愛玩ペットが一番マシかと思います!! | ナノ

  041 小難しい話というよりも殺害予告?


 ベルトヤカが生きた歴史書であってメモリリークへ対応できる理由が多分、俺が知っておかなければならないことなんだろう。理解できない俺に噛み砕いた上に言葉を重ねてA兄さんは教えてくれた。
 
 メモリリークという神隠しの前後に呼ばれてないのに俺たちのような異世界人がやってくることが多い。
 
 これは「兆し」と呼ばれて歓迎されたないが放置もされない。把握しなければいけないらしい。未然に防ぐのが大切なのかもしれない。

 Dと同じようにBはサラッと「ささっと死ねば楽なんじゃけどー」と言いだして怖い。ただA兄さんは「現状を打破する情報を持っている可能性が高いから勝手な動きをしないように監視している」とフォローっぽいことを言ってくれた。ただの事実だろうけれどA兄さんの言葉はすぐに誰かがどうにかならないってことだと思う。
 
 俺はベルトヤカの愛玩ペットなので関係ない話しとして流されたけれど、俺以外のみんなは危険な状態なのかもしれないと何度も言われていたことがじわじわと実感する。

 自分がその危険を肩代わりしたいかといえば全くそんな気持ちはない。

 俺は自己保身に走るクズなのか?

 いいや、そもそも異世界に来たくなかったのに何故か来てしまったんだから安全地帯で高みの見物してても悪くないはずだ。罪悪感はあるけど俺は安全圏にいたい。
 
 聞いているとベルトヤカは王様よりも偉そうな気がするけれど猫相手にDは謙虚な感じだった。
 
 そして、歴代の王様の肖像画を見て分かったことだけれど王様の大多数が日本人だという疑惑。あの忌まわしい男がいたからこその推論じゃない。言葉の端々で感じるにDの日本に対する微妙な感情。 そしてこれは考えるべきではないのかもしれないけれど、俺をペットとして手元に置いてくれているのはあの男の記憶を持っているからじゃないのかという疑惑。
 
 もし俺のことを知っているのならやる気満々な勇者志願な蜜鳩をスルーする理由もわかるかもしれない。
 
 いいや、俺はあの男に好かれてなんかなかったから別に違うか?
 Dから哀れみも嘲りも見下しも感じないから俺があの男にされていたことは知らないんだろう。知られたところで構わないと思って伝えておくべきなのか。
 
『私たちは連れ去られたんじゃない。運命に導かれたんだ!』
 
 日本の行方不明者の言葉はきっとこの世界の誰かの入れ知恵だとするのなら移動は一方通行ではない。
 
「永遠という概念が神格化されているなら運命もまた神様?」
 
 A兄さんとDが永遠の話題が出た時にいっていた気がする。この世界の神々や宗教が日本から消えた人間に影響を与えたように逆に日本人が何らかの影響を与えているのなら――。
 
「あぁ、運命は神々の中でも別格だ。彼と言っていいのか分からないが運命は神性を捨て人間に転生を果たしてとある血筋に溶け込んだ。そして神性としての人格と人間としての人格が別々に存在しながら人間と恋をした」
 
「それって、悲恋で終わる?」
 
「いや、世界の終わりを少女の犠牲を払って食い止めて運命はその姿を消した」
 
「……それで悲恋じゃないんだ」
 
「Dは否定的だけれど……そうだな、まずは俺たちの神の話をしようか」
 
 
 
 
 それからA兄さんが語った話はファンタジーというよりは神話の類だ。それを事実と受け入れるのはDじゃなくても無理がある。でも、この考え方がこの世界における一般的なものならば知らないとならないのだろう。
 
 
 
 むかしむかし、とある神様が降りました。人間の世界に降りていき人に捕まって殺され続けることになりました。神様を殺すその時に様々な奇跡が生まれます。本当は人間という器に縛りつけて生まれるたびに奇跡を起こす存在となるべきだった神様はいつからか殺されることにより奇跡を示す存在になりました。
 人間の世界に降りてきた神様は神様の世界で大変愛された存在でした。だから、人間になった神様を殺すと殺された神様以外が嘆き悲しみ本来は起こりえない不可思議な現象、奇跡が人の目に触れます。それはとても尊いことです。

 神様を使い潰すことが正しいことだとされて長い月日が経った頃、とある少女が現れて現状を変えようと動き出したのです。少女はただの人間で勤勉で、懸命で、一途で、そしてどうしようもないほどに普通の人間でした。
 
 少女はどこまでも自分が普通の人間であることを理解してその上で凛と立ち、すべてを受け入れました。
 
 神様を殺し続けた代償。愛されていた神様は自身の価値に無頓着でしたが周りはそうは生きません。神様が死ぬたびに泣いて叫んで世界と人間を呪い続けました。蓄積された呪いをすべて神様の解放を目指した少女が受け止めました。少女が普通の人間だったからです。霊能力があるわけでも怪力があるわけでも魔術が使えるわけでも予知能力があるわけでも未来を変えられるわけでもない、ただの人間だったので神々から世界を崩壊させるぐらいの呪いと共に消えることが出来ました。
 
