「ひっく、・・・うっ。」
(あ、返信・・・じゃない、電話!?
出た方が、いいよね?)
少し呼吸を整えて、ボタンを押して、携帯を耳に当てた。
「もしもし?」
「・・・もしもし?」
「名前ちゃん?」
「う、うん。どうしたの?」
「いきなり、電話してしまってすみません。」
「大丈夫だよ。先生、今居ないから。」
「そうなんですか。・・・名前ちゃん、」
「うん?」
「何か、あったんですか?」
「え・・・?」
「メールの様子が、少しおかしかったので。」
「え、そう、かな?」
「はい、いつもよりビックリマーク多いし、それに、その前のメールと雰囲気が何となく、違いました。
その前のメールは、名前ちゃんの素直な気持ち・・・だった気がしたんです。」
「て、テツヤくん。・・・うっうっ。ごめん、ごめんね。」
「え、何がですか?」
「う、私、最低で、」
「名前ちゃん、一回落ち着いて下さい。」
優しい声に、心が締め付けられて苦しい。
(出来れば、気付いてほしくなかった・・・。
でも、何で、かな・・・嬉しい。)
*
「・・・う、ごめんね。」
「ふふ。」
「?」
「すみません。ただ懐かしくて・・・。」
「懐かしい?」
「小学生の頃のバレンタインのことを思い出して、変ってないなぁと思って。」
「え、?」
「名前ちゃんは相変わらず臆病なんですね。」
臆病。
そう言われた瞬間、心臓が掴まれたように、恐怖感が私を襲った。
一番自分の嫌な所だ。
人と接するが怖いのも、人に自分がどう思われているのか過剰に気にするのも、全部、この、臆病な自分の所為だ。
人のコトを疑っては、安心して、どんな些細な小さなことでも・・・私はなんて、めんどうな奴なんだ。
「・・・バカだよね。私、いやだよ。」
「名前ちゃん?」
「もう、やだ、自分がやだよ。どうすればいいいの?」
「そのままでいいんじゃないですか。」
「え、でも、でも。」
「名前ちゃんから見たら、嫌なところかもしれません。
でも、僕はそんな名前ちゃんだから、」
「うん?」
「今、電話をかけています。」
「え、」
「臆病な名前ちゃんが心配で、安心させたいから。
嫌な所かもしれない。
でも、その部分がなかったら、今の名前ちゃん居ないことになります。
僕は今の名前ちゃんだから、アイスも買うし、バニラシェイクも買ってもうらう、メールもする。
今の名前ちゃんと関わりを持って居たいと思うから。
だから、そんなこと言わないで下さい。
僕が好きな名前ちゃんを否定しないで下さい。」
「て、テツヤ・・・くん。」
何で、なんで、そんな言葉をくれるんだろう。
いつも、優しい言葉なんで、くれるんですか。
テツヤくんの言葉に、心がじーんとして、溢れてきそうな涙に耐えていると、
コツコツと廊下から足音がした。
(先生だ・・・!)
「ご、ごっ、ごめんっ!先生きたみたい。」
「え、あ、はい。名前ちゃん。」
「うん?」
「また、メールしますね。」
「う、うん、分かった。」
「では、また。」
切った瞬間すぐ、携帯をポケットにしまった。
それとほぼ同時に、保健室のドアが開いた。
「苗字さん?」
「は、はい!」
「大丈夫?少しは体調良くなった?」
「あ、もう、大丈夫です。」
「じゃあ、教室戻る?」
「はい、そうします。」
カーテン越しに声をかけられて、驚きつつ何とか答えてた。
(授業中に電話とか・・・緊張する・・・っ!)
*
「名前〜!」
「わあっ。」
「大丈夫なの?もう、超顔色悪かったから、心配したんだからね!」
「あ、ありがと。大丈夫だよ。」
抱きついて来た綾の肩をぽんぽんと叩いていると、じぃーっと綾に覗きこまれて、顔を軽く引いた。
「な、なに?」
「名前、良い事あったでしょー?」
「え、え?」
「保健室行く時、めっちゃどんよりしてたけど、今すごく幸せなオーラ出てるー!」
「え、そうかな。」
「何があったのか、知んないけど。
良い事あってよかったねー!」
「うん。」
綾は私から、離れるとお昼食べよー!と机を動かし始めた。
・・・良い事あってよかったね、か。
良い事あった。
テツヤくんの言葉に、安心した、元気が出た。
モヤモヤした嫌な気持ちを消してくれた。
・・・テツヤくんと話すだけで、こんなに私の気持ちって変わるのか。
私って、単純・・・?
それとも、テツヤくんって、ほんとに妖精だからかもしれない。
魔法みたいに、私を元気にしてくれる。
(テツヤくんは・・・すごい、なぁ。)
prev back next