愛玩ペットが一番マシかと思います!! | ナノ

  021 永遠ってなんじゃらほい


 
 
 俺とセクハラぺろリストショタっ子ベルトルとの攻防はA兄さんの一言で終わった。
 さすが長男!!頼りになるね。
 そういえばこの家族は両親とかどうなってるんだろう。
 A兄さんが二百歳か三百歳だってことは両親は存命ではないか、生きてたら千歳とかなの?
 家族の話題にググッと踏み込んじゃうけど俺もペットとして家族の一員なわけだから聞いちゃっていいかな。
 
「両親ですか? あぁ、居るような居ないような」
 
 Dは不思議なことを言う。
 少しだけA兄さんは切ない顔。
 ベルトルはかわいいサラサラボブヘアな髪の毛を指先でくるくる、が上手くできなくて俺の腰に抱きついて来る。やめろ、パンツの中に手を入れるな。
 
 これはアレかなA兄さん以外は両親のことを覚えてないとかそういう感じ?
 ベルトルはメチャクチャ興味ないって顔してるけどいいのかな。
 ちみっこに見えてやっぱり年上なのか??
 ショタ爺なのか、ベルトル。
 
 ベルトヤカの寿命がどうなっているのか分からないけど役目のせいで長生きなら淋しい思いもしてるかもしれない。この世界で命を終える気はないけどここにいる誰より俺が早く死ぬんだと気づいてしまうと何とも言えない気持ちになる。
 
「病原体が消えればベルトヤカを含めて世界の時間は元に戻る。メモリリークは本来あってはならない現象だ。ベルトヤカは永遠の模倣。主観的な生き字引を補強する客観として作られた」
 
 たぶん重要なことを言われてるんだろうけど、A兄さんの言葉はちょっと分からん。
 生き字引という言葉に俺はふとこの境界という場所の特異性を思い出した。
 
『その国は生き字引になっている吸血鬼の生態を真似たのさ』

 吸血鬼がいる世界なのか。
 それとも生き字引と呼ばれる特別な存在だけが吸血鬼なのか。
 
『自分が今いる場所が夢なのか現実なのか分からなくなったなら彼を探すといい。彼が居るのならそれは現実であり「正史」だ。彼は可能性の世界には存在しえない。偽物の中にはいない。複製できない存在だからね。多世界がいくら広がりを見せたとしても現実はたったの一回だけ。世界がもう一度同じことを繰り返したとしても彼が居る限りすべて打ち消される。彼が通った道こそがたった一つの現実だからだ。時間を巻き戻らせてもその中に彼はいないんだ』
 
 世界は観測によって成り立っていて、常に世界を見つめているらしい生き字引の見ている世界こそが現実。彼の時間は巻き戻らない。何故なら永遠であるから。永遠という概念を壊すだけの力は創造神ですら持ちえない。
  
『彼は一人しかいないから何処かに囚われていることだってありえる。だから彼が見当たらないからといって全てを虚構だと言うのは暴論』
 
 難しいことばかり言う。知らないことばかり言う。
 そんなのおかしい。俺と話しているようでいて俺のことなんかどうでもよく捲し立てる。
 俺の未来を語る言葉。俺のための、俺に宛てた言葉。
 けれど、あの時の俺は、俺に必要だったのは――。
 
『どうしても疑わしくて何もかも信じられなくなったら彼を探すんだ。彼はあらゆる事象を跳ね除ける。停滞はありえても死ぬことはない。長い年月をかけて「永遠」という概念そのものに転じた彼は神と言って差し支えない。神というのはどんな存在にも侵されない固有の領土を持つものの称号。「永遠」という概念の中で彼は他者から侵害を受けなくなった』
 
 吸血鬼が神様だなんて、それこそ邪教じゃないのか。
 頭の中に響く声。過去の記憶。「必要になるから覚えていて」とそう言われた。
 どうしてと俺は聞くこともなく知らない世界の知らない法則を聞く。
 こんなにもしっかり覚えているその理由は、俺にはこれしかなかったからだ。
 
『燃え尽きても彗星が迷わないように欠片を残していくから』
 
 今は分からなくてもいずれ分かる。
 理解した日に俺を殺すかもしれない言葉。
 
『その世界には不思議なことなんか何一つない。彗星が怖いのは世界を崩壊させるかもしれない力だろう? 大丈夫。不用品は全部クランティグランティが食べてしまうから』

 知らない知識を俺はニコニコ笑って聞いていた。
 それだけが俺の娯楽だった。
 俺の幼い世界を構成していた俺の知らない世界の話。
 
 それらを俺は全部忘れて生きることにした。
 俺の世界には関係のなことだと思い込むことにした。
 誰に何を聞かれても知らないと答えるのが正しかったから。
 普通の生活をするのに必要ない知識だ。
 
「主観的な生き字引って……吸血鬼のこと?」
 
 答え合わせを避けてきた。
 自分の中にある知識を疑っていた。
 アレは全部うそだ。俺は何も聞いていない。何も知らないから関係ない。
 
「知っているんですか? |十七夜月《かのう》|季史《きし》です。永遠なるものの代表者。彼は旅人と称されていますけど日本に持ち家がいくつかありますし近所付き合いも盛んで世話焼きらしいですね。もしかして会ったことあります?」
 
 なんだよ、そのフレンドリーな吸血鬼。
 俺の緊張を返せ。
 ファンタジー的に吸血鬼がいるのは普通……って、違う。この場合、現代日本に「 |十七夜月《かのう》|季史《きし》」っていう吸血鬼がいるような口ぶりだった。
 
「最初はただの伝説や伝承だと思っていましたけれど実際に彼に出会ってる人間たちがいたので現存し続ける最も信頼することが出来る生きた歴史という扱いにさせてもらってます」
「うそを言っているってことはありえないの?」
 
 会った? 吸血鬼に??
 誰が? この世界に来た日本人が?? それともこの世界の誰かが?
 
