「ここが誠凛高校・・・。」
確か新設校だったはずだ。
校舎綺麗だなぁ・・・。
今日は黒子くんとテツヤ二号と散歩する日だ。
テツヤくんは一日練習のお昼と休憩兼ねた時間に、散歩に行きましょうと誘ってくれた。
二号の散歩は交代制でやっているらしい。
休日の学校の校門というのは、ちらほらと運動部の人が通る。
その人たちは、校門の前で立っている私のコトをチラと見たり、する。
(かなり緊張する。居づらい。
早くテツヤくん、来ないかな。)
携帯の画面で、時間を確認しながら、前髪を触る。
前髪を触るのは落ち着きながないときの、私の癖だ。
(まだかな・・・。)
「わんっ!」
突然聞こえた犬の鳴き声驚いて、振り返った。
そこにはリードに繋がれた写真で見た犬と、リードを引っ張って、小走りのテツヤくん。
「二号!ちょっと、待って下さい。」
「わんっ!」
「すみません。遅くなりました。」
「ううん、大丈夫だよ。この子がテツヤ二号?」
「そうです。」
「わん!」
足元に居る写真通り・・・いや、以上に可愛らしい二号を見ながら聞くと、
テツヤくんと二号の言葉と鳴き声がかぶった。
そのコトにお互い驚いて、目があって、笑った。
「確かに賢い子だね。」
「二号、良かったですね。褒められてますよ。」
「わんっ!」
「ふふ。」
「じゃあ、行きましょうか。」
「うん。」
*
「うそー、あの大きい男の子が?!」
「嘘じゃないですよ。」
「意外だなぁ。二号こんなに可愛いのにね。」
と言いながら、私は二号の頭を撫でた。
テツヤくんは思い出したように、口を開いた。
「何かアメリカで大きい犬に、お尻を噛まれたことがあるって言ってました。」
「え、大きい犬に噛まれる・・・それは、トラウマになるかも。」
「でも、今は二号と仲いいんですよ。」
ねえ、二号とテツヤくんが、二号に声をかけると元気よくわん!と鳴いた。
「あ。」
「どうしたの?」
「いえ、ちょっと・・・。」
テツヤくんはある公園で立ち止まった。
駅から歩いて、誠凛高校までの途中にある公園。
立ち止まったテツヤくんの顔はどこか元気ないように、見えて首を傾げた。
くぅーんと悲しげに、二号が心配そうにテツヤくんを見上げて鳴いた。
「ここで、二号を拾ったんです。」
「えっ・・・、二号って捨て犬だったの?」
「はい。」
「そ、そっか。」
「あ、すみません。行きましょうか。」
「う、うん。」
く、空気が暗い。
二号が捨てられた場所を見たら、やっぱり複雑なのかな。
視線を地面に落して歩いて居ると、二号と目が合う。
二号はただ私の目を見ていた。
何か言いたげに・・・。
(あ・・・そうか。二号は、たぶん。だから・・・。)
「て、テツヤくん。」
私はリードを持ってない方の、テツヤくんの手を握った。
テツヤくんは驚いたように、こちらを振り向いた。
「どうしたんですか?」
「二号は幸せ者だよ!」
「え、?」
「え、えっと、捨てられたのは悲しいコトだけど、二号を拾ったのがテツヤくんで良かったって、二号思ってる、と思う。
だから、その、元気出して?」
・・・言葉がくちゃくちゃで、何が言いたいのか自分でも、よく分からない。
で、でも、二号が心配そうにテツヤくんを見たのは、たぶん、だけど、
テツヤくん勘違いっていうか、二号自身は捨てられたことは悲しいだろうけど、
きっとそれ以上に、テツヤくんに、テツヤくんたちに出会えて幸せなんだと、思う。
だから、捨てられたことは悲しいけど、テツヤくんがそんな悲しい顔しなくていい、と思う。
思うけど、それが上手く伝えることが出来ない。
ど、どうしよ・・・!?
「わんっ!」
「二号・・・。」
二号が私の足元に来て、同意するようにテツヤくんに向って鳴いた。
(・・・って言っても、見えただけ、だけど。)
「・・・そうですね。」
「二号は幸せ、だよ。テツヤくんみたいな、優しい人に出会えて、ね、二号?」
「わん!」
「わ、私も、幸せだから。」
「名前ちゃんも、ですか?」
「う、うん、テツヤくんに出会えてよかったと、私、思ってる。」
「ありがとうございます。何か、モヤモヤしたものが消えた気がします。
僕も、名前ちゃんと二号に出会えてよかったです。」
テツヤくんは少しだけ、泣きそうな顔で笑った。
*
「今日はありがとう。楽しかった。」
「僕も楽しかったです。」
「午後の部活も、怪我とか気を付けてね。」
「はい、ありがとうございます。
名前ちゃんも帰り道気を付けてくださいね。」
「うん。じゃあ、またね。二号も今日はありがとう。」
「わんっ!」
「はい、また。」
手を振って、誠凛の校門で別れた。
手のひらを見ながら、二号とふわふわとした感触とテツヤくんの手の温度を思い出して、
楽しい休日だったと、一人頬を緩めた。
明日はまた学校だけど、頑張れそうだ。
*
二号のリードを外しながら、沙良ちゃんを思い出していた。
自信がなさげで、泣きそうな顔をしながら、僕のために言葉で伝えようとしてくれた。
彼女の優しさは、温かい飲み物を飲んだときみたいに、じんわりと、温かさが身体に広がって、染み渡るみたいに心が温かくなった。
二号が別の人に拾われたとか、捨てられずに済んだのが一番幸せじゃないかとか
心のどこかで考えていた。
けど、彼女は、その考えのモヤモヤを消してくれた。
そんなのは、僕の勝手な思い込みだ。
二号の幸せは二号が決めることなのだから。
「今二号は幸せですか?」
と聞くと、をぐるる!怒ったように、不満表す様に鳴いた。
「愚問な、質問でしたか?」
「わんっ!」
幸せに決まってる!とでも言うように、二号は大きく鳴いた。
そんな二号が可愛いくて、二号の頭を撫でた。
(あ・・・、そういえば、名前ちゃんの手はとても温かかったな・・・。)
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