027 顔射だとノルマ的に0という扱い
髪および上半身に盛大にぶっかけられた俺は目の周りをシャツの袖口でぬぐってから目を開けた。
幸いだったのが三兄弟が揃って同じタイミングで射精したこと。
俺は目を閉じて待っているだけでよかった。
気力がゲッソリ削られたとしても肉体的に痛みなんかないから全然平気。
俺の脳裏に過ぎるのは中学の時のボロボロにされた美少年。
自分よりも俺のことを気にしていた見た目に合わない男前な彼はきっと肛門が裂けたりとかそういう酷いことになったんだろうと思うと罪悪感を覚えずにいられない。
顔射されまくったり精液を身体に塗りたくられたりしたけど俺は飴もらったりジュースもらったりチョコもらったりしてたわけだ。美少年がボコボコにされているにも関わらず俺は「痛いことしないから落ち着いてー」「泣き顔とか困ってる顔イイわぁ」「歯並びいいねえ」「火内、意外に見る目あるわ」と好きかって言ってただけで本当に一切殴られなかった。
気持ち悪くて怖かっただけで頭を撫でられたりはしたけれど髪の毛を引っ張られることもなかった。
シャワーを浴びてサッパリしたら被害者とは思えないレベルに何の痕跡もない俺は自分の立ち位置が分からなくなった。
やられていた最中はどうして自分がこんな目に合うのかと自己憐憫に浸かりきっていたのに俺よりひどい有り様の美少年を見たらそんなこと思えなくなって遠い目をするしかない。
「スイ、それだともう一度やり直さないといけませんよ」
Dの言葉に俺は首を傾げた後にハッとした。
そうですね、精液飲めって話しでした。そうでした。
メチャクチャ袖でぬぐって口の中には入ってません。
え? これ、ノーカウント??
だよねー、そうだよねー。
ふえぇぇとか変な鳴き声上げたいんですけど。
萌えキャラ気取りたいんですけど!!
全力で誤魔化したいよ。
お風呂でサッパリして朝食。
ちなみに三人とも二発目する元気はないのか時間がないのか俺は精液を口にしていない。
死ぬ死ぬ言われたけど大袈裟に脅しただけかな。そうならいいな。
「一度ちょっと味わった方がいいから、すぅちゃんは禁断症状が出るまで放置だよー」
とベルトルに笑顔で言われましたけど、どういうことなのか理解したくない。
禁断症状って何?
具体的なことは聞いていないんだよね。
全身の血が噴き出てきたりするの??
「スイとずっと一緒にいたいんですけれど他の兄弟と顔合わせが必要なので今日は長男と居てください」
Dの言葉に俺は頷いておく。聞きたいことはA兄さんが一番ちゃんと教えてくれそうな気がする。
なんだかんだでDもベルトルもはぐらかすのが上手い。
A兄さんはその点、不器用っぽいから安心できる。
もちろんA兄さんにとっての事実が真実とは違うことだってあるだろうけど疑い出したらキリがない。
俺が考えるべきなのはこの世界からの脱出方法だ。そして、蜜鳩たちの安全確認。
勇者というのが魔王を倒す人間なのか魔王を倒すために犠牲を払える英雄という意味なのかが運命の分かれ目じゃないかと思う。
戦って死ぬのが蜜鳩の望みなら俺は何も言えないけれど本当にただ夢を見てるだけなら覚めるべきなんだろう。命を失くしてからじゃ遅い。
「他の兄弟は家に帰ってこないの?」
自分の家に帰ってきたら変な格好の奴がいるとか思われたらへこむ。
事前に連絡した上で帰ってきて欲しいな。
「研究塔の中にいる数人はすぐに顔を出すかもしれませんけど……外をうろついてるのは危ないので追い払っておきます」
ベルトヤカはアルファベット的に兄弟プラスペットで二十六だったりするんだろうか。
大所帯かと思ったけどペットの数を考えると普通かもしれない。
あの恐怖の綿毛が庭でぽわぽわしていることを思えばペットいっぱいいても不思議じゃない。
あの白黒蛇で二匹だろうからその内、俺は全員と会うんだろう。
追い払われた人は別だろうけど。
「研究塔はすぐそこだからねー」
「だが、あいつらは基本的に研究以外のことをしない」
「でも絶対にすぅちゃんに会いたがるよ」
なんでだ。俺がチートだからか?
「すぅちゃんのおかげでみんなが仲直りできるかもしれないんだからさぁ」
期待が重すぎる。
どんな理由で俺がベルトルに期待されているのか知らないけれどベルトヤカは兄弟仲が悪いのか。何だか意外だ。
「言い争うことが減るなら文句はありません。狂信者にはお帰りいただきたいところですけど」
そんなことを言うDに俺は「チーズってないの」と空気の読めない発言をしてみる。
パスタは鮭的なものが散らばしてあってやっぱり醤油味が主体。
ミートソーススパゲティーにパルメザンチーズかけて食べたい。
「そう言えば日本食が食べたいと言っていましたね。兄弟に会う時にちょっと頼んでおきます」
「助かる〜。ガッツリ和食とかじゃなくてハンバーグとかカレーとかシチューとか」
「給食で人気があるランキングを参考にすればイイんだね!!」
ベルトルから出た言葉に俺は遠い目になりかけたけどその通りかと思ったので「お願い」と言っておいた。俺の味覚がお子様だったとしても別に恥ずかしくなんかない。食べたいものを食べられるようになるならそれが一番だ。
「ちなみに挽き肉の材料は人間でいいですか?」
「いい訳あるかっ」
思わず吐くかと思った。
肉っぽいものはパスタに入ってないけどこれから出てくる料理にビビり続けることになる。
「人間の肉は手に入りやすいんですけれど家畜の肉は……」
「そもそも豚とか牛っているの?」
「居ると言えば居ますけれど、居ないと言えば居ません。境界は各国のいわゆる国境に当たるわけで合計の面積で言えばそれなりですけれど広い国というわけじゃありません」
「ちなみにこの近くの国は牧畜に力入れてないから手に入りにくいんだよ」
悲しき食生活事情。
味付けが変に和風なパスタが三食とか夏村流水は平気だったのか気になるところ。
王様のお付きの人だから扱いが違うのかもしれない。
「そういえば野菜は胡散くさ男(お)が作ってますね」
「あー、そういえばそうだねー。ミリリカの実は美味しかったよ」
「夏村流水か。創作料理も持ってきていたな」
Dが胡散くさ男(お)って夏村流水のことを呼んでるという衝撃でA兄さんが明かす、ご近所付き合いみたいな距離感にツッコミ入れられない。
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