日常
鍵を差して、回せばガチャと音が鳴る。
その音を聞きつけたのか、パタパタとドアの向こうから足音が聞こえる。

ドアを開ければ、エプロンを身にまとって出迎える・・・嫁の名前。

「仁亮さん、お帰りなさい。」
「ああ、ただいま。」

俺の鞄を持ちながら、今日もお疲れ様ですと微笑む姿は、すっかり大人の女性だ。

「あれ…それ、なんですか?」

鞄とは違う方に持っていた箱に気付いて、彼女は首を傾げる。

「ドーナツ。」
「えっ!?ドーナツですか!やった!」

鞄を抱えるように持って、手を叩いて喜ぶ姿は、あの頃から変わってない。
そんな彼女の様子に、頬を緩ませながら、夕食の後でも、食べようと声を掛ければ、はい!と良い返事が返って来た。



「今年の新入生の資料ですか?」
「うん、ああ・・・よく分かったな。」
「ふふ、横で見てますから。見たことない、名前だし・・・今年の子はどうなんですか?」
「キセキの世代の、緑間真太郎って子が入ったんだけど。」
「キセキの世代・・・それは、またすごい子なんでしょうね。」
「ああ、その子はふぁー」

緑間について口を開こうと思ったら、欠伸が出てしまった。
彼女はあらあらと笑う。
いつのまに、そんな笑い方をするようになったのか。

「ふふ、今日はこれくらいにしときませんか?
明日も学校ありますし、差し支えるといけませんし。」
「・・・そうだな。寝るか。」
「はい。」

資料を片付けようとすると、彼女もそれを手伝う。

「ん、今日干した?」

ベットに入ると、太陽の匂いがする。

「はい、今日は良いお天気だったので。」

お布団暖かいでしょう?と言いながら彼女も、ベットに入る。

「あ、あの・・・」
「うん?どうした?」
「う、腕、やっぱり重くないですか?」

彼女は不安そうに聞いてくる。
俺の腕の乗せていた頭を浮かせようとするので、その頭を撫でながらその行動を制す。

「いや、重くないよ。丁度いい重さだ。」
「…なら、いいんですけど。」

彼女はまた腕に頭を乗せる。
彼女の腰を引き寄せて密着すれば、彼女も素直に胸に顔を寄せてくる。

「ふふ、今日も良い夢が見れそう。」
「いつも、それ言うね。」
「はい、だって…仁亮さんの腕の中ですから、安心して寝れます。」

にっこり笑う彼女に、俺はわざと呆れた顔をつくる。

「…俺も男だけど?」
「……私は構いません。仁亮さんなら、どんなふうに愛されても本望なんです。」

またにっこり、と笑う彼女の笑顔は、まったく嘘が感じない。
それに、どこか余裕を感じる笑みは、俺の言葉が照れ隠しだと分かっているのだろう。

「はあ、…今日はちょっと、疲れてるから…また、今度ね。」

彼女の前髪をどけて、軽く額に口を寄せれば、はいと小さく返事をしながら、彼女は赤く染まった頬を隠す様に、また俺の胸に顔を寄せた。
back next
- ナノ -