 それは理事長も迷惑に思うわーと自分に置き換えて考えた。
 隣が学校だからって自分の家に生徒が我が物顔とかないわー。
 でも、野球のボールが飛んでったとかそういうのは多々あるかもと思っていたけれどグラウンドから距離があるから理事長の家を見ようと思わなけれ学園の中で生活していても理事長の家なんて視界に入らない。
 
「生徒会役員のくせに何考えてっ」
 
 思わず怒鳴ろうとした俺の口を火内優成は手で覆う。
 何かを口でくわえさせられて頭の後ろで固定された。
 取ろうにも両手は縛られている。
 
 両手縛られて、犬の首輪つけられて、さらに口枷つけられて、今の俺ってどう見えるんだ?
 
「彗星、興奮するのは分かるけど、しぃーだぞっ」
「そうだ、ペン……静かにするんだ」
「溝口……とりあえず一緒に行くぞ。ミツもここを探してなかったら諦めるって言ってんだ」
 
 蜜鳩のことをいつの間にかミツなんてあだ名で呼ぶ赤滑くん。
 なんだか疎外感。会計の先輩は笑いまくり。あっちのが口枷必要だろっ。
 こんなの絶対におかしいよ!!


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