幕間 ベルトヤカファミリーの密談(ペット受け入れについて)
邪教において女性は凌辱対象です。
邪教の話題は不快な表現が何かとあるかと思います。
ベルトヤカの歴史は世界の歴史である。
人間ではありえない身体的特徴から迫害され消費され続けたのがベルトヤカの前身にあたる一族。
ベルトヤカと呼ばれ出したのは境界が協会として形作る最中だ。
各地の国境に散らばった組織が一つへまとまっていくさなか、ベルトヤカはベルトヤカを名乗り家族を作り上げた。
厳密なことを言えば家族といっても血の繋がりは不明。
宝石が真珠と琥珀では成り立ちも成分も違うようにベルトヤカは一組の男女から生まれてきたファミリーというわけではなかった。
ベルトヤカに必要なのは血の儀式。記憶の継承。
人の形をしていなくてもベルトヤカに数えられる彼らはみんな家にいるから家族なのではなく、家族になったから家に居られるのだ。
宝石人間とはいわば鉱物の擬人化。
大地が育んだものに人格が宿ったと考えていい。
それは人の形をとっていても人とはいえない。
とある時代、とある世界における、妖怪や化け物の類、妖精という言い方が正しいかもしれない。
ベルトヤカが人間であるのかどうが問題ではなく石の記憶というのは世界の中で最も信頼に足るものであったはずだった。
琥珀の中に閉じ込められた虫により過去を知るように歴史を紐解く存在として力を発揮する存在がベルトヤカ。
人格があったとしてもベルトヤカが宝石だという事実は動かない。
物にも人にも起源がありベルトヤカの本質は美しく輝く宝石だ。
ベルトヤカの毒とは宝石に魅了される人間たちの所有欲や独占欲、虚栄心を満たそうとする心の動きにも似ている。
甘い誘惑に理性を失い本能のままに暴走する。
心を壊す欲望に溺れさせる毒を吐きだすベルトヤカ。
それは宝石であることの副産物に近い。
大粒の宝石を巡って起こる争い事などありふれたもの。
美しいベルトヤカの一族はたとえ遺体がオパールであろうとなかろうと人から求められて蹂躙される対象だ。
実際に過去、ベルトヤカを誘拐監禁する事件は多かったし防腐処理を施してその遺体を保管するケースもまた多かった。宝石として流通させることが出来る瞳や骨などではなく美しい姿に魅せられた人間の悪行。
だからこそと言うべきかベルトヤカの長男をはじめとした兄弟たちは情けや容赦を知らない。
家族以外の人間を本質的に信用しないのがベルトヤカ。
そうでなければ病原体の駆除が出来ない。
絡まって損失した記憶という名の歴史の復元がなされないのは破滅への一歩だ。
病原体というのはこの世界を破滅させようとする負の因子というのがベルトヤカの見解だが、狭義でいえば人間の狂気、妄執、固執や心残り、広義でいえば人を正常な状態から逸脱させるもの、邪教だ。
人ではないと過去に迫害を受けていた宝石が人を語り、人としての欲望を暴走させて集団生活からはみ出た邪教が世界を壊そうとするのを阻止する。
世界を一つのものとして考えて外部からやって来た不必要なものだからこそ邪教は病原体である。
流行してしまえば世界が滅びてしまう。メモリリークが増え続ければ世界は終わる。
ベルトヤカは無機質なまでにただの対策をするための部署であったが、それは溝口彗星がやってくるまでの話。
「へぇ、結局挿入しなかったんだぁ! あははははは、はは!!」
裸に白衣の格好のBの出す甲高い声に長男は眉を寄せる。
ヘアスタイルは乱れ、全身に汗をかいている長男の姿にBのテンションはおさまらない。
寝台を足で蹴るようにしながら口を開く。
「なに? なんで?? その気遣いって誰に対して!? だって、さっさとヤっちゃった方が身体は楽になるでしょ。染めたくないわけ? どうしてどうしてなんでなんで」
「怖がっていただろう」
正常位で彗星の腿の間に自分の性器を挟んで扱きあげて射精したのが今さっきのことだ。
彗星の顔が自分のモノと彗星自身の精液で汚れているのが卑猥で欲望が陰らないことが長男には不思議だった。
