黒子くんとテツヤ二号とお散歩するお話 


「ここが誠凛高校・・・。」

確か新設校だったはずだ。
校舎綺麗だなぁ・・・。

今日は黒子くんとテツヤ二号と散歩する日だ。
テツヤくんは一日練習のお昼と休憩兼ねた時間に、散歩に行きましょうと誘ってくれた。
二号の散歩は交代制でやっているらしい。

休日の学校の校門というのは、ちらほらと運動部の人が通る。
その人たちは、校門の前で立っている私のコトをチラと見たり、する。

(かなり緊張する。居づらい。
早くテツヤくん、来ないかな。)

携帯の画面で、時間を確認しながら、前髪を触る。
前髪を触るのは落ち着きながないときの、私の癖だ。

(まだかな・・・。)

「わんっ!」

突然聞こえた犬の鳴き声驚いて、振り返った。
そこにはリードに繋がれた写真で見た犬と、リードを引っ張って、小走りのテツヤくん。

「二号!ちょっと、待って下さい。」
「わんっ!」
「すみません。遅くなりました。」
「ううん、大丈夫だよ。この子がテツヤ二号?」

「そうです。」
「わん!」

足元に居る写真通り・・・いや、以上に可愛らしい二号を見ながら聞くと、
テツヤくんと二号の言葉と鳴き声がかぶった。

そのコトにお互い驚いて、目があって、笑った。

「確かに賢い子だね。」
「二号、良かったですね。褒められてますよ。」
「わんっ!」
「ふふ。」
「じゃあ、行きましょうか。」
「うん。」



「うそー、あの大きい男の子が?!」
「嘘じゃないですよ。」
「意外だなぁ。二号こんなに可愛いのにね。」

と言いながら、私は二号の頭を撫でた。
テツヤくんは思い出したように、口を開いた。

「何かアメリカで大きい犬に、お尻を噛まれたことがあるって言ってました。」
「え、大きい犬に噛まれる・・・それは、トラウマになるかも。」
「でも、今は二号と仲いいんですよ。」

ねえ、二号とテツヤくんが、二号に声をかけると元気よくわん!と鳴いた。

「あ。」
「どうしたの?」
「いえ、ちょっと・・・。」

テツヤくんはある公園で立ち止まった。
駅から歩いて、誠凛高校までの途中にある公園。
立ち止まったテツヤくんの顔はどこか元気ないように、見えて首を傾げた。
くぅーんと悲しげに、二号が心配そうにテツヤくんを見上げて鳴いた。

「ここで、二号を拾ったんです。」
「えっ・・・、二号って捨て犬だったの?」
「はい。」
「そ、そっか。」
「あ、すみません。行きましょうか。」
「う、うん。」

く、空気が暗い。
二号が捨てられた場所を見たら、やっぱり複雑なのかな。
視線を地面に落して歩いて居ると、二号と目が合う。
二号はただ私の目を見ていた。
何か言いたげに・・・。

(あ・・・そうか。二号は、たぶん。だから・・・。)

「て、テツヤくん。」

私はリードを持ってない方の、テツヤくんの手を握った。
テツヤくんは驚いたように、こちらを振り向いた。

「どうしたんですか?」
「二号は幸せ者だよ!」
「え、?」
「え、えっと、捨てられたのは悲しいコトだけど、二号を拾ったのがテツヤくんで良かったって、二号思ってる、と思う。
だから、その、元気出して?」

・・・言葉がくちゃくちゃで、何が言いたいのか自分でも、よく分からない。
で、でも、二号が心配そうにテツヤくんを見たのは、たぶん、だけど、
テツヤくん勘違いっていうか、二号自身は捨てられたことは悲しいだろうけど、
きっとそれ以上に、テツヤくんに、テツヤくんたちに出会えて幸せなんだと、思う。
だから、捨てられたことは悲しいけど、テツヤくんがそんな悲しい顔しなくていい、と思う。
思うけど、それが上手く伝えることが出来ない。
ど、どうしよ・・・!?

「わんっ!」
「二号・・・。」

二号が私の足元に来て、同意するようにテツヤくんに向って鳴いた。
(・・・って言っても、見えただけ、だけど。)

「・・・そうですね。」
「二号は幸せ、だよ。テツヤくんみたいな、優しい人に出会えて、ね、二号?」
「わん!」
「わ、私も、幸せだから。」
「名前ちゃんも、ですか?」
「う、うん、テツヤくんに出会えてよかったと、私、思ってる。」
「ありがとうございます。何か、モヤモヤしたものが消えた気がします。
僕も、名前ちゃんと二号に出会えてよかったです。」

テツヤくんは少しだけ、泣きそうな顔で笑った。



「今日はありがとう。楽しかった。」
「僕も楽しかったです。」
「午後の部活も、怪我とか気を付けてね。」
「はい、ありがとうございます。
名前ちゃんも帰り道気を付けてくださいね。」
「うん。じゃあ、またね。二号も今日はありがとう。」
「わんっ!」
「はい、また。」

手を振って、誠凛の校門で別れた。
手のひらを見ながら、二号とふわふわとした感触とテツヤくんの手の温度を思い出して、
楽しい休日だったと、一人頬を緩めた。
明日はまた学校だけど、頑張れそうだ。



二号のリードを外しながら、沙良ちゃんを思い出していた。
自信がなさげで、泣きそうな顔をしながら、僕のために言葉で伝えようとしてくれた。
彼女の優しさは、温かい飲み物を飲んだときみたいに、じんわりと、温かさが身体に広がって、染み渡るみたいに心が温かくなった。

二号が別の人に拾われたとか、捨てられずに済んだのが一番幸せじゃないかとか
心のどこかで考えていた。
けど、彼女は、その考えのモヤモヤを消してくれた。

そんなのは、僕の勝手な思い込みだ。
二号の幸せは二号が決めることなのだから。

「今二号は幸せですか?」

と聞くと、をぐるる!怒ったように、不満表す様に鳴いた。

「愚問な、質問でしたか?」
「わんっ!」

幸せに決まってる!とでも言うように、二号は大きく鳴いた。
そんな二号が可愛いくて、二号の頭を撫でた。

(あ・・・、そういえば、名前ちゃんの手はとても温かかったな・・・。)
prev back next
- ナノ -