010 ちゃんとした事前説明はあっても良かったはずだよね?
結論から言えば俺の貞操は守られているけれど羞恥心メーターは振り切れて故障中だ。
ミニスカチャイナもどき一枚は阻止したとはいえ俺には下着もズボンも与えられていない。
いいや、貞操帯ちっくなものを取り付けられて何があっても勃起しないようになっている下半身は自分のことながら哀れだ。
俺は全力で哀れまれていいと思う!!
勃起したら気まずいからいいっちゃいいけどね。
股間プロテクターだと思えばあんまり気にならないし。嘘だけど。
貞操帯ちっくなものを下着だと思えば下着を履いてる。
ノーパンじゃないよ。
で、でだよ。問題はノーズボンなところ。
ミニスカチャイナの下に貞操帯ちっくなものだけっていう変態的なスタイルじゃないよ、もちろん違うよ。
俺が貞操帯ちっくなものの上に履いてるのはいわゆるタイツ。
ところによりストッキング的な薄さや網タイツてきな布地だったりと無駄にパッチワーク。
全部同じ布にしろよぉ。
伸びたり伸びなかったり素材の持ち味的なものが俺の動きを抑制する謎の履物。
生足晒してないなら恥ずかしくないと思うかもしれないけど黒いストッキング生地から肌色が微妙に透けてると落ち着かない気分になるんだよ。自分の足が自分のものじゃないみたいに初めての感覚過ぎてついていけない。
靴も新しく用意されて俺は異世界に馴染んだ気がします。
そのぐらいにビフォーアフター。
順番に説明しましょう。
俺の両耳に耳に引っ掛けるタイプのイヤリング。
たしかイヤーフックとかイヤーカフってやつ。
赤い玉が三連縦で並んでいる。
赤い玉には銀や金でアジアンな感じの模様が描かれている。
これはDや俺が着ているチャイナっぽいものと同じ。
俺がチャイナに感じたのは服の形よりも何より模様と光沢のある服の生地。
本当のチャイナの定義とかは知らないし、コスプレっぽいなんちゃってと本場の違いは分からない。
便宜上ほかに表現のしようもないから中国的な空気がするってことでチャイナで通す。
王様に会うからってDが羽織った上着に鳳凰っぽい刺繍があるからベルトヤカは中華系ってことに勝手にしようと思う。そう思うとDが中華系美人に……別に見えてこないけど目元に赤のアイラインを引いても似合いそう。
でもそういうのは会計が一重で切れ長の目だったし合うかも。
髪が長いしあの人には「あるあるないある」とか言いそうなパチモン中国人風味がある。
偏見を押し付けたけど一番の年上なのに理事長の家に侵入する後輩たちを止めないとかダメ人間だ。
ダメ人間ならいくら批難してもいいってことはないけどストッパーさえいればこんなことにならなかったのにと現状に頭を抱える俺は悪くない。
「スイ……気分が悪いんですか?」
下半身の様々な違和感に慣れないけど腰をさすられても困る。
顔をひきつらせながら大丈夫だと答えた俺を褒めて欲しい。
俺の下半身の違和感は排泄管理や射精管理をするための特殊器具じゃなくって無防備に壁に手をついて指を入れられてグリグリされたかと思ったら挿入された物体のせいだ。
ちなみに入れられたのはチンコじゃない。
見ていないけれど多分石みたいなもの。
Dいわくペットが粗相をしないように肛門に入れておくのは義務であり飼育上のルールらしい。
その石で排便が堰き止められるというわけではなく、不思議石を入れておくと不思議なことにトイレに行く必要がなくなるという。
まあ、便利と思う前にペットじゃなくて老人介護とか医療に使うべきだと思ったね。
Dはペット以外に使用する事はないって言っていた。
人間をペットにすることも基本的にないわけだから俺は変態さんデビューしちゃったかもしれない。
だってこの不思議石は完全な球体じゃなくてちょっと楕円形というか雫型。
瞬間的に頭の中で閃いたのがアナルプラグという単語。
アレですか? アナル拡張用のアレですか??
今は何もしなくても拡張してからペロッと行くよっていう無言の意思表示?
いやいや、俺はイケメンお兄さんを信じているから!