頬に飛んだ精液を指で口の中に押し込めれば彗星は幼い子供のように長男の指をしゃぶる。
半分以上すでに意識が飛んでいるのか身体は脱力している。
目は辛うじて開けられているもののこちらを見ているかは怪しいと長男は思っていた。
Bが彗星に与えたものは病原体、つまり負の因子。それは人間の避けていたい記憶。見たくないもの。
人は見たくないものから逃げるために快楽に身を委ねる。
女性が飲めば襲い掛かる目の前の見知らぬ人間よりも記憶の中にある以前味わった恐怖に怯える。
セックスすることによって以前の恐怖を忘れさせてやるのだと言いながら儀式と称して肌を重ねて身籠らせる。
子供はもちろん邪教の手足に使うし、心が壊れた女性はそのまま性欲処理と子供を産ませる存在として管理される。
多少の意思がある女性でも逃げずに邪教に従い子供を育てたり邪教から逃げないのは見たくない記憶が襲い掛かってくる恐怖から守ってくれるのが邪教だと信じているからだ。
幸せになるためには邪教にいるしかない。それが自分のためであり子供のためだと信じている。
邪教の行う洗脳方法の一つを彗星に仕掛けようとしたBに長男は不快感を示すが結果は明白だった。
溝口彗星は壊れない。これはある意味、革命的なことだ。
「……ン、ふっ、あ、ぁ」
小動物が必死にミルクを求めるように彗星は長男の指を求めて舌を動かす。
黒いふわふわとした服を着せたのは完全な長男の趣味だった。
身体を締め付けるデザインではないので彗星に嫌がられることはないと思うのだがスーツがそもそもの望みなので歓迎されないかもしれない。
そのため意識を飛ばしている間に着替えさせて寝室に連れてきたのだが大成功だ。
黒い子犬がかわいい顔でねだってくる。
「も、っとぉ」
Bがブツブツと「解毒方法を無意識に理解している。病原体に対抗できるだけの高純度の存在はベルトヤカしかいないということか」と一人で納得している。
指を彗星から引き抜くと物足りなさそうな顔で見てくるので長男は自分の手の中に精を吐き出した。
夢うつつな状態に見えて匂いを感じたのか精液に汚れた指を近づければ彗星は喜んで近づいてくる。
舌を指に絡ませてちゅうちゅう吸う。
心が洗われる気分になる長男とは逆にBはドン引きしたのか「なんでじゃい」とツッコミを入れた。
「直腸で吸収させないのはともかく手につけて舐めさせる必要はなかとよ?」
「この方がかわいい」
「口の中に直接――」
「この方がかわいい」
「……長男ってわかりにくい変人やわぁ」
ベルトヤカならみんなそんなものだと長男は思いながら真面目な顔で自分の指を舐めている彗星を見つめた。
「それで?」
「あ、あぁ……溝口彗星は多分、今の段階で色彩は変わらんし自意識が消失してないわけで」
「Dが言った通りというところか」
「そーゆこと。歴史の読み手、プレイヤー、傍観者、あるいは観測者。
……駒は一緒にやって来た人間ってとこ」
「彼らは死ぬか?」
「さぁてねえ? 溝口彗星さえ死ななければ問題ないんとちゃうの」
「彗星が悲しむことは避けたい」
「ってもね、ベルトヤカで手を貸す人間なんか居ないでしょうよ。彼らの知識は必要でも人間はいらない。メモリリークの発生に繋がっちまう。送り返す手間も惜しいっしょ」
「あぁ、そうだな」
「人が増えればその分こっちが減る」
「陛下の計算では一週間以内に人が消える」
「メモリリークの発生かぁ……後始末で忙しくなってる間に溝口彗星を貸してよー」
「彗星を危険にさらすつもりはない」
「いけずぅ」
次はどの国からどれだけの人間が消えるのかとBは口にする。
自分の管轄ではないので長男は完全に目を閉じてしまっている彗星の頭を撫でる。
眠っていながら口をもごもご動かして長男の指を甘噛みする彗星。
長男とBの間で交わされる物騒な会話など知らずに眠りに落ちていく。
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