黒子くんと出会ってアイスを食べる話
高校生になって、情緒不安定みたいになるのが増えた気がする。
進路進路進路とうるさい先生、何故か私たちの代か校則は厳しくなった。
取り柄も特にない、得意教科だってない、寧ろ苦手教科しかない。
なのに、勉強に対しての姿勢がよくない上に直す気力もないので、一向に上がらない成績。
就職するにも、十代の内は働きくたくないよなとか思って、将来的には働きたいけど。
大学行ってみたい気がするけど、学科とかよく分かんないし。

友達・・・いや、違うな、新たな人との関わりが欲しい。
でも、最近人に対して、不信感じゃないけど、人付き合うのに抵抗がある。

好きな友達のことを別の友達が嫌いだと言って、友達のことを否定した。

別に、人それぞれ好みはあるし、上手く行く人も居れば、行かない人もいるだろう。

でも、聞きたくなかったなぁ。

私はその友達じゃないのに、嫌いと言われた瞬間、ズキンって胸が痛くて、泣きそうになった。

自分の友達が嫌いと自分の友達に言われて、平気な人なんて居るのかな、なんて妙に偏見じみた事考えちゃって。

なんか、そいう些細な嫌な事が重なって、人に対して、距離を置くようになった。

でも、一人は寂しくて、ダラダラと夏休みの間、自分の部屋で過ごすのは空しい。

音楽聞いて、漫画読みなおして、テレビ見て、時々課題して、また泣きたくなって、
一人で居る空気感に耐えれなくて、逃げるようにベットに潜りこんで、強く目を瞑った。


そんな引きこもりっぽい・・・引きこもりかもしれないけど、私が外に出ていた。
ダラダラ過ごすのではなく、ダラダラと汗を流しながら、コンビニを目指していた。

(同じダラダラでも、大分意味が違う。)

アイスを食べようと思って、冷凍庫を開けて、ファミリーパックのゴリゴリくんを箱に手を入れてみたけど、空だった。
何かムカついて、箱を逆さまにして、ふってみたけど、やっぱりアイスは落ちてこなかった。

寝起きの口の中はとても渇いていて、舌の上で冷たいアイスを転がしたくて仕方ないという、欲に襲われた。
欲望に負けた私はハーフパンツ脱いで、春に買ったロングスカートに、上はTシャツだったので、
その上に長袖のパーカーを着て、適当にミュールを履いて、玄関のドアを開いた。

直射日光が苦手な私はいつものように、パーカーを着たけど、暑い。
覆った部分から、汗がじわじわと出て、袖にひっつくので、気持ち悪い。

目線を上に向けると、手を翳さずにはいられない。
髪が焦げるんじゃないかと思って、試しに髪を触って見ると、想像より熱くて、手を引っ込めた。

(やばい、髪焦げるよ。チリチリになってしまう。)

首の後ろにあるフードに手をの伸ばして、髪を直射日光から守るように、被った。

(不審者みたいだけど、暑いよりマシ。)

徒歩十分の距離がこんなに厳しいなら、氷でも舐めればよかった。

コンビニの自動ドアを通って、フードもとった。

(す、すずしいー・・・。ちょっと、休憩していこう。)



適当に雑誌を手に持って、パラパラと目を通す。

(ふーん。黄瀬涼太・・・ねぇ。目も髪も黄色だし、この人地毛?何人なんだろ。)

あ、そう言えば、小学生の頃目と髪が水色の子が居た。
小柄で、華奢で、髪色と目の色のせいで、余計に薄いというか、こう透明みたいな感じがした。
目に入ったと思ったら、すぐどこかに消えちゃうような、・・・今思うと、存在が薄かったのかな。
でも、時々目に入ると、妖精を見てしまったような、わくわくドキドキという妙なラッキー感があった。
だから、まともに見つけれたときって、教室か、図書室で本読んでるときだけだった。
その子とは、けっこう仲良かったかも。
・・・小学生の頃の私はけっこうスキンシップが激しかった。
今でも、女友達には激しいけど。

・・・小学生は無邪気だった。

今何してるんだろう。
確か、名前は・・・なんだっけ。
たしか、く、くくく・・・思い出せない。

あ、でも、下の名前はテツヤだった気がする。
カタカナ表記なんて、めったにないから、印象的だったんだろう。

ガヤガヤと入り口の方が騒がしい。

チラと見ると、明らかに運動部って感じの男子高校生?の集団が、目に入った。
中学生・・・ではない、と思う。あんなに大きい中学生めったにいない、たぶん。

(なんか、いや・・・だなぁ。)

さっさと帰ろうと思い、本を元に戻して、アイスコーナーのクーラーボックスからゴリゴリくんを手にとって、レジへ向った。
アイスコーナーは入り口の近くなので、レジ近くのお菓子を見ている運動部の人をかわして、通った。
・・・いや、通ったつもり、だったみたいだ。

ドンっ

人にぶつかってしまった。

(どうして、誰もいなかったはずじゃ・・・。)

しかも、軽く早歩きだったせいで、尻もちをついてしまった。

(恥ずかしい。)

「すみません。大丈夫ですか?」

打ったお尻が痛いと思いながら、見上げると、手を差し出してくれる妖精。
・・・妖精?水色の髪と、髪と同じの目、透明感がある独特の雰囲気。

「・・・テツヤ・・・くん?」
「えっ、・・・あ。」

ぽっかーん、とお互いに見つめ合っていたら、別の声がした。

「おい、お前いつまで、座ってる気だよ。」
「え、あっ!すみませんっ!」

テツヤくんの後ろから現れた大柄な男の子に言われて、慌てて腰を上げる。

「あの、苗字さんですよね?」
「え、うん。」
「黒子、お前の知り合いか?」
「小学校のときのクラスメイトです。」
「ふぅーん。」

くろこ・・・黒子、そうだ。
黒子テツヤくん、それが彼の名前。

(良かった。)

「ごめんね。ぶつかったりして。」
「いえ、気にしないで下さい。」

思わずじっと見入ってしまう。
小学生の頃と比べて、男の子になっていた。
背も髪も伸びて、丸み帯びていた頬も、すっかり、男の子だ。
まあ、当たり前か。
三年も経っているんだ。

(ちょっと、さみしい。)

「苗字さん?」
「え、あ。」
「いや、ぼーっとしてるので、どうしたのかなって。」
「あ、うん、何か、黒子くんかっこよくなったね。」

つい、口からポロっと零れて、それと同じように、笑顔も零れた。

「ありがとうございます。・・・苗字さんは、」
「うん?」
「とても可愛らしくなりました、ね。」

水色の目が細くなって、その目には、目をパチパチさせた私が映った。

「あ・・・、ありがとう。うれしい、よ。」

(お世辞かもしれない・・・でも、うれしい。)

褒められることが苦手。だって、褒められるところなんてないから。
多少あるかも?と自分の中で、思っても、完全にそれを受け入れて、自惚れて、何か思われたら、傷つくかも、恥をかくかもって、
いろいろ考えちゃって、褒められるっていう行為が私は苦手で、怖い。
なのに、黒子くんの言葉は素直に受け入れることが、できた。

頬が緩んで、口角が上がって、目尻もだらしなく下がる。

「じゃあ。」

軽くお辞儀をして、アイスを買おうとレジへ向おうとしたとき、腕を掴まれた。

「え、あ、黒子くん・・?」
「ぶつかってしまったお礼に、そのアイス奢ります。」
「ええ、いいよ。私がぶつっかたんだし。」
「気にしないで下さい。」
「え、ちょ、待って。」

黒子くんは私の声を聞かず、自分のも取ってきますとアイスのコーナーに向う。
私は戸惑って、えっえっ?とあたふたしていたら、大柄な男の子が私の肩をぽんと叩く。

「まあ、いいじゃん。素直に奢られとけよ。」
「え、でも、・・・。」
「本人がいいって言ってんだから、いいんだよ。」
「そ、そうなのかな・・・。」
「そうに決まってるだろ。」
「・・・うーん。」



「どうぞ。」
「ありがとう。ごめんね、奢らせちゃって。」
「いや、僕が奢りたかっただけです。」

(なんで、こんなことになったんだろう。)

渡されたアイスを受け取って、ピリとビニールを破りながら、そう考えていた。
部活の帰りなので、そこの公園で食べながら、話しませんか?って言われて、うんって自然に頷いて、何か、流れで、こうなった。

ジャングルジムと滑り台とブランコと砂場がある、ちんまりとした可愛らしい公園。
そして、ブランコの横にあるベンチに座りながら、黒子くんとアイスを食べる。

アイスを口に含むと、生ぬるかった舌が冷えて、気持ちいい。
ソーダ味が口の中に広がる。

(ソーダ味、美味しい。)

「すごく、久しぶりだよね。」
「そうですね。」
「黒子くんは部活何、やってるの?」
「バスケです。」
「・・・バスケ、か。青春みたいで。楽しそう。」
「青春かどうかは分かりませんが、楽しいです。とても。」
「いい、なぁ。そいうの、羨ましい。」
「苗字さんは部活とか、何かやってますか?」
「うーん、・・・ううん、何にもやってない。毎日ダラダラ過ごしてる。」
「あんまり外出ませんか?」
「え、なんで?」
「夏のに、すごく色が白いからです。」

袖をまくって、腕を見た。

「あ、そう?かなぁ。普通だと思うけど。」

口ではそう言いつつも、我ながら白いなぁと思った。
夏になったら、日焼け止め塗ってるし、夏服をまず着ない。
袖が長い冬服をいつも愛用している。

「顔真っ白です。」
「黒子くんも、けっこう白いと思う。元々白いもんね。」
「そうですか?・・・合宿で海に行ったんですけど。」
「え、海。バスケって室内でやるよね?」
「トレーニングの一環で、砂浜でバスケしました。」
「ええ、すごそう。砂浜って何か大変そうだよね。」
「ああ、ボールが跳ねないので、バウンドパスが出来なくて、大変でした。」
「へえー、じゃあ、ドリブル?とかも、なしで、パスだけ?」
「そうなりますね。」

あ、会話途切れちゃった。
でも、アイス食べながらだし、いい、よね?
黒子くん、そいうの気にしなさそうだし。

でも、黒子くんの反応が気になって、チラっと盗み見みた。
無表情で、アイスを食べているだけだった。
・・・気にしてない、いや、無表情だから、何考えてるか分かんない、だけ、かも。

「どうしたんですか?」
「えっ、ううん、何でもないよ。」

見てたら、目があってしまった。
これじゃ盗み見の意味がない。
慌てて、目を逸らし、アイスをより口に含んで、誤魔化した。

「苗字さん。」
「う、うん?」

少しだけ、肩に力が入って、緊張する。
何か、変だと思われた?

空気感が変に息苦しくて、ちょっと気分が悪くなりそう。

(・・・やっぱり、外に出るべきじゃなかったな。)

「アイス美味しいですね。」
「・・・・そ、そうだね。うん、美味しい。」

にっこりとまでは言わないけど、表情を柔らかくして笑う黒子くんに私も笑い返した。

「ゴリゴリくん、ソーダもいいですけど、チョコ味もおすすめです。」
「黒子くんのチョコ、だもんね。美味しそう。」
「一口食べてみますか?」
「えっ、いいの?」
「はい、僕は構いませんよ。」
「じゃあ、一口だけ。」

(ここって舐めるべき?かじるべき?)

少し迷って、溶けかかった、チョコアイスを
はむっと一口軽く、かじった。

「あ、美味しい。けっこう濃いね。チョコ味。」
「はい、濃厚です。」
「黒子くんも、ソーダいる?」
「いいえ、僕は大丈夫です。」
「そっか。」

(ちょっと、残念。)

そう思ったのがばれない様に、ソーダ味の、自分のアイスをかじった。
チョコとソーダが混ざって、ちょっと、変な味がする。

「苗字さん。」
「うん?」
「やっぱり、もらってもいいですか?」
「え、ソーダ?」
「はい、駄目だったいいんですけど。」
「ううん、いいよ。はい、どうぞ。」
「じゃあ、いただきます。」

アイスを差しだせば、黒子くんの口が遠慮がちに、ひとなめした。

「ソーダはすっきりしてて、美味しいです。」
「うん、後味がいいよね。」

その後も、沈黙が続いたけど、緊張した空気じゃなくて、のどかな雰囲気で、居心地が良かった。




「黒子くんは次左?」
「はい、左です。」
「意外と家同じ方向なんだねー。」
「小学校一緒ですからね。」
「黒子くん中学どこだっけ?」
「帝光中です。」
「ああー、白い制服の。」
「・・・白い制服ですか。」

ぶっふと地味に噴き出す、黒子くん。
どうした。

「え、なになに。」
「いや、帝光って言ったら、バスケの強豪で有名なんです。
だから、制服の印象しかないのかなって思って。」
「あー・・・そうなんだ。制服しか知らないや。」
「苗字さんは?」
「えーと、南中。」
「ああ、セーラー服ですよね。確か。」
「そうそう。高校はブレザーだよ。黒子くん、学ランだよね。」
「はい、中学はブレザーでした。」
「ブレザーって、ネクタイ難しくない?」
「最初は難しかったです。卒業する頃には、結べるようになりました。」
「いいなぁー。私、今全然結べなくて。」
「苗字さんもその内、結べるようになりますよ。」
「そうかなぁー・・・。私鶴折れないぐらい、不器用なんだよ。」
「え、折れないんですか。」
「折れないんですよ。」
「僕でも、折れますよ。」
「でもって、何か言い方ひどい。」
「すみません。つい。」
「ついってなに。ついって。」
「あ、次右です。」
「え、ほんと。私ここ。」

見慣れた家を指を差して、私の家ここなんだと、示す。

「コンビニから近いんですね。」
「うん。でも、今日みたいに暑いと、この道のりでも、きつかった。」
「苗字さん体力なさそうですからね。」
「黒子くんも人のコト言えないと思う。」
「僕は部活で鍛えてますから、体力あります。苗字さんよりは。」
「じゃあ、部活の中で言ったら、体力ない方?」
「人並みと言っておきます。」
「・・・人並みね。(ない方なんだ。)」
「じゃあ、僕行きますね。」

道を右へ曲がろうとする、黒子くんの服の裾を引っ張った。
黒子くんはきょとん、と驚いたような表情した。

「黒子くん、また、会って、話したい。だから、メアド、交換しない?」

ポケットから携帯を出して、駄目かな?と首を傾げる。
黒子くんはふっと表情を緩めて、いいですよと言った。

「僕も交換したいなって、思ってました。」
「え、でも、帰ろうとしたよね。赤外線でいい?」
「いいですよ。僕が先受け取りますね。迷ってたんです。」
「うん、じゃあ、送るね。」
「はい。」

携帯同士をくっつけて、お互いの情報を交換する。
その間は無言だった。

「これで、OKだね。」
「苗字さん。」
「うん?」
「いつでも、どんなことでも良いので、メールしてくれて、いいですからね。」

力を込めて言う黒子くんに、目をパチパチさせていると、ね?っと念を押された。

「え、うん、分かった。」
「じゃあ、また。」
「うん、ばいばい。」

小さく手を振る黒子くんに、私も振り返した。
黒子くんが前を向いて、歩き出す。
すっかり夕方のこの時間。
道に、黒子くんの影が出来る。
黒子くんが角を右に曲がる。

私はその様子を見届けて、家に入った。

外に出て良かった。
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