イケメンは平凡の尻の穴に興味はないよね。
ペットとエッチはしないよね。
排泄管理するために不思議石を入れただけだよね。
義務だから触りたくないけど人の肛門をグリグリしただけだって俺は分かってる。
熱心に指を出し入れされたりしたけど感度を見るためとかじゃないよね。
「でぃー、あのさ……この格好、お腹がちょっと冷えるかなって」
ズボンをよこせ、ズボンを!!
俺の要求をDはどう思ったのか少し考え込んだ後、窓を開けて口笛を吹いた。
指で輪を作ってピューってやつです。アレに憧れて頑張って空気を吐き出す音しか出なかった悲しい思い出。
「これでどうですか、スイ」
これってどれだよって思うぐらいに俺はビックリした。
窓からやって来たのは言ってしまえば巨大なイグアナ。
爬虫類が苦手ってことはないけど大きすぎる。直立したら俺の腰ぐらいまでありそうな、でぶっとしたイグアナ様。大きすぎる。もはやワニだ。
「この子はZです」
「もしかして家族?」
「ベルトヤカのペットなので……スイの先輩ですね」
このイグアナよりも俺の地位は低いのかとちょっと落ち込んだけれどイグアナは草食で気性は荒くなかったはず。もしかして仲良くなれば上に乗せたりするんだろうか。
「ぜっと、よろしくな?」
敬語を使うべきか悩んだものの家族には砕けていいわけだからZにはDと同じように接することにする。笑ったような顔をして大きな口を開けるZ。めっちゃ怖い。
「スイ、口の中に足を入れてください」
Dが何を言ってるのか分からないよ!!
戸惑う俺を靴を履いたままパカッと口を開けているZの口の中に入れるD。
軽く持ち上げられたけど俺だってギリギリ百七十センチないけど、チビとか言われたことないそんな俺なのにイケメンは力持ちなのか?
美人は非力でいるべきだと思うんだけど赤滑くんを思うとそんなこと言ってられない。
赤滑くんが非力だったら未解決事件が多くなっちゃう。
武力で黙らせるのはよくなくても赤滑くんがとりあえず騒ぎの元凶を潰すっていう考えをしてなかったら俺と赤滑くんは出会えなかった。
考えなしなところが目立つ赤滑くんだけど俺は一番の友達だと思ってるんだ!!
なんて現実逃避に赤滑くんに思いをはせても俺の下半身が巨大イグアナに食べられた事実は変わりない。
なんか、めっちゃ温かい。
お風呂のお湯につかってるみたいな感覚にちょっと体の力が抜ける。
意外なことにZは牙がない。
イグアナってそうだっけ? と思ったけどそもそもイグアナっぽい爬虫類だけどイグアナはこんなに巨大じゃない。Zはイグアナっぽい何かであってイグアナじゃないんだろう。
「どうですか?」
「とても温かいです」
俺の返事に良かったと微笑むDはどこまでも美女系お兄さん。
でもこのまま王様に会っていいわけ?
また風呂に入るとかないよね。
「モード、ステルス」
Zの頭に手を置きながらDは言う。
するとZの姿が透明というか白濁の上に光を散らばせたような、言うなれば宝石のオパール。
この建物にはいる時に見た壁と同じ色彩になった。
俺は自分の足を動かしてみる。
Zのあたたかさを感じるものの自分の足で動いている感じがする。
そして、Zの姿があるだろう場所はキラキラと輝いている。
ちょっと語弊があるけど下半身にモザイクがかかった感じになった。
問題ある部分を白消し処理してキラキラなラメを散らばせました。
そんな感じ。
「これで陛下の前に出ても問題ありません」
本当かよ!?
怪しさ満点だけど許されるんだ!!
俺が実はフルチンだとか武器を装備してるとかこの姿だと分からないのに王様的にOKなんだ!?
「スイ、この世界に来てから口にしたのは私の精液が初めてですよね?」
聞きにくいことでもズバリ聞くわよなのかと思いながら俺は首を横に振る。
火内優成に無理やり得体のしれない動物の丸焼きを食べさせられた。
味も何も覚えていないけどDが来る少し前の事なので忘れられるわけもない。
「そうですか……このままだとスイは死ぬかもしれませんね」
なんですと!?
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