愛玩ペットが一番マシかと思います!! | ナノ

  015 俺よりも幸せな奴は呪われるといいよ


 
 言いたいことは色々あるけど歴代の王様の肖像画を見てから今日のところは解散になるらしい。
 もっと俺に説明をしても罰は当たらないと思う。
 蜜鳩が「俺は獣を狩りつくす」とか宣言してたけどそれって環境破壊じゃないかな。
 ってか、背中から羽を出して飛ぶだけの力でどうやって狩りをするんだ。
 教えてもらうのかそれとも返り討ちにあいに行くのか?
 怪我しないといいなーと思うぐらいには心配だ。
 蜜鳩が言う獣が火を恐れる普通の動物と同じ本能を持っているなら火内優成は漢字は違うけど優勢ということだ。みんな能力が名字や名前に由来している気がするから彗星の名を持つ俺が一番最強チートじゃないとおかしい。大器晩成型なんだ。俺の下半身をはむはむしているZが強いっぽいから俺が力を使うことなんかないだろうけどね。
 俺の力が解放されるとき、世界が滅びるとかそう思って心を強くしようと思ったけどそれって中二病だ。蜜鳩をバカに出来ない。違うし! 俺は中二病とか卒業して真っ当な一般市民だ。世界の敵なんて存在しないんだ。人間の敵は人間で、自然の敵は人間で、地球の敵は人間だ。つまり適当に人間を倒しておけば大体正しい。
 落ち着くんだ俺。
 俺が倒される側に入ると困るから人間の敵は俺の敵、俺の敵は人間の敵。それでいこう。
 誰かが自動的に人間の敵である俺の敵を倒してくれるだろう。
 なんか混乱している気がしなくもない。
 でもでもだって、謎の服装とZを装備している俺と違って他のみんながファンタジー世界の人になってて悔しいっ。この悔しさは猫が俺に肉球を触らせてくれたとしても癒せないんだからね!!
 ちょー和んだけど。
 不安だらけだったからホッとしたけど!!
 三時間ぐらいずっと戯れていたい気分。
 これが猫の魔法。
 猫の魔法にかかったものは時を忘れる。
 
 それにしても俺よりも幸せな奴はみんな呪われてしまえ。
 
 蜜鳩も赤滑くんも火内優成を筆頭に生徒会役員は美形だったり、日本人顔じゃないからコスプレって感じよりもファンタジー超大作の映画の人って感じ。羨ましい。妬ましい。足が長すぎる。八頭身かよ。
 俺はZが居なかったら微妙な足を晒しつつ緊張からへっぴり腰にならざるえないというのにお前たちは揃いも揃って剣や杖を持って!!
 ズボンのない落ち着かなさは異常なんだ。Zがあたためてくれるから下半身の異常を忘れてるけど男はストッキング履かないからね!!
 いいや、王子が履くという噂の白タイツを装備していると脳内で変換してみれば許せるか?

 無理か、無理だな。
 
 俺は王子様じゃないし白タイツじゃないし不思議石が尻に入っているから実は歩くたびに刺激されてこれは調教的ななんか、あれなのかと悶々としちゃうのを抑えるのが大変。
 
 脳内で「いつからこんなにいやらしい身体になったんだ?」「ち、ちがう……俺は、こんな」みたいな天使と悪魔の妄想劇を繰り広げるぐらいに俺は興奮している。
 
 俺になじられて俺が悶えるとかただのナルシストじゃないか!!
 いや、仕方がないんだ。
 会話もほどほどに肖像画の間にむかってぞろぞろと歩いているから下半身に意識が集中しだして!
 みんながもっと喋ればいいんだ。
 
 俺が来る前にみんなで情報を交換し合っているからか先導する夏村流水に世界の在り方についての質問は飛び交わない。
 それとも徐々に知っていくべきだと思ってるのかな。
 日本史の教科書渡されて一日で日本を理解しろって言われても無理だしね。
 俺が海外の人に日本がどういうものか説明するなら「富士山、芸者、寿司、忍者、侍、これが昔のイメージ。今は京都、秋葉原、アニメ、マンガ、HENTAIが日本」って言っとくかな。
 あれ? バカにしてるみたい??
 でもアニメやマンガに忍者も侍もいるからオススメだよね。
 日本刀や忍術は海外で大人気なのは常識だし。
 それで言うと境界は「ルールを犯すと即死だけど王様が猫でも気にしないぐらいに寛大な国」ってことで良いんだか悪いんだかわからないわ。
 
「つらいことはありませんでしたか?」
「まあ、生きてりゃー、人並みじゃないか?」
 
 副会長が夏村流水にたずねるがさっきからこの調子で具体的なことは言わないしはぐらかすような態度で笑う。
 みんなが気になっているだろう夏村流水がいつからこちらに来たのかというのだけちゃんと教えてくれた。
 
 中学の卒業式に夏村流水は生徒会長として出席していた。
 そして、誰もが高等部に進学していると思ったら海外留学という話を聞かされて、それならということで生徒会長に火内優成が選ばれた。
 これは後輩である書記くんだって知っている学園で有名なこと。
 転入生である蜜鳩は知らないし興味がないかもしれない。
 普通に考えて中学の卒業式が終わってから高校の入学式までの期間中になる。
 中等部と高等部の場所は違うから中等部の寮にいた人間は高等部の寮になるべく早く移ることを望まれる。夏村流水が自宅通学なら噂が流れただろうけどそんなことはなかったから八割近くの生徒と同じく中等部は寮だったのだろう。
 
「卒業式が終わってすぐケーちゃんと一緒に中等部から高等部に引っ越したんだ」
 
 ケーちゃんというのは猫の名前だ。
 今まで何も思っていなかったがケーと言われるとKを連想する。
 アルファベットファミリーだから王様にDが甘いとかそんなわけないか。
 
「ケーちゃんの体調が悪かったから獣医ってわけじゃないけどエテルニタに住んでてこっちに全然来ない医者がいたから看てもらったんだ」
 
 それが理事長の家の中だったりするんだろう。不運だったなと思っていたら話が全然違っていた。
 
「そうしたらケーちゃんが誘拐されてさ」
 
 悔しそうな声音で夏村流水は「俺が飼ってるわけじゃないけど放っておけないから陛下と一緒に探してるんだ」と子猫を肩に乗せて撫でる。
 
「え? 陛下??」
 
 そういえば、目の前の猫に対して夏村流水はケーちゃんと呼びかけていない。
 陛下と言いながら猫を撫でているけれど。
 
「……まさか、ペンは陛下とケーちゃんの見分けがついてなかった!?」
 
 足を止めて身体ごと振り返ってくる夏村流水。
 猫も猫も「お前っ!!」と言いたそうな批難するような驚いた顔。
 いや、だって普通、猫は猫じゃん。
 白ベースか茶色ベースか知らないけど明るい茶色の毛並の猫だっていう認識しかしてない。
 人間の赤ちゃんだって見分けるのが難しいんだから子猫の見分けなんかつくわけない。
 
「ほら、陛下がショックを受け過ぎて俺から落っこちそうになってる」
 
 それはお前がちゃんと支えていろよ。子猫から手を離すなよ。
 爪が引っかけやすそうな麻の服を着ている夏村流水はよく考えるとラフな姿。
 村人って言って通りそうな格好で玉座に腰掛けていたわけだ。
 夏村流水がいるだけで驚いていたけどそれ以前にツッコミどころが多い。
 
「……ごめん。俺と一緒に寝てたのがケーちゃんで俺とよく遊んでたのが陛下か?」
 
 言われれば俺にいい昼寝場所を教えてくれたりする猫と顔を合わせたら遊ぶのが当然とばかりに全力で挑んでくる猫がいた。
 気まぐれっていうか猫の気分なんだと思って気にしてなかったわ。
 
