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  001 俺と赤滑くんと生徒会長


 
 溝口彗星というのが俺の名前だけど俺を溝口と呼んでくれるのは不良で有名な紫色のメッシュを入れた赤滑くんだけだ。赤滑くんは長身の美女のような顔だけれど列記とした男。ってか、男子校だから男しかいない。赤滑くんは柄が悪いけど悪人じゃない。なんせ、俺を「溝口」と呼んでくれるのだ。
 
 溝口彗星。
 彗星なんて名前どうしてもネタにされる。
 自己紹介で笑われて終わり、なら良かったんだけど、中学の終わりごろから俺はある種の人間の絡まれ出した。キラキラオーラを振りまく俺とは正反対の人種。
 地味で平々凡々に日々を過ごしていた俺を崖から突き落とした男の名前は火内優成。
 当時は中学の生徒会で書記をしていた。
 
 みぞぐちすいせい、ひうちゆうせい。
 被ってはいないけれど音が少し似ているかもしれない。最後の「せい」とか。
 なんとなく関連性を見出したらしい彼はクラスが違うにもかかわらず俺に付きまとい始めた。
 
 そして、なんと信じられないことに俺のことを「ペン」と呼んだのだ。
 彗星だからか?
 水性ペン?
 ちょっと待て。
 なら、あんたは油性ペンを名乗れよ。
 と、そんなことを言えるわけもない小心者の俺は「ペン」という外人みたいなあだ名でしか名前を呼ばれなくなった。
 教師もみんなして俺を「ペン」呼び。
 最初は侮蔑交じりだったけれど今では愛称みたいな扱いだ。

 それというのも中学で生徒会長を務めていた同級生が海外へ留学してしまったために火内優成が高校では生徒会長になった。中学の時の副会長が生徒会長になればいいのに副会長は副会長のままだ。自分はサポートなんでみたいなことを言って生徒会長には絶対にならないと固い決意をしていた。
 生徒会長になって書記よりも露出が増えた火内優成の人気はどんどん上がり、それに伴って火内優成に絡まれている俺に対してあんまりよくない感情もぶつけられるようになった。
 そんな時に出会ったのが赤滑くんで悪口を言われたり殴られている俺を赤滑くんは優しく助けてくれた。あ、ちょっと嘘ついたわ。赤滑くんは喧嘩両成敗って言って俺のことも軽く叩いて沈めた。一方的なリンチだって話したら後で謝られたけど。
 
 問題はそこじゃない。
 赤滑くんが鉄拳制裁した後にやってきた火内優成が惨状を見て言った一言。
 
『ペンと遊ぶのもいいけど怪我するなよ』
 
 鬼か悪魔か怪物くんか!!
 
 火内優成は俺がリンチされているのを黙認していたのだ。
 俺のことを構っているのはもしかしたら好きなんじゃ……的なことを思っていた俺は恥ずかしさで死ねる。
 はいはい、そうですね。
 好きな子をイジメたいなんて小学生男子だけであって中高生は嫌いだからあるいはイジメたいからイジメるんだ。そんなことわかってんよ。ただ火内優成は何だかんだで俺に優しかったから勘違いしちまってたんだ。恥ずかしい恥ずかしい。
 
『ペンはかわいいから構いたいのは分かるけど、もう少し考えろ』
 
 そう言いながら俺の服に着いた土を払うようにポンポン触れてくる火内優成。
 落として上げてくるから怖い。
 うっかり優しいとか思いかけた。
 かわいいとか言われたことないし、言われたくもなかったけど褒められると人は「イイ人?」とか勘違いしちゃう。単純な俺は勘違いしかけた。
 
『あー、そうそう。演劇部で見た小道具なんだけどペンに似合うと思って』
 
 得意げに笑う火内優成が取り出したのは犬耳だった。
 舐めてんのかよ。
 かわいいとか言われて喜んだのはイケメンに顔面褒められたからだよ。
 パーティーグッズを一人でつけて浮かれるための前ふりじゃねえよ。
 
『ペンは飼いたくなるかわいさだよな』
 
 犬耳カチューシャを俺につけて満足げな火内優成。
 その後、親衛隊長とか火内優成のファンとかが俺に謝りつつ犬グッズを貢ぎ続けるようになった。
 犬の首輪やリードなんかも貰ったけど無言で返品した。
 火内優成は変人というよりも俺を犬だと思っている。
 犬だから見かけたら構うのが当たり前。
 餌をやるのも当たり前。
 散歩だってしてやる。
 
 うるせぇぇっ!!!!!
 
 お前の優しさなんかいらねえよ。
 近寄んなよ。
 って、言いたいけど俺と火内優成をほほえましく見ている周りの視線が痛くて曖昧に濁した返事しかしない。
 火内優成が望めば俺は「わん」と言わなければならない。
 なんだそりゃあ。
 
 まあ、ね。どんな気持ちで「わん」って言ってても伝わらないのはいいな。
 俺はずっと「死ね」って意味で「わん」って返事してるよ。
 
 俺が火内優成の犬だってことが全校生徒に新聞部のせいで知れ渡って骨の形のクッションとか骨の形のせんべいやクッキーとか貰うようになった。
 食堂では肉が多めに出てくるし、勝手に「ほら、ペン。骨付き肉だぞ」と火内優成がご飯を分けてくる。
 
 こんな俺の日常は大学進学で終わるはずだ。
 ペンなんて俺の本名と一文字も被ってねえし。
 俺はペンじゃねえよ。
 
 泣いてない。泣いてないけど人間扱いしてほしい。
  
 赤滑くんだけが俺を溝口と呼んでくれる。
 俺の友人と言って差し支えないのは赤滑くんだけだ。
 赤滑くんも赤滑ってことで垢嘗めっていう妖怪と同じ名前の呼びだって弄られてイジメられていたらしい。今は赤滑くんは綺麗で強いから誰も「妖怪」なんて言わないけどやっぱり名前で弄られるのはいい気分じゃないって分かると言っていた。
 赤滑くんは眉間の皺がなければ美女にしか見えないけど性格は格好いい男前だ。
 
 俺をペン呼びする奴はみんなまとめて書いた文字が消える呪いを受けるといい。
 
 

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