 近所付き合い盛んで世話焼きでも吸血鬼だよね。
 人間を恨んだりとかそういうことないんだ。
 ってより、吸血鬼と仲良くできるものなの?
 人の血を吸うからこその吸血鬼なのに……。
 
「彼は滅びた国の王様でもあるらしいです。そのため彼の名前を不用意に使ったら侮辱と見なしてかつての臣下たちに屠られると聞きます。概念に至った彼ほどではないにしても彼の臣下たちも永遠の末席にいる存在なので敵に回すべきじゃありません。どこかで聞き耳を立てているかもしれません」
「吸血鬼の周りは吸血鬼?」
「具体的な情報はありませんが吸血鬼を含めた異形という話です」
「俺が聞いた話だと永遠は運命の神の友人だから悪評を立てようとする人間が強制的に不幸になって悲惨な末路を辿るんじゃなかったか?」
「そういう話もありましたね。運命の神なんて曖昧な話です。運命を司るのではなく運命という概念の具現化。それ自体では何もしないはずの存在に人格を与えるなんて生きている人間への嫌がらせです」
 
 まだ情報が処理しきれない。
 概念が擬人化した神様っていうのはギリシャ神話とかを考えると別に不思議じゃない。
 まあまあ理解できる範囲。
 
 ただそれが実在するように話されると混乱する。
 この世界の考えならまだ納得できるけど、今のDとA兄さんの会話はそうじゃない。
 
 いまさら吸血鬼程度で驚くべきじゃないのかもしれないけれど、元の世界は普通の現代日本だ。
 吸血鬼は物語の中だけの存在だった。
 俺の知らないだけで吸血鬼がいるなんてあるわけない。
 
『吸血鬼は存在しない。彼の存在は表舞台には出てこない。けれど、人に紛れて彼は存在し続ける。世界を見つめて旅をするんだ。それが彼の愛だから』
 
 愛って何。
 
『同じ時間を生きられないと知りながら彼は恋をする。人間を愛した彼は地球が滅びたとしても存在し続ける。酸素がなくても水がなくても光がなくても彼は死なない。彼の名前を呼ぶ存在が居なくなった時に彼はやっと存在できなくなるかもしれない。そんな日は来ないからこその永遠の体現者』
 
 吸血鬼というよりはお伽話の妖精のようだ。
 存在を信じてもらえなければ居なくなってしまう。消えてしまう。
 
 信仰されなくなった神様が力を失ってしまうという話を聞いたことがある。
 ファンタジーというよりも迷信というか言い伝え。地方の風習。
 国の中に国民がいるからその上に立つ王様は存在できる。
 崇めてくれる人間がいるから神様は存在できる。
 そういう方程式というか逸話は数多くある。
 何かがそこにあるだけでは意味がない。
 それが何であるのか知っている人間が居なければ意味を持てない。
 ダイヤの原石がゴミとされていた時代がある。
 加工技術がないから磨かれないダイヤはただのゴミだった。
 巨匠と言われる画家の作品が生前で売れたのは一枚きり。
 価値というのは見出すものがいなければゼロ。
 善政を敷いた王が民衆により愚王にされることもある。
 主観で物事の把握が変わるのは当然のこと。
 だけど主観すらなくなったら何もないということになるかもしれない。
 寂れた祠、苔むした狐。祀られた神は信仰されることがなくなったせいで、もうそこにはいないのかもしれない。
 その祠の存在すら知らない人間にとってはその場に神は存在しなくなる。
 暴論であり極論であるけれど、真実にかする程度には事実に近いたとえ話。
 
 吸血鬼っていう真偽はともかくとして生き字引と言われて神様に近い存在ならファンタジーというよりも土着神とかなのかもしれない。すこしオカルトだけど。
 十七夜月季史という名前をずっと伝え続けている一族がいる、みたな。
 神様の名前を当主が名乗るとか当主を生き神って言って崇めてる古い血筋はあった気がする。
 十七夜月っていう名字に覚えはないけど「可能」から転じているなら同じ音の加納、嘉納あたりを名字として使っているのかもしれない。古い家で叶野には覚えがあるけど会ったことはない。
 
『彼はすべてを見通すことなんかできない。ただ目の前に彼が現れたのなら安心していい。彗星が何も間違えていない証だ。彼は味方になることはあっても敵にはならない』
 
 正しい歴史を進んだ先に現れる存在。
 吸血鬼とか永遠とかそんなよく分からないものというよりも単純に指標だと考えらればいいのかもしれない。
 
「今回のことで決着がつくんでしたら彼に会うことになるかもしれませんね」
 
 今回って何?
 蜜鳩が本当に勇者になるって話?? 
 
 

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