 そして、ここまでが前提。
 
 少女の生き様は神様を使い潰して栄えつづけた血筋それぞれに伝えられ忘れないように世界を救った少女の話を伝え続けた。まるで戒めのように。
 少女には妹がいたので血脈は途切れることがなかった。脈々と受け継がれる血筋の中でとある奇跡が芽吹いた。少年が生まれた日に様々な奇跡が起きた。伝承にある人間の世界に降りてきた神様や神様を人間の器に押し込めた巫女が生まれた日と同じ奇跡。
 
 忌み子として隔離すべきか神の子として敬うべきか選択を迫られて少年は事前の説明なく屋敷に閉じ込められた。食料もなく誰もいない場所で孤独の中で幼い少年の心にあったのは肖像画に描かれた在りし日の世界を救った少女のこと。
 来る日も来る日も肖像画を見つめるだけの日々。誰も来ない飢えて死を待つだけの世界で少年は思った。死にたくないという当たり前の気持ち。少年は自分の死を認めていたのに抗った。肖像画の少女に会いたかったからだ。すでにいない人間、生まれた時代が違うのに一方的に向ける執着心。それは世界を歪ませるに足る、奇跡。
 
 そして様々なことを経て少年は転生を繰り返し魂の錬成をなした。ついには神の座にすら座る少年にあるのは少女への恋慕と憧憬と敬愛。一度も会話をしたことがない少女への一方的なまでの思い入れ。少女が救った世界を維持しようと思う気持ちから少年は世界の敵を滅ぼし続けた。たとえ魔王が親友でも少年は勇者として立ち上がり世界を守った。
 
 この少年こそがベルトヤカが崇める世界の敵の敵にあたる神。
 
 Dが否定的であるのは世界を守ろうとする理由がきわめて個人的なことだからだ。神の人格というものをDはあまりよく思っていないらしい。A兄さんからするとDの感覚が分からないという。
 
「この世界は……想像できることは何だってありえる。白雪姫の話で言うのなら元が作り話だったとしてもそのストーリーが一般に知られた時点で史実になりえる。誰かが話を元にしてそういった舞台設定を整えてしまう可能性が出てくるからだ」
 
 彗星の世界だって同じだろうとA兄さんは言う。荒唐無稽なお伽話、神々のお話も迷信だったとしてもいずれ誰かが現実のものにしてしまう。
 
 はるか昔、宇宙旅行は夢だった。気軽ではなかったとしても人間は宇宙へ旅立つ手段を手に入れている。夢が夢ではなくなったのは人の情熱のなせる業。その執着は信仰に近しい。天才であれば天才であるだけ普通の人間では到達できない粘着質な感情を蓄積させて世界の法則を飛び越えるような新しいものを作り出す。神の御業といわれるような行動が人のためにならないことだってある。
 
「可能性が存在した時点でそれがたとえ千年先の未来であっても具現化するかもしれない。それだけ願って望んで求めたら世界にとって正負関係なく現実に起こる」
 
 邪教の思い込みの激しさを訴えるA兄さんが危険視するのが思いの強さというなんとも曖昧な話。でも、神様の話を頭に置いた上で考えると少しだけ背中が寒くなる。神頼みで叶った願い事の支払いはいずれ払わなければならなくなるのではないだろうか。それに対してA兄さんは少女が未来の分の支払いも済ませていると教えてくれた。
 
「幸不幸は一定量だ。いいことばかりが続いたら悪いことが起こりそうな気がするだろ? 実際に悪いことは起きる。幸福だけを得ているのなら周囲が不幸なのかもしれない。……邪教はこの考えを逆手に取り不幸な人間を作り出すことによって自身が幸せであると錯覚することも多い」
 
 だから滅ぼすべき存在だといった。不幸な人間という生け贄を作ることで自分たちが幸福だと錯覚する。規模は違っても学校におけるイジメの構図かもしれない。不幸な生け贄よりもマシだと思える優越感。
 
「全てを理解する必要はない。ただ、逸脱した人間は何をしでかすのか分からないと心に留めておいてほしい。人は欲望のためなら神すら殺す。そして、愛情のためなら神にすらなる」
 
 最初に人間の世界に降りた神こそが運命なのだという。運命の擬人化、運命そのものの神様が人の形をして未だに世界を彷徨っているのなら「私たちは連れ去られたんじゃない。運命に導かれたんだ!」文字通り運命の神様に手を引かれてこの世界にやってきたとかそんな馬鹿な話があるかもしれないのか?
 
「つまり勇者になりたいと言っている人間は自分が勇者たりえるために敵対者の存在、魔王だとかそういったものを望んでいることに繋がる。正負はコインの裏表、同じものだと言えるのだから見過ごせるものじゃない」
 
 あれ、もしかして長い前置きで騙されかけたけど蜜鳩への死刑宣告なの?

prev / next

[アンケート] [ 拍手] [愛玩ペットtop ]

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -