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  013 お前の孤独感は俺じゃ理解できない癒せない


 夏村流水について語るには俺の酷い所業から話を始めることになる。
 
 
 正直、俺は人工島とか浮き上がった太古の島なんて言われている「エテルニタ」にある学校へ進学するつもりだった。ただ学力が足りなかった。お世辞にも頭がいいとは言えない俺だったので当たり前の結果なんだけど俺にとって全寮制の学校でしかも男子校って言ったら「エテルニタ」にある学校だって決まっていた。
 日本で一番ぐらいの進学校だっていうのはテレビの特集で知っていたから無謀すぎる考えだったんだけど俺からすれば全寮制学校がそんなに数があるのを知らなかったしイタリア語で永遠の意味がある島に建った学校とか格好良すぎると思っていた。年齢的には中学未満だけど俗に言う中二病。
 
 俺の中学受験は当然のように砕け散り落ち込んだ。
 父親は記念受験だと思っていたらしく俺の落胆に驚いて俺が入学する学校のいいところを色々と語ってくれた。古い歴史があって俺が行きたがった「エテルニタ」の学校の前身ともいえる存在なんだという。
 俺が通う学校のノウハウを生かして「エテルニタ」に学校を作ったと聞いても俺の気分は浮上しない。俺の行く学校が出涸らしに感じられた。
 
 入学してしまえば悪くなかったし、目立たないけれど無視されない程度の存在としてクラスに馴染んだと思う。学校生活に慣れると余裕が出来てスクールカースト的なものが見えてくる。
 顔がよくて家柄が古いとか会社の規模が大きいとか性格が明るいとかそういったことで場の中心になる人間とそれに付き従う人間、そのどちらでもない中立を願う人間と地味平凡で争いの火種から遠ざかる人間。
 ちなみに俺は後者。目立つことを避けることが平和なんだと自分と似たタイプの生徒を見て思った。
 
 中学二年の頃、夏村流水が生徒会長になったと同時に流れた噂。

 夏村流水は「エテルニタ」の学校、俺が憧れていたというか通うことになると思い込んでいた学校の合格を蹴ってこっちの学校に来たという。
 馬鹿にされていると感じる人間、学年首位を守り常にテストで満点である夏村流水なら当然でありやっぱり彼は凄い人だと崇拝の熱が上がる。
 
 俺は前者の人間だったのでそんないけ好かない完璧人間と付き合うもんかと同じクラスでも視線を向けることもしなかった。

 それなのに夏村流水が猫と戯れているところに俺は出会ってしまった。

 その時はお互い自己紹介もなく猫と遊んだだけだった。
 俺は生徒会長の顔というか夏村流水の顔をまともに見たことがなかったので至近距離にいる男前が目立つタイプの人間だと思いつつ生徒会長とは気づいていなかった。
 気づいたのはふとした拍子に教室で顔を上げて夏村流水と目が合ったからだ。
 
「なあ、名前なんて言うんだ?」
 
 出会ってから猫を介して数十回、一年とちょっとの付き合いで初めて聞かれたその言葉の意味が分からないわけがない。夏村流水はみんなの前で俺に話しかけてくることはなかった。俺は地味に空気に生きていて誰かから名前で呼ばれたりする人間じゃなかったから俺の名前を夏村流水が周りの人間に聞いたのならちょっとした騒ぎになる。
 生徒会長、スクールカーストの最上位の人間、王様の言葉っていうのは影響力がある。
 夏村流水は俺が変に目立つことがないように気を付けてくれていた。
 それを分かっていたはずなのに当時書記をしていた火内優成に付きまとわれ出した俺は夏村流水に何もされていないのに邪険に扱ったし避けていた。
 俺は間違いなく嫌な奴だった。
 
「……ペン」
 
 夏村流水は悲しそうな顔をして「そうか」とだけ頷いた。溝口彗星を名乗らなかったのを後悔したのはすぐだ。高校に入って当たり前に居ると思っていた夏村流水は居なかった。猫と一緒に消えていた。
 高校三年のあの日、俺がきちんと自分の名前を口にしていたら夏村流水はどうしていたんだろう。
 目立ちたくないと避けたせいで俺は夏村流水を傷つけた。
 拒絶は人を傷つける。
 
 
『どうして、人を傷つけた程度のことをそんなに気にしてるんだい』
 
 
 聞こえるはずのない声が聞こえた。
 三年ぶりいいや、十年ぶりほどかもしれない。
 
 
『彼が好き? 気になってた? それともそれとも、問題は名前?』
 
 
 流れる水、雨も川も好きだ。
 問題はきっとそこじゃない。
 夏村流水の名前の音を聞くたびに胸が軋む。
 
 
「どうかしたのか、ペン?」
 
 
 まったく昔と変わらない以前、俺がとった態度に対して何も思っていなさそうな夏村流水。
 本人じゃなくて兄弟や親戚だと名乗られて納得するぐらいに夏村流水の肌には齢が刻まれている。
 皺とか単純なものじゃない。経験というものがある。
 
「腹減っててもここには米はあんまねーぞ? ここのメインはパスタだ」
「イタリアン?」
 
 ってか俺は別に食いしん坊キャラじゃねえよ。
 思わぬ再会にしんみりしてたのになんだこいつ。
 火内優成も空気が読めない奴だが夏村流水は空気を読む気がない奴だ。
 
「トマトやチーズがないから考えてるのとはちげーカモ?」
 
 焼きうどんっぽいとか訳分からないことを言い出した。
 パスタなのに焼きうどんって麺が生麺で太いとかそういうことか?
 醤油で味付けてんのかよ。
 醤油はあんのかよ。
 それともウスターソースとか味噌か?
 
「慣れれば……なんとかなるもんだぜ」
 
 ニカッと爽やかな笑みはどっからどう見ても夏村流水。
 副会長が「何であなたがここに居るんです!?」と俺が一番最初に思ったことを言ってくれた。
 やっぱり気になるよね。
 火内優成なんか軽く手を挙げて友達と久しぶりの再会みたいな顔してるけどそんなんで許されるわけないし。
 
「まあ色々とあってなー、お前らは……玄佐見センパイが一緒ってことは高二って感じか。
 結論だけ説明すると理事長のところのゲートを使うとこの世界と繋がるにしても時期はランダムになる。しかも物事の終わりか始まりに合わせてる」
 
 夏村流水は始まりも終わりも同じようなもんだけどと笑う。


【だって、ソコは壊れているんだ】

【はじまりの鐘とおわりの鐘が一緒だから】

【危ないんだよ】

【危険なんだよ】
 
 
 忘れてない。この世界に落ちる時に聞いた声。
 あれが俺の妄想じゃないなら、真実なら。
 
 
「お前たちは吉兆と凶兆の証だってこと」
 
 
 歓迎されていない空気は当たり前だ。
 夏村流水すら難しい顔をしている。
 王様なら頭が痛いことだろう。
 勇者志望の蜜鳩は何かを言うかと思えば黙っている。
 勇者願望が死亡したならいいが、髪の色に合わせたような白銀の戦士装備は中二病は不治の病だと感じさせる。
 フルアーマーじゃないだけ自分の筋力を理解してて偉いと褒めるべきかもしれない。
 
「俺個人の気持ちで言えば……」
 
 また会えて嬉しいと口にする夏村流水に心が押しつぶされそうになる。
 知り合いの居ない世界に放り出されてどんな気持ちで生きていたんだろう。
 四捨五入で二十歳で大人って言っても中卒で働く人間は日本でどれだけいる。親元にいて庇護されている時に異国どころか異世界で暮らすなんて考えられない。

 夏村流水は言う。
 この世界に来た時はちょうど王が変わる宴の日であったと。
 そして、一日でいろんなことを知ることになったんだと笑う。
 笑えないことを夏村流水は笑う。
 泣く代わりに笑うような姿が痛い。
 だってこの世界は俺たちの知っている常識が通じない。
 守られている子供でいられない。
 夏村流水はどれだけの苦労を一人で背負ったんだろう。
 
 生徒会役員で副会長を務めて中学時代の友人とも言えるだろう南雲南はうずくまって泣き出す始末。
 蜜鳩がその背中を撫でてやっている。
 事細かに語られないからこそ俺たちを見るかつての同級生、同い年であったはずの夏村流水の時間の流れを感じてしまう。
 
「ペンのことは陛下も気にしていたんだ」
 
 との言葉に軽く涙ぐんでいた俺は思わず「は?」と聞き返す。
 玉座に腰掛けている偉そうなお前が王様じゃないのか!?
 そういう意味での反応だったが夏村流水は不機嫌な顔をしてポケットから子猫を出した。
 見覚えのある猫だ。
 夏村流水と出会うきっかけになり俺が避けているのに何だかんだで夏村流水と縁があった理由。
 つい猫と遊んでいると夏村流水が来たり、猫を追いかけた先に夏村流水がいたんだ。
 
 同じ猫なはずがない。
 猫の寿命もそうだが子猫がずっと子猫でいるわけがない。
 
「陛下は心優しいから知り合いがどうなっているの気になる性質だぞ?」
 
 夏村流水の手の上で子猫が手を振る。
 久しぶりって言ってる気がするけど、子猫が陛下ってなんだよぉぉぉ!!!
 昔から人間っぽい仕草する猫だとは思ってたけど猫だろ。猫が王様でいいの?
 Dを見ると頭を下げていた。マジで?
 猫は苦しゅうないみたいな仕草するし、何それ。
 


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