「陛下がそうだって言ってる。……怒ってはないって」
 
 言ってるって鳴き声をあげてるけどそこから読み取れねえよ。
 後ろを見るとDが微妙な顔をしていた。
 それは俺が王様にやらかしていたことなのか夏村流水が王様の翻訳係をしているからなのか。
 
 そして今更に気づいたけど猫を王様にして平気でいるなら王に血筋は関係ないことになる。
 血ではないなら何を理由に王様を決めているんだろう。考えないと思ったつもりだけどやっぱり気になるところだ。あの猫を長靴とかブーツに入れたい。外に出れなくて困ってるのが見たい。それはイジメか。いいや、あの猫は俺の服の右の袖から入って左の袖から出るとかしてたから狭いところ大好き。そうじゃなきゃ夏村流水にポケットに入れられたりしないだろう。
 
 
『水色の髪はベルトヤカの証。王家とは血筋的な繋がりは持っていないけれど王国の中でとてもとても重要な位置にいるんだ』
 
 
 王家と実際に王となる存在はまた別なのか。以前とはルールが変わったのか。
 俺の記憶の中の言葉が正しいとは限らない。
 でも、疑い出したらきりがない。
 
 今更なことだけどDは一番後ろを歩いている。
 本当はその隣か後ろを俺が歩くべきなのかもしれない。
 それなのに俺は赤滑くんと並んでいた。ペット失格かもしれない。
 何も言われないのでセーフだろう、たぶん。
 火内優成の裂けた服を思い出して赤滑くんと適度に距離を取りながら歩く。
 
 夏村流水が火内優成と話しているか俺を気にするばかりで泣くほど心配していたらしい副会長をスルー気味なのが気になるところ。蜜鳩が隣で「この世界を俺が変えてやるから気にすんなよ」とズレた慰めをしている。慰めでもなく蜜鳩からしたらこの世界での目標なんだろう。
 思い込みが物凄いが蜜鳩は良い奴だ。俺を「彗星」って呼んでくれるし。
 
 
『×さんは何もわかってないね。××と××は別々のものなのに。地球に落ちていくのが××。太陽に近づいていくのが××。つまりさぁ、彗星はボクのものってことだ』
 
 
 思い出す言葉とどろりと濁った瞳の色。
 口の中が変な気がして軽く咳をする。
 考えるのをやめたとはいえ精液を飲まされた経験で嫌な記憶が蓋が開こうとしている。
 夏村流水が年上になったせいもあるかもしれない。
 
「大丈夫か?」
 
 意外なことに赤滑くんが心配してくれた。感動していると「年上の男嫌いだろ」と後ろにいるDと前方にいる夏村流水にチラチラと視線を向ける赤滑くん。
 
 どうして知っているんだろう。教師に怯えたことなんかない。
 若い先生か定年間近のおじいちゃん先生しか学園にはいない。
 ある程度の経験を積んだ中堅どころみたいな先生はちょうど別の系列校へ行ったらしいので中高と俺の苦手とする三十代後半から四十代の男と接触したことはない。
 
 理由?
 理由なんか簡単だ。
 思い出さないようにしてるわけでもない。
 あの濁った瞳に対して思うことはいつでも同じだ。
 
 キモチワルイ。
 
 俺よりも幸せな奴は呪われるといいよ。
 本当にそう思う。
 母の隣で幸せそうな顔をしていた濁った瞳の男。
 俺に精液を飲むことを強要してきた赤の他人。
 
 俺の歪んだ幼少期を思えばDは紳士的に見えるし、美女系な見た目のおかげで俺に嫌悪感は湧かない。
 
 大丈夫だと赤滑くんに話しながら歴代の王様の肖像画が置かれている場所に着いたと夏村流水が言う。結構な広さがある部屋だった。そして、俺がふと見たところに先程まで思い出していた男の顔があった。
 
 何の因果かって言うのはこんな時に使う言葉なんだろうな。
 
 俺に父親と呼ばれたがった男は王様をやっていたらしい。
 

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